840:雑に誘われよう。
「えー?」
「なに…… いや、いきなり何なの。あと危ないでしょ」
なんかニヤッとしたと思ったら、なんで唐突に私の目の前で土下座してんの。
触るだけで潰れて死ぬ生き物の近くで、あんまり激しく動かないでほしいんだけど。
「んふふー、触っても良いんだぞ、ご主人様ー。あ、後半は素直にごめんなさいって謝っとくよ」
……ああ、一緒にするなみたいに言うけどお前もだろって事ね。
別にそこは否定してないぞ。
「とりあえず、ご主人様はやめようね」
「はーい」
「……でもしっかり触りはするんだな」
「良いんですよ。毛皮に罪は無いんです」
「んほー」
いいじゃん。
でっかいモフモフは触りたくなるじゃん。
仕方ないんだよ。本能みたいなものだよ。
あとエリちゃん、よく解らない声を出すんじゃない。
別に魔力とかは流してないんだし、そこまで気持ち良くないでしょ。
「おうおう、羨ましいのかー?」
「いや、別に?」
……なんかギャラリーの中から、チャラい感じのお兄さんが出て来た。
あのしっぽは狐さんだな。
綺麗な毛並みでフワフワしてるし、結構きっちり手入れされてるっぽい。
私のモフりっぷりに呆れ顔だったお兄さんに向かって、妙なテンションの高さで歩み寄って来てるな。
当のお兄さんは平然と否定してるけど。
いや、あれは平然とって顔ではないな。
どうみても「またこのバカか」みたいな、舌打ち寸前の凄い面倒臭そうな顔だ。
「ほれ、特別に俺様の素敵なしっぽを好きなだけぁがあぁっ!?」
「うるせぇ。むしるぞ」
「やめっ、折れっ、からっ!」
……うん、しっぽにはちゃんと骨が通ってるんだから、そんなに急な角度には曲がらないよ。
だから両手で掴んでひん曲げるのは、やめてあげた方が良いと思うんだ。
というかお兄さん、むしるって言いながらへし折ろうとしてるよね。
「アホ狐はすっこんでろ」
「流石に酷ぇだろ…… マジで痛ぇんだぞ……?」
折れる前に開放してもらえた狐さんが、恨み言を漏らしながら帰って行った。
いや、何しに出て来たんだ、あの人は。
「家で猫と遊んでる時は、見てらんねぇくらいデレデレしてる癖によー……ぉおっ!? おいこら、そりゃ洒落になってねぇだろ!?」
「尻尾が残ってるうちに消えろバカ野郎」
……うわぁ。
ふわっと膨らんでたモフモフの先端が、投げつけられた短剣で一部だけ刈られてしまった。
綺麗なしっぽだったのに、ちょっともったいないな。
でもまぁ、多分現実での話なんだろうし、それを暴露する方が悪いかな……?
あ、あんな扱いをされても地面に刺さった剣は引っこ抜いて、ちゃんと投げて返すんだ。
この二人、このくらいはいつもの事なんだろうか。
しかしこれ、このままこうしてたら、いつまで経っても話が進まないな。
というかデスペナのせいか、ちょっと毛並みが悪くなってるっぽい。
まぁそれは放っとけば治るか。
とりあえず解放しよう。
「はい、ありがと」
「堪能させていただきました」
……いつの間に反対側に居たんだ、カトリーヌさん。
まぁ元々すぐ下に居たんだから、別におかしくはないか。
「動いて大丈夫ー?」
「うん、もう離れたよ」
「問題有りませんわ」
再度ポチの頭にモフッと寝そべって、エリちゃんの確認に対して返事をする。
触ってる時に動かれたら頭が色んな物で汚れるから、確認は大事だよね。
……なんかポチの雰囲気が、ちょっとだけどモフりに行く前と違う気がする。
「ぼくもきもちいいでしょ」みたいな、微妙な対抗心だろうか。
とりあえず撫でまわして、ご機嫌を取っておこう。
いや、別に不機嫌ってわけじゃないから必要は無いんだけど、普通に気持ち良いもんね。
それそれ、もふもふー。




