796:試しに開けてみよう。
「あ、あとねー」
「ん?」
「試しに口開けてみたら、なんか恐る恐るって感じで入ってきたよ」
「なんでそんな事を試そうと思うんだよ、お前は……」
お兄さん、ドン引きしてる。
うん、まぁ気持ちは解る。良く解る。
「つーか恐る恐るって何だよ」
「んー? なんかこう、『これ入っても大丈夫かな……』みたいに、ゆっくり入って来てはちょっと引っ込んでってしてたからさ」
「……なんだそりゃ」
「深めに入ってきたところで軽く噛んでみたんだけど」
「なんでだよ。いやマジで何やってんだよ」
「びっくりしたみたいに引っ込んでいって、『んもー!』って感じで顔をぶにぶに押されたよ」
「何なんだよ、本当にそのパネルは……」
……なんかそこだけ聞くとちょっと可愛いな。
好奇心旺盛な子供みたいだし。
入って行く目的が何かは置いておこう。
なんか開いたから気になっただけかもしれないしね、うん。
「あ、これ大事なんだけど」
「あん? 何が?」
「プリンみたいな味でめっちゃ美味しかった」
「要らねぇ。その情報ぜんぜん要らねぇ」
「えー」
……うん、そういう事するのは君くらいだよ、エリちゃん。
するっていうか、出来るのは、か。
普通の人は顔を突っ込む前に精神攻撃を受けて、それどころじゃなくなるもんね。
もう一人出来そうな人が後ろに浮いてるけど、【妖精】だから普通のパネルにしか見えてないみたいだし。
「もっかい行ってみよー」
「もう好きにしろ」
……私としてはあんまり好きにされても困るんだけど。
というかそんな、洗面器に顔を突っ込むようなノリでやる事じゃないでしょうに。
「んー?」
「どうしたよ」
「んー」
「聞くだけ無駄だったわ」
うん、まぁ唸られるだけじゃ何も解らないしね。
「んむー…… ぬむわぁっ!?」
「……何が起きたか知らんが大丈夫か?」
「どうでも良いけどみたいな顔しないでよー」
「へいへい」
いや、うん、仕方ないと思うよ。
「で、どうしたんだ?」
「いやー、警戒してるのか知らないけど、開けても前歯の辺りをちょんちょん触るだけで入ってこないからさー」
「……まぁさっき噛まれたんだしな」
「仕方ないからぐーって舌を伸ばして舐めてみたら、やめろって感じで両目を思いっきり押さえられた」
「解った、アホなんだな」
「ひどくない?」
いや、それも仕方ないと思うよ。
私もちょっと思うし。




