第09話 なかなか来ないララエルさん
遠足でテンションが上がる人には二種類の人が居ます。
一つは前日に興奮し過ぎて寝れなくなっちゃうタイプ。
もう一つは当日の朝に無駄に早く起きちゃうタイプです。
そして……………………
「ふぁ~~~ぅ」
サハラさんは日が昇るより前に目覚めてしまいました。
「よ~し朝だ~! ってまだ暗いです!?」
目覚めた瞬間から猛烈ハイテンションで布団をはね除けて飛び起きました。
でもまだ日が差し込んでない薄暗い部屋にがっかりです。
(ちょっと早く起きすぎたみたい、今何時だろう? そう言えば時計って無いのかな~)
どっちみちもう眠れそうも無いので起きて身嗜みを整える事に決めます。
でも、その前に部屋が暗いのでランプに火を付けて部屋を明るくしようとします……けど、それは出来ませんでした!
(が~~ん、マッチが無いです! 火打ち石も見当たらないし……あっても使い方しらないけど。 う~ん、どうしよう)
起きてからまだ何もしていないのですがさっそく難題です。 サハラさんはしばらく悩んで見たものの、解決策を思い付かないので先に服を着る事にしました。
ローブはさすがに寝辛いので脱いで椅子に引っかけておいたのです。
もそもそっと頭からローブを着込で居るときに、ふと、手持ちの装備がドレスや鎧じゃなくて良かったと思います。
絶対着方分からなかったもんね。
そこでサハラさんは唐突に一つ思い出しました、この宿は廊下にランプが設置されているって事を!
これでやっと朝一の難題が解決します。
善は急げとランプ片手に廊下へ出ます。
結果的にですけど、先に服着といて正解でしたね。
……と思ったのもつかの間、ランプからランプへ火を移すと言うさらなる難題に頭を悩ませる事になるのでした。
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「ふ~、疲れました……」
火傷しそうになりつつも、何とかランプに火を灯せて部屋を明るく出来ました。
明るくなったので身嗜みを整える続きをする事にします。
服に皺や埃が付いないか確認して、ぱたぱた叩いたりぺっぺと裾を伸ばして服装はオッケーとします。
次に部屋の隅に掛かってる鏡に向かいます。
鏡と言ってもガラス製ではなくて、金属の板を磨いただけの物なのでそれ程クッキリ写る訳ではないのですけど。
透明な板ガラスは作れないのか高いのか……そんな感じでガラスの鏡は、少なくてもこの宿には無いみたいです。
鏡を覗いてみるとちょっとぼんやりした像だけど、ぱっちりお目々で丸顔の、髪の毛があっちこっちにくるくるまかさったりピンピンはねてたりする女の子が写っていました。
(ぎゃうす! 髪の毛ぼさぼさですよ~。 櫛も無いし困りました)
仕方無いので寝る前に桶に汲んでおいた水を使って手櫛で地道に直す事にします。 だけど癖が強い髪質なのでなかなか直ってくれません。 せっせせっせと水を付けた手で撫でたり押さえたり引っ張ったりしてある程度妥協出来る所まで直った頃には、もう日も昇って人々の生活の喧騒が聞こえてきていました。
お金が出来たら真っ先に櫛を買おうと深く心に刻むのでした。
「こんな感じで良いにしようかな」
(疲れました~、なんで癖っ毛ロングヘアーにしちゃったんだろう)
自分の準備は出来たし日も昇った事ですのでランプの火を消しがてら、ベッドに戻って今度は布団を整えます。
…………それも整え終わってしまうと、今度こそ手持ち無沙汰になってしまったので暇つぶしに窓を開けて外でも見てみる事にします。
「ふふ~ん♪ 感動の初異世界の町の営みです!」
じゃじゃ~ん! と気分良く口ずさみながら勢い良く窓をガシャっと開け放ち……その光景に目を見開きます!
むしろ瞬かせます。
「………………でっかい木と塀で何も見えないですし! う~、がっかりです……」
パタンと窓を閉め、とぼとぼとベッドに戻って座り、サハラさんはペタペタと未練がましく手で髪の毛をまとめようとしながらララを待つ事にしました。
「そう言えばララはいつ来るんだろう? 時間とか全然決めて無かった気がします。 早く来ないかな~、冒険者ギルドとか凄く楽しみです」
結局、ララエルさんが来たのはそれからたっぷり二時間は経ってからの事でした。
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コンコン
ノックの音と共に「サハラ、起きてる?」との声が聞こえてきました。
サハラさんは急いで鍵を外してドアを開けます。
そしてすぐに、
「ララ遅いです~……」
と、開口一番に不満を言ってしまいました。
でも、そんなサハラさんの抗議にも何のその、ララエルさんは少し困った様な笑顔で「そうかな~? ごめんね」と言ってサハラさんの直せていない部分の寝癖を撫でて直します。
「も~~……まぁいっか! じゃあギルドへ行きましょ~!」
「え? サハラ、朝ご飯まだよね? 食べてからいきましょう」
「朝か~、あんまりお腹空いて無いし大丈夫です。 それよりギルドへ行こうよ~」
今すぐ出発する気でいるサハラさんにララエルさんから駄目出しされちゃいます。
「だーめ、サハラはまだ成長期なんだからご飯抜いちゃ良く無いのよ」
結局その後、ララエルさんに説得されて食堂で朝ご飯を食べる事になりました。
ちなみにメニューはぺちゃんこのパンに青いスープと赤い目玉焼きでした。
しょっぱかったです。
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「さて、そろそろ行こうか。 あ、この宿屋もチェックアウトしちゃうから忘れ物しないでね」
と言うララエルさんに対して「大丈夫~」とサハラさんから返事が返って来ます。
ララエルさんは、こっそりとサハラさんが忘れ物をしていなかチェックしてから玄関ホールに移動して、受付にチェックアウトを伝えて鍵を返却しました。
それから宿の外に出る前にサハラさんに行き先を少しだけ説明します。
「今私達は南東地区に居るんだけど、冒険者ギルドは南西地区にあるのよ。 ここからだと十五分位掛かると思うわ」
さりげなくサハラさんの乱れてる髪を直してあげたり、服のよれを直したりしながら伝えます。 一緒に居れば居るほど放っておけなくなって来てる事にララエルさんはまだ気が付いて無かったりします。
「分かりました~、町を見るのも楽しみです」
「うん、それじゃあ出発よ」