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森のエルフは過保護さん  作者: rurura
エルフの里 《黒の森編》
67/80

第67話 あわや耳無しに



「遅いわ。 まだかしら?」


 メルミアさんはサハラさん達の泊まる宿の近くの路地裏で壁に背を預け、不機嫌につま先をペチペチと地面に叩き鳴らしながらぷんすか怒ります。


「落ち着け、まだ別れてから半時も経っていない。 旅支度なのだからそれで遅いと言ったら酷だろうよ。 それに、あの丸耳との別れがあるんだ、もう少し待ってやれ」


「でも所詮丸耳族よ? エルフと別れる訳じゃないんだからさよならの一言でも言ってあげれば十分過ぎるんじゃないのかしら?」


 リンディアさんの忠告にも耳を貸さず、メルミアさんは若いエルフに非常に多い”エルフ至上主義”に凝り固まった考えで傲慢に“待ってやれ”の一言を切って捨てます。

 それを聞いたリンディアさんは溜息と共に軽く首を振り、ララと同じ様に可愛い妹だと思ってるメルミアさんに少しだけ語ってあげるのでした。


「メルミア、お前はまだ若いから分らないかもしれないが、丸耳だろうと猫人だろうと、それこそドワーフだろうと良い奴や大事にしたくなる奴は居るぞ。 それを理解しなければ早晩ララエルに愛想を尽かされる事になる、これは断言できる。 気にとめておくんだな」


「私が? ララエルに? そんな事はありえないんじゃないかしら? でもリンディアが言う事ですから気にとめておきます」


 リンディアさんはメルミアさんの目を真っ直ぐに見て言ってあげたのですけど、いまいち理解して無さそうな、そんな微妙な顔で微妙な返事を返してきました。

 ついさっきララに“サハラを傷つけたら一生許さない”と言われたばかりなのにその事はすっかり記憶の彼方に埋もれてしまっている様です。


 ちなみここまで二人ともララはサハラさんと別れて一人で来ると思い込んで話していたりします。


 そんな話をしながら暫く待つと、ララが大きな荷物を抱えてサハラさんと連れ立ってこちらに向かってきているのが見えました。


「む、来たようだな。 ずいぶんと荷物が多いようだが、それにあの丸耳は見送りか? まあ良い、メルミア俺達も行くぞ」


「分かったわリンディア。これでやっとララエルを連れて里に帰れるのね。 こんな騒々しくて気分が悪い所なんてさっさと離れましょう」








◆◇◆◇◆








「お待たせしましたリンディアお兄様、メルミアお姉さま」


 路地を出てきたリンディアさんとメルミアさんの二人に通りの片隅でララは挨拶をします。

 

「うん、では行こうか。 門の外に馬を用意してあるからそれで帰るぞ」


 そう言ってリンディアさん達二人はララ達を先導するように歩き出しました。

 その指示に従ってララとサハラさんの二人も大人しく付いて行きます。



 そして特に会話も無く歩くこと(しば)し、一行は門の外までやって来ました。


 しかしここまできてやっとリンディアさんとメルミアさんはサハラさんの事を不思議に思い出します。

 見送りだったら宿の前でも良かったのでは無いか?と。

 ですがまあ監視してた手前、ララとサハラさんの二人は仲が凄く良いのは分っているのでちょっとでも長く一緒に居ようとこんな門の外まで見送りに来たのだろうと納得する事にします。


「ではララエルはこの栗毛の馬を使いなさい。 ララエルが自分の足で走るよりも遅いかもしれないが、その馬も中々良い馬だぞ」


 リンディアさんは“はっはっはっ”と朗らかに笑いながら栗毛の馬の手綱をララに手渡しました。


「分りましたリンディアお兄様。 サハラ、荷物を括り付けるから少し待っててね」


 そう言ってララは手渡された馬に手際良く馬具を付け、その後荷物をテキパキと固定して行きます。


「よし、準備出来たわ。 サハラ、おいで」


「はいなのです」


 呼び寄せたサハラさんを両脇で持ち上げて鞍の前の方に乗せ、その後ろにサハラさんを支える様にひょいっとララも乗り込みました。

 非常に手慣れた手際ですぐに準備を整えたのですが、しかしそれ見てリンディアさん達二人はついに慌ててララに話しかけます。


「ちょっと待てララエル、その丸耳はなんだ? 何故馬に乗せたんだ?」


「そうよララエル、すぐにそんな物は降ろしなさい!」


「リンディアお兄様、メルミアお姉さま、二人は何を言っているのですか? サハラ一人では馬に乗れません。 ならば私と一緒に乗るのは当たり前ではありませんか」


「いや、だから何故乗せる? 連れて行く訳でもあるまいに」


「そうよララエル、さっさとおいてきなさい!」


 まさか一緒に行こうとしているとは思ってもみなかったリンディアさん達二人は揃ってサハラさんをおいていくように言います。

 それを聞いてサハラさんは置いて行かれちゃうのかと不安になってついついそーっとララの顔を覗き込んでしまいました。


 そんなサハラさんとたまたま目線が合ってしまったララは不安そうな顔のサハラさんを力強く抱きしめて安心させると共にリンディアさん達二人に対して腹が立って言い返してします。



「二人ともなんて事を言うのですか! サハラをこんなにも悲しそうな顔にさせて楽しいのですか!? 私が行くと言う事はサハラも行くと言う事に決まっているでは無いですか! 分かりましたか!?」


 烈火の如く怒ったララの言葉を受け、一瞬怯んだメルミアさんですが、しかし彼女としてはそもそもが他種族の事を取るに足らない物と思っている事に加え、目に入れても痛くないほどに可愛がっているララが人族を大事にしているのが気に入らなくてついつい突っ掛かってしまうのでした。


「ダメよ。 丸耳族を連れて行く事は許しません」


「いやです! 私はサハラと一緒でなければ帰りません!」


「聞き分けの無い事を言わないで頂戴。 長老会からの帰還命令に従わなかった場合は耳切り落としの刑なのよ」


 これは少し前にリンディアさんがサハラさんに説明していたエルフとしては死刑よりも重い最大の刑罰です。

 普通ならば本人にとっての最大の屈辱なる物ですし、そんな罰を受ける者を出した里自体にも恥になるのでそうそう行なわれない刑罰なのです。


 でも、そんな尊厳やプライドなんかよりサハラさんが大事なララは怯む素振りも見せずにすぐさま言い切って返します。


「ならば耳を切ります! 私は今この時より耳無しとしてサハラと一緒に生きます。 リンディアお兄様、メルミアお姉さま、お世話になりました。 もし慈悲を掛けて頂けるのならば里の皆様にもララエルがお世話になりましたと言っていたとお伝えください」


 言うが早いかララは腰に差している剣を引き抜いて耳を切ろうとします。

 そんな売り言葉に買い言葉とも言えない位の些細な口論で耳を切ろうとするなんてやっぱりメルミアさんよりもララの方が短気なのかもしれません。


 でもそんなララの驚きの行動に一番びっくりしたのは実はサハラさんでびっくりしすぎて言葉も上手く喋れずに“わーぎゃー”と騒ぎながら急いで両手でララの耳を押さえて頑張って耳を守ろうとしました。


 それには今度はララが驚いてしまいます。


 何せ耳の代わりに危うくサハラさんの指を切り落としちゃいそうになったのですから、それはもう焦って剣の動きを無理矢理変えて投げ捨てます。

 その無理な動きが祟って手首とか肩とか腰が『グキッ!』と嫌な音を立てて悲鳴を上げたくなる激痛に襲われてたりしますがそれを気合いで我慢してサハラさんの手を取って急いで怪我が無いか確認しました。


「ば、ばか! サハラ、危ないじゃない!! 怪我してないわよね!?」


「ば……ば……ばかはララだよ!! み……耳切るなんて何考えてるのさ!?」


「う……だ、だって……」


 予想外の所から本気で怒られたララは言い訳も出来ず、今し方切り飛ばそうとした自慢の耳を垂れ下げてしょんぼりと落ち込みます。

 しかもそれにさらに追い打ちを掛ける者も居ます。


「ああ、まさしくその丸耳の言う言う通りだ。 ララエル、さすがに今回は肝が冷えたぞ。 余り兄を困らせてくれるな。 もう少し思慮を持って落ち着いて行動しなさい」


「はい……リンディアお兄様……」

 

「そ、そうよララエル! 心臓が止るかと思ったわ……」


「メルミア、お前も反省しなさい。 丸耳を連れて行ってはいけない事など何も無いのにお前が無闇にララエルを追い込むからだ。 お前もその嫉妬心と独占欲を押さえなさい」



 ララとメルミアさん双方を叱りつつ、リンディアさんはララがまたしても投げ捨てた剣を拾ってララに手渡すのでした。



「う……分かったわ、リンディア」



 本当に分かったのかは別として、一応ララとメルミアさんはばつが悪そうに返事をしました。



「はぁ、まったく……。 ララエル、その丸耳も連れてきて構わない。 出発するぞ」

(やれやれ、ちょっと里帰りするだけでどうしてこんな大事になるのやら……)


 はぁー、と一つ深く大きく溜息を吐きつつ、この一日だけで二十年分は歳を取ったと思いつつリンディアさんは馬を進め始めるのでした。





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