第57話 ダークエルフ再び
~~翌朝~~
翌日、たまには二人で一緒にのんびりと町でも見て回ってみようかと言う事になったので、とりあえず散歩がてら商店街を目指すことにしました。
実はサハラさんは一生懸命依頼をこなしてましたし、サハラさんのたまの休みには今度はララがお金を稼ぎに一人で出掛けちゃってたので一緒にのんびりする事が今まであんまり無かったのです。
一度二人でお買い物に出掛けた日がありましたが、途中でなんやかんやあったし結局最後はリディさん達とギルドへ行っちゃったのであんまりのんびりしていませんでしたしね。
そう思って“いざ散策です!”と宿屋を出て大通りをテクテクと歩いていると、後ろから知った声で話しかけられちゃいました。
「おお! おぬし達は先日の……! っと、そう言えば名を聞いておらなんだのぅ」
その声にサハラさん達は振り返るとそこには数日前に森の村の地下水道で出会ったダークエルフさんが居ました。
「あ~、ダークエルフさん、こんにちはです! そう言えば自己紹介してなかったですね。 僕はサハラって言います」
ペコリとお辞儀しつつサハラさんは名乗ります。
「ほうほう、サハラか。 サラダとそっくりなよい名じゃな! ……ふむ、そう言えば雰囲気も似とるのぅ!」
「ありがとうです」
(う~ん、山椒魚と雰囲気が似てるって……褒めてるのかな~?)
良く分らないけれど、たぶん褒めてくれたんだろうなと思うので、サハラさんは一応笑顔でお礼を言いました。
でもほんとに褒められたのかはやっぱり良く分りません。
「私は黒の森、シルフィのララエルです」
いつもサハラさん以外にはかなり素っ気ない態度のララですが、さすがに同じエルフ族のしかも目上の者が相手なので、いつもより少し丁重な態度で挨拶します。
……まあ、本当にほんの少しだけなのですけどね。
「ふむふむ、わしは暗き湖のスーリエルじゃ! しかしララエルは守護名持ちなのじゃな。 ふむ、良いのぅ。 黒の森も安泰じゃな」
うんうんと腕を組んで頷きながらスーリエルさんはそう言います。
サハラさん的には、黒の森が安泰って所はいまいち意味は分らないのですけど“守護精霊の名前があるのは良い事なんだね!”とサハラさんが褒められた訳でも無いのになんとなく自分の事の様に嬉しく思うのでした。
「ところでスーさん、ギルドにはもう行ったのですか?」
「むむ、スーさんとな!?」
「はい~、スーリエルさんだから、略してスーさんなのです!」
サハラさんは“ふっふ~ん♪”とまたしても勝手に自慢げに胸を反らして言い切ります。
エルフ族の名前は略すのはマナー違反にも関わらず、です。
「うぅーむ、お主のぅ……まあ良いか、丸耳族じゃしな……。 良し、スーと呼ぶことを許そう!」
怒っても仕方無いかな、と半ば諦めの境地でダークエルフさんは名前の短縮を許可しちゃいました。
「ありがとうです、スーさん! これからよろしくなのです」
「うむ、よろしくのぅ。 でじゃ、ギルドなる場所へは一昨日一度行ったぞよ」
「お~、そうなんですか。 それじゃあ柄の悪い受付の人には会えましたか? あの人アドニスさんって言うんですけど凄く親切なんですよ~」
「ぅ、うむぅ。 確かに居ったがのぅ……奴はオーガなのか? 食われるかと思ったぞ……」
スーさんはそう言いつつ、一昨日のギルドでの出来事を思いだしてしまいブルっと体を震えさせました。
「た、食べられたりしないから大丈夫ですよ~。 アドニスさんは見た目はゴリ……え~と、ちょっと柄が悪いですけど凄く優しいんですよ」
(でも、確かにアドニスさんって初めて見たらすっごく怖いですもんね)
最近はサハラさんもアドニスさんを見慣れて来ちゃったのであんまり怖いとは思わなくなって来ましたけど、それでも時々不意に睨まれると怖く感じちゃったりしますからね。
「じゃあ、あれです! 僕が一緒に行って紹介しますですよ~! そうすればすっごく良い人だって分って貰えると思うのです」
「おお! それは良いのぅ。 是非頼むとしようかの」
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って事で散歩を中断してさっそく三人でギルドへ来ました。
何個かあるカウンターを見回してみると今日は右端にアドニスさんが居ます。
スーさんはアドニスさんを見つけた瞬間“うっ……”と小声が漏れちゃいます。
相当怖がってしまってます。
しかしサハラさんはそんなスーさんの背中を押しながらトコトコと軽快にカウンターへ向かって行きアドニスさんへ挨拶します。
「アドニスさんこんにちは。 今って、忙しいです? 良かったらこのエルフのスーさんの冒険者登録ってお願い出来ますか?」
サハラさんは挨拶がてら、スーさんの背を押してアドニスさんの前に押し出して紹介しつつお願いしちゃいます。
「よよよ宜しくだのぅ」
一方のスーさんは目一杯緊張しながらも何とかその一言だけを絞り出す様に告げますが、やっぱり緊張で盛大にどもっちゃいました。
「おう、宜しくな。 わかったよ、丁度暇だしちゃちゃっとやっちまうか」
ナイスタイミングでアドニスさんは暇だった様で、すぐにやってくれる事になりました。
ちなみにアドニスさんは怖面だから受付業務自体はそんなに忙しく無いですけれど、これでなかなか優秀な人なので書類仕事とか鑑定とか、それに取引やなんやかんやの仲介でかなり忙しいのです。
それに実を言うと、アドニスさんが受付フロアの責任者だったりもします。
「それじゃエルフの嬢ちゃん……って見た目通りの年齢とは限らねぇか。 とにかくこの登録用紙に必要事項を記入してくれ」
ついついアドニスさんはスーさんの幼い容姿に騙されて子供と思ってしまいそうになりましたけど、しかしスーさんはエルフ族です。
エルフ族は〈他の種族にとっては〉容姿から年齢が分らない事で有名なのでその考えを改めて先に登録用紙を書いて貰う事にしました。
下手に女性に年齢を聞いて地雷を踏む危険を犯すより、登録用紙の項目に年齢の欄があるのでそれを見た方が安全で確実ですからね!
「う、うむ。 わかったのじゃ」
やっぱりまだおっかなびっくりな様子でアドニスさんにソロソロと近づいて、パっと用紙をひったくる様に受け取ると、サハラさんの後ろ……どころかララの後ろの方にまで急いで行って隠れて書き始めました。
実はスーさんってものすっごい恐がりだったりするのです。
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と、終始そんな感じでしたが何とかスーさんは用紙を書き切って提出する事が出来ました。
ただし……近年希に見る程に怖がられたのでアドニスさんがちょっと凹んでるのは内緒です。




