第45話 猫耳(ただしおじさんとおばさん)
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ぅぅぅ……酷い目にあいました……。
癒やされに行ったらトラウマが出来たよ~。
あの家はなんであんな気持ち悪いの飼ってたんだろう?
本能が聞いちゃ駄目って訴えてくるから聞かないけどね!
「サハラ大丈夫? なんならだっこしてあげるわよ」
リディさんはまだ青い顔でプルプルしているサハラさんを心配して声を掛けます。
しかもお姫様だっこのジェスチャー付きで。
リディさんは背中に大剣を背負ってるからおんぶする事が出来ないのです。
だからだっこするしかないんですけど、それにしてもお姫様だっこは恥ずかしすぎてサハラさんも困ってしまいます。
「も、もうだいじょうぶです……。 つ、次の家にいきましょ~」
全然まだ大丈夫では無いのですけど、これ以上ここにとどまっているとリディさんに本気でお姫様だっこされかねないのでサハラさんはフラフラと杖を頼りに歩み出す事にしました。
でもそんなサハラさんを見てリディさんは――
「……そう。 いつでもだっこするから言ってね?」
――何だか少し寂しそうな顔でそう言うのでした。
◆◇◆◇◆
それから数軒回り、やっと最後の家に辿り着きました。
ただ、予定より数時間は遅れてしまっていますのでララ達のペアはもうとっくに終わらせて居るはずの時間になってしまいました。
「こんにちは、我々は冒険者ギルドの依頼で来た者ですがご主人はご在宅ですか?」
リディさんが今までの家と同じ様にノックして問い掛けます。
すると何やら家の中からドタバタと走り寄ってくる音がして、そのままドアが勢い良く開け放たれました。
「あ、あんた方冒険者様だべか!?」
「ええ、ギルドの依頼でこの村に来た冒険者よ」
リディさんは勢い良く現れた何故か凄く焦って居る様子の方言の強い中年の男性に答えてあげます。
その男性の顔にはかなりの疲労感が漂っています。
よくよく見ると頭のうえに猫耳が付いている事にサハラさんは気が付きました。
アリーさん《カララの町の料理屋の女の子》と同じ猫人族の人みたいです。
(う~ん、おじさんに猫耳付いてても可愛く無いのです。 せっかくなら可愛い子に付いてたら最高だったのに~)
と、サハラさんがかなり失礼な感想を抱いてる横で会話は進みます。
「おお! 丁度ええ所に来て下さっただ!」
「と、言いますと?」
リディさんは村人の焦った態度と言葉の内容、それに今の村の状況を考えて、間違い無く治療関係の事で何かあるんだろうと予想します。
(厄介ね)
内心で舌打ちして、どうやって面倒事を断ろうかと考えを巡らせます。
「おらんとこの娘ッ子らが流行病にかかってるんだべがなぁ。 そんなかの一人がどうにも高熱を出しちまってさ……だけん薬さ飲ませたくって……。 だけんども村中探したって出てこねーで、どうしたもんだべかと思ってた所だっただよ!」
猫耳おじさんが疲れた表情をしてたのは村中回って薬を探してたからみたいですね。
小さい村と言ってもかなりの広さだし凄く大変だった事でしょう。
しかも結局薬は手に入らなかったのだから徒労に終わった訳ですしね。
「それは心配ですね」
(薬を探してたのね。 まあ幸い治療士が居ると言ってないし、気が付かれては居ないか。 ……よし、なら薬だけ売りつけて立ち去りましょう。 恩も売れて厄介事からも逃れれて一石二鳥ね)
そんな風にリディさんは心の中で算盤をはじいて今取れる手の中でもっともメリットが多い手を導き出しました。
そしてすかさず行動に移す事にします。
「分りました。 なら私達の持っているくす『僕が治療出来るかもしれないです! すぐに案内して下さい!』キャーーー!」
(なんて事言うのよ! もーー、サハラ! 私の頑張りを返して……)
最良の手を最速で潰されてしまい、リディさんは両手で頭の“くるりん”とした羊角を握ってガックリとうなだれてしまいます。
リディさんは驚いたり落ち込んだりして心が乱れた時にはこうして角を触って落ち着こうとするのでした。
彼女の幼い頃からの癖なのです。
「ほ、ほんとだべか!? したらばこっちさおねげーしますだ!」
その間にも猫耳おじさんがサハラさんをドアの奥に手招きします。
ドアの隙間から奥を見ると、たぶん奥さんなんだろう不安げな顔の猫耳おばさんも見えました。
(うん、普通のおばさんです。
本当に普通のおばさんが猫耳メイドカフェでバイトしてるときっとこんな感じなきがします。
ぅぅぅ、リアルなファンタジーは世知辛いのです)
「ちょっとサハラ、私達は治療しに来た訳じゃ無いわ」
サハラさんはドアを入ろうとした所でリディさんに厳しい顔で肩を持たれて止められてしまいます。
「うん、分ってます。 でも猫耳女の子が苦しんでるのです! 助けに行かなきゃいけないのです!」
それでもサハラさんも引きません、だって猫耳のおじさんとおばさんの子供だもの!
絶対猫耳女の子ですもの!
とは言え、相手が猫耳女の子じゃなかったとしてもサハラさんは行くと言い張ったではありましょうが……。
「一人治療したら他の人も言い寄ってくるわよ」
「ぅぅ、そこまで考えて無かったのです……」
(ぅ~、全然考えて無かったけど、確かにそうかもしれないですね)
「全員を治す事なんて出来ないし、仮に出来てもどうせ再発するんだから治療なんて止めなさい」
何もリディさんだって助ける事自体が悪いと言ってる訳では無いのです。
でも、万が一村人が治療を求めてサハラさんへ殺到しちゃったら、と思うと簡単には許可を出せないのです。
「でも今この家の子は死にかけてるんですよ? せめてこの家の子だけでも治させて下さい。 ね?」
〈注:別におじさんは死にかけてるとは言ってません〉
なおも言いつのるサハラさん、その熱意のこもった言葉にリディさんは少し考えて。
「…………分ったわ。 この家の子だけよ」
ついに折れてくれた…………と、サハラさんは思いました。
実はサハラさんの治療魔法がここの病気に効果があるかを調べるのも手かなと思っただけだったりするのですけれどもね。
そんなリディさんの腹黒さなんかにちっとも気が付かないサハラさんは猫耳おじさんの案内で家の中に入っていくのでした。
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案内された部屋は左右の壁に二つのベットが置かれていて、今は向かって右側に二人の少女、左側に一人の少女が寝かされていました。
少女達は上が十二~十三歳位、下が六~七歳位に見えます。
おじさんの説明によると症状が軽い子が右側で重い子が左側に寝かせてあるとの事です。
「ぅぅん、おとっちゃんそん人だーれ?」
ドアを開ける音で目を覚ました一人がこちらを見て怪訝な顔で猫耳おじさんに尋ねます。
(わ~ぉ! 鳶が鷹を生んだとはまさにこの事ですよ~!)
〈注:失礼です〉
まぁるい顔と目、頭には茶虎柄のふわっとした猫耳、しかも子猫の様な声で喋るので可愛さ無限大なのです!
(あのどっからどう見ても普通のおじさんとおばさんの何処にこんなDNAが有ったと言うのでしょうか!!)
〈注:かなり失礼です〉
「このお姉ちゃんたつは冒険者さまだ。 これからおめたちの病気治してくれるだよ」
「わぁ、すごーい。 おねえちゃんありがとう」
おじさんの一言で病気で辛そうだった女の子の顔がぱぁっと明るく笑顔になります。
まだ治療もしてないのにお礼を言って来ちゃいました。
(……あれ? 女の子の視線が僕を通り越してリディに向かってるような?)
……ただしリディさんへ、ですけどね。
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「コホン。 じゃ、じゃあさっそく僕が治療しますね。 僕が!」
無垢な少女の精神攻撃にもめげずにサハラさんは治療を開始します。
一番症状が重い子の所へ行き、とりあえず【浄化】をかけてみる事にします。
「【浄化】!」
どれ位マナを込めれば良いのか良く分らないのでサハラさんはとりあえず一杯込めて唱えてみました。
(ぅぅ、これは結構疲れますね……)
すると女の子がほのかに青く光った後、苦しそうだった表情が見るからに和らいで静かな寝息に変わりました。
成功したみたいです。
「お、おおお! ありがとうごぜーますだ! ありがとうごぜーますだ!」
すっかり健康そうな顔色になった女の子を見ておじさんが感動のあまりサハラさんの手を取ってブンブン振りながらお礼を言います。
「いえいえ~、当然の事をしたまでですよ~。 さあ、他の子達も治療しちゃいます」
そう言って他の二人も治療してあげたら症状が軽かった子達は起き上がってきてサハラさんへ抱きついてお礼を言ってきました。
猫耳少女に抱きつかれるなんて、サハラさん役得です!
~~しばらく後~~
「困ったのです」
サハラさんは全く困って無さそうな嬉しげな顔でそう言います。
「そうね。 サハラ、何とかしなさい」
猫耳少女に行く手を遮られ、ぶすっとした顔のリディさんはサハラさんを見ながら文句をつけます。
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いったい何が起こっているのかと言いますと――
全員の治療が終わった後、あれやこれやと感謝の言葉を言いまくりながら治療費はいくらか聞いてくる親子に『いえ、当然の事をしただけなのです。 お代は必要無いのですよ~』とサハラさんが言ったのですが、それなら尚の事恩人にお礼もしないで返す訳にはいかないと言って帰らせてくれなくなっちゃったのでした。
さあ困りました。
業を煮やしたリディさんが強引に出て行こうとしたら猫耳少女が両手両足で扉を塞ぎ、つでにピーンと尻尾を立てて行く手を阻んでしまいます。
さすがのリディさんも小さな女の子を押し退ける事は出来ずに今に至ります。
どうした物かと二人で悩んで居ると――
「おとっつぁん、冒険者さまも困ってらっしゃるでよ。 ここは一つ腕によりさ掛けた飯を食ってって貰うって事でどうだべさ?」
――猫耳おばちゃんが空気を読んで妥協案を出しくれました。
これなら良さそうですね!
「だどもおめえよぉ、おら達が出せる飯じゃ大した事ねえべよ」
でもおじさんはおばちゃんの案に難色を示しちゃいます。
「まあそうだべなぁ……困っただな」
さらに悪い事に当のおばちゃんも何だか諦めそうになっちゃってます。
(ちょっとちょっと! せっかく何とかなりそうだったのに諦めないで欲しいのです!)
「いえ! 僕は是非奥さんの料理が食べたいのです!」
「そうね。 私もそれが良いと思うわ」
サハラさんは焦ってちょっと強引にお願いしたのですが、リディさんもその提案に乗っかって来てくれました。
リディさん的にはもう面倒くさいから何でも良いだけなんですけどね。
「おー、そうだべか? そったら今晩の飯は出来るだけ豪勢にすっぺからまた後で来てくんろ」
「はい、分りました。 それじゃあまた後でお邪魔させて頂くのです」
こうしてやっとの事でサハラさん達は解放して貰ってララ達と合流する為に町の広場へと向いだします。
「お姉ちゃんまたね!」
「は~い、また後でね~」
「またね」
女の子のお別れにサハラさんは元気よく、リディさんはボソッと返事をして歩き出します。
何だかんだ面倒そうな態度をしてる癖に、リディさんも猫耳少女の事を可愛がっているのでした。




