第44話 サハラさん驚く!
サハラさん達の調査もそろそろ大詰め、北側は一時間くらい前に調査を終えて今は西側を調査中です。
その西側の調査ももう半分は終った所です。
「り、リディ~。 そろそろ休憩しようよ~」
サハラさんはもう喉はからから、足はくたくた、どこか木陰に座ってゆっくり水でも飲みたい気分なのです。
「え、またなの? さっき休んだばかりじゃない。 まあ仕方無いわね」
そう、リディさん的には二時間前休んだばかりなので先を急ぎたかったのです。
「え~、さっきって……。 あれってさっきなのかな~? でもありがとう」
この辺はリディさんの予想通りと言いますか、ある意味予想外と言いますか、サハラさんはびっくりする程体力が無くて遅々として調査が進まなくて困ってしまいます。
リディさんとしては午前中に全部の家〈自分達の受け持ち分〉を回ってしまいたかったので、最初は小走りで移動しようとしました。
そしたらものの数分で見事にサハラさんがバテてしまいました。
仕方無いので少し休憩して、それから今度は早足で移動する事に変たのです。
でも、これもやっぱり数十分もすればバテてフラフラになってしまいました。
フラフラになりつつもサハラさんは必至に付いて来ようとはしているのですけれど、如何せん長杖を文字通り支えにして歩いてる様な状態なので全然追い付いてきません。
気にせず先に行ってしまえば良いかと言うとそうも行かず、何せサハラさんは野良犬どころか放し飼いされてる鶏にすら負けそうなので仕方無くまた休憩しなければなりませんでした。
そんなこんなしてたのでかなり遅れています。
遅れているのですけれどここで無理をすればどうせサハラさんがまたバテて長い休憩が必要になってしまうでしょう。
その辺りが容易に想像出来てしまうので、出来れば休みたくは無いのですけれど、仕方無く、本当に仕方無ーく小休止をとる事にしたのでした。
でもサハラさんは――
「リディ、そろそろお昼食べようよ!」
――ここは深い森の中なので太陽の位置はいまいち正確には分りませんし、時計なんて便利な物も無いのですけれど、もう時刻は正午をだいぶ回った筈なのです。
なのでサハラさん的にはそろそろご飯が食べても良いんじゃ無いかな~と思って言ってみました。
「はぁ……ご飯ね……。 んー、もうちょっと我慢してコレット達と一緒に食べるんじゃダメかな?」
リディさんとしては遅れに遅れてるこの状況でご飯なんてもっての外なんですけど、サハラさんがニコニコと笑顔で聞いてくるのではっきりとは否定し辛くて疑問系の返答になってしまいました。
どうせコトさん達はもう食べちゃっただろうけど、と思って居るのは内緒にしておきます。
「そっか~、分りました我慢します。 それじゃあ続き頑張りましょ~!」
(お腹空いたけど急ぎだししょうがないか~……)
サハラさんも、言外にご飯なんて食べてる暇は無いよって言ってるのが分ったので素直に諦める事にします。
でも……結構しょんぼりしちゃったのは仕方の無い事なのです。
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休憩も早めに切り上げて二人は次の家へ向かいました。
あと六軒回れば終りらしいのでサハラさんの足取りも軽くなります。
そして少し歩いた先に次の家を見つけました。
その家はこの村にしては珍しい事に生垣があって、家自体も平屋ではありますが他の家より少し大きいしそこそこ裕福な家なのかもしれません。
「これが次の家ね。 私が聞いてくるからサハラは外で休んでて」
生垣の木々の合間から見えた家に向かって歩いているとき、サハラさんはリディさんにそう言われます。
聞き取りをしてる間に少しでも休憩を取らせて先を急ぎたいのでしょう。
「分りました~」
サハラさんは足早に進むリディさんへ返事をして近くにある丁度良い感じの大きさの岩に腰掛けます。
(ふ~、疲れました~。 思ってたより大変だよ~)
額にうっすらと張り付いた汗を拭いながら“むい~~っ”と伸びをして人心地つきます。
そのままぼーっとリディさんが入って行った家を見て居たのですけれど、不意にとある事に気が付いて座っていた岩からぴょんっと立ち上がります。
「あれは鶏小屋かな!? 鶏かウサギでも飼ってるのかな~?」
可愛い動物でも見て癒やされようかな~なんて思って小屋の方へ向かっていきます。
ちなみにサハラさんはこの時の行動を酷く後悔する事になるのでした。
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鶏や兎はそこそこ世話に手間が掛るのです。
小屋を定期的に掃除してあげなきゃ臭うし病気になっちゃうし、増やすにもやっぱり手間掛りますし。
そんな訳でこの世界の人達が思いついた方法が『手間の掛らないのを飼えば良いじゃないか!』と言う事だったです。
幸いと言うか何というか、食用の卵は取れないけど食べる分には都合の良い生き物が居ましたからね。
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「ふんふんふ~ん♪ こんにちは、うさぎさん~♪ それとも鶏さんかな~?」
とことこっとサハラさんは飼育小屋っぽい所へ向かって上機嫌で歩いて行きます。
(ん~、何だろう……黒っぽい気がする。 むむ~、うさぎも鶏も居なそうです。 からなのかな?)
うさぎも鶏も居なそうだったのですけど、サハラさんは遠目に見て中が黒く見えたのに違和感を覚えました。
何がどうって訳では無いのですけど違和感があるのです。
サハラさんは生まれ故郷に居た時もこの感覚は何度か味わった事があって悩みます。
(なんだったっけかなぁ?)
そして小屋に近づきながら思い出そうとして、小屋の中身が何であるのか気が付いたと同時に違和感の正体も思い出ます。
そう、それは夜トイレに行こうと電気も付けずに廊下を歩いている時の事。
視界の端に写る壁、ふとそこにぼんやりとした影を見つけて凝視する……。
最初は暗くて良く見えないのだけど、そのうちに目が慣れて見えてきます。
見えてしまうのです。
そうして見えてしまった影の正体が、なんと掌サイズの蜘蛛だった時の感覚なのでした!
「わぎゃーーーーーーーーー!!」
わさわさっと蠢くそれらを認識した途端全身が総毛立ち、悲鳴を上げてしまいました!
サハラさんはあまりの出来事にその場に腰を抜かして尻餅をつき後退ります。
「どうしたサハラ!? 敵か?」
家の中で聞き込みをしていたリディさんでしたが、サハラさんの悲鳴が聞こえるや否や、背中の大剣を抜きながら駆け付けてくれました。
そしてそこには涙目で両肩を抱いて縮こまっているサハラさんの姿がありました。
「リリリリリディ~~~」
「なに? 何があったの?」
「あ、あの小屋の中……なんか良く分らないのがワサワサしてるよ~~?」
「ん? あれか? あれは別に普通に飼ってるだけじゃないかな」
リディさんは意味が分らずにどう言う事だろうかと首を捻ります。
とりあえず襲われた訳では無さそうなので武器もしまいます。
「え……飼ってるの? あれって飼う物なんだ……」
サハラさんはリディさんに手伝って貰って何とか立ち上がりつつ、その事実に驚愕します。
「もしかしてアレ見て悲鳴あげたの?」
「う……うん。 ごめんなさい。 あんなの初めて見ました……」
いまだに小刻みに震えて居ますが心配を掛けちゃったリディさんへ謝ります。
「無事なら良いわよ」
(にしても、初めて見たって……もしかしてあれが食用だって言ったらショック死しちゃいそうね。 念の為内緒にしておきましょう)
しかし、たかだか飼育小屋のアレを見ただけで腰を抜かすって冒険者としてどうなのだろうと思ってしまいます。
そしてまだ立ち直って居ないらしく、杖を支えに生まれたての子鹿みたいに成ってるサハラさんを見つめ、リディさんは今後の事が不安になり途方に暮れそうになりました。




