第42話 サハラさんとリディさん
「ララとコトさんって仲悪そうだけど大丈夫なのかな~」
リディさんが手を引いて歩きだしちゃったのでついつい二人を置いてきてしまったサハラさんですけど、そこはかとなく不安な雰囲気を醸し出してた二人に不安が募ります。
「大丈夫でしょ。 あれで一応二人ともいっぱしの冒険者なんですもの。 それに、同じPT内でいつまでもギスギスさせたままなのも問題だからね」
「そうかなぁ~。 でもそっか、この組み分けって二人の仲直りを狙ったものだったんだね!」
納得納得~、とサハラさんは頷きます。
(リディさんも気にしてたんだね)
「まあ半分はそうね」
(あまり期待してる訳ではないのだけどね)
「もう半分は?」
(それは私が貴方と仲良くなる為よ)
「…………秘密よ」
「え~、ケチ~。 秘密なんて酷いですよぅ」
「ひ、酷い? そっか……秘め事って酷い事なのか……」
(あれれ、冗談で言っただけなのに凄く気にしちゃったよ?)
サハラさんは良くある戯れだと思って軽い気持ちで言ったのですけど、予想外にリディさんが気落ちしちゃって肩を落としたのを見て焦ります。
とりあえずなんとかしなきゃと思って話題を急いで変える事にします。
「と、ところでリディ、今日の予定ってどんな感じなのかな?」
サハラさんはリディさんの気を逸らす為とは言え、かなり強引な振りで話を変えに掛ります。
でも実際に何しにこの村に来たのかも知ったばかりだし、この世界の常識も分らないしでサハラさんにはサッパリ予想が付かないので聞いておきたかった質問でもあるのです。
「……ん、そうね。 私達は最初に発症したと言う北の外れから調べる事にしましょう」
サハラさんのそんな考えを知ってか知らずか、リディさんが質問に答えてくれます。
最初に発症した場所を調べるのは基本ですし、位置的にも端から調べた方がやりやすそうだと考えての事です。
「らじゃ。 そこの人達から治療するの?」
「いえ、治療はしないわよ。 私達の依頼には含まれてないし、どうせ原因を取り除かないと意味が無いでしょうしね」
それに、村全体に呪いが蔓延ってるのなら、サハラさん一人で治療するなんて人数が多すぎると思って居たりもします。
「そうれもそっか~、たしかに今のまま治療してもすぐに再発しちゃうって言ってたもんね」
昨日ララがした説明でも言ってましたし、さっきの村長さんも同じ事を言っていました。
「そう言う事ね。 それに原因を特定してそれを取り除けばたぶん治療しなくても問題ないわよ」
(原因を見つけられれば、とも思うけど高望みかもしれないわね)
特定出来れば解決するかもしれないし、そうで無くてもギルドの評価アップは確実に望めるので、リディさんは積極的に探るつもりです。
「じゃあ時間も無いし、北に急ぎましょう」
そう告げて、リディさんはまだ繋いだままだったサハラさんの手を引いて歩みを早めるのでした。
◆◇◆◇◆
「ところで少し気になっている事を聞いても良いかしら?」
二人は暫く無言で歩いて居たのですけど、唐突にリディさんがサハラさんへ質問します。
「は~い、何でも聞いて下さいよ~」
それにサハラさんも機嫌良く答えます。
「出会った時から凄く気になってたのだけれど、サハラはどうして魔導士の装備なのかしら?」
結構今更な質問なのですけど、サハラさんがあんまりにも当たり前にいつも着ているので、リディさんは何となく聞いたら負けな気がして今まで聞けなかったのでした。
でも、ついに好奇心に負けてしまいました。
「ふふふ~ん♪ お答えします! 何を隠そう僕は本当は魔法使いになりたかったのです!」
バシッ! っと胸に手を当てよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの勢いでそう言い切り――
「でも無理だったのでせめて服装だけでもと思ったのですよ~」
――何故か分らないけど、サハラさんは酷く得意げにそう続けて答えました。
全然得意げにする事でも無いのですけどね。
でもその答え方のおかげで、リディさんは(そう言う事もあるのかな?)と何故か納得してしまいました。
「へぇ、そうなのね。 ところでもう一つ疑問なのだけど、その長杖ね。 それってヒーラーが使ってるのは見かけた事が無いんだけど、治癒の効果が上がったりするの?」
リディさんの知る限りではヒーラーは自衛用のメイスか、治癒力を上げる効果があるアクセサリー《キリスト教で言えば十字架みたいな物》を装備している姿しか見掛けた事が無かったのでこれも気になっていました。
攻撃魔法が使えるなら分るのですけど、サハラさんは一切使いえないと言っていたので不思議だったのです。
「ふっふっふ、これって実は魔法使い用の装備で僕には何の効果も無いのです! ヒーラーには魔法威力強化とか火属性強化とか使い道がないのですよ~。 ファッションですね♪」
これはララも知らない事だよ~、と無邪気に答えられてしまいリディさんは軽い目眩の様な感覚に襲われました。
「ファッション!?」
(な、なんですって? あの杖に使われてるレッドドラゴンアイは本物だったわ。 私達みたいなBランクでもそうそう手に入らない高価で希少な素材を使っている長杖をファッションで装備するなんて……)
〈レッドドラゴンって名前が付いてる位なのでサハラさんの持ってる長杖は火属性武器なのです。 ファイヤーとかには効果抜群ですけど回復魔法にはまったく意味が無かったりします〉
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レッドドラゴンアイは隣の国にある古代竜が住む山の麓にある荒れ地、そこにいる赤い大きなトカゲみたいな奴からしか取れないので凄く希少価値がある物なのです。
それにトカゲと言ってもドラゴンの一種なのでもの凄く強いんです。
火も吹くし。
BランクPTでも一匹相手に全力で戦ってなんとか倒せるかどうかと言う程の相手です。
にもかかわらず倒したからって毎回取れる訳でも無くて、むしろ取れる事の方が珍しいのです。
あと『アイ』って名前だけど目じゃないです。
魔力の核の様ななんか良く分ってない物、なのです。
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(ララエルがサハラは良い所のお嬢様だって言っていた話、本当の様ね……)
こうしてサハラさんの知らぬ間に、また誤解が広がって行くのでした。
◆◇◆◇◆
歩き始めて一時間程たった頃、村長さんに貰った地図の一番端の家が見えて来ました。
「どうやらあれが一番北の家みたいわね」
「お~、やっと着きました」
二人は話しながら歩いて来たので時間が掛ったのだけど、実はここは村長邸から一㎞位しか離れていません。
この村は人口のわりには小さい村なのです。
ただ、途中に岩や林があるのでグルっと遠回りしなきゃならないので実質二㎞位にはなっちゃうのですけどね。
主に狩猟とか林業の村なので大きな田畑が殆ど無いので家と家の距離が近くて、結果的に村も小さい範囲で収まっているのです。
さらに言えば森の中の村なので木々を切り倒さないと土地が無いって言うのが大きいですね。
「じゃ、話を聞きに行くわよ」
「は~い」
休む間もなくリディさんは村外れの家へ向かいます。
どんな家かと言うと、この村では標準的な木造平屋で壁や屋根も飾り気一つ無い木の打ちっぱなしと言う簡素な家です。
窓ガラスもないし、壁もただの板、サハラさん的には家と言うより納屋とか物置にしか見えないのですけれど、さすがのサハラさんもこれは口には出しません。
そんな失礼な感想をサハラさんが抱いている間にもリディさんはドアをノックして対応に出て来た家主と話をはじめちゃっていました。
(あわわ、ぼさっとしてる間にリディが仕事しちゃってます。 僕も手伝わないと~)
「――そうですか、わかりました。 協力に感謝します。 では」
でも時すでに遅し……サハラさんが仕事しなければと思った時には終わっちゃってました。
リディさん、素早いです。
「村長に聞いた以上の事は分らなかったわ。 それと、この家は9人家族で発症6人だって言ってたわ。 メモをお願……あぁ」
リディさんは今住民から聞いた事を話しつつ、何気なく紙とペン〈鉛筆の芯だけみたいな物〉を手渡してから、そう言えばサハラさんは文字が使えないんだったと思い出しました。
しかし当のサハラさんは「一軒目、九人中六人発症、新情報無しっと~」と呟きながらサラサラと流暢に謎の記号を紙に書き込んでいました。
「さ、サハラ!? 貴方は字が書けないし読めないって……って言うかそれは文字なんですか!?」
リディさんはサハラさんが文字を書いた事に驚いてメモを覗きます。
そして見た事も無い文字にさらに驚きました。
「あ、はい。 この国の文字はさっぱりわからないんですけど、でも僕が生まれた国の文字なら使えますよ~」
その答えにまたまたリディさんは衝撃を受けます。
何故ならこの世界は多少の地域差〈要は方言ですね〉はあれど、全ての国や種族で同じ言葉と文字を使っているのです。
それは『神語』と言われる言語なのですけど、いつから使ってるのかは良く分っていません。
とにかくそんな訳なので「字が使えない」と聞いたときに、誰もがサハラさんは文字を教えて貰ってないので字がまったく使えないんだと誤解しても不思議ではないでしょう。
ララも(世の中にはお嬢様に文字を教えない不思議な地域があるのね)位にしか思わなかったのでした。
(独自の文字を使ってる国なんて……聞いた事無いわ。 別の大陸ならそう言う事もあるのかしら?)
「ま、まあ良いわ。 それじゃメモお願いね」
とりあえず今日の所は深く考えるのを止めて、リディさんは依頼に専念する為に思考を切り替える事にしました。
「さ、それじゃどんどん家を回って行きましょう」
「はいさ~」
そんな感じでサクサクと調査を進めて行く二人なのでした。




