第40話 森の村
翌日、まだ朝の匂いが抜けきらない時間にサハラさん達一行は村の入り口に到着しました。
普段なら乗り合い馬車は村の中心にある広場まで連れて行ってくれるらしいのですが、今は近寄りたく無いと言う事で村の入り口までで降ろされちゃいました。
ちなみに入り口って言っても『この先 森の村』と書いてある標識がポツンと立ってるだけです。
これ以上先に連れて行ってくれないと言うなら仕方無いのでここで御者さんにはお礼を言って別れて、まずは村長さんに挨拶しようと言う事になりました。
それから村の中心に向かって歩き出したのですが、途中何軒かの家が建っていたのでサハラさんはそれとなく観察してみました。
村の家はだいたいが木造の平屋建てで、パッと見納屋にしか見えない作りをしています。
窓もガラスが使われてる家は珍しくて、殆どの家は木の戸が付いてるだけみたいです。
二階建ての家なんて村の中心に数軒見えるだけですね。
(へ~、森の村って言う位だからログハウスなのかと思ったけど、そうじゃないのですね~)
と、そんな風にサハラさんは思いつつ、リディ達の後に付いていくのでした。
◆◇◆◇◆
この森の村は、村としてもかなり小さな部類に入るので入り口から村長宅まで直線距離にすると六百メートル位しかありません。
そんな小さな村をリディさんは見回して“これなら調査もそんなに掛からず終わりそうね”と少し安心します。
「……それにしても人が殆ど出歩いてないわね」
今は朝食も終わってそれぞれの仕事をしだしても良い頃合いだと言うのに、静かすぎる程誰も出歩いてないのが気になって、リディさんはつい独り言をこぼしてしまいます。
「そだねー。 思ってたより状況悪いのかな?」
コトさんも同じ事を思ってたらしくて返事が返ってきました。
「とりあえず村長邸に急ぎましょう。 たぶんあの辺にある二階建ての家のどれかがそうでしょう」
リディさんは目線で広場の先の建物を示します。
本当なら広場への道すがらその辺の人にどの家が村長邸か聞こうと思っていたのですけど、その辺を歩いてる人が居ないので聞けそうもありません。
どっちみち、たいして軒数も多くないですしすぐに見つかるでしょうと場当たり的な考えでずんずん進んじゃいます。
しかも距離もたいして無かったのですぐにそれっぽい家の建つあたりに到着しちゃいました。
さっそくリディさんは適当に家を選んで近づき『コンコン、コンコン』と、間違ってても良いやと開き直ってノックしてみました。
「はいはい。 誰かな? 今行きますよ」
中からは男性の声でそんな風に返事があり、それに続いてすぐにドアが開いて中年の男性が出て来ました。
男性は中肉中背の黒髪でグレーの目、少し顔の堀が深い意外はこれと言って珍しい所も無いこの地域の標準的な人族
……かと思ったら、お尻にサラッサラの馬の尻尾みたいなのが生えていました。
これにはサハラさん大感激です。
体つきも華奢では無いけど引き締まってる訳でも無くて、農作業や木こりみたいな肉体労働をしている様には見えません。 もしかしたらこの人が村長なのかもしれません。
当りかな? と、思いつつリディさんは男性に村長さんの事を聞いてみる事にします。
「おはよう御座います。 朝早くに突然申し訳ありません。 私達はこの村の長を探しているのですがどちらにいらっしゃるでしょうか?」
「ああ、それなら私がそうですよ。 それでしたらどうぞお入り下さい」
そう言いながら男性は家の中に案内してくれました。 やっぱりこの人が村長だったようです。
「良く来てくれました。 どうぞお掛けになって下さい」
たぶん応接間として使ってるであろう部屋に通してもらい椅子を勧められます。
なんで“たぶん”なのかと言うと、正直な話あんまり片付いて無くて生活感が出ちゃってるので応接間なのか居間なのかリディさん達には判断が付かないのです。
リディさんは勧められた椅子に座りつつ、さっそく本題を話し始め様としたのですが……。
「それで、私達が村長殿に会いに来た理由なんですけど……」
と、用件を伝えようと話してる途中に、興奮した様子の村長に話を遮られてしまいます。
「いやー、まさかこれ程早く来て下さるとは思いませんでした。 で、どなたが治療師様なのでしょうか? こちらのエルフ様ですか? それともこちらの白翼族の方でしょうか? いやいやそれどころじゃないな、さっそく村の皆にも伝えなければなりませんね」
と、勢い良く捲し立てます。 何か誤解があるらしくてリディさん達が治療の為に訪れたと思っているみたいなのです。
「ちょっと待って下さい、何か……」
リディさんが誤解を解こうと口を開いたのですが、またしても村長さんは遮って。
「あー! そうですよね、すみません少し興奮してしまいました。 さすがに着いて直ぐにすぐ治療は出来ませんよね。 ではでは、一旦ご休憩の為の部屋とささやかながら昼食をご用意させて頂きます」
またまた話を聞かずに勝手に判断して家の奥に向かってご飯を用意する様に声を掛けちゃいます。 たぶん奥さんかお手伝いさんでも居るんでしょう。
「いえ、違います。 そう言う事では無くて我々は村の様子を……」
少し不機嫌さを纏い、もう一度リディさんが口を開いたのですが……。
「あ! そう言う事でしたか!? いえ、ご心配なさらずに、こんな寒村では報酬が払えないのではと不安に思うかもしれませんが大丈夫です! 今回の依頼の為に村中から集めましたのでお支払いは問題ありません!」
やっぱり村長さんは話しを遮って勝手に解釈したらしく、聞いても居ないお金の話をしはじめてしまいました。
しかも何でか『どんなもんだい!』見たいな顔で言ってきました。
これにはリディさん、ちょっと所じゃ無くイラっときてます。
ただでさえ何度も何度も話を遮られてイライラしていた所で、止めと言わんばかりの自慢げな顔です。
リディさんはついに堪忍袋の緒を切らしちゃいました。
パーン!と、テーブルを勢い良く叩きながら鋭い目つきで村長さんを睨んで怒鳴ります。
「待ちなさい! そして私の話を聞きなさい!! 良いですね! 良いですよね!? 分ったのなら返事をする!」
「は、はい! 分りました! お、お伺いさせて頂きます」
腐ってもBランクなだけあってリディさんの怒気をはらんだ声には迫力があります。
それこそ普通の人にはこの怒鳴り声だけで喉元にナイフでも突きつけられたかの様に威圧感が感じられてしまいます。
そんな緊張感に村長さんは冷や汗を流して凍り付くのでした。
……ちなみに関係無いけど村長さん以上にサハラさんがびっくりして固まってるのは内緒です。
「何か勘違いなされてる様ですが、私達はギルドの依頼で村の調査に来ただけです。 ですので貴方の仰っている報酬も関係ありませんし、治療しに来た訳でもないのです」
「そ、そんな……。 では治療師様はいつ来て頂けるのでしょうか?」
「それが決まるのが私達の調査結果次第なんでしょうね」
やっとの事で話を聞いて貰い、なんとか村長さんも勘違いしていた事に気が付いてくれました。
これでようやく色々と話が出来る準備が整ったのでした。
……むしろ、まだ一つも進んでないとも言いますが……。




