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森のエルフは過保護さん  作者: rurura
カララの町 《神官潰し編》
31/80

第31話 BランクPT『神官潰し』



 ここは冒険者が集まるとある酒場、その片隅で一人静かにお酒を飲む少女が居いました。





・・・・・・





 その少女は頭部から羊の角が生えている羊人族、茶髪のふんわりもこもこした感じのショートカットヘアー、歳は二十代前半で背も百六十㎝とこの世界にしては少しだけ小さめです。

 そんな彼女は美人と言うよりは可愛い系の見た目をしていました。


 何より目立つのはその少女が町中で、もっと言うならここは酒場の中だと言うのに背中には彼女に不釣り合いな程大きな幅広の長剣を背負っている所でしょうか。


 普通なら入店拒否されるその出で立ちでも許されているのは、彼女がこの町での最高ランクであるBに到達している数少ない現役高ランク冒険者の『リディアーヌ』その人だからです。


 高ランクの冒険者は同業者だけで無く、町の人達からも憧れられるスターやアイドルの様な存在です。


 特に彼女は天賦の才の持ち主と言われ、見た目も可愛く年齢も若かった為にこの町のみならず周辺の都市でもファンが居る程の人気っぷりで、彼女の率いるパーティーは冒険者のあこがれの的、この町最高の呼び声高く何処へ行っても歓迎されました。



 そんな彼女がどうして誰にも歓迎されずに一人でお酒を飲んでいるのか……、それにはとある事情がありました……。


 その事情とは、彼女のパーティーに流れた噂とそれによって付けられた二つ名が原因なのです。


 お陰で彼女のパーティーは今や事実上の解散状態、六人居たメンバーも一人減り、二人減り、今は彼女ともう一人だけになってしまいました。



 (いわ)く『あのパーティーは仲間を助けない』『メンバーを口封じの為に金で遠くに追いやった』『彼女達は治療師(ヒーラー)を使い捨てる』そんな噂がまことしやかに流されました。





 そしてパーティーに付いた二つ名が『神官潰し』です。 事実彼女のパーティーは短期間で三人の治療師(ヒーラー)が脱落していました。





 そう、彼女のパーティーに人気があったのはいまや昔の話、もはや人気がありません。 それどころか恐怖や(さげす)みの対象にすらなっています。







・・・・・・







 いつも通り酒場の隅っこの少し暗がりになっている席、もはや彼女の指定席とも言えるその場所に座って今日もお酒を飲んでいます。

 ここなら誰にも邪魔をされず静かに飲めるので彼女は気に入っていました。

 でも今日は少し騒がしく感じます。

 どうやらみんな何かの噂話に興じている様子です。



(ふん、また噂話か。 いつもいつも、誰も彼も無責任に噂話を広めるんだから)



 彼女は噂と言う物に良い思い出が無いので段々と不機嫌になっていきます。

 それを隠そうともせず周りの喧騒を掻き消す様に一人お酒を煽り続けます。



(にしてもうるさいわね。 不愉快だしもう帰ろうかしら……)



 静かに飲める所が気に入ってこのお店に来ているのに騒がしかったら意味が無いと思って帰ろうかと思案しだした所で彼女の見知った顔が店内に入ってきたのが見えました。



「あ、居た居た。 お姉さま! 噂は聞きましたか?」



 そう大声で言いながら近づいて来た少女は、背中に天使の様な白い翼〈ただし小さいです。 その辺の鳩の羽より小さいかもしれません〉がある十代後半くらいの見た目の少女です。


 彼女は有翼族の一つ白翼人で名を『コレット』と言い、ダークグリーン色のセミロングヘアーをした笑顔が似合う女の子です。

 リディアーヌさんと背の高さは変わりません。


〈ちなみに翼はあるけど飛べません。 彼女達の先祖は魔法を併用して飛んでたらしいですが、すでにその技法は失われています。 でもその技術に関連しているのか体重は見た目より凄く軽いです。 それこそ飛べそうな位に〉




「お姉様って……貴方のが七つも年上じゃない! それに私は噂話は嫌いよ」



「やっぱりね。 でもそれどころじゃないんですよ!」



 年齢の部分はあえて聞こえなかった事にしてコレットさんは話を続けます。



「聞いて驚いて下さいよー! わたしは今日の夕方ギルドに居たんです。 で、その時ドジな冒険者が一人怪我か毒かわからなかったんですけど、とにかく治療しないでギルドに来て倒れた奴がいたんですよ」



「え? それは凄く間抜けな奴ね」



「あー、これは終わったかなーって思ったんだけど、そんな所に野次馬掻き分けてめっちゃ若い女の子が出て来たんだよね。 しかも人族のね」



 コレットさんは身振り手振りで状況を大げさに伝えながら話すのでリディアーヌさんはついつい聞き入ってしまいます。



「でね、ここからが驚く所なんだけどさ。 なんとその子がたいした詠唱もせずに二~三回魔法使ったかと思ったらさ、ぱぱっと回復させて覚醒まであっと言う間にやっちゃったのよね!」



 興奮冷めやらぬ様子でコレットさんがその場の様子を捲し立てます。 そして周りの噂話もどうやら同じ話題みたいです。



「へー、人族がねぇ。 見間違いなんじゃないの?」



 リディアーヌさんの疑問も最もで、人族が使える回復魔法は若い内に習得できる程簡単では無いのは常識なのです。 大方見た目が人族とソックリな寿命が長い種族と見間違えたんだろうと思ったのでした。



「いやいや、あたしはちゃーんとギルドで情報聞いてきたから間違いないですよ。 それに正直そこは重要じゃないんです。 良いですか? なんとその女の子はパーティーに入ってないんですよ!!」




「…………なんですって、それこそ間違いじゃないのね?」




 それまで何処か適当に話を聞いていたリディアーヌさんも真面目な顔になります。

 そして同時にコレットさんもただの噂話に興じる少女の顔から熟練の冒険者の雰囲気を纏います。


 何を隠そう彼女達もまた、治療師(ヒーラー)を待ち望んでいたパーティーの一つなのですから。




「うん、間違い無いですよ。 その子は最近冒険者登録したばっかりでランクはF、それとどんな関係なのか分らないけどエルフが一人一緒に居るよ。 そっちはDランクだね」




「ふぅん、エルフ付きか、珍しいわね。 ふふ、なんにしても……ついに待ちに待ったフリーの治療師(ヒーラー)が現れたのね! ふふふ、忙しくなるわね」



「うふふ、そうですね、お姉様。 是が非でもうちのパーティーに入って貰わないとならないですね」



 場末の酒場の暗がりで、二人は猛禽(もうきん)の如き目つきで怪しく笑い合い、今後の計画を練り始めるのでした。






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