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森のエルフは過保護さん  作者: rurura
カララの町 《雑用編》
30/80

第30話 初めての酒場




「おう、来たな! こっちだ!」



 サハラさん達が酒場へ着くとすぐにエリックさんが奥にある個室から顔を出して手招きしてくれました。

〈ちなみにララが来ると大体周りが騒々しくなるので誰が来たか一目瞭然なのです。〉


 個室は三畳位の広さで真ん中にテーブル、そしてその周りの壁沿いにベンチの様な椅子が据え付けられてる作りになっています。

 ガタイの良い冒険者達でも七~八人は座れるその部屋に今回は四人だけですので結構広々と使えます。


 部屋に入るとララがサハラさんに座る様に(うなが)してララ自身もその隣に腰掛けて、それと一緒に店員も呼びつけました。



「とりあえず私とサハラはまだ夕飯食べてないから先に頂かせて貰うわね」


 そう言ってララは適当に二つ三つ夕飯になりそうな料理を持ってくる様に頼んで、ついでにサハラさん用のリンゴ〈っぽい〉ジュースと自分用の果実酒も注文しました。


 この店は酒場とは言えかなり本格的な料理も出しているので夜に町の飲食店が閉まった後でもここで夕飯が食べられるのです。



「うわ~、酒場です。 個室もあるんだ~、でもカウンター席にも惹かれますよね!」


 サハラさんはキョロキョロ、キョロキョロと、のれんの外や中を見回しまわります。

 ついでにテーブルの下も覗いてみたりと大はしゃぎしまくりです。



「こほん」


 ララは咳払いで(たしな)めようとしますがサハラさんは全然気が付きません。


「えー、こほんこほん」

(やっぱり初めて行く場所だとはしゃぐのね……)



「すご~い、のれんだ。 のれんなんてあるんだね~」



 サハラさんはまたまた気が付きません。



(……しょうがないわねぇ)

「もー、サハラ。 少し落ち着いて。 二人に笑われてしまうわよ?」



 どうしても気付いてくれないのでララは仕方無く直接注意しました。

 そうしてやっとサハラさんも気が付いて慌てて落ち着きます。 でも子供っぽい事で注意されて恥ずかしくて顔真っ赤です。



「ご、ごめんなさい。 ちょっとテンション上げすぎました」



「あはは。 まあ、楽しそうでなによりだよ」



 時すでに遅く、エリックさん達に笑われてしまいました。しかもニヤニヤと……。



(ぅぅ……、なんだか負けた気がします!)



 そんなタイミングでサハラさんとララの飲み物が到着しました。

 サハラさんは店員から飲み物を受け取りララにも手渡します。 そしてエリックさんとチャスさんの手元にも飲み物があるのを確認してつい癖で一言。



「かんぱ~~い!」




「「…………?」」



(はれ!? もしかして乾杯ってしないの?)



〈サハラさんは自分を除いた三人が突然の乾杯の音頭にキョトンとした顔をしたのでこの国では乾杯の文化が無いと勘違いしてしまいます。 でも実際には乾杯の文化は有るのです。 ただし貴族達の宴会や公式行事とかと言うお堅い場だけの話だったのです。〉





 サハラさんはまたまた要らない恥を掻いた気がするので徐ろに「ストン」と座り今の行動は無かった事にしてジュースをチョビっと飲んで誤魔化しました。

 ――どう見てもリンゴジュースなのに味はトマトジュースでした。



 しばらくしてララが適当に頼んだ料理が来ました。

 どんな物かと言うと、森ガニのボイル&カラフル野菜炒め&肉をパン生地で包んで焼いた料理です。



「これはまた……あの店員は料理の食べ合わせって物を考えて持って来てくれないかしらね」


「まあ酒場だしな、あの注文の仕方だとこうなるわな」



 一品ずつ見ればどれも美味しそうなのだけど、さすがにカニと肉の組み合わせは無いんじゃないかなーと思います。

 そしてなによりララは森ガニと言う物を食べた事がありませんでした。



 森ガニは名前の通り森に住んでるカニでサイズも見た目もズワイガニとそっくり、この辺りの特産でここでは一杯取れるけど他の地域では見掛ける事も無い珍しい種類なのです。




「お~、カニですね。真っ赤です。」

(カニなんて懐かしいです。 近くに海でもあるのかな~? 久しぶりに海を見たいです)



 サハラさん的にはカニと言ったら海ってイメージしか無いので少し勘違いしちゃってます。

 実際には今サハラさん達が居る町からだと海は結構遠くなのです。







「エリック、カニってこの位のサイズでスープに入ってるものじゃないの?」



 ララは親指と人差し指で沢ガニくらいのサイズを表しながら首を傾げます。




「ああ、俺もそう思ってたんだがな、どうやらこの辺りじゃこいつが特産なんだってよ。 俺も初めて見た時はびびったぜ」



「でも(あね)さん、これ喰い辛いだけで旨くなかったっすよ」


「だよなー。 大きいから殻が固てーしな」


「へぇ、そうなのね」




(皆何の話してるんだろう? カニの殻が固いと味って変わるのかな?)


 サハラさんが皆が何を言ってるのかと疑問を抱いていると、ララがさっそくカニから足を一本むしり取り、なんとそのままかじりついちゃいました!

 ちなみにエリックさんとチャスさんも以前に自分達で食べた時も同じ食べ方をしていました。



 ララはしばらくの間カニをガリガリガリっと噛んでからボソっと言います。

「……ほんと固いわね」




 そんなララのまさかな食べ方にサハラさんはびっくりします。



「ちょっと! ララ、ララ! ララエルさん!? その食べ方は豪快すぎだと思いますよ!? これ使うんです、これ」


 そう言ってサハラさんは、カニと一緒に付いてきていた細いフォークの様な物を使って器用に中身だけを食べて見せます。




「「な……なんだってー!?」」





「これって殻は食べないの!?」


「マジかよ! はじめて知ったぜ」


「俺っちもこれは予想外っすよ!」



 スープに入ってる小さな沢ガニは殻ごと食べる物なので、三人はこのカニも同じだと思ってしまいました。

 この町や港町とかの大きなカニが取れる地域以外の人はかなりの高確率で同じ失敗をするらしいです。 店の人も教えてあげれば良いのですけどね。

 まあ、見れば分りそうな物かもしれないけれども……。



「よ……よっと、以外と難しいわね」


 ララも今度はフォークを使って中身を取り出して食べてみます。


「あら? これは美味しいわね!」


「だよね~、これは故郷の食べ物と同じ味がします。 懐かしいな~」



 サハラさんは慣れ親しんだ味を感じて、ついつい望郷感を抱いて少しだけしんみりしちゃいます。




 その姿に気が付いたララはそっとサハラさんの肩に手を回して抱いてあげて、きっともう帰れないであろう故郷に焦がれてるサハラさんを不憫に思ってどうにかして元気付けてあげれないものかと悩みます。





「…………そうだわ! サハラ、今度私の里に遊びに行きましょう」

(普通の店に行ってもこれだけ喜ぶんだから、(エルフ)の里ならきっと凄い楽しんでくれるに違いないわ)



 サハラさんの故郷へ連れて行ってあげる事は出来ないけど、自分の里へ連れて行ってあげれば少しでも寂しさを紛らわせてあげられるんじゃないかと思っての事です。



 でもララのその発言に今度はエリックさんとチャスさんが驚きました。

 エルフ族は普通自分達の里に他の種族を連れ込みません。 例え他種族と結婚したとしてもその伴侶が生きてる間は里の外で生活するのが普通で里にまで連れ行く事は滅多に無い程なのです。

 もしも無理矢理入ろうとしたら殺されてしまうでしょうし、運が良くても里の中に軟禁されて二度と出られないでしょう。


 なので、エルフの里を見た事が有る人は殆ど居ないのです。 特にララの里である【黒の森】は一段と厳しい里だったりします。

(と、他種族からは思われています。 実際にはそんな厳しくもないのですけどね)




「ララの故郷ですか! 是非行きたいです!」


「ええ、今度行きましょう」


 ララは目論み通りにサハラさんに元気が戻ったのでほっと胸をなで下ろして食事に戻ります。 でも、里に他種族を連れ込んだら怒られるだろうなと今更気が付いて、ほんのちょっぴり先走った感にさいなまれました。

 でもサハラさんが傍目にも分る程期待しちゃってるので今更訂正出来なかったりもします。






・・・・・・






「さーて、飯も粗方食い終わったみたいし、話を始めようか」




 エリックさんは二人が食べ終わってから話そうと思ってたので待っていたのですが、何せ店員がカニなんて持って来ちゃったのでかなり長い間待つ事になってしまいました。




「そう、それは良いのだけれど……一体何の話なのかしら?」



「ま、察しは付いてると思うが、昼間のギルドでの事だな」



 エリックさんはサハラさんに視線を向けてそう言います。

 サハラさんはまさか自分の事が話題になるとは思ってなかったのでビクっと反応しちゃいました。


「え、僕? もしかして何かまずい事しちゃったんですか?」



「まあそうだなー、まずいと言えばまずいな」



(が~ん、ショックです。 何がまずかったんだろう?)



 ララはショックを受けてるサハラさんの様子を見て勢い良く椅子から立ち上がり――



「エリック、(・・)のサハラを傷つけたらいくら貴方でも許さないわよ?」



 びっくりしてるサハラさんの姿を見て居てもたってもいられなくなり、ララが怒ったのです。

 そして静かに魔力を集めはじめるのです。 結構本気で怒ってます。



「おいおい、ちょっと待てって。ララエルはほんと姫様以外にはすぐ怒るのな。 てか、今のは短気過ぎるだろ!」



「当然です。 だってサハラは可愛いくて、貴方はそうでは無いもの」




「うぅ、ララ~、嬉しいけど恥ずかしいよ」

(それに、何気にエリックさんに酷いよ?)






「……それでえーとな。 サハラ……ちゃん?」


 エリックさんはサハラさんを呼び捨てにしようとしたらララの目線が鋭くなったので慌てて『ちゃん』付けに変更しました。



「とにかくだ。 君が昼間やった治療魔法な、あれがまずいな」



「え……どういう事なんですか?」



「うん、聞いてるかも知れないけどな、この町は慢性的に凄く治療師(ヒーラー)が不足してるんだよ」



 何故不足してるかと言うと、冒険で死んじゃったり、歳を取って引退したり、他の地方で治療師優遇政策やってたり等々色々理由があるんですけど、最大の理由は『この町は教会の勢力が弱い!』って所らしいです。

〈人族は神聖魔法以外の回復魔法が苦手ですので教会で教えてる神聖魔法が頼りなのです〉




「そんな状態で昼間の君の魔法だ。 あれは目立つ。 言い方は悪いがあの場に居た者達は皆君を利用しようと思っただろう。 それにたぶん君はこの町で一二を争う腕前だ」



「え~、照れますね」


 何故かサハラさんはエリックさんの熱心な説明の九割九分をスルーして『一位二位を争う腕前』って所で喜びます。 もっと重要な部分があったのにね……。


「ふふふん♪」





 エリックさんはそんな無邪気な態度にかなりの精神的ダメージを負いつつ、それでも何とか復活して。


「で……でだ、今後君は色んな奴らからパーティーに誘われる事になるはずだ」



 エリックさん(いわ)く、Cランク以上の冒険者はダンジョンの探索資格を得られる様になるのですけど、最終的にダンジョンに入る許可を貰う為にはパーティーに最低一人ヒーラーが居るのが絶対条件になってるらしいのです。 だから皆必死になって勧誘するんです。

〈Bランク以上なら危険度の低いダンジョンはソロでも入れるんですけどね〉


 それに、ヒーラーの使える魔法の種類と強さによっても許可が出るダンジョンが変わるらしいので、フリーでそれなりの使い手はもはやレアアイテム〈一つ売れば町に家が建てれると言われる〉以上の扱いだったりします。




 そしてこの町には今まで一度もヒーラーと組んだ事が無い、要はヒーラーの守り方を知らないパーティーが大半を占めているのです。

 しかもヒーラーを襲う危険はモンスターばかりじゃなくて、人攫いや野盗、果ては冒険者にまでその能力を狙って襲われる事があるのです。




「 で、何処かのパーティーに参加したとしよう。 そのパーティーがちゃんと実力があるならば良いんだ。 だがもしそのパーティーに実力が無かったら……一番最初に死ぬ事になるのは君だ。 そんな危ない橋を渡る位ならどうだろう、俺達と組まないか?」


「そっすね。 二人が組んでくれれば、前衛二人に中衛アーチャーとヒーラー、めちゃめちゃバランス良いっすよね」




「……ちょっと待ってエリック、一つ良いかしら。 あなた達もヒーラーと組んだ事無いと思ったんだけど?」




「まあな。 だが、俺もチャスもそこいらの奴らより腕は確かだ。 それはお前も知っているだろう?」




(確かに一理あるわね。 このままだと良くない虫がサハラにつかないとも限らないし……。)


 見ず知らずのパーティーに入る位ならエリック達と組んだ方が安心なのも確かです。

 それにパーティーに所属していれば無駄な勧誘を避けれる事にもなりますしね。



「そう言う事なんだが、サハラちゃん、どうかな?」




「そんな大事(おおごと)になる行動だったんだね。 全然予想外でびっくりです。 それとパーティーのお誘いありがとうございます」



 サハラさん的には昼間の行動がそこまで重大な事に成るなんて思ってもみなかったので本当にびっくりです。 でもヒーラーとしては回復を求める声についつい応えたくなっちゃったりするんです。




「でも、え~と、ごめんなさい! 少し考えさせて下さい」



 サハラさんとしてもエリックさん達と冒険に行けるのは充分魅力的な誘いなのですけど、あんまりにも突然の事なので即答出来ませんでした。




「……そうか。 まあ、今すぐに決めなくても良いしな。 だけど、さっき言った様にこれからは色んな(やから)に誘われると思う。 その中には紳士的とは言えない連中も多いと思うから、それだけは気をつけてくれ」



 エリックさんの忠告の後半部分は特にララに対しての忠告でした。ララもその意図を汲み取り気を引き締めます。



 そう言った形で話が一段落した頃には、もう良い時間になっていました。

 サハラさんもララも昼間の疲労が溜まっていたので今夜はお開きにして宿屋に帰る事にしました。

〈ララはただたんにポーション作った疲労なだけなんだけどね〉



「じゃあね。 ご馳走様」


「ご馳走様でした。 返事は出来るだけ早くします。 おやすみなさい」




「ああ、気をつけろよ。 おつかれ」


「二人ともおつかれっす。 またっすよ」






 そして“ばいば~い”と手を振りながらララと一緒に帰って行くサハラさんを見送って暫く経ってから――



「兄貴……、これうちらの奢りなんすね」



「……あ!!」




 エリックさんは二人が余りにも自然に帰って行ったので普通に見送ってしまったのでした。

 しかも良く良く思い返すと二人が「ご馳走様」と言ってたのに気が付きます。


(……やれやれだな)





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