第03話 出会い《少女》
この世界はどうやら初夏らしく、さわやかな暑さの中少女は気分良く森の道を進みます。
時折木の枝にリスみたいな生き物を見掛けます。
(リス可愛いです)
さらに暫く歩くと今度は森の少し奥の方に鹿っぽい生き物の群れを見掛けました。
奈良で見た鹿より大きいな~、なんて考えていたら一番大きな角を持ってる子に睨まれました。
(鹿怖いです!)
何で転生出来たのかとか、あのアイテムが何だったのかとか分からない事だらけだけど、とにかく今は楽しくてしょうがないのです。
実はこの森は人に危害を加える野生動物やモンスターさらには盗賊も出る危険な森なのですけど、そんな事は知らないのでお気楽ハイキング気分で進みます。
時折鼻歌も歌いながらね。
「ふんふんふふふ~ん♪ ところで人里ってまだまだ遠いのかな~?」
誰に聞くでも無く独りごちます。 知りようも無い事ではあったのですけど、実は最初の場所から逆方向に進めば少女の足でも日が落ちる前に町までたどり着けたのです。
しかし残念ながら今は逆方向へ向かって歩いています。
その方角では次の町までは馬車で順調に移動したとしても五日間程、現在の移動速度だと昼夜休まず歩き続けても二週間は掛かってしまいます。
道を歩いて次の民家まで一日でたどり着けないって言うのを少女は全く予想して居ません。
何せ少女は生まれも育ちも関東地方、しかも海沿い、人が居ない場所を探す方が大変です。
なので少女の想像する“遠い”とは数時間程度であって数日や一週間以上と言った単位では無いのです。
実は遭難の危機なのですが、そんな事とはつゆ知らず、お気楽に歩き続けてさらに一時間ほど経ちました。
普段履いている様なスニーカーで舗装された道路ならいざ知らず、今履いている靴は化学素材なんて使われてないレトロなブーツ、そして荒れ気味の未舗装の馬車道です。
(さすがにそろそろ休憩したいな~。 あ、あそこでちょっと休も~っと)
座って休める場所を探し始めた所でちょうどタイミング良く道の脇に座りやすそうな岩を見つけました。
ラッキー、と思いつつトテトテと小走りで近寄って腰掛けます。
「ふー、さすがに疲れたよ~。 にしてもここって馬車道みたいなのに全然馬車通らないですね~」
疲労感からかそんな言葉が出てきます。
と、考えて居たらまたまたタイミング良くなんと馬車が近づいて来てる様な音が聞こえて来ました!
ただし、道が緩やかにカーブしてるのでまだ見えないから正確な事は分りませんけど。
(ふふ~ん♪ またまたラッキー。 やっぱこっち方向に向かって良かったんだね~)
なんて思いながら立ち上がろうとします。
だけど足の疲労は予想より酷かったみたいでよろめいて岩の裏側の草むらに倒れてしまいました。
「きゃう! 痛たたた……う~最悪だ~……。 あっと! 早く起きなきゃ、馬車が来ちゃう」
よたよたと起き上がり服についた土や草の実を払います。
そして気を取り直しつつ“この世界の人はどんな姿をしてるんだろう~? なんて暢気に考えながらよろよろと道に出ます。
その時にはもう馬車は目視出来る位置まで来ていました。
目的の馬車は四台連なって走っているみたいです。
まだ遠いので良く見えなですけど御者台に座っているのはどうも黒髪の人間の男っぽいです。
亜人の御者を期待して居たのでちょっとだけ残念と思ってしまいましたが、それ以上に初の出会いに期待を膨らませます。
なんにしてもまずは止まって貰わないとならないので少女は両手をまっすぐ上に伸ばしてブンブンと肘を曲げずに腕全体で手を大きく振ります。
…………ここで再確認になりますけど、この時の少女の服装は魔女ルック、しかも全身真っ白な上に金銀の糸でアクセントを付けた凄く目立つ服です。
ただでさえ森の中で人に出会っただけで怪しいというのに、そんな目立つ服で手を振ってれば当然御者さんも警戒します。
ややあってから馬車が止まりました。 だいたい百メートル位離れた位置でしょうか。
そして荷台の中から六名程が素早く飛び降りて馬車の周りを囲む様に陣取りました。
そして先頭に立つ金属の胸当てを着けた銀髪の青年が何かを叫んで来ます。
でも遠すぎて良く聞こえません。
「やった、止まってくれた~。 しかも何だか皆降りてきて歓迎してくれてるのかな~? なんか言ってるけど聞こえないし向こうに行ってみよっと」
そう思って右手だけは振り続けつつ歩き出します。
性善説で物を考える日本人は平和的な思考なので武器を持った人を見かけても何故か自分が襲われるとは考えなかったりしちゃいます。 って事も時と場合によってはあるのでしょうけど、この状況で危機感持たないのはたぶん少女が暢気なだけですけどね!
むしろ少女は『銀髪! 初めて見ます!』とはしゃいでたりします。
少し近づいたので、出て来た人を良く見てみます。
だけど後ろ側の三人は四台の馬車の陰に行っちゃって殆ど見えません。 なので見えるのは前側の三人だけです。
その三人ですけど、先頭に居る人は金属の胸当てを着けた戦士風の方で銀色の髪をした男の人です。
手には盾も持ってて格好良いです。
次はその右側にいる赤髪の人を見てみます。 皮の胸当てを着てて、さっきの人より一回り小さい見たいです。
赤髪……パンクな人っぽいです。
そして最後に戦士さんの左側に居る方を見ます。
その方は透き通る様な金髪で腰まであるサラサラストレートなロングヘアーの女性、十八歳かもっと若いかもしれません。
身長は意外と高くて百六十五はありそうです。
腰に細い剣と手に大きな弓を持っていて、背中側の腰にほぼ横向きに矢筒も装備しています。
(あれ、もしかしてあの戦士さんの左にいる人って耳尖ってない!? エルフなのかな? 弓持ってるしね!)
なんていまだに暢気に思ってたら戦士さんが横のエルフさんに何か話しかけてます。
一言二言会話して、そしてエルフさんが背中の矢筒から素早く矢を引き抜き何かぶつぶつ喋った後、弓につがえ射りました。
「お~、さすがエルフさんだ。 さまになってますね~」
何も違和感無くエルフさんの流れる様な動作に感心し、そのまま放たれた矢を目で追います。
以外と矢ってまっすぐ飛ぶんだな~なんて思った次の瞬間少女の右の二の腕に『トスッ』と良い音を立てて突き立ちました。
「……あれ?」
カラ~ンと音をたてて杖を落とします。
「ちょ、ちょっとなんで刺さってるの? っていうか刺さってるのこれって!?」
突然の事に少女は状況が良く分かりません。
「え、うそ? 痛い、て言うか痛い!! 痛いし!?」
何だか分からないけど凄く痛いので完全にパニックになってしまいます。
「なんで! ……痛……い……むしろ熱い!? ど、どうしよう!」
(やばいです! 涙出て来ました。 もう痛いのか熱いのか全然わかんないし! なんで刺さってるのさ!?)
「うぅぅ、せっかく転生したのに……。 ど、どうしよう。 こ、こういう時は……そうだ……救急車呼ばなきゃ……。 えと……えと……何番に掛ければ……良いんだっけ……?」
そして少女はだんだんと痛みとパニックで頭の中が真っ白になって行き、そのまま意識が遠のいて行ってしまうのでした。




