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森のエルフは過保護さん  作者: rurura
カララの町 《雑用編》
21/80

第21話 初めての狩猟依頼


 そしてあくる日、今日はついにサハラさんが薬草取り以外の依頼を受ける記念すべき日となるはずです。


 なのでサハラさんはいつもより早起きしていそいそと準備します。 と言っても普段通りの身支度をするだけなのですけどね。

 唯一違う所は、いつも持って行く長杖だけで無く、昨日買って貰った果物ナイフも持って行く所ですね。


 サハラさんはその果物ナイフを棚から取り出して握りしめ――


「チャララーン♪ サハラは果物ナイフを装備した! 攻撃力が1⇒2に上昇した!」


(なんちゃって~♪ って……これって実はミスリルの杖で殴った方が強い気がします! ぅぅぅ、微妙です……)


 そしてすぐ隣で同じく準備をしているララの方を見てみます。

 今日はいつもと違ってフル装備です。

 ララの腰には金で縁取りがしてある高級そうな白い鞘に入った鏡のような光沢を持つ細剣が装備されています。

 この世界では金はすごく貴重な物らしいですし結構良い武器なのかもしれないですね。




 サハラさんはもう一度自分の握ってる物を見てみます。

 果物ナイフです。

 白木の鞘に入ったどっからどう見ても普通の果物ナイフです。 日用品ですね。



「サハラ、どうしたの?」


 うつむいてじっと果物ナイフを見つめているサハラさんをララは心配そうにのぞき込みます。


「な……なんでもないです」

(せっかくララが買ってくれたナイフだもん、ほんとはせめて武器に分類される物が欲しかったなんて言えないよね)


「そう、なら良いんだけど」


 と、ララは言いながらもやっぱり心配そうな顔で武器の点検に戻って行きました。



 でも、サハラさんも『ララが買ってくれた』そう考えると案外ただの果物ナイフでも愛おしく感じてきました。


(そうだよね、ララからのプレゼントだもん! それにこれも立派な武器になるよね)

 そう思った途端になんだかサハラさんはこのナイフがすっごく気に入りました。 なので鞘に名前でも彫ろうかと思って削りだします。


 カリカリカリ…………サク。


「ぎゃー指切った!」


 さっそくナイフで鞘に名前彫り始めたら即これです!




「きゃーー!! サハラ! 大丈夫!?」


 ララは悲鳴を聞いてそちらを見てみると、なんとそこには指から血を流すサハラさんがいて大慌てです。


 点検中だった弓〈『黒の森』の宝弓〉を投げ捨てて急いでサハラさんの元へ駆け寄って怪我した手を握ります。


「あああどうしましょう? と……とりあえず今日はもうお休みにしてベッドで安静に……」


「え! だ……大丈夫だよ! ちょっと血が出ただけだしね」


 ほんとに指先をちょっと切っただけでしたし、何よりサハラさんはこんなでも回復魔法が使えるのです。

 なので全然問題無かったりするのですが慌てに慌ててテンパッちゃってるララは真っ青な顔で右往左往、自分も精霊魔法で回復使えるのもすっかり忘れちゃってますね。



「もー、びっくりしたわー。 刃物は危ないんだから気をつけてね」

(まったく、本気で驚いたわ! やっぱりサハラに刃物は無理なのかしら?)


「は~い。 でも僕は大丈夫だから、ララも早く支度しちゃってよ~」



 サハラさんに急かされて渋々点検に戻ったララの支度が整うのはさらに15分程掛かりました。





◆◇◆◇◆






「よう、嬢ちゃん達。今日はやけに気合い入ってるじゃねえか」




 いつも通り今日もアドニスさんに対応してもらいます。

 実はアドニスさんは怖面だから他の受付より空いてるんですよね。 他の受付の人、特に女性の所はもの凄い込むのです。


 それはさておき――




「ええ、今日はサハラに一段階上の依頼を受けて貰おうと思ってね」


「な……なんだと!? もうEランクの依頼に行くのか……嬢ちゃんにゃ荷が勝ちすぎねえか?」



 アドニスさんの言葉にララが緊張の面持ちでそう宣言すれば、対するアドニスさんも驚愕の表情で聞き返しました。



「ちょっと! 違うわよ、Fランクの狩猟依頼の事よ!」


 アドニスさんの疑問に対してララは慌てて訂正します。

 何故ならEランクだと依頼内容によっては結構危ない依頼もあります。

 …………それこそ運が壊滅的に悪ければ命に関わるような依頼もあるのです。

 と、言ってもその依頼で死ぬ確率と比べれば、平原で雷に打たれる確率の方が断然高いんですけどね。



「……あん? ああ、そりゃそうか。 ふぅ、驚いたぜ。 で、どんな依頼が良いんだ?」


「いやぁ焦った焦った」とペチペチと艶のある頭をさすりながらもパサッとFランクの狩猟依頼一覧表を出してくれました。

 ちなみにこう言った話し合いの場合はサハラさんに選択権は無いので大人しく横で待っています。

 何か希望を出しても大体「ダメ」って言われちゃいますからね。 サハラさんしょんぼりです。



 そんな訳でララとアドニスさんは一覧を指差しながらあれやこれやと話し合い始めます。


「そうね、この辺りは今の季節だと何が狩りやすいのかしら?」


「今だったら、このウルフラットが一杯いるな」



 ウルフラットは体長三十~四十センチ位で、草原に穴を掘って集団で生活しています。

 その穴の入り口に見張り役として一匹立って居るのですが、その見張りを攻撃すると何故か一家総出で反撃に来るのです。

 でも別に強くは無いので出て来た順にどんどん捕まえて行けば簡単に一杯捕まえられると言う初心者向きの獲物なのです。

 主な用途は食用です。



「そのネズミは凶暴なのよね。 あぶないわ」



「じゃあこの足鳥ってのが飛ばないから良いんじゃ無えか?」



 この鳥はダチョウに近いかもしれません。 ただし走るのは遅いし、くちばしも尖ってないから狩るのはわりと簡単です。

 これも食用。



「足鳥って確か体長一メートル位あったような……あぶないわね」

・しばし議論中

「じゃこのキャットスパイダーが最適だな。 だけど問題は嬢ちゃんじゃ日帰り出来ねえって所か」


「そうなのよね。 キャットスパイダーならそんなに大きくも無いし、それを狩れば安全で良いのよね」



 大きくないって言うけど猫サイズです。この世界で言う大きい蜘蛛は人より大きいサイズだったりします。

 キャットスパイダーは毒も無いし動きも鈍いし一杯居るし、なんと言っても良く売れるから駆け出し冒険者の大事な資金源になってます。

 

 でも猫サイズの蜘蛛がワサワサ居る所なんて目撃したらトラウマ物ですよね・・・。



 この世界の人達は慣れてるから良いんだけどサハラは日本人、部屋で壁に5㎝位の蜘蛛が居ただけで大騒ぎです。

 見つけちゃったら倒すなり家の外に捨ててくるなりしないともう寝れないですよね?




(―――――え!? 蜘蛛狩りですって? 無理です! 聞いただけでもう鳥肌立ちましたよ!夜寝られなくなっちゃうよ?)

 サハラさんは「どうせ希望通らないし」と思って横で椅子に座って足をプラプラさせていたのですけど、なんか危険な方向に話が進んだので慌てて会話に参加します。


「ら、ララエルさん! 出来れば違う依頼がいいのですけど!」


 焦りの余りララの事珍しくフルネームで呼んじゃってます。



「え、どうして? うーん、でも困ったわね」


「そうだなぁ、後はこのウサギ狩りくらいしか無いなぁ」


「ウサギ……ね。 このウサギも結構大きいのよねぇ」


「他は赤鴨とか地狐しか無いな」


「…………百%逃げられるわね」


「だな」




(またまた失礼発言された気がします!)





「じゃあ、このウサギ狩りにしましょう」


「おう、わかった。 …………よし、手続きOKだ」



 ララとアドニスさんは白熱した議論の末、やっとどの依頼にするか決めました。



「お待たせサハラ、今日は野ウサギ狩りをしに行きましょう」


「う……うん、分かりました~」

(ウサギ……僕に狩りなんて出来るかなぁ……。 でもせっかくララが期待してくれてるんだし、頑張りますか~!)



「嬢ちゃん、怪我しない程度に頑張って来いよ」



「わかりました~、頑張ります」



 サハラさんは応援してくれるアドニスさんに小さくガッツポーズで応え、それでも初めての狩猟依頼にいつもより緊張しながら出発して行くのでした。




◆◇◆◇◆




 サハラさんはてくてく歩きながらララから依頼の説明を受けます。


「今日はいつもの原っぱよりもうちょっと先にある草原に行きましょう」


 いつもの原っぱはギルドから三十分の位置、そこからさらに三十分進んだ所に草原が広がってるらしいです。

 ようするに門を出てから三十分って事ですね。

 まだまだその辺りは町の住人が休日に家族でハイキングに行ってお弁当を食べるような場所です。


「それでこれが今日獲るウサギよ。 完全に普通のウサギね」


 サハラさんが手渡された紙には確かに普通のウサギが描かれています。 絵の下の方には添え書きで『大ウサギ』と書かれているのですけど、サハラさんには読めません。



「うんうん、了解だよ~」


「大きさは、大体犬くらいのサイズね」


(犬って言うと、どのくらいなんだろう? ウサギだしチワワとかそれ位だよね)


「それとね、前歯が鋭いから噛まれると大怪我しちゃうかもしれないわ。 ……でも安心してね。 何故かこのウサギは噛まないから。 今までこのウサギに噛まれたって話は聞いたことないしね。 それに実験で噛みやすい様に口に手を入れても嫌がるだけだったらしいわよ」



「へ~、何でなんだろうね」



「不思議だね~」と二人して首を傾げ合います。

 噛まれるかどうかの実験で口に手を入れた人っていうのもどんな人なんでしょうね。



 サハラさんはもっと色々聞いておきたかったのですけど街壁に到着しちゃったのでちょっと中断します。



「おー、サハラちゃん。 昨日はお休みかい?」


 少し離れた門の所でサハラさんとララを見つけた門番さん達が笑顔で手を振りながら声をかけてきてくれました。

 すでに一ヶ月近く毎日の様に来てるので門番さんとはなじみの仲になっています。

 でも、ララはサハラさんをちゃん付けで呼ぶ馴れ馴れしい態度の門番さんに少し眉を寄せてたりします。


 門番さん達も最初内こそ門出てすぐの原っぱで薬草集めてるサハラさんを少し馬鹿にしていたのです。

 なにせDランクの、しかも希少種のエルフに護衛してもらって町の雑貨屋で売ってる様な草を取りに来たのです。

 どうせどっかの富豪が自分の娘の我が侭に大枚叩いてエルフを付き合わせているに違いないと考えたりしてサハラさんと目も合わせないような者も居たくらいでした。


 だけど二日・三日・四日と続けて来るうちにどうやらそうでは無いらしいと思い始めます。

 五日目に意を決した門番が二人に何をしているのか聞いてみたら、なんとサハラさんが冒険者になったばかりなので近場の採取依頼をやっていると言うではないですか。

〈その時サハラさんはギルドライセンスを誇らしげに見せつけたのですけど…………真っ白だったから逆に哀れみの視線がかえってきたのでした〉


 それに実際に話してみるとサハラさんは良い子だったし、二人の関係も雇われボディーガードとお嬢様、じゃなくて保護者とその連れと言う関係だとわかって今度は一転して皆サハラさんを心配して見守る様なりました。




「はい。 今日はいつもより遠くに行くので、昨日はその準備の買い物に行ってました~」



「な……なんだって! 遠くまで行くのかい?」

「大丈夫か? 何なら俺も一緒に……」

「何処まで行くんだい?」



 いつも目の届く場所までしか行かないのに今日は遠くまで行くという言葉に門番さん達はみんなして動揺します。



「うん、草原まで行ってウサギを獲ってくるのですよ~」



「草原? そうか、草原か。 あ、そうだ。ウサギは大きいから怪我には気をつけろよ」


「は~い、気をつけます」



 門番さんはサハラさんとの会話をそこで一度止めて、今度はララの近くに寄ってサハラさんに聞こえない位の小声で話か始めました。


「なあ、もし何かあったら俺達を呼べよ。 いつでも全員で駆けつけるからよ」


 と、かなり真面目な顔で言い放ちました。 なので冗談では無いのでしょうけど……。


「ありがとう助かるわ。 でも、そんな事して門は大丈夫なの?」


「大丈夫だ、いざとなったら門なんて閉じときゃ良いんだよ。 それより俺らのサハラちゃんに何かあったらもうこの先生きてけないぜ」



 ここの所毎日の様にサハラさんは来ていたし、いつも目に見える位置に居るし、最近は門の近くでお昼を一緒に食べてたりしたので門番さん達は全員完全に情が移っちゃってるのですね。

 でも、門勝手に閉めてほっぽり出しちゃダメだと思います。





 なおも名残惜しそうにする門番さん達とも別れていざ草原に向けて出発します。

 またサハラさんとララは二人っきりになったので〈とは言っても町の近くなのでちらほら周りに人は居ますけどね〉さっきまでの話の続きを話しはじめます。


「でね、このウサギは前に立つと頭突きしてくるからね。 あ、それと後ろに立つと蹴られちゃうから気をつけてね。 それから走る時は転ろけないように気をつけて。 後、ナイフを使う時はしっかり持って、自分を切っちゃわない様にね。 それからそれからー…」



「そんなに心配しなくても大丈夫だよ~、こう見えても僕はナイフの扱いが上手いのです!」

リンゴとかしか切ったこと無いけどね。でもリンゴの桂剥き出来たし上手いはずです)


※注:皮の厚ささえ気にしなければ案外簡単に誰でも出来ます。



 自信満々で言い切るサハラさんだったけど、朝1で指切ってたので全然説得力が無いですね。

 結局サハラさんは狩り場に付くまでずっとララにあれやこれやと心配事を聞かされるのでした。







※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



門番A「おい、今日はサハラちゃん草原まで行くってよ」


門番B「ほんとか!? 大丈夫なのかよ」


門番C「って事は昨日に引き続き今日も愛めでられないのかよ……」


門番D「そんな事よりさ……農民に聞いた話なんだけどよ。 最近草原には野良犬が出るらしいぞ」


ABC「まじかよ!?」


A「あ、おれそう言えば草原に用事思い出したからちょっと行ってくるわ」


B「そういえば俺も自分が実はレンジャーだったの思い出したわ。 ちょっと草原のパトロール行ってくるな」


C「草原に用事ってなんだよ! てかお前はレンジャーなんてめんどくせーからなりたくねぇって言ってただろ!」


D「あー、心配だな-」


ABC「だなー」




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