第19話 楽しみな武器屋とがっかりな現実
――――二人で外食した日から十日経ちました。
その間サハラさんは毎日クエストを頑張っています。
最近では一日に三つもこなす様になっている程です。
そんな状況の中、ララはとある酒場の片隅で果実酒を片手に悩んでいました。
この調子で行くとサハラさんの冒険者ランクはあと数日で上がってしまいます。
そうなればサハラさんは当然もっと頑張ろうとしてしまうでしょう。
(それ自体は良い……良いのだけど……)
ララは頭を抱えながら一人もんもんと悩み続け、時折果実酒を乱暴にあおります。
「あーもー、困ったわ! このまま魔物の討伐に行きたいとか言い出したらどうしましょう」
そう呟いて、そしてまた悩み出してしまいます。
と、そんな時、不意に後ろから声を掛ける人物がいました。
「よう。 こんな所で会うなんて珍しいな」
ララはその声に振り返って見てみると、そこにはエリックが普通の町人風の服装で立っていました。 どうやら今日の仕事はもうお終いの様です。
「……そう言う貴方こそ一人なんて珍しいわね」
少し見回してみてもいつも一緒に居るチャスの姿は見当たりません。
「ああ、たまにはな。 ……で、何か悩んでたみたいだが、言ってみろよ。 元パーティーメンバーのよしみでそれ位力になるぜ?」
エリックはララの隣の席に座りながら、そう促しました。
エリックのこの提案にララはここ数日悩みすぎて寝不足になっている程だったので相談に乗って貰う事にしました。
でも、サハラさんに出会う前のララだったら例えどんなに悩んで居たとしても、人族に悩みを聞いて貰うなんて事はしなかった筈なのですが、そこはララ本人も含めて二人とも気が付かなかったのでした。
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(―――そ、そいつはおまえさん。過保護過ぎやしませんかい?)
一時間にわたってララが必死になって伝えてくる相談内容〈五分の四はサハラさんの可愛さ自慢〉を聞いたエリックの第一印象がこれです。
(ララエルってクールで何でも飄々とこなしちまうイメージだったが、これじゃただのシスコンだなー)
とか思いつつも、エリックは一応真面目に答えてあげる事にしました。
「まあお前さんがあのお嬢様を大切にする気持ちは分かった。 だがな、本人が色々やりたがってるってのに無理矢理押さえつけてまでやらせないってのはどうなんだ?」
「!!? ぅぅ、む……無理に押さえつけるつもりじゃ……それに魔物と戦ってサハラが怪我しちゃったらどうするのよ!?」
ララはエリックに思いも寄らない事を言われて焦ってしまいます。
考えて見れば確かにエリックの言う通りなのかもしれません。
(元々サハラは最初から色んな所に行ってみたいって言っていたし、そうで無くても好奇心旺盛だから結局の所いつかは魔物との戦闘も避けては通れない……のかもしれない……わね……)
そこまで考えてララはさら悩みが深くなってしまい青い顔になってしまいます。
「まあ落ち着けよ。 何もいきなり討伐依頼をやる必要はねえだろ。 とりあえず近場で安全な狩猟依頼辺りとかやって見りゃ良いんじゃねえかな」
ポリポリと頭を掻きながらエリックはそんな当たり障りの無い事を答えます。
(そういや、確かララエルもエルフ族にしてはめちゃめちゃ若いんだったな。 つったって俺の何倍も生きてる筈なんだがなぁ……)
「狩猟依頼ですか。 そうね、それ位なら……」
「それに慣れてきてDランクが見えてきた辺りでパーティーでも組んでだんだん遠出してけば良いんじゃねえかね」
(すげー気長なやり方だけどよ。 普通はまず先にパーティー組んでさっさと慣れて討伐行っちまうからなぁ)
「……分かったわ、とりあえずはFランクの狩猟依頼辺りね」
納得したのか、ララは右手を握りしめて何かを決意したかの様に呟きます。
「ってかよ、あのお嬢様って間違い無く後衛だろ? だったら前衛がヘタレじゃなきゃそうそう怪我なんてしねぇだろ」
「そうかしら?」
「俺とチャスとお前さんで守ってた馬車は傷付いてたか? 大丈夫だっただろ。 ま、そう言うこったからお前さんら二人とも俺達のパーティーに来いよ。 そうすりゃ全部解決じゃねえか」
事実エリックとチャスは前衛としてそこそこの実力者だったりします。
そして彼らのパーティーには後衛が致命的に足りて居ません。
なので二人が入ってくれれば〈主にララが帰ってきてくれればと思ってるだけですが〉出来る仕事が飛躍的に増えるので結構本気で誘っています。
ですが……
「それは遠慮しておくわ」
と、ララは即答で断りの返事をします。
「一応理由を聞いても良いかい?」
「サハラには出来るだけ町の近くで平和にすごして貰いたいもの、貴方達の様な上を目指す人達とは組めないわ」
「そうか、そう言う事なら仕方無いな。 にしても、悩めるお姉ちゃんは大変だな。 いや、むしろお母さんって言った方があってんのかね」
エリックとしては、わりと上手く行くんじゃ無いかと思った勧誘も失敗に終わったので肩をすくめて呟きました。
「ふふ、褒めてもダメな物はダメですよ?」
そう言ってララは嬉しそうに笑います。
「そいつは残念」
(どこが褒めた事になったのかさっぱり分からないけどな!)
その後は機嫌も良くなってお酒も回ったララが、サハラさんに貰った櫛自慢を延々と二時間以上も続けたのでした。
◆◇◆◇◆
翌朝、早速ララはサハラさんに提案します。
「サハラ、今日は依頼をお休みして買い物に行きましょう」
「え、買い物ですか? 良いですね~、行きましょう!」
サハラさんは帽子もかぶって準備万端で返事をします。
「ところで何買いに行くの?」
「そろそろ狩猟依頼とかも良いんじゃないかなって思ってね、だからサハラでも扱える武器を買いに行こうかと」
「武器……お~、武器!」
(武器! 良いですね! 武器に惹かれない冒険者は居ないですよね!?)
…………いえ、惹かれない人も一杯居るんでしょうけど。
「って訳で近場の武器屋に行ってみましょう」
「うんうん、いこ~」
(そう言えばこないだは結局武器屋に行く前に道に迷っちゃったから行けなかったんだよね。 楽しみです)
・・・・・・・・・
で、一番近くの武器屋にさっそく来ました。
小さめのスーパー位はありそうな店の店内には所狭しと武器が並べられていて、それを見ているお客さん達が居ました。
「お~~、剣だ~弓だ~。 凄いです広いです格好良いです! 思ったより大きなお店です。 色んな武器があるんだね。 それに中古の武器も売ってるんだ」
案の定、大はしゃぎでサハラさんはうろちょろキョロキョロします。
その姿にララは
(サハラは初めて行く所は絶対はしゃぐわね。 今度商業区の衣料品店にでも連れてってあげようかしら)
と思うのでした。
「じゃあ、サハラ。 まずはこの辺りの武器を持ってみて。 足の上に落とさない様に気をつけてね」
言いながらララが指さしたのは丁度ショートソードとナイフの中間みたいな剣でした。
主に魔法使いが敵に近づかれた時の護身用に携帯する為に作られた物で、非力でも扱いやすくなっている武器です。
「は~い、よっと~。 ……思ったより重いです」
サハラさんは両手でしっかり持って持ち上げているので、けっして軽く扱ってる様には見えません。
(……え? それって一キロも無いんだけど……もしかしてサハラってびっくりす程力無いのかな?)
「ちょっとサハラ、今度はその大きな剣を持ってもらえる?」
ララは近場にあった剣士用のしっかりとした剣を指さします。
「はいです。 よっこいしょ~!」
サハラは剣の鞘、重心の位置を持って「む~」っと気合いを入れてやっと持ち上げています。
そこを持ってやっとじゃ柄を持ったら絶対に持ち上げられそうもありません。
(そ、それも六キロ位しか無いはずなんだけどなぁー……さすがお嬢様育ちね……どうしましょう)
実際問題サハラさんはこの世界基準で言えば見た目も力も七歳児程度なのです。
そんな子が金属の塊である武器を持とうって言うのには元々無理があるのです。
ララは自分の予想より数段以上非力だったサハラさんに途方に暮れてしまいます。
すると見るに見かねた武器屋の店主さんが話しかけて来てくれました。
ちなみにドワーフみたいな立派な髭面をしています。 ですが人間らしいです。
「なあ嬢ちゃん方、いったいどんな武器を探してんだい?」
店主さんは顎髭を触りながら「しょうがねえなー」って態度で近寄ってきます。
「ええ、この子が扱える武器が無いかと思って探して居る所よ」
「あん? お前さんじゃ無くてそっちの娘っ子なのか……ふぅむ、ならこの辺りで良いんじゃねえか?」
髭店主さんは最初にサハラさんが持ったのと同じ様な武器を手に取ります。
「いえ、それだと重すぎるのです。 出来ればもっと軽い武器が欲しいのだけれど」
ララが困り顔で髭店主さんに言います。
「あぁん? じゃあしょうがねえな、それより軽いのはナイフしかねえぞ」
そう言いながらも髭店主さんは二人をナイフのコーナーまで案内してくれました。
「あー、この中で一番軽いのは。これだな」
今度は分類で言うと、たぶんダガーになると思われる大型のナイフを取り出してきました。
「これなら何とかなりそう!」
さっきまでの本格的な武器と違って小さいのでサハラさんも扱えそうな気がしてきます。
「嬢ちゃん、手に持って何回か振ってみな」
「は、はい。 えい! やあ! とう!」
サハラさんは何回かそれっぽく振ってみるのですが、あっという間に疲労で手が伸びきらなくなってしまいました。
「ダメだなこりゃ。 なぁエルフの姉ちゃんよ。 どんな事情があんのか知らねぇが、こんな年端もいかねえ娘っ子に武器持たせんのは無理があるんじゃねえのか?」
「う、それを言われると……やっぱりそうよね……」
「ちょっとちょっと~、僕は十三歳ですよ! 年端も行かないって程幼くは無いのですよ~」
せっかくララが新しいクエストを受けさせてくれそうだったのに、それを撤回されそうな雰囲気になってきたのでサハラさんは慌てて主張します。
「な、なんだって!? 信じられん……」
「そうですよね」
髭店主さんがかなり驚いてサハラさんをまじまじと見つめます。 その横で何故かララが相づち打ってるのがサハラさん的には凄く気になりますが、とりあえずそれは置いておいて髭店主さんにさらに軽い武器をお願いします。
「って事でもっともっと軽い武器が欲しいのです」
「いや、これ以上軽い武器なんてねえな。 お前さんの力で扱えんのは道具屋で売ってるナイフくれぇだろうな」
「ぎゃーす! それって武器じゃ無くて日用品ですよね?」
「だな」
髭店主さんもお手上げだと手を振ってサハラさん達に答えます。
「む~む~……」
「ま、まあサハラ、ようは使えれば良いんですから。 ……元気だして?」
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使える武器が無いんじゃしょうがないので「もうちょっと成長したらまた来いよ」と失礼発言をする髭店主さんに別れを告げて武器屋を後にする事にします。
サハラさんの初めての武器屋デビューは完全に失敗に終わりました。
◇おまけ◇
酒場での会話集
ララ「これがサハラに貰った櫛です!」
エリ「へー」
ララ「いいでしょー、あげませんからね!」
エリ「いらねえし」
ララ「な……なんですって? この櫛の価値が分らないなんて……なんて寂しい人なの」
エリ「じゃあくれ」
ララ「あげるわけないじゃないですか! なんて厚かましいの!」
エリ「どうすりゃいいんだ…………」
エリ(ララエルって酔っ払うとめんどくさいんだな…………)




