第13話 脱退、そしてララエルさんの苦悩
夜、サハラさんが寝付いたのを確認してからララは静かに部屋を出ます。
ずいぶんと疲れているのか良く眠っている様でした。
廊下に出て、すぐ隣の部屋に行きドアをノックして暫く待ちます。
でも返事がありません。
ララは(たぶん酒場ね)と予想してそちらに行って見る事にします。
行き先は宿を出てすぐにある安酒場。
宿の一階の食堂は夜七時には閉めてしまうので、それ以降に飲み食いしたい人は外の酒場に行くのです。
宿を出て数軒歩いた所が酒場なので、たぶんそこだろうと思い向かいます。
酒場に近づくといつも通りの喧騒が聞こえてきて(やっぱり慣れないな)と思いつつ中に入ります。
今日も今日でいつも通り酔っ払い達が無遠慮な視線と言葉をぶつけて来ますが、無視して店内を見回します。
すぐに目的の人が見つかったのでそちらに向かい歩き出します。
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「よう、来たか。 あの子は?」
ララが向かった先では昨日と同じ様に今日もエリックとチャスが二人で飲んでいます。
「寝たわ。 ちょっと貴方達に話があったから私だけきたのよ」
「そうか。 ま、大体予想出来るが……何の話だ?」
エリックは持っていたジョッキを置いて真面目な顔でララの方へ向き直ります。
そんなエリックに対してララは真っ直ぐに目を見て言いました。
「私、このパーティーを抜けるわ」
「ララエルっち! それは……」
チャスが何か言おうとして尻すぼみになってしまいます。
エリックも無言でララを見返しています。
「突然でごめんなさい、だけど私にはやりたい事が……いいえ、やらなければならない事が見つかってしまったのよ」
ララはエリックが知る限りでは、いつになく真剣に話しています。
「……それは、あの子の面倒を見る事か?」
「ええ、そうよ。 何故だか分からないけど放っておけないのよ」
そうか、とエリックは一応答えますがいまいち納得出来ません。
「なあ、別にララエルが抜けなくてもあの子をこのパーティーに入れれば良いんじゃ無いのか? あの子は神聖魔法が使えるんだろう?」
「そう言えばそうっすよ! それはナイスっすよ兄貴」
チャスが意外と乗り気で相槌を打ちます。
「それは無理ね。 サハラはたぶん戦いを知らないわ。 それ所か町の外の……ううん、たぶん町の中の危険すら全然理解していないわ」
「そうか」
エリックとしては、神聖魔法があればPTランクが上がりやすいし、そうすればいずれダンジョン探索も出来る様になるので結構良い案な気もしたのですが、無理に連れて行って死なれても困るのでそれは諦める事にしました。
「まあ、抜けると言うのを止める事は出来ないしな。 分かったよ」
渋々と言った感じですがエリックはララの脱退を認めました。
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でも、実はこの世界のパーティーとはそんなに気楽に組んだり別れたりする物では無かったりするのです。
と言うのもPTとは組んでからある程度実績を積まないとPTランクが上がらないので、そう頻繁にメンバーは入れ替えなかったりします。
にも関わらず今回簡単にエリックが認めた理由の一つにはこのPTが比較的新しくて今解散した所であんまり影響が無いって所もあります。
※
「残念っすよ。 実はララエルっちが居るだけで他のパーティーからは羨望の眼差しだったんすよ?」
あいつらのパーティーには美人なエルフが居るってね。と、チャスが場を明るくするよう冗談めかして言ってくれます。
「ララエル、パーティーから抜けたからって縁が完全に切れる訳じゃ無い。 困った事があったら力になるから遠慮すんなよ」
エリックは最後にそう一言付け足しました。
「ありがとう」
ララもサハラさん以外に対しては珍しく、笑顔でお礼を言い、別れました。
◆◇◆◇◆
それから九日が経ちました。
その間毎日サハラさんはララに見守られながら、日に一つか二つの依頼をこなしていました。
受けている依頼は相変わらず近場のお使いだけだったりします。
ララがなかなかそれ以外の依頼を許可してくれないので受けられないのです。
しかもアドニスさんとも結託しているので手に負えません。
(む~、僕だって冒険したいのに~!)
でも、その甲斐あってかギルドへお使いクエストを依頼する人達にはサハラさんはすでに有名人になってます。
依頼の達成報告には誰が依頼を遂行したのかって情報も入っているのです。
今まではほぼ誰もこんなお使いクエストは受けてもらえませんでした。 良くて何かのついでにやってきてくれる位です。
しかし最近になって突然殆どの依頼が達成されるようになりました。
しかも毎回同じ名前の人。
どんな人なのかギルドの職員に聞いてみれば、女エルフに連れられた幼い人間の女の子と言うではありませんか。
もう皆興味津々です。 是非一度会ってみたいと大盛り上がりで、その界隈ではサハラさんは今話題の中心になっているのでした。
それに、実は依頼を受けてくれて凄く助かったという人達が一杯居るのです。
必要だけど自分では取りに行けません。
なので依頼を出したのに全然誰も取ってきてくれません……。
正直頼んだ物が無いと商売あがったりだった所なので凄く皆の印象に残ったのでした。
ところで何でそんなに誰も依頼を受けてくれないのかと言うと、その最大の理由は報酬が安すぎるからなのです。
それじゃあ何でそんなに安い報酬なのかと言うと、これは何も別に依頼者が皆してケチったと言う訳ではありません。
お使いクエストは主にギルドの下っ端や新人の職員が町中の店や工房などへ営業に出掛けて取ってくるのですが、この下っ端達が主な原因だったりします。
何故かと言うと、獲得依頼数という営業成績を稼いで査定アップを企む人達がお客さんから依頼を取りやすい様に通常より安い依頼料を提案して居たりするのです。
しかもその時に本来必要な依頼料の内訳を説明していません。
ですから依頼者は自分が払ったお金がどのようにして冒険者の元に渡っているのか分かっていないのです。
本来『○○を取ってくる』系の依頼はクエストランクの割には依頼料が高くなる物なのですけど、そう言う基本的な事も説明していません。
依頼の報酬は、依頼者がギルドへ払う時に元金から一割、ギルドが冒険者に渡す時にもさらに元金から一割引かれます。
要するに依頼した時点で二割が手数料で取られる事は確定しているのですね。
そして取ってくる系の依頼は、冒険者がギルドへ持ってきた依頼品をギルドの配達員が依頼者の所まで配達する費用まで掛かります。
ちなみに本来これは依頼料とは別会計なのですが、この手続きも端折られてます。
その結果、依頼料から配送費が引かれる事になって、冒険者へ渡る最終的な報酬額は子供のお小遣い程度になってしまっているのです。
初日にサハラさんが受けた銅貨三枚の依頼を例に取ってみると、これは実は依頼者は銅貨三十枚払っています。
依頼の時点で三十枚から一割の手数料で二十七枚減ります。
そこからサハラさんに渡す時にもう一回一割の手数料を取られるので二十四枚になります。
ですのでこの二十四枚が本来ならサハラさんへの予定報酬額なのですが……結局サハラさんが受取ったのは三枚……。
残り二十一枚は何処に行ったのかと言うと、ここでびっくりなのが配達費用!
その費用が配達する距離や荷物の状態から計算すると、なんと銅貨二十一枚と言う事になるのです!
大人は汚い!
こんな感じの内訳を説明して居なかったので、結果的に冒険者に渡る金額は子供のお小遣い程度になっていたのでした。
因みに銅貨三枚がどの位の価値かと言いますと、初日に宿屋で食べたしょっぱいご飯代と同じです。 あの宿屋の食事が大体日本円で八百~千円前後の物ですので、銅貨一枚は三百円程度って事になります。
もの凄く世知辛いです。
実際に町の外まで行って汗水流して取ってきたサハラさんよりも、町の中で荷物配ってる配達員のが費用が高いって…………。
なので、毎日朝から夕方まで働いてもサハラさんの稼ぎは銅貨三~十五枚位にしかなりません。
そう言う訳で実は毎日大赤字です!
ララエルさんはサハラさんを見守ってるだけなので依頼を受けていませんしね。
しかもララはサハラさんにベタ甘なのでサハラさんからあんまり生活費は貰っていません。
毎日銅貨五~六枚位です。
どうして微妙に貰っているのかと言いますと、これはサハラさんがララに金銭的に迷惑を掛けてると思わない様にとララが気を遣った結果なのでした。
でも、以前にもちょろっと話に出ましたが、基本的にエルフ族というのはお金に全然執着しないのです。 ですのでララエルさんが今までに稼いだお金は大体全部使い切っちゃっています。
ようするに……家計はもはや破綻寸前と言う事なのです!
※ ※ ※ ※ ※ ※
……………………十日目の朝、今日は運命の分かれ道です。
「……どうするべきかしら」
まだ日も昇らない内からララエルさんは薄暗い部屋の中で自分のお財布の中身を見て悩んでいます。
お財布の中に入っているのは銅貨が十七枚(五千円位の価値)だけ……正直いって今ならサハラさんの方がお金持ちです。
ララは隣のベッドで静かな寝息を立てているサハラさんを見ます。
こんなに自分を信頼して安心しているサハラさんに「実はお金が無いんです」なんて言えないし、言いたくない。
言わない為には稼ぐしかありません。
「でも、その為には暫くサハラを一人にしなければいけないのよね……」
ララエルさんが手っ取り早くお金を稼ぐ為には、DかCランクの依頼を受ければ良いのですが、当然そのランクの依頼は危険が大きいのです。
そしてララとしては、そんな危険な所にサハラさんを連れて行く訳には行かないのです!
かと言って自分だけで行ったらサハラさんが一人になっちゃうのが困る所。
「…………」
そのまま答えを出せずに悩み続けます。
気が付いたら窓の外が明るくなってきていました。
「ぅぅ~、草が見つかりませ………zzz」
不意にサハラさんがなにやら寝言を言いながら、丁度ララの方に寝返りをうって顔を向けました。
「……ふふ、平和そうな顔ね」
(寝顔も可愛い……。 よーし、決めたわ!)
そしてついにララは決断したのでした。
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その後、朝になって起きてきたサハラさんと一緒に朝食を食べて、部屋に戻って一段落した頃、ララは切り出します。
「ねえ、サハラ。 今日は私、少し用事があって出掛けなきゃならないの。 一日か……もしかしたら二日くらい掛かるかもしれないわ」
(ええ、そうよ。 お金がないなんて言わないわ!)
「そうなんだ~。 エリックさん達と依頼に行ってくるの?」
「ふぇ? え……うん! そうよ、あの二人の手伝いをして来るのよ。 でね、そういう事だから今日は依頼はお休みって事で……ね?」
ナイスな事にサハラさんが勘違いをしてくれたので、ララはすかさずその勘違いを使わせて貰う事にしました。
「あれれ? 僕は一人でも薬草取りくらいなら大丈夫だよ~」
(どうせ町の外に行くって言っても門番さんが見える位置までしか行かないですからね~)
「だめよ! 一人じゃ危な……じゃ無くて……えっとね。 そう! そうよ。 たまにはサハラもお休みが必要よ! 今日一日のんびりして、それで明日からまた一緒に頑張りましょう! ね?」
(やる気になってるサハラには可哀相だけど、一人で出掛けて何かあったら困るものね)
「えぅ……う、うん。 わかりました」
サハラさんはララの必死さに気圧されてついついそう答えてしまいました。
「良かったわ。 じゃあそう言う事だから出掛けて来るわね。 あ、ご飯代はここに置いておくからね。 一応明日の昼ご飯代まで置いておくけど、今日の夕飯までには帰ってくる予定よ。 でも、もしお腹空いたら先に食べててね。 それからそれから――」
「も~、大丈夫ですってば~。 僕の事よりララこそ怪我には気をつけてよね」
次から次へとあれやこれや色々世話を焼くララにサハラさんは苦笑いしつつ返事をします。
「そうね。 うん、気をつける。 ……じゃあ行ってくるわね!」
そう言ってララはやっと出掛けて行きました。
その時に、ララが久しぶりに弓矢と細剣まで引っ張り出して装備して行ったのがサハラさんは少しだけ気になったのでした。




