第12話 初報酬と宿屋
夕方になり初夏の日差しも和らいできた頃、ようやくギルドに帰って来られました。
でもこの時間帯はかなり混むらしくてカウンターはどこも人だかりが出来ています。
「混んでるわね。 ちょっと待つ?」
「うん、そうしよう」
あんまり混んでる所に割って入るのもあれなので空くまで待つ事にします。
《別に怖面のむさい人達の中に入るのが怖かったとかじゃ無いのです。 無いんです》
ただぼーっとしてるのも辛いので、暇つぶしにサハラさんは壁に貼ってあるニュースをララに読んで貰います。
「えぇと、これは南の方にある高い山に住んでる古代竜が活動期に入ったからB級未満の冒険者は付近への立ち入りは禁止、山が見える様な位置に居る人は十分注意するようにって書いてあるわ。 二ヶ月前の記事ね」
「へぇ~、ドラゴン居るんだ! 格好良さそう、会えないかな~?」
(この世界ってやっぱりドラゴンとか居るんですね! 是非見に行かないとね)
「あ……会う? それは止めた方が良いと思うわ……。 たぶん会った時って死んじゃう時だよ」
ちょっと冷や汗を浮かべながらララが止めます。
基本的にドラゴンは人と言うものがあまり好きでは無いらしいのです。 例えそれがエルフだろうとドワーフだろうとね。
残念です。
他にも『○○のCランクPTが新しい迷宮を見つけた』とか『△△の冒険者がBランク試験に受かった』とか色々掲示されていました。
そうこうしてたらカウンターが空きだしたのでさっそくアドニスさんの所に向かいます。
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「おー、嬢ちゃん終わったか」
サハラさん達の顔を見るなりアドニスさんはそう言ってくれます。
なのでそれに――
「はい、なんとか集まりました~。 これ依頼の品です」
と、答えながら取ってきた薬草を手渡します。
ちなみにサハラさん、現地に行って薬草がある程度集まるまで全然気が付かなかったのですが、実は手ぶらで行ってたので集めた物を入れる袋も何も持ってませんでした。
でもそこはやっぱりララエルさん、ちゃんと冒険者の嗜みとして採取袋を持っていました。
ですのでその袋毎アドニスさんに渡しちゃいます。 だって草で五キロって言うと、びっくりする程かさばるんですもの……。
「…………よし、問題は無いな。 これが約束の報酬だ」
そう言ってアドニスさんは銅貨を三枚渡してくれました。
「ありがとうございます! ふふふふふふ……やりました、初報酬です!」
(やっぱり労働の対価として貰うお金は尊いですよね! でも、銅貨三枚ってどれ位の価値があるのか全然わかんないんですけどね)
「良かったわね。 このぶんなら百年かからずにBランクになるのも夢じゃないわね」
と、ララも自分の事の様にサハラさんと一緒に喜びます。
「百年……ね。 まあそれはさておき、一つアドバイスをすると、薬草に限らず植物を取る時はな、出来るだけ根を傷付けずに、さらに言えば土ごと取ってくると例え依頼に書かれて無かったとしても高評価になりやすいから覚えておいて損はねえぞ。 ま、面倒だしかさばるから場合に寄りけりだけどな」
「お~、そうなんですね~。 覚えておきます!」
こんな風にアドバイスしてくれるって事は、やっぱりアドニスさんは見た目と違って凄く親切な人みたいです。
「それとライセンスも完成してるぞ。 ほれ、これだ」
そう言いながらアドニスさんは真っ白い色をしたクレジットカードサイズの金属板を渡してくれました。
チェーン付きで首に掛けられるようになっています。
ララのと見比べて見ると、ララのは深緑色でカードに二本の銀色の線が入っていました。
色は適性検査の結果で、特定の色が濃ければ濃い程その属性への適性が高いらしいです。
線はランクを示していると教えてくれました。 ゼロ本から始まってランクが上がる毎に一本増えるみたいです。
ちなみに今までどんな脳筋戦士でも真っ白は無かったそうです。
完全に真っ白なカードはたぶん嬢ちゃんが初めてだから自慢出来るぞと言っていました。
(ふふふ、騙されないですよ? だって真っ白は無適性って意味じゃないですか!)
他にもカードには名前と種族と性別、それと登録支部名が書かれています。 身分証明する為の物ですからね。
「真っ白……ね。 うん、大丈夫……何とかなるわ……」
ララが耳を力無く垂らして呟きます。
(って言うか止めて下さい! それ本気で凹みますから……)
「そうだった、一つ注意があるんだがそのカード無くすと再発行は有料だぞ。 四回目辺りまでは安いけどな」
再発行は一回ずつ再発行料の桁が増えていくらしいです。
例え一回目の代金が銅貨一枚だったとしても、八回とか九回無くしたらもう現実的に払えるような金額じゃあ無くなっちゃいますね。
※例:一回目、銅貨一枚・二回目、銅貨十枚・三回目、銅貨百枚・こんな感じです※
これで今日の用件は全部終わったので、又来ますと伝えて二人は町に出ました。
実を言うとギルドに入ってからと言う物、二人はかなり注目を集めていたのですが、今回サハラさんはその事に気が付きませんでした。
と言うのも、ただでさえ女の冒険者は珍しいのに、ララエルさんは滅多に見掛けないエルフで、しかもすっごい美人さん。
しかもその美人な女エルフに連れられた人間の少女まで居るのです。
それはもう皆の興味を嫌が応にもかき立ててたりします。 男女問わずにね。
◆◇◆◇◆
「じゃあとりあえず宿を決めましょうか」
今度の所は二人で泊まれてー、長期滞在出来て-、鍵が付いててー、とララが指折り条件を数えています。
今日サハラさんが泊ってた宿は冒険者向けじゃないので、武器の持ち込みが出来なかったり〈杖は武器かどうかグレー扱いなので大丈夫だったみたいです〉値段が高かったりしてちょっと不便だったのです。
「そうねぇ……。 ま、エリック達の泊ってる宿でいいか」
そう言ってララはギルドからすぐ近くの、歩いて二~三分の位置にある一般的な冒険者向けの宿屋に向かいます。
一階が食堂で、二階以上が宿屋になってるタイプの所です。
ララ自身も昨日と一昨日の二日間泊まったのですけど、これと言って不満も無かったのでまあ良しとしました。
(でも、ご飯はあんまり美味しく無いのよね)
サハラさんのペースで歩いてもすぐに着いたのでララは冒険者向けのシンボルであるウエスタンドアを押し開けて店に入りました。
すると丁度エリックさん達が夕飯を食べてる所に出会いました。
「おー、ララエル。 今日もお嬢様の所に行ってたのか? っておい! 何で一緒に連れてきてるんだよ」
エリックはララの影に居るサハラに一瞬遅れて気が付きました。 と同時に少し嫌な予感を感じます。
「あらエリック、丁度良かったわ。 サハラ、二人を紹介するわね。 あの銀髪がエリック、そっちの赤髪の小さいのがチャスね。 で二人にも一応言っておくと、この子はサハラよ」
ララが双方に紹介します。
サハラさんは咄嗟に服の埃などを払って身嗜みを整えて、手を体の前で重ねてお辞儀します。 〈所謂敬礼っていう挨拶の仕方ですね〉
「初めまして、サハラです。 宜しくお願いします」
「……あ、ああ。 エリックだ、よろしくな」
「小さいは余計っすよ。 よろしくっす」
三人の挨拶が終わったのを見計らってララエルさんが――
「先に部屋を取ってくるからサハラはここで待っててね」
と店主の所へささっと行ってしまいました。
サハラさんとしては話した事無い人の所に一人で置いてかれて割と緊張してたりします。
(ララエルさん、初対面の人達といきなり一緒にされても意外と心細いですよ!?)
しばし無言。
無言空間にいたたまれなくなってきて落ち着かないのでサハラさんは髪の毛を指でくるくるしてみます。
(ど、どうしよう。 何か喋った方が良いのかな?)なんて悩み出した頃にエリックさんが徐ろに――
「……まあ座んなよ」
と、やっと椅子を勧めてくれました。
「はい、どうもです」
サハラさんはありがたく座らせて貰います。
「………………」
「………………」
「………………」
しかしそれだけで会話起こらず……。
(む、無言は辛いです)
「え~と……そうだ。 お二人とも冒険者なんですよね?」
「ん? ああ、そうだよ」
結局サハラさんは無言に耐えられなくなったので当たり障りの無い話題を振ってみたのですが、それだけしか答えてくれませんでした。
「あ、お二人もここに泊まってるんですか?」
「ああ、そうだよ」
「………………」
「………………」
(……ぅぅぅ、会話が続きません)
どうやらエリックさんは何か考え事をしてて上の空らしくていまいち話になりません。
それにチャスさんはチャスさんでサハラさんの事を値踏みする様な視線を向けて来るので話し辛いのです。
(う~、居心地悪いです~)
結局その後もサハラさんは会話らしい会話も出来無いままララが帰ってくるのを待ちました。
暫くしてララが店員の元から歩いて来るのが見えます。
「サハラ、部屋が取れたから行きましょう」
「うん、それじゃあ失礼しますね」
そう言ってお辞儀をしたら、エリックさんは「ああ」と言って、チャスさんは手を振って返事をしてくれました。
それからサハラさんはとととっとララの元に駆け寄って一緒に二階に上がって行きました。
・・・・・
そしてララとサハラさんが居なくなってからエリック達は――
「なあチャス、どう思う?」
「あの子の事っすか? 起きてると意外と可愛いっすね。 それと育ちは結構良さそうっすよね」
「たしかに最初の印象より可愛いな。 服派手だけどな」
「ララエルっちの事なら……たぶん兄貴の想像通りだと思うっすよ」
「だよなぁ。 どうすっかなー」
何とも困った事になりそうだ、とエリックは頭を掻きながら悩むのでした。
・・・・・
「ここが今日から使う部屋よ。 元々私が二日前から借りてるんだけどね。 ちょっと追加料金払えば二人で使っても良いって言うからそうして貰ったのよ」
「そうなんですか」
「そっち側のベットとかタンスを好きにつかってね。 あと洗濯物はそこの箱に入れて置いてね。 後で洗っておくから」
ララは必要そうな事を説明すると同時にテキパキと荷物を片付けてくつろぎ出しました。
サハラさんも急いで言われた側に荷物を片付けます。 と言っても杖と帽子位しか片付ける物無いんですけどね。
ついでにサハラさんは靴も脱いだのだけど、それを見ていたララが凄く不思議そうな顔をしたので、靴の中に小石が入っちゃってた振りをして履き直しました。
(この国って部屋の中でも靴脱がないんだね……)
「さて、今日はお疲れ様」
「はい~、お疲れ様でした~」
「とりあえず暫くはこんな感じで仕事に慣れて行けば良いわ。 そうすればすぐにEランクに上がるはずだしね」
むしろ上がっちゃったら危ない仕事が増えちゃうけどどうしようか? なんてララは心の中で思ってたりするのですが……。
「そうなんですか~、わかりました。 頑張ります」
(ふむふむ、とりあえずランクあげないとね。 きっとランクが上がれば儲かる仕事もあるだろうし頑張りましょう)
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それから夕飯を食堂に食べに行って〈エリックさん達はすでに居ませんでした〉部屋に戻ってきたら眠くなったので寝る事にしました。
幸いな事にサハラさんはすっごく眠かったので、色々な不安も感じる暇も無く寝付く事が出来ました。
余談になりますが――
夕飯のメニュー
※ ※ ※ ※
固いパン
わりと普通のササミっぽい肉
紫のスープ
蛍光ピンクの果肉のみかん
※ ※ ※ ※
ここのご飯はサハラさん的には意外と普通の味の濃さで美味しく食べられました。 何の肉か不明ですが肉も美味しく食べられましたしね。
ただし一緒に食べていたララエルさんは「ここの料理は味が薄いのよ……」と不満な様です。
そんな感じでサハラさんは暫くFランクの依頼をする事になりました。
Eランクまではすぐに上がるらしいですしね。




