第11話 ギルドの説明と初クエスト
説明をはじめる前にスキンヘッドのゴリラさん《名前はアドニスさんと言うらしい》が近くのテーブルから椅子を二つ持ってきて勧めてくれました。
街角で不意に出会ったら泣いちゃう位怖面なのに意外と良い人みたいです。
「よし、じゃあまずは何処まで知ってんのかって所だな。 冒険者のランク制の事は知ってるな?」
「ふふん、もちろん知りません!」
スキンヘッドのアドニスさんがした質問にサハラは即答で返事をします。
「なんで自信満々にしらねえんだよ!」
「すみませんがアドニスさん、この子は遠い異国育ちなので出来ましたらもっと基本的な事からお願いします」
「ちっ、しょうがねぇな。 これも乗りかかった船だ、一からきっちり教えてやらぁ」
そんなサハラさんにむしろ何故かさっきよりやる気を出してアドニスさんは腕まくりしだします。 もしかしたら世が世ならアドニスさんは小学校の先生とかやっていたのかもしれないですね。
「じゃあ冒険者ギルドってのは何の為にあるかって所からだな。 それには大きく分けて三つの意味があってだな、一つが冒険者の死亡率が高すぎたって所でその対策だな。 これは後で説明するランクとも関係してくる話だが、今でも危険な仕事なのは変わらねえが、昔は依頼の難易度とか個人の主観で決めてて適当だったからまあ良く死んだんだ。 だからその辺りのルールを含めて依頼や冒険者をギルドで一括管理して死亡率下げようって事なんだよ。
二つ目は依頼を出す方法を簡単にして出す方受ける方双方に取って楽にして便利にしようって事だな。 遙か昔は依頼の出し方って言やあその辺で適当に声を掛けるか道ばたの掲示板に張り出すとかだったらしいからな。 依頼主も請負者側も真っ当な人間かなんて保証もねえし、これじゃあ不便でしょうがねえってこった。
で、三つ目だが、これは冒険者を国から分ける為なんだ。 どう言う事かってぇとな、例えば戦争だな。 ギルド登録者は戦争に関わるいかなる事にも参加しては駄目だって事になってんだよ。 つってもこれはいくらでも抜け道があんだけどな……。
ま、もっと詳しく知りたかったらまた今度ゆっくり教えてやるよ」
「ありがとう。 その時は是非お願いします!」
「おう。 さて、次はお待ちかねの嬢ちゃん達にとって一番重要なランク分けの話をするぞ」
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アドニスさんの話によると、冒険者のランクはF~Sまでの七段階で分けられているらしいです。
その中でもFとEが一番登録人数が多くて初心者ランクと言われていて、当然の様にただのならず者やその辺の村人みたいなのばかりで評判も宜しくないです。
同じ冒険者仲間からもこのランクは「新入り」や「雑用」と呼ばれますし、一部を除いてまだ役に立つ程の実力も無いので少し距離を開けた付き合いしかしてくれません。
ただ逆にDランクからは一端の冒険者として扱われ、難易度の高い依頼も増えてくるそうです。 各町の門を出入りする時や図書館とかの公共施設を使う際の審査が簡略化されるのもこのDランクからなのです。 それだけ人々に認められる存在になったと言う事ですね。 Dランクは熟練冒険者と言われるランクです。
C~Bは上級冒険者と言われ、Cランクからはダンジョンの探索や新種の討伐や採取などの非常に危険な依頼や探索が許可されるので手練れの者が多くなってきます。 そしてBランクは普通の人が成れる最高ランクです。 と言ってもBになれるのは一握りの実力者だけで大半の人には到達出来ないランクなのだそうです。
最後にAやSなのですが、これはもう英雄的な扱いを受ける人達の事です。 Aランクになるには圧倒的な強さはもちろんの事、それと共に何か重要な発見をしたとか、国家の危機を救ったとかと言う条件が揃わないとなれないそうです。
Aになるのもほとんど不可能に近いのにSランクに至っては現在は一人しか居ないらしいです。 Sになるには何か伝説になるような偉業を成し遂げないといけないのですが、その人は倒す事が不可能と言われていた“古代竜”を一人で倒してSランクになったそうです。
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「とまあこんな感じだ。 で、ランクの上げ方なんだがーー」
最初のFからEに上がるには、何でも良いからとにかく色んな依頼を達成していれば上がるらしいです。
でもその次のDランクに上がるには試験があって、指定された内容を期間内に達成して、さらに同時にDランク以上の誰かの推薦を貰わなければなれないそうです。
DからCに上がる時も同じらしいです。
「ーーCから上は嬢ちゃんには関係ねぇだろうから端折るぜ」
「む~」
(なんだかそう言われると面白くないですね)
「私がDランクだからサハラがDに上がる時は推薦してあげるね」
ぷーっとふくれっ面になってるとララがそう言います。 ララエルさんはDランクらしいですね。
「ありがとう、早く追いつけるように頑張るね」
サハラさんは素直に頑張ろうと心に誓うのでした。
「あとは、依頼にもランクがあってなーー」
依頼にもF~Aまでランク分けがあって自分より一つ上のランクまで受けられるそうです。
ただしパーティーを組んだ場合はまた話が変わってきて、そのPTで初めて依頼を受ける時はギルド側でそのメンバーの実績を鑑みて仮のPTランクを決めてそのランクと同等の依頼なら受けれるらしいです。 ちなみにCランク三人とFランク一人ってPTだとPTランクはFの人に引きずられてかなり低くなっちゃうそうです。
で、そのPTでメンバーを変えずに何度も依頼を受けてればPTランクもどんどん上がっていって良い依頼を受けれるようになるって事らしいです。
「ーーこれで大体終りだ。 分からなかった所はあるか?」
アドニスさんが腕を組んで睨みながら聞いてきます。
……いえ、実は睨んでないかもしれないのですけど睨んでるように見えちゃうんです!
「大丈夫です。 勉強になりました、ありがとう御座います」
サハラさんはお礼と一緒に丁重にお辞儀をします。 ララも一緒に軽くお礼を言っています。
「どうも嬢ちゃんは育ちが良くていけねぇなぁ。 まあこの業界色々あるし詳しくは聞かねえがくれぐれも死に急ぐ様な真似すんじゃねえぞ」
凄く真面目な顔でアドニスさんが念を押します。 なのでサハラも真面目な顔で頷きます。 やっぱり危険が多いようですね。
「よし、後は頑張れ。 ほんとは他にも依頼書の読み方とかあるんだけどよ、嬢ちゃんが読めねえんじゃしてもしょうがねえしな」
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「で、早速依頼を受けれるがどうすんだ?」
「え、もう受けれるんですか!じゃあ受けさせて頂きます」
サハラとしてはライセンスもまだ出来てないのに依頼を受けれるなんて思ってなかったので驚きです。
でもララが心配そうな視線を向けてきます。
「そうか、じゃあ特別に嬢ちゃんが出来そうなのを選んでやる」
そういってアドニスさんはカウンターの裏からがさがさと7枚の依頼書を出してくれました。
「この辺りなら大丈夫だろう」
実はこの依頼書は内容があまりにも微妙だったので掲示板に張り出さずにしまってあった物なのです。
どんな内容かと言うと“犬の散歩をして欲しい”“砂糖を一袋買ってきて欲しい”“部屋の掃除をして欲しい”とかそう言う依頼でした。
これを誰が受理したのかアドニスさんは後でとっちめようと思って取っといたのですが世の中何が役に立つか分からない物ですね。
サハラさんは依頼書を覗く為に《どうせ読めないんですけどね》近づこうと動き掛け……それより早くララがアドニスさんを睨み付けて言います。
「ちょっと待って下さい! 私が先にチェックします。」
パラパラとめくって、すぐに三枚抜き取りーー
「これは危なすぎます。 まったく、サハラが怪我したらどうするんですか」
その内容は“犬の散歩”“薪割り”“屋根にある鳥の巣落とし”。
「サハラは犬に襲われたら負けますよ、薪割りは失敗したら斧で怪我するじゃないですか、鳥の巣落としなんて……屋根に登って落ちたらどうするんですか!」
「……あれ? ら、ララエルさん?」
(え? なんか凄い過保護過ぎないですかララエルさん。 そんなんじゃ僕何にも出来ない気がしますよ? と言うかララエルさん、貴方は僕に矢を射かけた事も有るじゃ無いですか~。 む~、でもさすがにこれはアドニスさんもおかしいと思ってくれるはずですよね)
と思ったのは甘い考えだったようでーー
「あぁ、そうだな、確かにその通りだ。 すまねぇな」
ーーアドニスさんもまさかの過保護っぷり。
「ぶふ! 二人とも心配しすぎですよ~、僕はそんなに頼りなく見えるんですか? と言うかどんな風に見てるんですか!?」
「大丈夫、サハラは可愛く見えますよ」
「幼い子供に見えるな」
サハラさんもさすがに怒って抗議したものの、二人からは微妙に関係無い返事が返ってきました。 しかも一人は失礼です!
その後、あれも駄目これも駄目と過保護に口出ししてくる二人を何とか説得して薬草取りの依頼を受けました。 当然ララも一緒に行きます。
Fランクでも受けない様な子供お使いLVの仕事にDランクがついてきてくれるのです、まず危険は無いでしょう。
◆◇◆◇◆
さっそく依頼を遂行する為に町の外に向かいます。 ついでにララに依頼内容をもう一度確認しておきます。
「えっと、取ってくる薬草はマンドレイクで五キロ必要なようね。 状態が良い物なら色を付けてくれるらしいわよ」
(色が付いても微妙な報酬だけどね……)
「なんだか凄く抜いたらまずそうな名前なんですけど…………」
「ふふ、大丈夫よ。 抜いたらまずいのはマンドラゴラの方なのよ。 抜くまではそっくりで見分け辛いんだけど間違えて抜くとすっごい叫び声あげられるわね。 あんまりにも大声なんで目の前で叫ばれると気絶しちゃったりするんだけど、そうすると他の魔物に殺されちゃうから注意が必要よ。 と言ってもこの辺には生えて無いから心配しないでね」
どうやらマンドラゴラと言うのはほんとに抜いたらまずいらしいです。 サハラさん的には冗談だったのにね……。
「群生地が南門出てすぐの原っぱだから順調に行けば夕方には終わりそうね」
最後にサハラさんは「はい」と、ララからマンドレイクの絵が描いてある紙を手渡されました。
(よ~し、がんばろっと)
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暫く歩いたら町をぐるっと囲んでる街壁に辿り着きました。
木製の……と言うよりただの丸太で出来ている壁で何だか期待外れ感があったりします。
丸太も直径三十センチ位で普通の太さだし、高さも三メートル程で至って普通です。
ララが言うには旧市街の方は石で出来た立派な壁で囲まれてるらしいんですが。この辺りは戦争も無い平和な時代に急速に広がった新市街なのであんまり壁にお金を使わなかったらしいです。
その丸太の壁の一角、門の部分だけ少し頑張ったらしくて石造りになっていました。 だけど丸太とアンバランスでむしろ格好悪く見えます。
これはがっかりです。
余談ですが、街壁を見てからすっかりしょぼくれちゃったサハラをララが密かに心配してたりします。
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外に出る為に近づくと、門の横に小さな小屋があってそこに守衛が二人詰めているのが見えます。 それと門の外にも両側に一人ずつ槍を持って立ってます。
町から出るには本当は数分は掛かる手続きがあるのだけれど、今回はDランクのララが居るからライセンスを見せるだけで通れました。
その際守衛さんから門は日の出と共に開けて日の入りと共に閉まる事になってるから注意と言われました。 閉まる少し前に教会が鐘の音で知らせてくれるから安心だそうです。
(どうせ今回は門が見える位置までしか離れないんだけどね)
◆◇◆◇◆
「さあサハラ、この辺りが群生地ですよ」
門を出て数歩歩いた所でララが両手を広げながらくるっと振り返って言いました。
「え、ここ?」
(近!! 凄い近いですよ!門出て数秒!ギルド出てからもまだ三十分位しか移動してないですよ! さっきの守衛さんが不思議そうにこっち見てますし!)
確かにこれじゃ普通の冒険者はやらないだろうな~。 報酬金額が銅貨三枚ってなってたけどもしかしたら凄く安いのかな~?
なんて考えをサハラさんは頭を振って追い出します。
〈注:銅貨三枚の価値はサハラさんが朝食べたご飯代位です〉
「よ~し、探しますか~!」
サハラさんは絵を見ながら探し始めます。 でもどんな場所に生えてるのか知らないので案外見つかりません。
一応これはサハラさんが受けた依頼って事になってるのでララは一歩後ろに下がって見守ります。
(う~ん、何処かな~? 影に生えてるのかな、それとも湿っぽい所なのかな)
その頃ララはと言うと、すでに何処にどれ位生えて居るのか把握していました。
(さすが群生地、一杯生えてるわね。 パッと見ただけで今回の依頼二~三十回分は生えてるわねぇ。 んー、サハラはやっぱり見つけられないようね……)
もう暫く頑張らせてあげよう。 そう思いララは少し離れた場所から見守る事にしました。
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「ぶ~ぶ~、群生地って言うのに全然生えて無いですよ~!」
ぶ~ぶ~言いつつもサハラさんはもう一回手近な草と見本の絵を見比べてみます。
「ん~…………あれ? この草っぽい気がする! やった、見つけました!」
やっとそれらしい草を見つけたので早速抜いてみます。 念の為耳を塞いでね。
〈片手で抜くからどう頑張っても両耳塞ぐ事は出来なかったんですけどね〉
恐る恐る、ドキドキしながら“スポッ”と良い感じの感触で抜いて暫く待ってみます。 それで何も起こらないのを確認してから、もう一度見本と根っ子まで見比べて見比べてあってるのを確認してからララに手を振って合図します。
「ララ~! ララ~! あったよ~!」
ララはマンドレイク片手に元気よくこっちに手を振ってるサハラを見て(可愛いなぁ、妹が居たらこんな感じなんだろうなぁ)なんて思いながら手を上げて答えてあげます。
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それからたっぷり四時間、途中ララが持ってきていた携帯食でお昼を食べたりしながら何とか依頼の数を揃えました。
※ ※ ※ ※
携帯食=乾パンです。
ただし栄養の為に、砂糖やら塩やら色々な物を無理矢理混ぜ込んであるからモソモソしてる上に凄い味がします。
※ ※ ※ ※
サハラさんすっかり土や草の汁で汚れてしまっています。 お金を稼ぐのって大変です。
ララは途中で何度か「手伝おうか?」と聞いたのですが、サハラさんが「もう少し一人でやらせて欲しいのです」と言ったので横で見守って居ました。
「お疲れ様、じゃあギルドに報告しに戻りましょうか」
ララは笑顔で言います。 本当によく頑張ったと感心していました。
「たぶんライセンスも出来てるから受取ったら今夜の宿を決めましょうね」
昨日までサハラが泊ってた宿は商人向けなのでギルドから少し離れて居ますし何より高いので、ララは今夜からは二人で泊まれる冒険者向けの宿を探すつもりでした。
でもサハラさんは少し暗い顔で口を開きます。 しかも今までに無く真面目な口調で。
「ララエルさん、今日は本当にありがとう。 それに今まで言いそびれてたのですけど、宿屋やご飯のお金まで出して頂いて感謝してもしきれません。 その上今夜の宿までお世話になる訳には行きませんのでどうかお気になさらずに」
そう、実はこれでもサハラさんは気にしていたのです。 ただ昨日は成り行きでついつい甘えてしまったのでした。
そんなサハラさんの言葉にララは驚きました。 そして凄く困ります。
何故ならこの二日間一緒に過ごして〈丸一日はサハラさん寝込んでましたけどね〉もうすでに途中でほっぽり出せない位にはサハラさんに情が移っていたのです。
「ちょっと待って! それじゃ今夜どうするのよ? それに私はお礼を言われる様な事はしてないわ! むしろ怪我をさせちゃった私が謝らなきゃならないのに」
そう言いつつも(サハラってこんな真面目な喋り方も出来るのね)なんてちょっと場違いな考えが頭をよぎります。
「今夜は……何処かで野宿でもするので大丈夫です」
「ば……バカ! サハラ見たいな可愛い子が野宿なんてしてたら襲って下さいって言ってる様な物よ!?」
(びっくりした、サハラはかなりの世間知らずよ! やっぱり私がついててあげないとダメね)
と、その思いを深めそしてーー
「えぇとね、良く聞いて。 私はこの二日間サハラと一緒に居て貴方の事が凄く気に入ったのよ。 ……まるで妹の様に。 ……そう……ね、妹の様に感じているわ! だから野宿なんて言われたらますます放っておけないわ!」
ララは喋りながら自分で自分の言葉に驚きました。
たった二日前に出会ったばかりの女の子、しかも人族の女の子をここまで気に入ってる事に自分自身がびっくりします。
ララはサハラが一人前になるまで成長を見届けたいと思い始めているのです。 そう、その為なら自分の成人の儀が少し位遅れても良いと思う位には。
〈注:エルフ的には人族の寿命は『少し位』の範囲に入っちゃいます〉
そんなララの言葉に今度はサハラさんが驚く番です。 なんでララがそこまで自分の事を気に入ってくれたのか良く分からないし、その好意に甘えて良いのかも分からないのです。
でも、よくよく考えるとその好意の片鱗は昨日からずっと見え隠れして居ました。 それに気が付いた所でやっぱり理由は分からないのですけどね。 何せララ本人も分かってないですしね。
「えっと……あ、ありがとう。 なんて言えば良いのか分からないですけど……嬉しいです」
とりあえずサハラさんはララが心配してくれてるのでまずはその事にお礼を言っておこうと思ってそう言いました。
でもそれを聞いてララエルさんはーー
「ふふ……ふふふ。 良かったわ! 分かってくれたのね。 それじゃあお金の事は気にしないでね。 私達エルフは無駄遣い以外ならお金には拘らないの。 サハラの為に使うのは無駄じゃ無いわ」
パアっと笑顔になってララはサハラを抱きしめます。
(あれ? そう言うつもりで言ったんじゃ無いんだけど……今更訂正し辛い雰囲気です。 う~、と……とりあえず笑っておこう。 うん、それが良いです!)
と言う訳でサハラさんも今日一番の笑顔で微笑み返すのでした。
………………何の解決にもなってないし、むしろ状況を悪化させる手なのですけど、困った時って結構笑うしか無かったりしますよね?
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そして出会ってから今までで最高の機嫌なったララエルさんに手を引かれてギルドへ向かったのでした。




