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1.カナリア

コメディ封印して頑張りました!


対戦よろしくお願いします!


正式病名:侵蝕性魔力紋症候群

通称:魔蝕紋・魔蝕症


第一種

手首や足首に細い黒い紋様が現れる。

疲労や軽い魔力枯渇を起こすが、安静と薬で完治可能。

死亡例なし。


第二種

紋様が腕や脚へ広がる。

慢性的な倦怠感。微熱。

魔法行使能力が低下。

数か月の治療で改善。


第三種

全身へ侵蝕が始まる。

体温低下。末端のしびれ。

魔力暴走が起きやすくなる。

長期療養が必要。


第四種

内臓へ侵蝕。

心臓や肺の魔力循環が乱れる。

呼吸困難。失神。

魔法科学手術が必要になることもある。


第五種

精神へ影響。幻覚。悪夢。

感情制御障害。

魔力と精神が同期できなくなる。

治癒率は低い。


第六種

極めて稀。

魔力器官そのものが崩壊。

紋様は全身を覆う。

体温は30℃近くまで低下。

生命維持装置が必要。

死亡率70%以上。


第七種

前例無し。

不明。


ーーーーーーーーーーーーー


第七種侵蝕性魔力紋症候群…前例無し、不明。


その文字を目で追い、レオナール・ステラティス公爵は目の前が暗くなった。

亡き妻の忘れ形見である9歳になる息子に現れた荊のような…血管のようにも見える魔紋…それはこの国の民が恐れている呪病で、その上既存の六種を超える第七種。

「神よ…」

祈った声はどこにも届かない。

たった1人の跡取り息子。

レオナールはなんとしてでも、彼を助けることを心に決めた。


……それから15年の時が過ぎた……


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


剣と魔法と魔法科学の世界。

レグナリア帝国はその魔法科学の最も優れた国であり、その力を武器に、多くの国を従えてきた。

その属州の中に、リーナの故郷はあった。

帝国の一部に組み込まれたのは曽祖母の時代。

だから独立していた時代をリーナは知らないし、今がその頃と比べて良いのか悪いのかもわからない。

それなりに幸せに暮らしていた。

彼女には物心ついた時から不思議な力があった。

彼女が歌うと、田畑の実りが増え、旱も解消し、ついでに病人すら癒すこともあった。

いつしか《奇跡の歌姫》として知られるようになっていた。


そんな彼女にレオナールが目をつけたのは、偶然ではなかった。

彼は彼女を馬車に乗せ、帝都にある館へと連れてきた。

そして彼女に言った。


「今日からお前は、息子専属のカナリアだ」


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


リーナは言われた意味がわからなかった。

いつものように、畑の世話をしながら歌っていたら、よくわからないうちに連れてこられ、《息子専属のカナリア》宣言だ。

「あの…それはどういう…」

「ついて来い」

尋ねるリーナをレオナールはどこかへと案内する。


連れてこられたのは2階の端の部屋、昼だというのに遮光カーテンが閉められた、薄暗い部屋だった。

「レグルス、いるか?」

レオナールは行って部屋の奥へと歩みを進める。リーナも後に続いた。

「あぁ、父上…」

部屋の奥から聞こえたのは、どこか苦しそうな掠れた青年の声。

「起きなくていい、今日はお前に奇跡のカナリアを連れてきたぞ」

レオナールはそういって、リーナの肩を押し「歌え」と低い声で命じた。

「あ、あぁ…」

リーナは怯えて声が出ない。

それに気がついたのか、部屋の奥から1人の青年が姿を現した。

歳は20代半ばくらいだろう。身長の割に身体は細く、肌は青白い。そして

「……っ!」

リーナは息を呑んだ。

青年の左半分には、荊のようにも血管のようにも見える紋様があった。

「レグルス、起きて大丈夫なのか?」

今までと違い優しい労るような声でレオナール。

「ああ、寝ていても変わらないので…」 

それより父上、彼女は?と彼は尋ねた。

「属州で《奇跡を呼ぶカナリア》と呼ばれていたらしい。お前のために連れてきた」

ーーー連れてきたって拉致じゃない!

「あの、助けてください!私、ここどこだかわからなくて…帰りたいの!家に帰して!」

リーナはレグルスと呼ばれた青年に助けを求めた。青年はチラリと彼女を見て、レオナールに視線を戻す。

「帰りたいと…言ってますが…」

「なあに、すぐに鳥籠での生活に慣れる」

と、レオナールは笑う。

「お前の家はここだ、カナリア。ここでレグルスのために歌え、奇跡を起こせ。それがお前の仕事だ」

幸せだろう?とでも言いたげた口調だった。

「歌ったら…帰してくれますか?」

「なぜだ?」

リーナの問いに心底不思議そうにレオナール。

「そんなに帰りたいなら…帰してやってください、父上」

レグルスはそうは言ったが、リーナに視線は向いていない。

「まずはカナリアの歌を聞いてからにしろ」

レオナールは再びリーナに歌えといった。

「属州で有名な奇跡、見せてみろ」

この人には言ってもわかってもらえない。リーナは理解した。

そして、逆らえば右も左もわからない帝都に放り出されるかもしれないという、恐怖を今更ながら感じた。

「…はい」

一つ返事をして、歌い出した。


初めは緊張もあって震えた声だったが、自然と伸びやかになっていく。

優しく、どこか懐かしい歌声。

歌声な響くと、部屋に生けられていた花が、元気を取り戻したように見えた。

そして、レグルスにしかわからなかったことだが、彼の体内を暴走していた魔力が安定したようだった。

呼吸も痛みも少しだけマシになる。

どんな薬を使っても、ここまで楽になったことはなかった。

魔蝕紋そのものは変わってはいないが、確かに楽にはなった。


「「これは…」」

レオナールとレグルスが同時に声を上げる。

レオナールは感嘆の、レグルスは奇跡を目の当たりにして驚きの声だ。

レグルスは不思議そうに己の手をみた。

痺れもない。

その様子を見てレオナールも息子の身体に変化があったことに気がついたようだった。

「素晴らしい!実に素晴らしい」

彼は拍手をしてリーナを称えた。

「これからも息子のためによろしく頼むよ」

そして嬉しそうにそう言ってリーナの肩を叩き、部屋を後にした。


部屋に残されたのはレグルスとリーナ、そして重い沈黙だった。

レグルスは長年苦しめられていた魔蝕紋の症状が軽くなったことに驚いているし、リーナは何を話したらいいのかわからない。


「カナリア…お前、名は?」

しばらくの後、レグルスはリーナに尋ねた。

「……リーナ……です……」

「リーナ…か」おうむ返しにレグルス。

深い意味はなかったのだろう。表情を対して変えずに彼は尋ねた。

「帰りたいか?」

「はい!」

間髪入れずにリーナ。

「そうか…」

レグルスはかすかに笑ったようだった。

「なら帰してやる…約束する」

彼はそう言い、「誰かいるか?」と人を呼び、

部屋の奥へと戻っていった。

間を開けず、1人のメイドがやってきて、リーナを部屋の外へ…そして、彼女の鳥籠…部屋へと案内した。

「旦那様もレグルス様も悪い方ではございません。」

彼女は「坊ちゃまの事、よろしくお願いします、カナリア様」と言うと部屋を後にした。


辺境の属州から連れ攫われた歌姫は、

この日から籠の中のカナリアになった。


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