彼女は眩しい。
星宮宵:妖艶で美しく魅力的だが、多くの男を誘惑する小悪魔な女性。色白、華奢でスタイル抜群。ボブとミニスカートが良く似合う。
島影光:チャラくて女遊びが好きな男性。コンビニでアルバイトをし続けるか、実家が農家で帰るかどうか悩んでいる。
俺の名前は島影光。今月で23歳と6カ月。クソ田舎で農家やってる俺の実家から上京してきて、8年ほどになる。高校卒業してからは、ホストやったり、ボーイやったり、とにかく女と一緒にいれる仕事ばっかりやってきた。今もコンビニでバイトしたお金は余すことなく女に使ってる。
「あ、光ちゃんじゃない。今日、違う子指名したでしょ?」
口を尖らして言うのはローズという名の女だ。胸元が大きく開いた赤いショートワンピースに、スパンコールの付いた赤いピンヒールを履いている。顔も可愛いし、スタイルもいいし、いい匂いもする。俺は彼女の肩に手を乗せてウインクした。
「ローズ、俺は色んな女を見てみるんだよ。そしたらローズの良さがより分かるんだ。君だけの良さがね。」
「もう、良いこと言うじゃないの。次はよろしくね、光ちゃん。」
彼女は俺の頬にそっと口付けした。彼女の後ろ姿を見届けて、自分の席に座る。
「あなたのこと頼りにしてるのよ、あの子。」
茶髪を三つ編みにした飛鳥という名の女がこう言いながら、グラスにシャンパンを注ぐ。俺は彼女の太ももに手を置いて、いたずらっぽく笑った。
「今日は君の気分なんだよ。可愛がってやるから覚悟しろよ。」
「みんなにそう言ってるんでしょ、ひかるんは。口説くのが上手みたいね。」
彼女は大きな目でじろっと睨んできた。美しいボディラインとデコルテがはっきり見えるぴっちりした青いドレス。俺が彼女に抱き付くと、飛鳥は俺の金髪頭をくちゃくちゃに撫でた。
「ほんとに軽い男…。でもだからこそ魅力的なのね。」
目を覚ました頃にはもう昼だった。古いアパートの狭い部屋に1人で暮らしてる。布団を敷かずに寝たもんだから首も背中も痛めてしまった。
「うわ!やっべえ…バイト忘れてた。」
俺はコンビニまで全速力で走った。今日は運悪く店長がいる日でこっぴどく叱られたが、怒られるのはもう慣れている。
「今日は遅れた分、残業してもらうからな。」
店長お決まりのセリフだ。俺は適当に返事をして、それからいつものようにレジに立つ。ただ、昨日は飲みすぎてしまった。頭がぼーっとして、ふわふわしている。俺はゆっくりと目を閉じた。
「お会計、お願い。」
凛とした女の声。我に返って上を向くと、俺の目は飛び出そうになった。
ベビーピンクのスカーフを軽く首に巻いて、トップスには白いレースのノースリーブ。黒いデニムのショートパンツ。手に小さなピンクのボストンバッグを握っている。
キョトンとしていると、艶のある黒髪でレイヤーボブの彼女は無表情のまま首を傾げた。
「何か御用でも?」
「あ…すんません。」
俺は彼女が出した梅のおにぎりと緑茶のペットボトルをレジ打ちする。彼女は500円玉を出し、俺は釣りを渡した。彼女が動く度にいい匂いがする。
「あの…お姉さん。」
俺はいつの間にか話しかけていた。彼女は財布をバッグにしまいながら、こちらに目を向ける。星の数ほど女を見てきたが、こんなに美しい人は今まで見たことがなかった。
俺は慌ててペンを走らせ、レシートの裏に住所を書いた。俺が突き出すと、彼女はそれを受け取ってもう一度俺に目を向けた。
「今日の夜ここに来てくれ。0時ぴったりな。」
彼女はそれを聞いても無反応だった。俺がウインクすると、彼女はくるりと向きを変えて店を出て行ってしまった。俺は彼女の背中を見つめ、小さく呟いた。
「あの女、簡単じゃなさそうだな…。」
壁時計を見ると、時刻はもう夜の11時を回っている。店長の言葉通り、しっかり残業して俺は足早に店を出た。
俺が行きつけのクラブに着くと、青いドレスの飛鳥が俺を迎え入れてくれた。
「あら、今日は随分気合入ってるわね。いつもはチャラついてるのに、襟付きシャツなんて着ちゃって。」
彼女の首筋にキスをすると、彼女は悲鳴のような声を上げた。
「ちょっと何するの…前に首は触るなって言ったでしょ。」
「あすちゃん、ほんとは嬉しいくせに。今日はこの店に新しい子を紹介したいと思ってんだよ。きっと俺に感謝することになるぞ。」
彼女は不満げな表情をしたが、何も言わずに俺を席に案内してくれた。
「今日は支配人もローズもお休みよ。あなたが言うその子のことは紹介されたんだって後で私から伝えておくわ。私って何て良い子なのかしら。」
「良い子だよ、あすちゃんは。顔もスタイルも性格も…それに、相性も。」
声を上げて笑うと、彼女は小さくため息をついた。
「こんなスケベ男に紹介されるって…その子は随分軽いのね、あなたみたいに。」
するとお店の扉が開く音がした。俺が腕時計を見ると、時刻は0時ぴったりだった。一瞬にして、お店がざわついて、飛鳥は目を丸くする。
「何…誰が来たの?」
俺はゆっくりと立ち上がり、入口の方に向かう。案の定、そこにはコンビニで出会った美女が立っていた。
「まさか来てくれると思ってなかったよ。迷わなかったか?」
俺が話しかけると、周りがさらにザワザワした。彼女は昼と同じ服装で、足元には黒くてヒール付きのスクエアサンダルを履いている。
「ええ。それにしても、騒がしい場所ね。ここでお話するの?」
彼女が尋ねると、近くにいた客が彼女に近づいてきた。
「姉ちゃん、俺の席来ないか?金、払うからさ。」
「新しい子なんだろう?俺のところにも来てくれよ。」
俺は男たちを手で制して、彼女を自分の席に連れて行った。席で待っていた飛鳥も彼女の美貌に言葉を失っている様子だ。美女は飛鳥に挨拶もせず、静かに腰を掛けた。
「こんな綺麗な子に囲まれて、俺って幸せ者だな!」
俺は2人の肩に腕を掛けて強く引き寄せた。飛鳥は呆れた表情をしたが、美女は俺の腕をゆっくりと手でどかした。驚いて彼女を見ると、彼女は俺から目を離さずに微笑んだ。
「あなた、コンビニの制服の方が似合うわね。」
予想外の発言に固まると、飛鳥が慌てた様子で立ち上がった。
「ちょっと私…席を外すわ。2人でごゆっくり。」
「あ…飛鳥…。」
俺が呼び止めても彼女は振り向きもせずに去っていった。俺が隣の美女を睨むと、彼女は俺の手を取ってハート形の唇を動かした。
「あら、言ってはいけないことだった?コンビニでのバイト。」
「ダメに決まってるだろ。俺は大手で働いてることになってんだよ。」
俺は自分のグラスにシャンパンを注いで一気飲みした。彼女は脚と腕を組んで俺を見つめてる。
「コンビニのアルバイト、かっこいいじゃない。誰にでもできることじゃないわ。」
またまた予想外の発言に俺は思わず目を見張った。彼女は俺の襟を直しながら話を続ける。彼女の顔は近くで見ても完璧だった。
「正社員でも、アルバイトでも、働いてることに変わりはない。見栄張らなくたって良いじゃないの。」
「良いこと言ってくれるね、美人さん。名前、何て言うの?」
俺は新しいグラスにシャンパンを注いで彼女に渡した。彼女はグラスを受け取ると、すぐにテーブルに置いて口を開いた。
「あなたは?何て言うお名前なの?」
「おいおい、美人さんから教えてくれよ。名前で呼びたいんだよ。」
俺が彼女の肩に腕を回すと、彼女は俺の肩に頭を乗せた。彼女の髪からいい匂いがする。俺は我慢できず、彼女の胸を触った。感触としてはかなり良いものだった。
「あなたから教えて。」
彼女は声のトーンを変えずにこう言った。俺が触り続けても、彼女は何も文句を言わずに頭を乗せていた。
「仕方ないな…そんなに言うなら教えてやるよ。サービスも…してもらってるしな。」
俺が彼女の頭に顔をうずめると。彼女はすぐに俺から離れた。真剣な眼差しで見つめられると、俺の心臓の鼓動が一気に速まった。
「俺は島影光だ。ひかるんとか光ちゃんとか、呼び方は色々ある。じゃあ、今度は美人さんが教える番だぞ。」
するとその時、俺のスマホが突然鳴った。スマホの画面を見ると、「母ちゃん」という文字。俺はすぐに着信拒否ボタンを押した。
「出なくていいの?電話。」
彼女の問いかけを俺は無視した。
「さあさあ、もったいぶってないで早く名前を教えてくれよ。教えてくれないと、今夜は家に帰らせないぞ?」
「電話、出た方が良いと思うわ。」
彼女も俺の言葉を無視してきた。俺は小さくため息をついて、自分のグラスにシャンパンを注いだ。
「良いんだよ、迷惑電話だから。それより、今日は俺の家に泊ろう。」
「いいえ。母親からの電話が迷惑なの?」
俺は彼女のグラスにもシャンパンを注いだ。
「その話はもうするな。ほら、飲めよ。俺の驕りなんだから。」
「自分の人生に満足なんてできるのかしらね。」
彼女が遠くを見るような目で呟いたので、俺は思わずハッとした。彼女はゆっくりと俺を見て話を続ける。
「あなたはどうなの?自分の人生に満足してる?」
「そんなの…どうでもいいじゃねえか。」
俺が俯いて呟くと、彼女は俺の頬を両手で包んで上に向けた。
「向き合いなさいよ、現実に。」
その時、また俺のスマホが鳴り出した。彼女が手を離し、俺はもう一度スマホを見る。さっきと同じ文字がスマホの画面に映し出されている。
「出なさい。」
彼女は囁く声でそれでも強く言った。俺は彼女の澄み切った瞳に吸い込まれそうになる。
「ほら、後悔する前に出なさいよ。」
彼女の言葉で俺はようやく電話に出た。耳に届いたのはしゃがれた母の声だった。
「あんた、今何してるのかい?たまにこっちさ来て、顔出してけろ。」
「うるせえな。こんな夜中に電話掛けてきやがって。用無いならさっさと切るぞ。」
「待って、待ってってば。昨日父さんが倒れたのよ。」
母の言葉に俺は言葉を失ってしまう。寡黙で無愛想な父の姿が頭に浮かんだ。
「父さん、力仕事できなくなった。だからもう…米農家、続けられるか分からなくなっちゃったよ。」
「…何だよ、それ。そんなの知らねえよ。俺にはもうどうでもいいんだよ!」
勢いよく電話を切った。俺はスマホをポケットに入れ、大きなため息をついた。
「実家、米農家なのね。」
彼女は相変わらず美しかった。俺は彼女の手を取って、肩をすくめる。
「まあな。小さな米農家だよ。子どもの頃はよく”お米くん”って呼ばれて馬鹿にされたりもしたんだよ。」
俺はシャンパンを一口飲んで、それから話を続けた。
「それでも…美味かったな、俺んちの米。俺、食べ過ぎてすんげえ太ってた時期あったんだ。」
「そう。でも…お父さんが倒れたら続けられないって言ってたじゃない。」
彼女の言葉に俺は目を丸くした。
「よく聞こえたな。まあ母ちゃんの声、でっけえからな。」
俺が残りのシャンパンを飲み干すと、彼女は立ち上がった。
「私はもうお暇するわ。ごきげんよう。」
「おい…待ってくれ…!」
引き止めようとしても、彼女は風のように去ってしまった。力なくソファに座ると、違う席での接待を終わらせた飛鳥が戻ってきた。
「あの子、とんでもなく美人だったわね。ひかるんでも口説けなかったの?」
俺は飛鳥の顔を見れないまま、ゆっくりと立ち上がった。
「あの女は…簡単じゃないな。」
それから一週間が経ち、俺は一度もバイトをすっぽかすことなくコンビニのレジに立っている。いつかまた彼女に会えるかもしれない…そんな一握りの希望を胸に必死に働いていた。
自動ドアが開いた。「いらっしゃいませ」と声を出して、俺は思わず二度見してしまった。
ブイネックのショートシャツ。腰にベルトを付けたプリーツミニスカート。華奢なお腹が大胆に見える。足元にはひざ下までのヒールブーツ。花の形をした小さなハンドバッグを手に持っている。 全身ブラックコーデが彼女の美しさを引き立てていた。
彼女は梅のおにぎりと緑茶のペットボトルをすぐさま持ってきた。俺はバーコードを読み取って、彼女からお金を受け取った。
「ねえ。俺のこと、覚えてる?」
さらっと話しかけると、彼女は「ええ。」と頷いた。俺はおつりとレシートを彼女に渡す。
「今日の夜、前の場所で待ってるよ。」
俺がウインクをすると、彼女はハート形の唇を動かした。
「今日は私が言う場所に来てちょうだい。耳を貸して。」
彼女は俺に耳打ちした。俺はその言葉に目を丸くしたが、彼女はウインクをして後ろを向いたまま手を挙げた。
「あの女…案外軽いのか?」
俺はニヤニヤするのを我慢しながらいつも通り仕事に戻った。
残業して少し時間が過ぎてしまった。俺は走って繁華街にある小さなホテルに入る。
彼女に言われた部屋に行ってドアノブをひねってみた。鍵が開いている。俺は2回ノックして、それから思い切り扉を開いた。
「おい、お姉さん。なんでこんなところに呼び出すんだよ。」
独り言を呟きながら奥に進むと、そこにはベッドで寝ている彼女の姿があった。俺は口を閉じ、目を見張って彼女を眺めた。まるで彫刻のような美しくて儚い寝顔である。彼女はシャワーを浴びたのか、髪の毛が少し濡れていた。俺はニヤニヤするのをもう止めることができなかった。
彼女の髪の毛に触れると、彼女からいい匂いがしてくる。布団をめくると、彼女はコンビニで見たままの服装で横になっていた。彼女のお腹を撫でると、彼女の肌が白くすべすべしているのに気付いた。
「男と2人の部屋で、ベッドに寝てる女なんて…無防備にも程があるな。」
俺が彼女に覆いかぶさるような体勢をすると、彼女がゆっくりと目を開いた。
「寝てないわ。目をつぶっていただけよ。」
「おいおい、まだ起きちゃダメだぞ。もう手遅れなんだから…。」
俺は彼女の両頬を手で包み、綺麗な鼻筋に口付けした。彼女は無表情のまま、じっと俺を見つめる。
「あなたのお父さんに会いに行ったの?」
「は?」
思わず彼女から手を放してしまった。彼女はすぐに起き上がって話を続ける。
「あなたは本当に後悔しない?お父さんにもう会えなかったら。」
彼女の言葉に俺は目を伏せた。子供の頃、田植えの仕方を教えてくれた若い父さんの姿が頭に浮かんでくる。
「会いに行きなさい。今すぐに。」
彼女の声はいつもより力強かった。俺はベッドから降りて、彼女を睨んだ。
「うるせえんだよ!あんたに俺の何が分かんだよ。あんな米農家…さっさと潰れて…。」
「分からないわ、私にあなたのことは。」
俺の言葉を遮るように、彼女は声を出した。
「それでも…倒れたお父さんに会いに行くべきだということは分かる。」
俺が口をつぐむと、彼女はシャツの胸元からチケットを取り出した。彼女が差し出してきたので、俺はキョトンとして受け取った。
「こ…これって…。」
「新幹線のチケットよ。明日の朝一番に乗りなさい。」
そう言い捨てて、彼女はベッドから立ち上がった。近くのテーブルに置いていたバッグを手に取ると、「私はもうお暇するわ。」と扉の前まで歩いて行く。俺は慌てて彼女の腕を掴んだ。
「おい!待てよ、今日は一緒に泊ろうぜ。」
「いいえ、結構よ。ご両親を大切にお元気で。ごきげんよう。」
俺の腕を手で離すと、彼女は振り向きもせずに去っていった。俺はしばらくの間、唖然として扉の前で突っ立っていた。ようやくベッドに戻って横になると、彼女の匂いと温もりがまだ残っている。
「チケット…俺のために買ってくれたのかよ。」
手に持ったチケットを眺めていると、チケットではない黒いカードが1枚混じっているのに気付いた。
「何だこれ?」
そのカードをよく見てみると、そこには白い文字が書いてあった。筆記体の英語である。俺はポケットからスマホを取り出して、画像検索を使ってみた。
「Nameless stars appear at twilight.」
スマホがネイティブな発音で音声を読み上げてくれた。意味を調べて、俺は思わず目を丸くした。
「名も無い星は…宵から出る。」
彼女に名前を聞いたときのことを思い出した。彼女はもしかして…。
俺はホテルの窓からカラフルなライトが煌めく華やかな街並みを眺めた。酔っ払い集団、煙草をくわえた若者、大笑いして歩く男女たち。俺はこんな街の中で、たった1人静かな夜を明かすのだった。
目元には白色の丸メガネ。頭には存在感のある大きな縁の白いカチューシャ。襟の着いた黒白ドット柄ミニワンピース。足元には白いブーツ。手には白黒の小さなスクエアバッグ。
ー彼女は今日も夜の街を歩き、男を落としに行く。
彼女は街に繰り出していく。ネオンサインが光を放つ煌びやかな世界へ。
つづく
ご一読ありがとうございました!ファッションに注目してご覧くださいね♪




