『強制公開(パブリッシュ)』――その卑怯な術式、全公開(さらしあげ)です
「カ、カイル・ヴァン・レガリアだと……!? バカな、奴の存在は『削除』されたはずだ!」
門の向こうで、数人の男たちが腰を抜かしていた。帝国魔術師団・編纂部隊。対象の存在を文字通り「消去」する禁呪を操る、帝国の暗殺部隊だ。
だが、彼らが真っ白な顔で凝視する先――そこには、以前よりも遥かに濃密な覇気を纏ったカイルが、リリアーヌを背後から守るように立っていた。
「……あら、そんなところに隠れていらしたのね」
リリアーヌは、この上なく退屈そうに歩み寄った。
「カイル様を文字に分解して、私に絶望という名の『プロット』を強いる……。三流の嫌がらせにしては、少々手間がかかりすぎていてよ?」
「ひ、ひぃ……ッ! 次だ、次の呪文を書き込め! 毒だ、重力魔法だ! 今度こそこの女を……!」
術師たちが狼狽し、杖をペンに見立てて空中に醜い詠唱を書き殴る。毒の霧が広がり、地面が沈み込むような重圧がリリアーヌを襲う――はずだった。
パチン、と。
リリアーヌが優雅に指を鳴らすと、全ての魔法が、「入稿を拒否された原稿」のように虚空で弾け飛んだ。
「……設定を盛りすぎですわ。一つのシーンに毒も重力も詰め込むなんて、典型的な『書き手の自己満足』。そんなに欲張っても、読者は混乱するだけです」
リリアーヌは黄金の万年筆を抜き放ち、くるりと回した。
「隠れてコソコソと卑怯なプロットを書き進めるから、そんなに設定がガバガバになるのですわ。……皆様に、その醜い執筆過程を見せて差し上げます」
リリアーヌがペン先で空を突くと、空間が巨大なスクリーンのように輝き出した。
『聖絶の校閲魔法:強制公開』
その瞬間、術師たちが隠していた「裏設定」が、バカでも分かる箇条書きで全方位に投影された。
【帝国魔術師団・作戦メモ】
・カイルを消してリリアーヌを泣かせ、帝国に屈服させる(予定)。
・本当はリリアーヌの目が怖くて、姿を見られると魔法が解ける。
・実はこの作戦に予算を使いすぎて、お昼はパンの耳しか食べていない。
「な、なんだこれは!? 俺たちの内緒の計画が、勝手に公開されてる!?」
「あら、そんなに恥ずかしい内容でしたの? 自信があるなら、全世界にさらされても文句はないはずですわ」
リリアーヌは冷たく微笑む。姿を完全に晒され、魔法のタネまで暴かれた術師たちは、もはやただの『三流の端役』に過ぎない。
「カイル様。……私の物語に不要なノイズが混じっておりますわ」
「ああ、すぐに削除しよう」
カイルの姿がふっと消えた。次の瞬間、彼は術師たちの影の中から、音もなくせり上がった。
「ぐ、ぎゃあああッ!?」
カイルの黒い刃が閃くたび、術師たちの杖が、真っ二つに叩き折られていく。
『リリアーヌの絶対守護者』として再構築された今のカイルは、彼女の影がある限り、どこからでも現れ、いかなる干渉も受け付けない。
「……お、俺たちは帝国のエリートだぞ! こんな小娘と、得体の知れぬ騎士ごときに……!」
「エリート? 失笑わせないでくださる?」
リリアーヌは震える術師の元へ歩み寄り、扇子でその頬を軽く叩いた。
「物語を汚すノイズは、一文字残らず退場していただきますわ。……さあ、次のページをめくる前に、その役柄から降りていただきましょうか」
リリアーヌが空中に大きく『没』と赤を入れた瞬間、術師たちは泡を吹いて転がった。
「……ふう。ようやく『読みやすい』道になりましたわね。カイル様、参りましょうか」
「ああ。君のペン先に従おう、リリアーヌ」
リリアーヌは満足げに微笑み、帝都へと続く道を優雅に歩き出した。その背後では、黄金のスクリーンが煌々と、術師たちの無様な『没原稿』を晒し続けていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「絶対守護者」となったカイル様の無双っぷり!
帝国編はさらに加速します。どうぞお楽しみに!




