表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/6

第4話「クローバー大森林へ」

 眠い。眠いわ。


 昨日は色々と考えすぎて眠れなかった。

 前のチームのこと、シクロのこと、魔法のこと。


 寝不足なんていつ以来かしら。




 ハンター組合の扉を開ける。


 中にいるハンターの顔は相変わらずね。

 とっても暗いわ。お葬式かしら?



 ハンターなんて上の方の一部を除けば完全にブラック。

 毎日毎日命がけで戦ってりゃ磨り減るわよ。



 望んでハンターになる人もいるけど、農民で畑が兄弟のものになる場合もあるのよね。




 いつもなら暗い顔してる彼らを負け組と笑い飛ばすところだけど……。




 多分、今日は私も同じ顔をしてるわ。

 眠い……。



 自分も同じ立場になると、だるそうなハンターさんたちにも親近感湧くわね。


 逆にウキウキしてる奴には殺意沸くわ。

 そんなやつ、ここには一人しかいないけど。



 あんたよ、あんた。

 シクロ。



「おはよ、シクロ」

「おはよう。我が同胞(はらから)チャチャよ。随分眠そうだが宿題に手こずったのか?」

「宿題って魔法のことよね?」


 一応確認しておく。

 今、眠くて頭回ってないからね。


「魔法ならすぐにできたわよ。秒で」


 ただ、と続ける。


「昨日一気に色々ありすぎて疲れたのよ」

「なるほど……」


 シクロは手を口元にやって何か考え出した。

 嘘だと思われてるのかしら?


『こいつ寝不足になるくらい魔法の勉強してたんのか?うーん』みたいな!


「いっておくけど、ホントにすぐ習得したわよ。なんなら二つ!」

「二つもだと!流石だなフッフッフッフフフも」


 なんかシクロが笑ってる。

 壊れた人形みたいなんだけど。

 怖いからやめてくれないかしら?ね?ね?


「あ!そうそう。シクロこの魔法の書不良品よ」

「?」

 説明が足りなかったわね。

 首を傾げられたわ。


「ここに載ってる水圧弾(アクアバレット)って魔法よ。ビンタくらいの威力って書いてるのに宿屋の壁壊したわよ!」

水圧弾(アクアバレット)の記述はそれで正しいはずだ。貴様が何かしたのではないか?」

「私は説明通りにしたんだけど……」


 何か間違えた?

 もしかして、はぁ!とか掛け声したから?

 気合いのいれすぎ?


「ふん。実戦なら威力が高くて困ることもない」


 確かにビンタレベルの魔法じゃ使い道なさそうだけど。ど!


「さて、討伐だがどこか希望はあるか?」


 希望をいうなら働きたくないわよぉ。


 働いたら負け。

 でも働かないとゲームオーバー。


 うだうだ言っても仕方ないわね。


「そうね。シクロが一緒ならクローバー大森林の危険区域とかいいんじゃないかしら?」

「ふむ。我ならば危険区域と言えど庭のようなもの。あらかた生態系も把握している」


 まかせておけとドヤ顔&シュバッポーズを決めるシクロ。

 イケメンなのにどうしてこんなに残念なの……。


「危険区域に行くなら野営の準備も必要よね?私今まで仲間に任せっきりで……」

「万事承知。我が用意しておいた」



 ドヤ顔再び。

 いや、ありがたいんだけど。ね。ね。

 シクロは昨日と違い大きいリュックを持っていた。






 ★






 クローバー大森林は街の近くにある。


 けれど、危険区域と呼ばれる場所まで行くのには単純な距離でも半日かかるときくわ。

 装備や荷物の重さ、怪魔との戦闘を考えればもっとよね。



 野営、か。


 深く考えてなかったけど、男女一組で一晩を共にするのって……。


 私って魅力溢れるし中二病青年が暴走しないか心配だわ。



「怪魔がくる。右から三体、おそらく森蜥蜴(もりとかげ)


 右!

 私は右を向き、覚えた魔法の準備をする。


 ましか森蜥蜴は森なんかで生まれる蜥蜴型の怪魔よね。


 一般的な蜥蜴よりは大きくて、猫くらいのサイズだったはず。



 来た。

 地面を這ってくる三つの影。


 我が必殺の水圧弾(アクアバレット)を食らわせてやるわ!


 よし!一体倒したわ!

 私の魔法で頭が潰れた。





 グロイわぁ。



 残りの二体もサクッとシクロが剣で倒してた。



「ね、倒した怪魔持ち帰るの大変じゃない?」

 私たちのチームは二人しかいない。


 しかも、回収屋をおよぼうにも

 クローバー大森林の危険区域になんて来れない。


 危なすぎるわ。



「我の怪力をあまり舐めるなよ?前回の怪魔も一人で持って帰ることは可能だった」


 前回のって熊くらい大きかったわよ?

 無理よ!むーり!


「クローバー大森林では大型の怪魔はほぼいない。数少ない大型の怪魔も全身を売れるわけではなく価値があるのは体の一部だけだ」

「ふーん。そっか〜」


「チャチャ、水を生む魔法を習得していたな。森蜥蜴を洗うのに使いたい。頼めるか?」


 おぉ。

 私の魔法ってやっぱり便利?ふふん!


 水生成(ウォーター)を使って蜥蜴の血を洗う。私の頭壊れるやつは傷口に布を巻いてた。

 衛生的な問題かしら?


 シクロが倒したに二体は突きで殺されてるので、布とかは巻かないみたい。


 わざわざ布使わせて、

 私が魔法で攻撃しない方が良かったんじゃ……。


 よくよく考えてみれば別に魔法使えとかシクロから指示なかったし。


 右に三体って気をつけてね的な意味だったのかしら。


 私って役立たずっ。

 す、捨てられる!?



 私もバッグは持ってきてるので、

 森蜥蜴に関しては分配して待つことにしたわ。



 荷物持ちくらい頑張らないとね。ね。




 森の中では何回も怪魔に遭遇した。


 この森は私もよく来ていたので知っている怪魔ばかりだったわ。


 双頭蛇(ツイストスネーク)岩食い(いわくい)眠りの木(スイートスリーパー)等々。


 双頭蛇は皮が売れる。

 岩食いは鉱物でできている頭部のみ価値がある。

 眠りの木はなっている木のみだけ麻酔として利用される。



「危険区域に入る前に野営だな。飯は森蜥蜴をやけばいいだろう」


 森蜥蜴、初めて食べるときはかなりの勇気が必要だったわ。

 市場でもよく売られる人気食材とは言え、私の日本人的感覚はNOを示してた。


 味はそこそこだし、流石に四年のハンター生活で抵抗感は消え失せたんだけどね。



 火起こしもシクロがやってくれてるみたい。ちなみに私はできないわ!


 だって、ドレア、イェロ、フカグリさんに頼っていたから!ふふん!



「いただきます」

「なんだ、それは?」

「故郷では食べる前にやってるのよ。食材とか作ってくれてる人とかへの感謝みたいな」

「ほう。いただきます」


「見張りは交代制だ。先にチャチャが見張り、眠気の限界が来たら代わってやる」


 見張り、あ!

 前まで四人だったけど二人ってことは眠れる時間半分じゃない!


 というか今までシクロ一人でどうしてたのよ!

 たしか危険区域も精通してるって言ってたわよね。


 寝ずに?

 いや、一人なら野営せずにさっさっと進めるのかしら?


 私に合わせてゆっくり歩いてる説に一票ね。

 さっきのセリフも優しさだろうし。

 眠くなったら代わっていいなんて明らかにシクロの方が損するわよ。



 なんだか襲われるんじゃ!?

 とか思ってた私が恥ずかしいわね。ねー。



「ごちそうさまでした」

「ふむ。ごちそうさま、でした」



 シクロのためにもできるだけ見張りくらいは頑張りましょう。

 長く長く起きるわよ〜。





 ★





 シクロ十八歳。

 中二病というベールに隠されていても彼はーー


 ーー年頃である。



「はぁ」

(く、緊張が。なかなか寝付けない……)



 チャチャは気づいていなかったが意識しまくりのシクロであった。

 恋愛感情というわけではないが異性への意識というやつだ。


 一人でハンターとして活動していた彼は女性と触れ合う機会はほとんどない。

 

 つまり、女性に対する免疫ゼロだ。



 加えて、チャチャは距離感が近い。

 これはチャチャが前世を含めると年齢が三十七であるのも原因だ。(当人の性格もあるが)



(ポーズも意識するせいで上手く決められていない。いつもスルーされてしまっている)


 違う。そうじゃないよ。

 正してくれる人間は彼にはいなかった。



 すぅー、すぅー。

(?なんだ?)


 音がして、シクロは様子を見に行く。




 チャチャは眠っていた。


 時間にして一時間にも満たない。


 チャチャは今朝から眠たかった。



 仕事中はすっかり眠気も覚めていたが再びピークが来たのだろう。睡眠負債は消えないと聞く。




(バカみたいな寝顔だ。フッ)




 今晩シクロが再び床につくことはなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ