前篇
フィクションです。実在するいかなる人物、団体に一切関係してません。空想世界のお話です。聡明な皆さんならきっと分かってますよね。
「え~、次は弊社の事業についての説明です。弊社では・・・」
もう何十社、いや百何社と聞いてきた企業の説明は、一つ一つに多少の差異はあれど正直分かりやすい違いなんてのは無かった。
特に同じ業界になると酷い。説明会マニュアルが出回っているのではないかと疑ってしまうほどである。
「ウチはここが違う!」と人事は熱弁を振るうけれども、自分にとってはどうでもいい違いばかりだ。
そんなことよりも斜め前に座っている女の子がとても可愛い。やはりリクルートスーツというのがいいのだろう。リクルートスーツはスカートであってもパンツであっても体のラインがくっきり出てとても良い、いやらしい意味じゃなくてね?とにかくなんかえっちで僕は良いと思うんだ。
「・・・というのがやりがいですね~。」
斜め前に座るリクルートスーツが似合う可愛い女の子を凝視しながらどうでもいいことを考えていると、いつの間にか先輩社員のお話が始まっていた。
やりがいね・・・やりがいやりがい・・・。
責任ある仕事、成長できる環境、社会的影響力が大きい仕事、風通しの良い職場・・・
何べんも何べんも何べんも何べんも何べんも何べんも何べんも何べんも何べんも何べんも何べんも何べんも何べんも同じことばっかり言いやがって!!もう耳にタコができたわ!!!お前らアレだろ!?実は全員同じ人間なんだろ!?量産された人造人間なんだろ!?実は世界は俺以外の人間は全員人造人間なんだな!?サ〇バーエナジーショック!!!
「・・・では最後に全体を通して何か質問はありますか?」
おっと、気がついたら説明会が終わろうとしているではないか。
前の方に座っているスマイル0円みたいな顔した女の子が勢いよく手を挙げ質問を始める。
ホントよくやりますよね。すごいと思う。よく質問なんて思いつくよね。
自分が思いつく質問なんて、どうしてそんなにつまらない話しかできないんですか?とかその薄気味悪い営業スマイルは何のためにしてるんですか?とかそんなくらいだ。
自分の圧倒的人間力の不足を反省している間に説明会は終わった。
グループワークとかいうクソみたいに不毛な作業をさせられなかっただけこの企業のポイントは高いと言えるだろう。あれは本当にひどい。アイスブレイクとして使うならまだしも、選考で使っている企業も世にはあるという。嘆かわしいことだ。
ビルを出て駅に向かう途中、ふとスマホを見る。
メールが来ている。
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○○株式会社
選考結果のご連絡
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心臓が一気に高鳴る。
今すぐに見たい気持ちを抑えて、通行の邪魔にならなさそうな道端まで歩く。
歩きスマホはダメだってばあちゃんが言ってたからな!
すでにスマホを握っている手は汗ばんでいた。振るえる指で画面をスライドしてメールを開く。
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阿部 様
このたびは、弊社の面接にご参加いただき誠にありがとうございました。
選考の結果に関しましては、慎重に検討を重ねましたところ、
残念ながら今回はご期待に添えない結果となりました。
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アア、終わった・・・。
またダメだった。
もうこれで何社目のお祈りメールだろうか。最初の内は面白がって数えていたが、両手両足の指で数えられなくなってきたあたりでやめた。
もはや自分を受け入れてくれる企業などこの世に存在しないのではないだろうか。
たとえあったとしてもそれは自分の行きたいところ、やりたいことがある場所ではないだろう。
我儘なのだろうか。高望みしすぎているんだろうか。自分の能力を計り違えているのか。
自分なんぞにはほんの少しの夢を見ることさえも許されてはいないのか。
面接は普通に受け答えをした。特に言い淀んだことはなかった。
そうなると自分の人格を否定されている気がした。お前なんかは社会には不要だときっぱり言われた気さえしてきた。
途方もない絶望感にとらわれて、眩暈と吐き気がする。
やばい・・・倒れそう・・・
視界が端からぼやけていく。意図せず視線が下がっていく。
次の瞬間、世界は反転した。
そして、世界は止まった。
なんだこれ?と思った瞬間、体に強い衝撃が走る。
どうやら本当に倒れてしまったようだ。さっきのはあれだろう。事故直前によく体験するとかいうスローモーション体験みたいなものだったのかもしれない。行き交う人々が怪訝そうな顔でこちらを見ている。
いつまでも倒れているわけにもいかない。急いで体を起こそうとして、気がついた。
俺は覚醒てしまったようだ・・・
もう、そうとしか言いようがなかった。覚醒てしまったのだ。
身体の内側から溢れんばかりの何か強いものを感じる。自分の感覚が何倍にも広がって、大きくなった気がする。それでいて、なんだかやけに心が静かだった。
もう絶望などしていなかったし、さっきまでの倦怠感が嘘のようだ。
なんだかなんでもできる気がして、軽くジャンプする。
すると、身体が宙に浮いた。自分の意思でどこまでも高く昇っていける。
俺はそのまま大手町に向かった。
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俺は先ほどお祈りメールをもらった企業の本社ビルの前にいた。
心は凪いでいるが、あの絶望感を忘れたわけではない。
そう、復讐に来たのだ。
右手をビルに向かって突き出す。
意識を集中させ、力を込めていく。
すると右手の前に小さな光の球が出来上がり、それは徐々に大きくなっていく。
そしてそれがバスケットボールほどの大きさになると同時に、一気に気合を込める。
「ハァッッッッ!!!!!」
俺の右手から勢いよく光の球が放たれる。
その光の球はビルに当たると大爆発を起こした。
凄まじい轟音と共に〇〇株式会社のビルは崩れていった。
復讐の達成感などは湧き上がってこなかった。
こんなものか、としか思うことができなかった。
しかし感傷に浸っている暇はない。
俺はこれから先、両手両足の指で数えきれないほどの数の企業を破壊しなければならない。
気が付くと、あちこちで破壊活動に勤しむリクルートスーツ姿の同志たちがいた。
先を越されるものかと、俺は急いで次の標的のもとへ向かった。
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不毛な破壊活動を始めてから一時間ほど経っただろうか。
気がつけば東京駅周辺は焼け野原のようになっていた。就活生の中には深い恨みを持つ者も多くいるらしく、一片の瓦礫すら残らず跡形なく消え去ったビルがいくつもあった。
そろそろ獲物がなくなり、皆が次の標的を求め品川方面に向かおうとしたその時である。
一筋の禍々しい光が一人の就活生の心臓を射抜いた。
「!?」
その光の出どころには、人事がいた。
「内定出すからもう就活やめてね!」
その言葉と同時にまた光の筋が一人の就活生の心臓を射抜く。
「オワハラ人事だ!」
「殺せ!」
就活生たちは猛り立った。
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