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宇宙孤児の秘密  作者: 冴木雅行
第2章 二つの反乱
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B-8.謀《はかりごと》は帳の中で

 宇宙艦隊総司令部参謀室には、宇宙艦隊第三世代と呼ばれる面々と参謀たちが集まっていた。この定例戦略会議は、現宇宙艦隊の頭脳と呼ぶべき機能を持っている。今は、情報参謀が状況報告をしていた。この会議は、惑星連盟評議会の軍事委員会が決定した戦略方針の遂行状況の確認、是正指示が主たる目的である。しかし、今回は目的が異なる。おそらく1年8カ月ぶりの緊急事態対応が目的となっていた。


「さて、メディット方面の件だが……」

参謀総長であるクリスティアン・カルマンが口火を切る。

「ああ。たいへんな事態だ。ここで対応を間違えると、全てが崩壊してしまう」

総司令エルネスト・リシュパンが応じる。

「この件で、ギリギリで保っていたバランスが崩れることになりそうですな」

キース・マイエ副参謀長が言葉を継ぐ。スキンヘッドに、口ひげが特徴の飄々とした紳士である。

「評議会への対応を早急に検討する必要があります。微妙な調整を要すると考えます」

スザンナ・カルカーロ軍務省付少佐も固い口調で述べた。白髪の交じりの銀髪だと本人は主張するが、ほとんど白髪になっている髪を短くした小柄な女性である。


 宇宙艦隊第三世代の中心となる4人が口をそろえて、困った事態だと宣言する。


 情報参謀が報告していたのは、メディット方面の一連の事態である。一辺境星系で宇宙艦隊が関わった大きな事案が3件もあるのだ。すなわち、マリアが摘発した風俗船の件、トレンス准尉の反乱の件、ショーンが摘発したテロリストの件である。しかも、問題なのは、マリアのいるマジェッタ星系の案件は、正規のルートでの報告と現場からもたらされた公益通報が、正反対と言っていいほど異なっていることだ。


 一連の案件を検討すれば、すべてメディット星系政府の影がちらつく。メディット星系政府は、惑星連盟に参加した最後の星系政府であり、まだ惑星連盟との連邦制を受け入れていない。辺境という地理的要因が大きく、他の星系政府に比して政治的、軍事的独立性をある程度保っているのである。


 それ故、対応を間違えれば、惑星連盟と参加国との紛争を引き起こすことになる。宇宙艦隊第三世代の懸念はそれであった。


「むしろ惑星連盟にとっても宇宙艦隊にとっても喜ばしい事態と考えるべきでしょう」


 参謀の一人であるジェラルド・リプマン中佐が述べる。皆が一斉に、ジェラルドの方を見る。参謀という肩書が全く似合わない筋骨隆々たる体躯。ダークブラウンの髪を短く刈り込み、陸軍大佐とでも言われれば信じられるような見た目であるが、目が細く、その所為で常に微笑んでいるように思われる。彼は、戦術参謀であり、現場での臨機応変さ、突破力に定評があるが、戦略的な思考に欠けがちであると認識されている。なので、参加者は驚きの目で、彼を見ていた。


「……ここからは、ダニエラが説明します」

ジェラルドは少しの沈黙の後、そのように述べて席に着いた。


 参加者は少しほっとした表情を浮かべた。


「……まったく、愚弟が」


 ダニエラと呼ばれた細身の女性が立ちあがる。ダニエラ・リプマン大佐は、ジェラルドの義理の姉である。彼女は惑星出身者と宇宙孤児の「ダブル(非差別用語。混血をハーフではなく、ダブルと呼ぶ)」である。眼鏡の奥からのぞく瞳は、宇宙孤児の遺伝か、黒目である。今のように、夫のために義弟を参謀として鍛えようとするのであるが、期待値が高いのか、ジェラルドが作戦参謀に向いていないのか、いつもジェラルドを叱りつけ、筋骨隆々たるジェラルドがその細目に涙を浮かべる情けない姿が参謀室では日常的に目撃されている。


「参謀総長、説明しても構いませんか?」

自分とジェラルドに向けられた生温かい目を感じてか、仕切り直すダニエラ。

「ああ、聞かせてくれ」

カルマンが応じる。


 ダニエラは、立て板に水のごとく流麗に状況解釈と戦略を語り始めた。


 ダニエラの見立てはこうだった。メディット星系政府は、経済的発展の遅れを取り戻すため、政治的、軍事的独立性を利用しようとしているに過ぎない。一連の謀略は、国家として当然の生き残り戦略である。しかし、惑星連盟としては、外敵の可能性が分かった以上、内憂は取り除いておかねばならない。したがって、今回の一連の案件は、メディット星系政府の関与が明らかであり、力関係を変化させる機会になりうる。


 もう一方で、宇宙艦隊上層部は、だいたい3つの勢力に分けられる。主要ポストを押さえている宇宙艦隊第三世代を中心とする改革派、軍官僚の生き残りを中心とする守旧派、軍権の拡大を目指す急進派であり、勢力分布は6:3:1である。守旧派は、いわば軍という制度を利用して私腹を肥やすことを目的とした金もうけ集団であり、宇宙艦隊の癌とも言える存在である。今回、マリアが摘発した案件から見えてきたのは、メディット星系政府と守旧派の癒着であり、この事態をうまく利用すれば、癌の患部をある程度取り除くことができる。


「……なるほどな」

エルネストは唸る。

「評議会も、メディットの連邦制所属を望んでいるので、その点で戦略を組めば議会対策はやりやすいかと思います」

スザンナが答える。

「概ね、そのよう方針で戦略を組むことになるだろう。しかし、宇宙艦隊全体を動かすにはあと数手足りないな」

カルマンが言う。

「その数手は、こちらから促してやりましょう」

白髪交じりの口ひげをなでながらマイエが答えた。


「ちょうどこの案件の中心にいる戦乙女と宇宙孤児の英雄にご活躍いただきましょうか」


 情報局の広報担当参謀が提案する。参謀の中で最も若手のアレクサンダー・アットウェル少佐である。大手広告代理店から宇宙艦隊に出向してきたが、広告代理店をやめて宇宙艦隊に居ついた異色の参謀である。改革派が成功した鍵はマスコミ対応の妙にある。エルネストとカルマンが実権を握った後は、宇宙艦隊に広告代理店や報道機関から出向させているのだ。スキャンダルを狙うマスコミは、守旧派への牽制にもなっていた。


「……それしかないな」


 カルマンは、個人的には彼らを戦略の道具に使うのを避けたい気持ちがあったが、それは私情だと思い直した。カルマンの脳裏に、任官後にショーンが言った言葉がよぎり、カルマンの罪悪感を少し軽減した。


「参謀総長が私たちの目的達成に必要と思われるのであれば、私をどう使っていただいても構いません。ただ、うまく演じられなくても文句を言わないでくださいね」とショーンは明るく笑っていたのだった。

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