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宇宙孤児の秘密  作者: 冴木雅行
第2章 二つの反乱
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A-4.人はギャップに弱いもの

『お疲れ様でした。マスター』

執務室に戻ると、ミミが話しかけてくる。ミミの声は、子ども独特の高音域がなくなり、落ち着いた雰囲気を纏いだしたように思う。

『ありがとう、ミミ。助かったよ』

『お役に立てて嬉しいです』


 ミミのホログラミング・フィギュアが微笑む。惑星連盟の白地に青のラインが入った制服姿である。別にショーンが夜な夜な設定したわけではない。もともとミミは、自分で毎日服装を変えていたが、最近はTPOに合わせて服装を変えるようになり、ショーンが、勤務中に呼び出すときには、この格好だ。


『ミミは、性格・行動分析ができるようになってきたね。あの訓練スケジュールの原案はほんとにびっくりしたよ』


 先ほどの会議でも、ミミがあらかじめ上級軍曹それぞれの人となりを分析していなければ、ショーンはオタオタしていただろう。少なくとも、最初の顔合わせでそのような隙を見せれば、今後の艦隊運営に支障をきたしていたはずである。あの訓練スケジュールも、目標達成とそれぞれの能力と特徴とのギリギリのバランスで調整してあるが、ミミが作った原案がなければ、最初の数週間をこの作業に充てざるを得なかったに違いない。


『そうですか? エヘへ…… 嬉しいです』


(ああ、素直な娘に育っているなあ。人間ならそろそろ反抗期を心配するころなのかもしれない。)

ショーンはふと思う。


『そう言えば、ミミ』

『何ですか? マスター』

『最近、少し大人っぽくなったね』

『ほんとですか!嬉しいな』

『ミミも大人っぽく見られるように努力してたのかな?』

『そうなの。マスターが仕事を始めたから、ミミも仕事モードを作りました!』


 ショーンは思わず、微笑む。まだまだ考えが子どもっぽくて安心したのだ。


『仕事モードとプライベートモードがあるの?』

『そうなの。でも、プライベートモードは細分化されているんですよ』

『細分化?』

『はい。娘モードと、ワガママな年下の恋人モードと、あと…』

『ちょ、ちょっと待って』

『何ですか? マスター』

『なんか、こうモードというかキャラクター設定みたいになってない? っていうか、それミミの発想じゃないでしょ?』

『はい。ミドリお姉さまが、女は演じることができなきゃいけないって熱心に……』


(やっぱりか、あの宇宙人め! あいつとの同居は、やっぱりミミの教育上よろしくなかった。帰ったら、絶対に一言物申してやろう)


 もしショーンとミミが人間の父娘であれば、過保護も度が過ぎているところである。こんな父娘関係が現実にあれば、かえって激しい反抗期を経験することになるかもしれない。


『でも、ミドリお姉さまからは、たくさんの大切なことを教えていただきました』

『ああ、なんか聞かなくても分かるよ』

『そうですか?でも、マスターを女狐から守る108の方法はちゃんと役立ってますよ』

『……ええ!? 何? 実際になんか僕の知らないところで、力を使っちゃってるわけ?』

『あ、そうだ! ミミ、メンテナンスを思い出しました! じゃあ、また後でね。マスター』


 ミミは早口でそう言うと、ホログラミング・フィギュアが消え、通常PAIモードに移行した。取り残されるショーン。


 ショーンは、ミミが都合の悪い話題をごまかしたという余りに人間らしい行為に驚嘆し、それから自分に隠し事をしていたことにショックを覚えた。その姿は、娘の成長が自分の予測以上だったことに愕然とする父親そのものだった。


――――――――――――――


 ショーンは、上級軍曹及びその部下である軍曹たちと定期的に会議を持ち、現状の共有、対応策の検討を行った。ただ、それ以上に訓練の進行に効果を発揮したのは「ショーンの徘徊」だった。


 ショーンは、この艦隊に配属される前から、ミミにこの艦隊を取り巻く環境だけでなく、所属する人員についても、ありとあらゆる情報を収集させていた。そして、配属直後には、全ての艦を自分の足で見て回った。それは、主として各艦をミミの観測下に置くためであったが、事前の情報収集で良くも悪くも目を引いた者に会うためでもあった。


 ショーンはこう考えた。――士気を高めるには、カリスマ性のあるリーダーが感動的な演説を一発やればいい。確かにその通りである。では、カリスマ性のないリーダーが士気を高めるにはどうするのか。軍隊は集団であり組織である。個人の能力を集団の力に直結させるためには、地道な地ならし作業をする必要がある。5,000人という数は、軍隊として小集団であるがゆえに、能力や心身の状態が目立って劣る者は底上げをし、目立って優れたものは水路付けをすることが不可欠なのだ――と。


 ショーンはそこを徹底した。訓練の進捗状況を逐一確認し、ミミに分析させ、良くも悪くも目を引く者を探し、軍曹らに命じて対応策を取らせた。そうした上で、ショーンは、訓練が終わった時間帯に、フラッと艦隊内の各艦を徘徊し、件の目立つ者に自ら声をかけ、雑談したり、食事を共にしたり、時には酒を飲んで騒ぎ、賭けごとをしたりすることもあった。


 ショーンは、自分にはカリスマ性などないと自認していたがゆえに、このような地道な行動をとった。しかし、もともと一般兵の間では、マスメディアの宣伝効果で人気(アイドル的なものであるが)があった彼である。フラッと現れて、一般兵に気さくに話しかけ、冗談を言い、同じ釜の飯を食う中で、アイドル的な縁遠さとのギャップが受けて、一般兵の間での人気は爆発的に高まっていったのである。もちろん、彼はほとんど意識していなかったが。


 こうして、戦時中でもなく、危機感を煽ったわけでもないのに、メディット方面分艦隊の士気は、高まっていった。士気が高まれば、当然、訓練効果も上がっていく。3カ月経つ頃には、ほぼ目標どおりの錬度に仕上がっていた。


 そこに、彼らの腕を試す絶好の機会が訪れた。

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