B-3.おしゃべりは光速を超えて
マリアは、トレンスが辞去すると、自らのPAIを操作した。
「ミドリ、今大丈夫?」
『……まったく何時だと思っておる』
ミドリの声が聞こえる。
着任に当たって家を離れる際に、ミドリが持っている通信機器を借りたのである。惑星連盟の科学技術ではここまで距離が離れていると、同時双方向通信は無理なのだ。
「ごめんね。ちょっと困ったことがあって、相談したいのよ」
『ほう。そなたが相談とは珍しいのう』
「ショーンに連絡ができればそうしてるわよ」
『おやすみ』
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
『冗談冗談。で、何かな?』
「ミドリ、人間の年齢って見分けられる?」
『ああ、簡単なことだ。遺伝情報さえあれば』
「他の方法はないの? ミドリに送信できるものじゃないと困るじゃない」
『なるほどのう。……あ、こういう方法がある』
「何?」
ミドリは驚くべき方法を言う。
「ええ? それって問題じゃない?」
『そなたが口八丁で乗り切れば済む話ではないか。私が解析しなくて済むしな』
「まあ、仕方ないわね。ありがとね、ミドリ」
『よいよい。ただでそなたの父上の家に住まわせてもらっておるし』
「そう言えば、ミドリは惑星連盟の弁護士資格取ったんだって?」
『ああ、資格があれば動きやすいからな。あと、惑星連盟の法制度も勉強できたし、まさに一石二鳥だ』
「まったく、反則でしょ。あんたの力」
『まあ、そう言うな。お主らに協力するときに必要だろう? 社会的地位というものは』
「確かにそうね。まあ、あんまり無茶しちゃだめよ」
『忠告は聞いておこう。ああ、つい先日、ショーンと通信をしたが』
「私のこと何か言ってた?」
『話を最後まで聞け。お主は』
「早くショーンの話を聞かせなさいよ」
『いや、ショーンはメディット星系に配属になるらしいが、いろいろ問題が山積しているらしい。あと、お主のことを心配しておったぞ』
「メディット星系?」
ショーンがどこに配属になるかは軍内でも機密事項に該当する。機密性は低いが。
『ああ。しかし、お主らしくないな』
「何が?」
『いや、いつもなら、ショーンが心配していたと言えば、凄まじい勢いで食いついてくるのにのう』
「私も少し大人になったのよ」
『おやすみ』
「こらー! おい、宇宙人! 信じろ!」
ミドリは本当に通信を切ったようだ。しかし、ショーンがメディット星系に配属になるのは僥倖だ。正直、マリアにもこの後の展開がどう転ぶかわからない。宇宙で最も信頼できる人がそこにいるというだけで、不安が晴れる気がした。
マリアは気持ちを切り替え、風俗船撲滅作戦を考えることにした。
――――――――――――――
結果的に風俗船の摘発は成功した。案の定、名簿の記載間違いの船員をはじめ、船員の多くは18歳未満で、風俗業務を強制されていたことが発覚し、船員の食事に成長抑制剤や成長促進剤、幻覚剤などの違法薬物が混入されていたことも判明した。マリアのち密な作戦とトレンスの手際の良さにより、物証が押収でき、船長及び乗船中の利用者の身柄も拘束できた。その中にはメディット星系政府の高官も含まれていた。
ちなみに、この臨検捜査をしたその日、宇宙艦隊広報課を通じて、ある新聞社がマリアに取材をしに来ていた。取材途中に緊急連絡が入り、そして、この大捕物である。当然、マリアが仕組んだことであるが、このスクープは惑星連盟中を駆け巡った。
おそらく、マリアでなければ星系政府高官が関与する事件の摘発はできなかっただろうし、であれば、その後の展開など神ならぬ身で予測などできなかった。だから、この現状、つまり、トレンスが新任地で反乱を起こしたのは、マリアの予見できるところではなかったのである。




