↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/30

第5話 新しいパンと、新しいスキル

 翌朝。


「アレン」


「ん?」


「お腹空いた」


 目が覚めて最初に聞いた言葉が、それだった。


 俺は隣を見る。


 当然、そこにミリアはいない。


「……夢か」


 そりゃそうだ。


 昨日知り合ったばかりの女の子が、朝っぱらから俺の部屋にいるわけがない。


 俺はベッドから起き上がった。


 そして。


「……俺も腹減ったな」


 昨日からパンばかり食べている。


 なのに飽きない。


 むしろ、まだ食べていないパンがあると思うと楽しみで仕方がない。


 俺は【食玩】を開いた。


 空中に画面が浮かぶ。


【食玩】


【パンを選択してください】


 昨日までと同じ一覧。


 ただ。


 今日は一つ、気になるものがあった。


【クロワッサン】


「これにしよう」


 名前は知っている。


 でも、食べたことはない。


【クロワッサン】


【価格:銅貨8枚】


【購入しますか?】


【はい】


 ポンッ。


 紙袋が現れた。


 袋を開く。


「……うわ」


 香りがいい。


 バターのような濃厚な香りと、焼きたての小麦の香り。


 クロワッサンを手に取る。


 表面には綺麗な焼き色がついている。


 幾重にも重なった生地。


 指で触ると、薄い層が少しだけ崩れた。


「いただきます」


 一口。


 サクッ。


「……!」


 外側は驚くほど軽い。


 何層にも重なった生地が、噛んだ瞬間に小さな音を立ててほどけていく。


 その内側は、ふんわり。


 バターの香りが一気に広がる。


「うまい……」


 表面の香ばしさ。


 中の柔らかさ。


 そして濃厚なバターの風味。


 甘いわけではない。


 だからこそ、朝食にちょうどいい。


 もう一口。


 サクッ。


 ふわっ。


「……これ好きだな」


 あっという間に一個食べ終わった。


 そして。


 もちろん袋の中にはカード。


【SKILL CARD】


【剣術Ⅰ】


「お」


 これはかなり嬉しい。


 俺はすでに初級剣術を持っている。


 でも、スキルカードで手に入る【剣術Ⅰ】がどんなものなのか気になる。


 カードを持つ。


「使う」


 光。


『【剣術Ⅰ】を習得しました』


 ステータスを開く。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【アレン】


種族:人族

年齢:15歳

レベル:1


【体力】42

【魔力】18

【攻撃力】12

【防御力】11

【素早さ】13

【魔法力】15

【精神力】12


【習得スキル】


・言語理解

・初級剣術

・食玩

・身体強化Ⅰ

・火魔法Ⅰ

・鑑定Ⅰ

・気配察知Ⅰ

・火耐性Ⅰ

・料理Ⅰ

・剣術Ⅰ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「……よし」


 剣術が一つ増えた。


 俺は腰の剣を抜く。


 部屋の中では危ないので、外へ出た。


 近くの空き地で剣を振ってみる。


「……お」


 分かる。


 身体の動かし方が昨日とは違う。


 剣を振る。


 踏み込む。


 身体を捻る。


 一連の動作が自然に繋がる。


「なるほど」


 【剣術Ⅰ】は、剣を使うための基本的な技術そのものを底上げしてくれるらしい。


 俺は何度か素振りをした。


 これなら、昨日より戦いやすい。


 そして思った。


「もっとカードが欲しいな」


 問題は金。


 カードは無料。


 だけど、パンを買わないとカードも手に入らない。


 つまり。


 カードを集めるにはパンを買い続ける必要がある。


 そしてパンは無料ではない。


「……今日も依頼を受けるか」


     ◇


 冒険者ギルドへ向かう。


 入口を開けると。


「アレン!」


 聞き慣れた声がした。


 ミリアだ。


「おはよう」


「おはよう」


「早いな」


「アレンも」


「俺はパンを食べてた」


「何パン?」


「クロワッサン」


「……クロワッサン?」


「うん」


「美味しい?」


「美味い」


「食べたい」


「じゃあ今度買おう」


「うん」


 ミリアは満足そうに頷いた。


「ところで」


「何?」


「今日の依頼、どうする?」


「昨日より少し難しいのをやってみようと思う」


 掲示板を見る。


【ゴブリン討伐】


【薬草採取】


【角ウサギ討伐】


【街道警備】


「角ウサギ?」


「比較的弱い魔物だけど、素早いから新人には少し難しいよ」


 リーゼが説明してくれる。


「でも、肉が食べられるから人気があります」


「肉?」


「はい」


 俺は考えた。


「……じゃあ、それにしよう」


「食べるつもりですか?」


「もちろん」


 ミリアが笑った。


「アレンらしい」


 依頼を受ける。


 目的は角ウサギ三匹。


 報酬は銀貨二枚。


「行こう」


「うん」


 俺たちはギルドを出た。


     ◇


 草原。


 俺は【気配察知Ⅰ】を使いながら歩いていた。


「……いる」


 前方。


 小さな気配。


「角ウサギだと思う」


 草むらが揺れる。


 白い毛。


 長い耳。


 額には小さな角。


「可愛い」


 ミリアが呟く。


「でも魔物だからな」


 角ウサギがこちらを見る。


 次の瞬間。


 ――跳んだ。


「速っ!」


 俺は身体強化Ⅰを発動。


 角ウサギの突進を横へ避ける。


「ミリア!」


「任せて!」


 火魔法。


 炎が飛ぶ。


 しかし角ウサギが素早く方向転換した。


「避けた!?」


「速すぎる!」


 俺は剣を構える。


 角ウサギが再び突っ込んでくる。


 今度は。


 剣術Ⅰを意識する。


 身体を半歩だけ引く。


 角を避ける。


 その勢いを利用して。


「そこ!」


 斬る。


 角ウサギが倒れた。


「やった!」


「一匹」


 残り二匹。


 今度はミリアが先に動いた。


「水よ!」


 水の塊が飛ぶ。


 角ウサギが横へ逃げる。


「そこ!」


 俺が回り込む。


 斬る。


 二匹目。


「あと一匹」


 最後の一匹は、かなり遠くまで逃げていた。


「追う?」


「うん」


 二人で走る。


 俺は気配察知で位置を確認。


「右!」


「分かった!」


 ミリアが回り込む。


 角ウサギが方向転換。


「左!」


「こっち!」


 俺たちが挟み込む。


 角ウサギが逃げ場を失う。


「今!」


 ミリアが水魔法を放つ。


 角ウサギの動きが止まる。


 俺が駆け込む。


「これで最後!」


 剣を振った。


 角ウサギが倒れる。


「……終わった」


「三匹!」


 ミリアが嬉しそうに笑った。


「俺たち、少し強くなってるな」


「うん」


 昨日より戦いやすい。


 カードで手に入れたスキルが、確実に役に立っている。


「じゃあ、持って帰ろう」


「食べる?」


「もちろん」


「……アレン、本当に食べること好きだね」


「美味いものが好きなんだよ」


 角ウサギを持って帰る。


     ◇


 ギルドで依頼を報告すると、報酬を受け取った。


 銀貨二枚。


 角ウサギの素材も買い取ってもらった。


 合計で銀貨三枚ほど。


「結構稼げたな」


「これならパンがいっぱい買えるね」


「そこに行くのか」


「だってカードが欲しいでしょ?」


「……まあ」


 否定できない。


 俺たちはギルドを出た。


 そして。


「今日は何を食べよう」


 俺は食玩を開いた。


 画面を眺める。


 昨日まで食べたパン。


 まだ食べていないパン。


 その中で、ミリアが指を伸ばした。


「これ」


【あんパン】


「これ?」


「うん」


「食べたい?」


「食べたい」


「じゃあ、あんパン二つ」


 購入。


 ポンッ。


 紙袋が出現する。


 開けた瞬間。


 甘い小豆の香りがした。


「……いい匂い」


 あんパンは丸く、表面が艶やかに焼けている。


 手に取る。


 ふっくらとしている。


 半分に割ると、中にはたっぷりの餡。


 黒に近い深い色。


 粒が残っている。


「いただきます」


 かじる。


 ふわっ。


 柔らかなパン。


 その中から、しっとりした餡が広がる。


「……!」


 甘い。


 でも、豆の風味がしっかりある。


 小豆の粒が舌に残り、噛むたびに自然な甘さが広がる。


 パンの香ばしさと餡の甘さが、ちょうどいい。


「……美味しい」


 ミリアも夢中で食べている。


「これも好き」


「気に入ったな」


「うん」


 あんパンを食べ終わる。


 袋にはカード。


【SKILL CARD】


【回復魔法Ⅰ】


「……!」


 俺は思わず声を上げた。


「回復魔法だ」


 ミリアも驚く。


「使える?」


「たぶん」


「じゃあ、私が使う」


「いいの?」


「うん」


 ミリアがカードを受け取る。


「使う」


 光。


『【回復魔法Ⅰ】を習得しました』


 ミリアのステータスに追加される。


「回復魔法まで覚えた」


「これで戦いやすくなるな」


「うん」


 ミリアは嬉しそうだった。


 俺はふと思う。


「そういえば、俺も何か回復できるのかな」


「アレンも使ってみれば?」


「俺は回復魔法持ってないからな」


「でもカードがあれば覚えられる」


「そうだな」


 問題はカードの引き。


 同じカードが出ることもある。


 どんなスキルが出るのかは、完全にランダム。


 だからこそ面白い。


「明日も依頼を頑張ろう」


「うん」


 俺たちは頷き合った。


     ◇


 その日の夕方。


 宿へ戻る前に、俺はもう一つだけパンを買った。


【ホットドッグ】


【価格:銀貨1枚】


「……これも気になる」


 購入。


 ポンッ。


 袋を開ける。


 今までとは違う香り。


 焼いた肉の香ばしさ。


 パンの甘い香り。


 そこに少し酸味のあるソースの香り。


「これは……」


 細長いパンに、長いソーセージが挟まっている。


 俺は一口。


 パンは柔らかい。


 ソーセージは噛んだ瞬間、パリッと弾けた。


 肉汁が溢れる。


「……うまっ!」


 肉の旨味。


 塩気。


 香ばしさ。


 そこへソースの酸味と甘み。


 パンが全部を受け止める。


 もう一口。


 パリッ。


 ジュワッ。


「これも当たりだな……」


 ミリアも食べる。


「……美味しい」


「だろ?」


「これ、毎日違うパンを食べても飽きなさそう」


「俺もそう思う」


 そして。


 最後に残ったカードを取り出す。


【SKILL CARD】


【索敵Ⅰ】


「……また便利そうなのが出たな」


 俺はカードを見ながら笑った。


 今日は剣術。


 ミリアは水魔法と回復魔法。


 そして今度は索敵。


 パンを買うたびに、俺たちは少しずつ強くなっている。


「明日は何が出るかな」


「パンも楽しみ」


「カードもな」


「どっちも」


 ミリアが笑った。


 俺も笑う。


 俺の【食玩】は。


 やっぱりハズレスキルなんかじゃない。


 少なくとも。


 毎日こんなに美味しいパンを食べられる時点で。


 俺にとっては、最高のスキルだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。