第19話 隣町でもパンを買える!ベーカリーズ、初めてのダンジョンへ
隣町に到着した。
俺たちにとって、初めて訪れる町だ。
「結構大きいな」
門をくぐった俺は、思わず周囲を見回した。
人が多い。
商人も多い。
大通りには店が並び、露店からは食べ物の匂いまで漂っている。
「アレン」
ミリアが袖を引っ張る。
「ん?」
「パン」
「……」
視線の先。
パン屋があった。
「行きたい」
「今食べたばかりだろ」
「別腹」
「パンに別腹があるのか?」
「ある」
即答だった。
リリアーナも頷く。
「あると思う」
「お前まで」
二対一。
俺に勝ち目はない。
「……分かった」
パン屋へ向かう。
◇
「いらっしゃいませ!」
店内には焼きたてのパンが並んでいる。
香ばしい匂い。
柔らかな小麦の香り。
棚には丸いパン、細長いパン、甘そうなパン。
「美味しそう」
リリアーナが目を輝かせる。
ミリアも棚を眺めている。
「こっちも美味しそう」
「お前ら、さっき食べただろ」
「見たら食べたくなる」
「それは分かる」
俺も分かる。
だが。
俺には【食玩】がある。
ここで買う必要はない。
「……」
しかし、店内のパンを見る。
焼きたて。
店で作ったパン。
それはそれで興味がある。
「一個くらい買うか?」
「うん!」
二人の返事が早い。
俺たちはそれぞれパンを一つ買った。
俺が選んだのは、チーズ入りの丸パン。
温かい。
半分に割る。
中からチーズがとろりと出てくる。
「いただきます」
一口。
ふわっ。
パンの柔らかさ。
続いてチーズの濃厚な塩気。
「美味い」
焼きたてというだけで、やっぱり違う。
リリアーナも嬉しそうに食べている。
「こっちも美味しい」
「よかったな」
「うん」
ミリアも食べている。
「温かい」
「焼きたてだからな」
こういう普通のパンも悪くない。
むしろ、【食玩】のパンとは別の良さがある。
ただ。
食べ終わったところで。
リリアーナが言った。
「でも、アレンのパンのほうが好き」
「……」
「私も」
ミリアまで言う。
「それはそれで店に悪いだろ」
二人が笑う。
◇
宿を取る。
荷物を置く。
「さて」
俺はギルドへ向かうことにした。
隣町にも当然、冒険者ギルドがある。
中に入る。
受付へ向かう。
「依頼を探していますか?」
「はい」
掲示板を見る。
見慣れない依頼が多い。
その中に、一枚だけ気になるものがあった。
【地下遺跡周辺・魔物討伐】
【報酬:銀貨五枚】
「地下遺跡?」
「はい」
受付嬢が説明する。
「町の外に、小規模な地下遺跡があります」
「ダンジョン?」
「一般的にはそう呼ばれています」
「中に入れる?」
「はい。浅い階層なら許可も必要ありません」
「なるほど」
リリアーナが目を輝かせる。
「ダンジョン!」
「行ってみたい」
ミリアも頷く。
「じゃあ、この依頼にするか」
「はい」
依頼を受ける。
◇
翌朝。
俺たちは町の外へ出た。
目的地は地下遺跡。
街道をしばらく進む。
丘の向こう。
石造りの入口が見えてきた。
「これがダンジョン……」
リリアーナが呟く。
「思ったより普通だな」
入口が開いている。
中は暗い。
「灯りは?」
ミリアが聞く。
「これでいい」
俺は【食玩】を開く。
「パンとは関係ないものは買えないんだったな」
「そう」
リリアーナが頷く。
「じゃあ松明とかは無理?」
「無理」
「残念」
「普通に持ってきてある」
俺は荷物から松明を出した。
「準備してきたの?」
「一応な」
火をつける。
三人で中へ入る。
◇
地下は静かだった。
足音が響く。
石の壁。
ところどころに古い燭台があるが、火は消えている。
「ちょっと怖い」
リリアーナが言う。
「怖いなら俺の近くにいろ」
「うん」
すぐ隣に来た。
肩が触れそうな距離。
「……」
ミリアも反対側に来る。
「私も」
「……」
二人に挟まれた。
「近くにいすぎじゃないか?」
「怖いから」
「私も」
「そうか」
俺はそれ以上何も言わなかった。
しばらく進む。
「来る」
索敵Ⅰ。
「前方に三匹」
「分かった」
リリアーナが弓を構える。
暗闇からゴブリンが出てくる。
「撃つ!」
矢。
一匹。
ミリアの火球。
二匹目。
俺が走る。
三匹目。
剣で倒す。
「問題ないな」
「うん」
さらに進む。
魔物が何度か出てくる。
だが、三人の連携で問題なく倒せた。
「楽しい」
リリアーナが言った。
「ダンジョンって楽しいね」
「まだ浅いところだからな」
「もっと奥へ行きたい」
「今日は依頼だから、無理はしない」
「分かった」
◇
依頼の討伐数を達成した。
「戻るか」
「うん」
帰ろうとした、そのとき。
「……」
俺の腹が鳴った。
ぐぅ。
「……」
リリアーナを見る。
「……」
ミリアを見る。
二人とも俺を見る。
「昼飯にするか」
「パン!」
「パン」
即答。
「ここで食べる?」
「ここで」
俺は【食玩】を開く。
地下遺跡の石壁。
薄暗い空間。
その中でパンを食べる。
なんだか妙な感じだ。
「何にする?」
「サンドイッチ!」
リリアーナが言う。
「私は……たまごサンド」
ミリア。
「じゃあ俺はハムチーズサンドにする」
購入。
ポンッ。
三つの紙袋。
開ける。
俺のハムチーズサンド。
柔らかな食パン。
薄切りのハム。
そしてチーズ。
持っただけで、パンがふわっと沈む。
「いただきます」
かじる。
ふわっ。
最初にパンの甘み。
続いてハムの塩気。
チーズが舌にまとわりつく。
ハムの旨味。
チーズのコク。
そしてパン。
「……美味い」
シンプルなのに強い。
パンそのものが美味しいから、具材が少なくても満足できる。
もう一口。
今度はハムとチーズを一緒に噛む。
塩気とコクが広がる。
「やっぱりサンドイッチはいいな」
「美味しい」
ミリアはたまごサンドを食べている。
卵がたっぷり入っている。
「これも美味しい」
「一口交換する?」
「いいの?」
「うん」
ミリアからたまごサンドを受け取る。
一口。
卵の優しい甘さ。
マヨネーズのコク。
柔らかなパン。
「美味い」
「でしょう?」
ミリアが少し嬉しそうにする。
リリアーナがこちらを見る。
「私も交換したい」
「いいぞ」
「じゃあこれ」
リリアーナのサンドイッチを受け取る。
一口。
ハムと野菜が入っている。
「これも美味い」
「でしょ?」
三人でサンドイッチを食べる。
地下遺跡の中なのに。
妙に穏やかな時間だった。
◇
食べ終わる。
「カードは?」
リリアーナが聞く。
「ああ」
紙袋からカードを取り出す。
【SKILL CARD】
【魔力回復Ⅰ】
「お」
便利そうだ。
俺が使おうとすると。
「アレン」
ミリアが言った。
「私が使っていい?」
「もちろん」
カードを渡す。
ミリアが持つ。
「使う」
光。
『【魔力回復Ⅰ】を習得しました』
「どう?」
「少し、魔力が戻る感じがする」
「じゃあ魔法使いにはかなり便利だな」
「うん」
ミリアが嬉しそうにカードを見る。
「ありがとう」
「どういたしまして」
俺たちはダンジョンを出る。
◇
ギルドへ戻る。
依頼を報告。
討伐証明を提出。
「お疲れさまでした」
銀貨五枚。
報酬を受け取る。
「これで依頼達成」
「やった!」
リリアーナが喜ぶ。
「初ダンジョンも無事終了だな」
「また行きたい」
「次はもう少し深く?」
「うん」
ミリアも頷く。
「私も行ってみたい」
「じゃあ、次の機会だな」
三人でギルドを出る。
隣町に来て。
初めてのダンジョンへ行って。
依頼も無事に終わった。
順調だ。
ただ。
「夕飯、何にする?」
「パン!」
「パン」
「……やっぱりそうなるよな」
ベーカリーズなのだから。
それでいいのかもしれない。
俺たちは笑いながら、夕暮れの町を歩いた。




