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「今日も可愛いわ、オリビア。ますます、アレクサンドラに似てきたわね」
「ありがとうございます。伯母様も変わらずお綺麗です」
「まあ。嬉しいわ」
私の対面でお茶の入ったカップを傾けるのはシンプルながら質のいいドレスに身を包んだ金髪の女性。彼女はジョセフィーヌ・ホワイティオ。ホワイティオ国の女王で、オリビアの実母の姉、つまり伯母だ。
女神様と会った後、私はジョセフィーヌ女王陛下の元を訪れていた。というか、こちらの用事が元々あったので、女神様へ会いに行ったのはついでだったりする。
さて、今回陛下に呼ばれた理由は陛下……、伯母様が私を愛でたいがため。末の妹、つまりは私の生みの親であるアレクサンドラを溺愛していた彼女は、母親に生き写しの私のことを非常に可愛がっていた。それで、月に三度はお城に呼ばれているのだ。
一応、その呼ばれる名目としては病弱な王太子の話し相手だけど、なにせ病弱。いざ行っても体調不良で面会謝絶なことも多く、大抵が伯母様とのお茶会になっている。実際、今日もそうだ。
伯母様は私とお茶ができて楽しそうだけど、少し残念そうでもあった。
実はこの人、私と自分の息子の縁談を目論んでいるのだ。
私は絶対に断るつもりだし、最悪国外逃亡するのも有りだと思ってる。それくらい嫌。
ものすごく多忙な王妃になるのが嫌ってのもあるけど、王太子と結婚すること自体が嫌だ。なんせ原作開始時には病没しているので、このまま婚約でもしようもんならその内に婚約者探しが振り出しに戻る羽目になる。
なので、このままただの従姉妹としてそっとフェードアウトしていくつもり。それなのに。
「もしよければオリビア、アシュレイの、あの子の顔だけでも見ていってあげてくれないかしら。執務がないからって、今日も部屋に籠りっきりなのよ」
「え……」
「顔を見るだけでいいから」
伯母様は女王様である。そんな彼女のお願いを断れるわけもなく、私は引きつった笑いを浮かべて頷くしかなかった。
さて、そんなわけで王太子殿下の私室に向かう途中。伯母様の差し金か、殿下の部屋に向かうのは私だけで侍女の一人もついていない。それが少し心細くて、女神様に渡されることのなかった試作品の魔封じの腕輪をお守りのように握りしめて歩いていた。すると、
「誰だい?ここより先は僕の部屋しかないよ」
お城は広いので、当然ながら廊下も長い。そんな廊下の端と端の距離、豆粒ほどの人影が喋った。この廊下の先には王太子の部屋しかない。つまり、この声はその方本人である。
さて、私はそんなところから声をかけられるとは思っていなくて、それはもう驚いた。そう、持っていた腕輪を落っことすくらいに。
腕はコロコロと車輪のように転がり、やがて廊下の端へ。慌てて追いかけるも、殿下の足にぶつかってやっと止まった。
殿下はその名をアシュレイという。長い真っ直ぐとした黒髪の男の子で、お人形のように端正な顔立ちをしている。そのあまりの美しさに幼いながら既にファンクラブがあると聞くほどだ。
「も、申し訳ありません!」
「オリビア?どうしてここに?」
「その、伯母様が……」
「母上のお節介か。面倒をかけてすまないね」
「とんでもありません」
すべてお見通しらしい。殿下は腕輪を拾い上げて、しかし腕輪に触れた瞬間に動きをぴたりと止めた。
「これは……?」
「わ、私のです!拾っていただいてありがとう御座います!」
殿下が不思議そうに腕輪を見つめている。魔力がある人間なら腕輪が何かおかしいことわかってしまう。まだ何がおかしいのか気づかない内に腕輪を取り返そうとするも、手は空を切る。
なんせ、殿下はお兄様と同じ五つ年上の十二歳。七歳女児との体格差は大きく、腕輪を持った手を頭上に掲げられてしまえば到底届くことはない。
「オリビア、これはなんだい?」
「う、腕輪です!ただの腕輪!」
「ふぅん。……これが?」
殿下が言った瞬間、ぽろぽろと腕輪に成った魔石が落ちた。言い逃れや誤魔化しは出来そうにない。
「……魔封じの腕輪といいます。つけると魔力が吸われて魔法が使えなくなりますが、その魔力は魔石に変換されます。そして、他者からぶつけられた魔法の効果も無効化します」
「出どころは?」
「それは……」
「言えないなら、母上に報告して調べていただくことになるけど」
「私です!私が作りました!」
女王陛下にチクられて、国をあげての大捜索をされては堪らない。そんなことをされたら、いよいよもって公爵家を継ぐか国外逃亡の二択になってしまう。
殿下の言葉に被せ気味に言えば、彼は目を丸くして「君が?」と。そりゃあ、こんなロリがそんな精巧な造りの腕輪を作ったとは信じがたいよな。でもそれが事実。
「信じられないなら、自白剤でも魔法でもなんでも使って構いません。ただし、出来れば他の人には、特に伯母様には言わないでください」
「……わかった。信じるし、母上には言わない」
「あ、ありがとうございます!!」
「その代わり、この腕輪をくれないか」
「え?なぜ……?」
「なぜって。魔法攻撃を防げるなんて万能アイテム、狙われやすい人間なら欲しいに決まっているだろう?魔法は使えなくとも、僕には守ってくれる人間が大勢いる。いっそ防御に振り切った方が都合がいいんだよ」
そういうものか……?少し疑問に思ったけど、よくよく考えたら私がお母様に魔封じの腕輪を贈ろうとした時も同じようなことを言っていた。
これにはもうぐうの音も出ず、その後はただおとなしく口止め料として腕輪を献上したのだった。




