第三十九話
「へへっ………まじでやんの?」
「当たり前だろ?せっかく再会したんだ……しっかり味合わせてもらうぜぇ………」
今は使われていない廃倉庫。
そこで何やら不穏な空気が流れていることを俺はまだ知らない。
◇◇◇◇◇
今日は金曜。待ちに待った文化祭の初日だ。
開始は9時。今はその1時間前。
「よーし!みんな着替えたか!?」
「おー!」
とりあえず全員着替え終わったみたいだ。
「材料は足りてるかー!?」
「余るくらい買ってるよ!」
「よーし!そんじゃあみんな!頑張るぞー!」
「「おー!!」」
優勝か………
色々協力したんだし、せっかくならしたほうがいいよな
「優勝できるといいね!紅葉!」
「そうだね、頑張ろう」
「うふふ。うん!」
こうして、俺たちの文化祭が幕を開けた。
「うちのクラスに来ませんかー?」
「女性なら執事、男性にはメイド、出す料理は最高品質で提供いたします。興味のある方は是非!」
まずは客引き。とりあえずは話題性を作るべきだと考えた俺たちは店を開くのを開始から30分遅らせその間に学校中でナンパする。
これに興味が出た人が教室の前に並べば、たちまち有名になったり、ついつい好奇心で並んでしまう。というのを狙っている。
「お、そろそろ30分だし、戻ろうか!」
「そうだね」
そうして、教室に戻ると教室の前がなかなかの行列である。
「おー、並んでる並んでる!作戦成功だね」
「うん、出だしは良好だね」
「よ!お二人さん!もう開放だぜ!」
「うん」
「あと、こないだみたいなことはやめろよ?暦月」
「わ、わかってるって」
文化祭でのシフトは基本的に暦月と一緒だ。
なんでも暦月がどうしてもとお願いしたらしい。
「よし!そんじゃ、開放!」
その掛け声と同時にドアを開ける。
「「いらっしゃいませ!」」
「「おー!」」
俺たちの姿を見ると客は歓声を上げ、次々と中に入ってくる。
俺もとりあえず、並んでいる女性まで歩き声をかけ、接客をする。
「いらっしゃいませ、お嬢様」
なんということだ。
打ち合わせで俺たちはこんなセリフを言わせられることに決まったのだ。
これに関しても暦月はうるさく、何十回もお嬢様と言わせられた。
とはいえ、練習の成果もあり、完璧な笑顔だ。
いつもの数百倍爽やかだ。
「何名様でしょうか?」
「2人です!」
「わかりました。それではお席へご案内します」
「はい!」
完璧な接客。無茶苦茶練習したからな。
「彼女とかいるの!?」
「後で会おうよ!」
まぁ、当然こんなことも聞かれるがそれに関してもきちんとマニュアルがある。
「まさか……今はお嬢様たちが彼女のようなものですよ。まだシフトがしっかりと決まっていないので、お誘いの方はお答えできません」
濁しつつ優先する。これがマニュアル。
背後から誰かの殺気が飛んできたけど気にしない。
「それではこちらがお席です」
「おー!ありがとう!」
椅子を引き、2人を座らせメニューを手渡す。
「こちらがメニューとなります」
「へー、喫茶なのに色々あるね」
「五つ星のシェフから頂いたレシピを使い、何度も特訓を重ねたので料理の味も最高品質です」
「へー、すげーじゃん!」
「うんうん!」
「それでは注文が決まりましたらお呼びください」
「「はーい!」」
それだけ言うとまた別の人の接客をしに行く。
うわぁ……………
作り笑顔で気持ち悪いセリフを吐く。
精神的にものすごく疲れるなぁ。
俺はシフトが終わるまでの間、そればかり考えていた。
「休憩入りまーす」
「えーい」
隣のクラスの休憩所に行く。
「おつかれ〜」
「あぁ、暦月か……」
「ふふっ、だいぶ疲れたみたいだね?」
「あぁ……………神経削る………」
「うんうん。頑張った頑張った♪」
そう言うと俺の頭をよしよしと言いながら撫でてくる。
「うわっ!いいな!」
「おのれぇ紅葉!」
「橘さん!俺たちも頑張りました!」
男子たちの嫉妬の目線が突き刺さる。
「ダメダメ!私は紅葉の彼女だから!」
「そゆこと………これは俺の特権」
「うえっ!……………紅葉嫌がらないんだ……」
「嫌がると思ったのにやってたの?」
「いや、そういうわけじゃないけど……いつもクールだし、なんかこういうのは………」
「少し変わってるけど、俺だって男子高校生だよ?可愛い彼女からこんなふうにされたら嬉しいさ」
「か、可愛い………ふへへ…………男の人って頭撫でられるの嫌がるって聞いたけど?」
「じゃあ俺が特別なのかもね………」
「ふふふ………どうする?今から一緒に回る?」
「ふわぁ…………お昼まで時間あるよね?しばらく休憩させて………」
もうあれだ。頭を撫でられて落ち着いたのかすごく眠い。
昨日は早くに寝たし、今日だって特別体力を使ったわけではないが、神経を削ったからね。精神的な疲れがマックスだ。
「うふふ………それじゃあ膝枕でもしてあげようか?」
「うん、よろしく」
「今日は甘えんぼだー!」
速攻で暦月の太腿に頭を乗せる。
メイドのスカートなので、短い。
頭は生足にあたる。
「かなり疲れたんだねー」
頭を撫でながら、俺の顔を見下ろす。
「まぁね…………ていうか、接客中に殺気飛ばすのやめろよ」
「だって……お嬢様たちが彼女とか…………」
「マニュアルだし、暦月もそう言ったろ」
「私のは本心じゃないから」
「俺もだよ」
「じゃあ紅葉の彼女は?」
「暦月ちゃん1人だけです」
「うんうん。大好きだよ、紅葉!」
「ありがと…………30分したら起こして………」
「んー、まだ俺も。は言わせられないかー」
俺は暦月の太ももの上でゆっくり目を閉じる。
意識が遠くに行く。
「ふふふ………おやすみー………」
俺の頭を撫でながらそう呟く。
ほんと…………男子どもが嫉妬するのがわかるよ……
完璧な彼女だよ。暦月は。
俺には少々、もったいないくらい………
だからこそ、俺は暦月の気持ちに誰よりも応えたい。
しばらくして、
俺の意識は完全に消えた。
んー、甘いなぁ………
最近紅葉が普通に甘えてるような気がする。
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