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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第3章 学生 シエル
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第32式


帝都にある魔法学校の創立記念祭、帝都を挙げての建国記念祭を明日どころか数時間後に控えた夜。

現在帝都には、名有りの迷宮の保持者がほぼ揃っていた。勿論半数以上が貴族であるから祭りのために帝都に来ているし、他の保持者又は攻略者は元々帝都住まいの騎士や冒険者であるため、揃ったのは偶然でもなければ、珍しいことでも無かった。問題もなかった。……今までは。


前夜祭のその中心部で大きな2つの塊が対峙しているのが、街中にある屋敷の窓からはよく見えていた。その2つの人だかりの中心は、どちらも迷宮攻略者である冒険者だ。確か片方は明日の武術大会に出場する筈だが、こんな時間に油を売ってていいのだろうか。


「目立つねぇ……」


シエルをいたく気に入り、身元引受け人と保護者を主張し、彼女を自分の屋敷に住まわせている自称おじいちゃん。

本名をトルシェニコフ・ロシュフォール・グラーティアスという。

彼は帝国において大魔術師として名高く、帝国にいて知らない者が居ないと言われ、その影響力は国王に匹敵すると言われている。まあそれは少々事情があってのことなので、詳しい貴族や歴史事情は置いといて、教科書に載ってる中でも超大物である。

国の要職を退いて、国外へ逃げたのに手に負えないからと言われて皇帝より押し付けられた仕事は、極秘か重要任務ばかり。しかも火力で何とかなるような件では無い。今日も今日とて、浮かれまくる国の人々の気配をよそに全く解決する気配が微塵もない任務たちに時間を割いていた。全ては翌日の為であると自分に言い聞かせて。


そんな彼は明日、シエルの護衛を兼ねて一緒に創立祭を回る予定でいるし、そもそも結構なお歳なので、早く休むに越したことは無いはずなのだが、彼は現在、騒ぎを部屋の中から見ていた。


酒が入って、冒険者たちの喧嘩でも始まったかなと最初は思い、この喧騒で眠っているであろうシエルが起きて万一にでも明日寝不足になったらどうしてくれよう、と既に屋敷に張ってある結界を増やし、更に防音魔法までかけた。

迷惑な連中の顔を見ておこうと窓を見たのだ。そして見覚えのある顔だと気付いた。その2人の周りにいるのが、魔法騎士団や第2騎士団の一員であった事が気付くのに一役買った。現在帝国で起こっている、迷宮所持者襲撃事件の為に各保持者たちに付けている護衛たちである。シエルにも第3皇子、自分の弟子、魔法騎士団からのスカウトが来ている公爵家嫡男が護衛として配置されている。護衛よりも護衛される側が強いという、ほぼ意味のない護衛だが。むしろ護衛側が護衛されていると思われているが。


まあそんなことはどうでもいい。グラーティアスは自室の窓からその外の喧騒を見つめ、不意にいつも隠れている瞳に不快感を滲ませた。視線の先で、酒を巡って争っていたと思われる保持者の1人が急に意識を失って倒れたように見えた。周りが騒めき出すから、何かあったのは間違いない。

幸いだったのは、その冒険者が倒れて怪我をする前に支えられる位置に護衛がいた事と、……人混みの中ではなく上からグラーティアスが見ていたことで、見落とされずに済んだ事だった。…何をかって?


「……随分嫌な感じがしたねぇ」


姿も形もない。強いて言うなら、風のようなものだった。変な魔力を感じて、グラーティアスが目を向けた先で保持者の冒険者が気絶し、その足元の景色が一瞬だけ歪んで、……そして消えたのだ。何かがいて、何かをしたのは間違いない。……が、ここからでは何もわからない。

周りは酒の飲み過ぎだろうとその処置をするが、それでは恐らく起きないという確信があった。グラーティアスはそう確信して、執事を呼び出して伴い、屋敷を出て騒ぎの中へと向かっていった。



メイさんの気配で目が覚めた。

城の図書館の本の大移動の後、魔力消費量が少なかったせいか、また髪の色が暗くなってきている。でもまあ、今日使いまくれば元に戻るか。


「……ねえ、メイさん」

「いかがなさいましたか?」

「おじいちゃんは出かけたの?……それも夜に」


メイさんは沈黙した。うん。ちょっと嫌な質問の仕方だったかな。


「用事の方に興味はないよ。おじいちゃんは今日の創立祭に来れるのかな?」

「……はい。そちらは大丈夫です。国王陛下の建国記念のスピーチが終わる頃……創立祭が始まる頃には、学校に到着するとの事です」

「そっか。じゃあ今日は1人で学校に行っていいの?」

「問題無いかと。ただ……」

「転移魔法で飛ぶから大丈夫」

「かしこまりました」


いくら学校のある区画に近い貴族屋敷といえど、世の中何があるか分からないしね。前に歩いて登校して学習したよ。登校するだけで感謝状と嘆願書の山はもう嫌だ。

クラウスは大会委員だし、そもそも創立祭の実行委員だから今日は私に張り付いてる余裕はないし、クロイツさんも教授としても皇子の右腕としても忙しいし……。レイヴィスさんは武術大会出てから学校に来て来年入学だという弟の案内をするように言われてる。だから今日私の護衛として張り付くなら、多分おじいちゃんだと思うんだよね。

それを分からない人のはずがない。となれば……何かあったとしか考えられないよね。おじいちゃんが出るほどの事だし。


「今度は誰が襲われたのかな」


その言葉を聞いていたメイさんは、少しだけ身体を強張らせた。それを知らないふりをして、学校まで転移。


「シエル様!」

「ミティ、おはよう」


野外ステージまで行くと、ミティが迎えてくれた。出演者たちはすでに準備を終えている。皇帝が国全体に建国記念のスピーチをし終わり次第、お祭りが開始だ。皇帝は城から、魔法で国全体に放送かけるんだって。便利だね。で、それが終わると、今閉じている学校の一番外側の門が開く。馬車が次々入ってきて、貴族たちが姿を見せて……って流れになるらしい。

外側の門から校舎までの間に中門があり、その内側に私たちが居る。基本的、学生たちの出し物とかは校舎の中でやるので、中門から校舎までの間で興味を引けなければ召喚術クラスには客が来ないということである。まあ、お目当ての場所が校舎内にあるのに、わざわざ途中で道草食おうとは思わんだろうな。それでも貴族である。話題性のあるもの、芸術性のあるものを正しく評価出来る人は出来るし、その価値があるとわかれば食いつかないはずがない。しかも連日皇子が夜会に出席して、創立祭の宣伝もしているのだから、創立祭での出来事や感想などは、次の夜会の際に役に立つ。そのお眼鏡に叶うにも、宣伝は本当に大切なのだ。

……この演劇自体に価値がないから見向きもされてこなかったのではと思う人がいる?……そうかな?このシエルちゃんが、……元公爵令嬢でなおかつ前世で散々良いもの観てきたこの私が、価値があると判断したのに?


「公演は、開催宣言後、今日明日各一度だけ、だもんね。任せて。昨年度の客数なんて軽く超えてみせるよ」

「は、はい……!……ですが、どうなさるおつもりですか?手伝わせてくださいませ。シエル様は校内の武闘会にも出場なさいますし、あまりご無理は……」

「だーいじょうぶ。私は、特に疲れないよ」


魔力も有り余ってるからね。それよりもほら、放送始まるみたいだよーと言えば、学生達と揃って静かになった。ああ……ちゃんと聞くんだ……きみら……。

私なんて校長の話とか、開会宣言とかそあいったものは全て真面目な顔して聞き流して、後から友人経由で要点だけ聞いていたのに。

え?皇帝の言葉なんだから、聞くのは国民として当然?……わけわかめ。


というか、私、別にここの国民じゃないし。根無し草ですから。旅人ですから。

なので話はろくに聞かずに、私はこの後の準備です。まあ、ケットシー呼び出すだけなんだけど。


「ごっしゅじん!ご機嫌ですにゃあ?」

「うん。ご機嫌。お客さんいっぱいきて、ミティ達の劇を見て楽しんで帰ってくれたらもっとご機嫌」

「頑張りますにゃぁ!」


片手に持った画用紙にはご主人の機嫌第一と書いてある。うん、ありがとう。それしまっていいよ。

もう片方の手にはラッパがある。何をするのかって?もうすこししたら分かるよ。


「シエル嬢」

「あれ。おじいちゃん。意外と早かったね。創立祭が始まってからくるのかと思ってた」


皆静かに陛下のお言葉を聞いていて、なおかつ私は劇場の裏側の人目のつかないところでケットシーと準備しているため、大魔術師であるおじいちゃんの急な登場に驚く人は……ああ、ミティはいるけど、感動と驚愕で腰を抜かして声も出ないらしいからノーカン。というわけでいない。

まだ門は開いてないから、おじいちゃんは転移魔法か裏口から入ってきたんだろうね。この部外者め。不法侵入罪で捕まったりしないでよ?


「門が開いて貴族どもの列に並んで待ってる間にシエル嬢にお近付きになろうとする輩を撃退する手も考えたんだけど、流石に入る前に大量に貴族が倒れたら、創立祭どころじゃ無くなるだろう?」


うん、貴族を狙ったテロかな?


「シエル嬢、昨晩また迷宮保持者が何かに襲われた」


人が居ないうちに話しておこうと思って。と、詳細を話そうとしているので、ミティに目を向ければ、彼女は黙ってこちらに背を向けて耳を塞いだ。いい子。後でご褒美に私特製のキャンディーをあげよう。


「"何か"?」

「うん。今回は私も見ていてねぇ……。周りには護衛の騎士も、魔術師もいた。それらに気付かれずに近づいて何かをして、何処かへ消えた。色もなければ形ももなかったよ。私は遠目から空間が歪んでいるように見えたから、何かがいるのは分かったけど、それが何かを特定は出来なかった。

……倒れた保持者は、魔力切れを起こしていた。私としてはどう考えても、得体の知れないその何かに吸い取られたとしか思えなかったよ」

「魔力を吸い取る、何か」


頭にすぐに浮かんだのは例の如く禁忌魔術だけど、あんな気配があってわたしが気付かない訳はない。禁忌魔術というのは、どれだけ僅かでも、使用場所や使用者・被害者には残滓が残る。それも、数日間は。おじいちゃんはその現場に行ったのだろうし、無関係のおじいちゃんにも残滓が付いててもおかしくない。それがないから違う……とは思うけど。


「誰も気づかなかった。アレが襲ってきたなら、護衛なんて役に立たないよ。

今までの襲撃は、一応人型らしかったんだけどねぇ。シエル嬢はどう思う?」

「……さぁ。私に聞かれてもなぁー」


今までの襲撃事件とは分けて考えるべきだろうか?襲われた状況や、被害状況が違いすぎる。同じ問題として考えるには少々、想像力を膨らませすぎるくらいでないと、繋がらない。


「魔力切れ以外に何か被害は?」

「護衛の騎士や魔術師のプライドがズタボロになった事くらいかなぁ?」

「うん、全然被害がないみたいでよかった」


いや待て。問題大有りだ。


「魔力切れ?……迷宮は?」

「うん。急いで確認には行ったよ。迷宮自体の力も吸われて弱くはなってたけど、まだ生きてる。保持者の魔力が戻ればジワジワとだろうけど、元に戻ると思う」

「保持者を通じて、迷宮自体からも魔力を奪ったのか……」

「莫大な魔力を狙ってるなら、シエル嬢の前に絶対に現れるはずだから、暫く護衛の数が増えるけど、いつも通りに過ごしていいからね」

「はーい」


暫くっていつまで?と、思わなくは無いのだけれど、今はそれよりも宣伝の方である。ケットシーに声をかけると、既に準備できてるとのこと。そんな我が相棒の後ろには猫の楽隊。うんうん。なかなかジャケットが似合うじゃないか。


ミティに声をかけると、おじいちゃんにしっかり挨拶した。そうだね、権力者への媚び売りは大事だよ。貴族子女は特にね。私?誰が媚び諂うものか!私にあちらが平伏すなら兎も角、私が平伏すのは嫌だね!!


「ミティ、始まるよ。お客さんを席に誘導して。ケットシー、行こう」

「りょーかいですにゃ!」


おじいちゃんはこの場所で待機してもらう。だっておじいちゃん目当てで客に来られても迷惑だし。学校内程度なら1秒ほどでどこにでも来れるし、私の位置は把握してるから、自由に歩いてきていいって。

クラウスにもこのくらい余裕綽々と私を放し飼いにする度胸があるなら、私も期間限定で首輪付きにされるのも吝かでないというのに。


「いってきまーす」

読了ありがとうございます。

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