第22式
……はろー、みなさん。こんにちは……。
スピカお姉さんを枕に睡眠をとって、今朝はものすごーく機嫌よかったシエルだよー……。
……え?なんて?…………あー……なんで私のテンションがひっくーいか?そうだねぇ。何でだろうねぇ?
私は今、クラウスの執務室で、クラウスと対面したソファーに座って寛いでいる。彼が手に持った書類の束を離さずに、けれど無言を貫いてお菓子を齧っていた私に、諦めたように向き直った。
「……そう睨んで来ても、名前は追加はされないぞ」
「べーつにー?第三皇子殿下のこと睨んだりしませんよーぉ」
「……怒ってはいるだろう」
「おやぁー?何か思い辺りでもあるんですかねぇー?」
「……あれ以降聞いてこなかったお前が悪い」
「ええそうでしょーねぇー。そう言いますよねー。わかってますよぉー?自業自得ですよー。ちょこっと手合わせしたらそこから変な教授に目をつけられ?何故か准教授になり?進展無しで長ーい間研究者達にたらい回しにされてた研究が手元に来て?助手が出来て?厄介な事実の隠蔽工作をして?お姉さんに魔法の基礎を教える事になったという、超忙しかったここ最近の原因は、元を辿れば私が大人しくしてなかったからだもんねぇー。第三皇子殿下は散々私に大人しくしてろっていってたもんねー?何か事情があって意図的に手合わせに持っていかれた気がしたけど、それに乗ったのも私だしねぇー!」
「俺が悪かった。謝るからとりあえず言い訳をさせてくれ」
その仮面、夢に出て来たばかりなんだよ。と書類を離して、クラウスは少しお腹を手で抑えていた。どうしたんだろ。……あれ?ちょっぴり気持ちスッキリしたような?
とりあえず、わけわからないと思うから、機嫌が良かった私がいかにしてご機嫌どん底まで落ちたのか説明するね。
スピカさんをミラさんの所に送って、私は懲りずに後輩の所へアポなし訪問に行こうと、街へ出て(護衛無しで行くって言ったら、メイさんとルキさんに馬車を使うように言われた。その代わりおじいちゃんやクラウス達には止められないように目的地に着いた頃に連絡してくれるって)、一瞬小窓から見えたそれ。とあるポスターに後から書き足されたであろう文字に、絶叫した。
《武術大会出場者募集締め切りました》
はぁあああ⁈このポスター貼られたのいつだよ!いつから何処で募集かけてたんだよ!
私は腐っても元公爵令嬢。声を荒げたり(いや、大きい声出すと地味に疲れるし、あげ方間違えると喉痛める事があるから……)しないし、こういう風に知らない間に期限来てましたーとかならないように、しっかり情報収集してた筈なんだけど?
直ぐに馬車を止めてもらい、同じくポスターが貼ってある近くのお店の店員さんたちに話を伺った所、どうやら今年は、とある皇子殿下の思し召しで、学外で行われるこの武術大会は、特別に、歴代優勝者のうち8名と、とある皇子が直々に声をかけた騎士や冒険者のみが参加という事になったらしい。
「今年は何故か開催の知らせが回ってくるのが遅くて、その上これだろ?私たちも驚いたけど、この大会も丁度30年っていう区切れで、特別開催もいいんじゃないかなって多くの人が賛同したらしいよ」
「……へぇ。そうなんだ?……ところで、とある皇子殿下っていうのは?」
「ん?冒険者や騎士達に顔が利いて、尚且つ庶民も喜ぶような武術大会に関わってるんだから、ご自身も凄腕の冒険者である第三皇子のクラウス様に決まってるだろ?さては嬢ちゃん、ここに来てまだ日が浅いな?観光3日目ってところだろ〜」
あはは。……へぇ。……そう。
おっかしいなぁ。第三皇子殿下のクラウスって、私に散々大人しくしてろって日常的にお小言くれる、身分が身分なのにわざわざ護衛を引き受けた、私の知り合いと同じ人かなぁ?
「じ、嬢ちゃん……?」
「あ。何でもないよぉー。教えてくれてありがとー。お礼に果物買ってくね」
「お。気前がいいな。ありがとよ」
「いえいえー。こちらこそ、ありがとー」
バイバイと挨拶してから馬車は普通に待ってくれてた御者さんに、笑顔で目的地の変更を頼んだ。御者さんの顔色が真っ青に。わあ。おもしろーい(棒)。
「だーいじょうぶ。城の門の前まででいいよ。そのあとは回れ右して、全力で帰っていいよ」
一体何をするつもりですかと、真っ青通り越して真っ白になって来たけど。しょーがないなぁ……。手早く御者さんの首に手刀を落とし、黙ってもらう。その横に座って、気を失った御者さんが落ちないよう魔法で固定。私が手綱を握って、目的地へレッツゴー。
ルキさんとメイさんとの約束事は守りますとも。馬車で行けばいいんだよ?私が馬を操ってようが、馬車で行った事に変わりはないから大丈夫。クラウスに会いに行って来ますって、メモに走り書きして、いつも通りおじいちゃんに転移で送ってあるから、事前報告は済んでる。
そして城に向かって、私が数日滞在していたことを覚えていた近衛騎士の人たちに、城の手前の騎士達の居住区近くでばったり会い、ちょっと急用があって、クラウスいるかな!と笑顔で聞けば、休日だったらしいのに、すぐに準備して送ってくれるって!ついでに御者さんはここで預かっててくれるって!うわー、やっさしぃ!
後からクラウスに言われたよ。
あの時彼らは、私を1人で城に向かわせるのは危険だと判断したらしい。勿論私が、ではなく私以外が。だから被害を最小限に抑えるために、私をクラウスの所まで快く案内してくれたらしい。……失礼じゃない?こんな幼気な童(以下略)。
連絡を受けたおじいちゃんからクラウスに直接連絡が行ったらしく、彼は普通に執務室でお茶を用意させた上で待っていた。客人応対姿勢である。形だけは。その証拠に、クラウスが座るソファーやサイドテーブルには、書類が山積み。その手にも書類の束が握られている。
わざわざ忙しいですが、何か?なスタイルを作り出さなくて結構。
出会い頭に、俺に今日公務があって外出していたら、お前の不躾な訪問について多くの城の人間や貴族たちに色々言われることになってた。と不機嫌に言われたけど、私の護衛の役を引き受けているクラウスが、私に連絡なしに帝都の外に出る事はあり得ないし、もしそうならおじいちゃんに連絡を入れた時点で止められてる。と返せば何も言わずに書類に視線を落とした。……勝った!
そして冒頭に戻る。
「……言い訳?」
「市民街での武術大会と同日同時刻に、以前から生徒たちの希望の多かった武闘大会を、学校主催でやる事になってる」
「ふーん……」
「開催自体は今年からだが、提案企画を含めたら3年前からの大きな行事だ」
「へーえ……」
「……今回は学生だけが参加対象だが、頃合いを見て騎士達や魔術師達、それから一般の勝ち抜きという形で予選を突破した冒険者達も参加をする」
「そーなんだー?」
「先ずは学生のみの小さな大会にして、様子を見る事にしたんだ。いきなり外の大会と同じような規模でやれば、警備の問題やトラブルが起きた際の対応が遅れる。最悪の場合、次の開催が無くなる。あんなに頑張ってくれた生徒達の努力を無駄にする事になる。それは避けたい」
「はーん……」
「そこで、お前には学校の企画に参加してほしい。なので手を回した。以上」
「……ケッ」
「"ケッ"⁈」
「それを直接私に、事前に言わなかったところが心底気に入らない」
「それは……悪かったと思っている。だが、学校の企画では優勝してもお前が望むような優勝品は出せないし、お前は興味のない事はとことんどうでもいいだろ?だから先に外の大会の方に出られなくしておけば、腹いせに似たような学内の大会に参加するかもしれないと……」
「だから、言わなかった事が気にくわないって言ってんの。そういう事情で学校の企画に参加してってクラウスに言われたら、今年出るのは諦めたよ」
宣伝であっても、いざとなったら私に会場のトラブル魔法で全回収させようという目論見であっても、いつも世話になってるから、それくらいならやるよ。
「武術大会の方は、一年に一回は必ずやるんでしょ?でも今回の魔法学校の行事は、下手をしたら今年で終わり。成功がなければ次もない。クラウスが成功させたいと思うなら、私だって協力は惜しまない」
まあ協力に関しては私が煩わしいと思わない程度にだけど。
「……なに、その顔」
「いや……、まさか、そんな事を言ってもらえるとは」
思わなかった。とクラウスが言う。
…心外なんだけど。確かに私はやりたい事をやりたいようにしかならないし、興味がない事や気に入らない事は全無視か総攻撃。スペックは人外だけど、だからって心まで人間を辞めた覚えはない。
「常識と倫理から多少外れた行動をしていることについては自覚がある。けど、相手が先に非道な事をしない限りは、人間として間違っているような事をした覚えはない。
前にも言ったでしょ。
誘拐されそうなら抵抗する。
落ちた橋があれば新しく架ける。
その時の最善は何か、どれが1番自分の為になるのか考える。
割とどうでもいい、叶えようと思えば時期を見れば直ぐに叶えられるような願いと、
これからを左右する数年かけての大多数の努力とそれを達成したい友人の願いなら、後者を優先するに決まってるじゃん」
ガリガリとお菓子を食べてたんだけど、クラウスがやけに静かになったので、不思議に思えば、顔を抑えて俯いている。……え?そんなに私に友人扱いされるのは嫌か⁈えー……。地味にショック。
「友人扱いが嫌だって言われると、もう私という取り扱い注意物件を丸投げされた可哀想な人枠しか残ってないんだけど……?」
「攻略者様、お菓子の追加をお持ちしたので暫く食べてお待ちを(友人扱いが嬉しかったんだな……)」
「お茶のお代わりもありますよ(嬉しすぎて言葉が出ないんだな……)」
……なんか、生温かい目で護衛たちがクラウスを見てるけど。……まあいいか。




