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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第3章 学生 シエル
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第18式

スピカさん視点です。



可哀想だと、言うのだろうか。

一般的にみて、私という人間は、同情に値するような人間なのだろうか。憐れまれるような人間なのだろうか。


物心ついた頃……記憶がある頃から、私は既に孤児院にいた。気付いた時には親がいなかったから、そもそも寂しいという感覚がよく分からなかった。孤児院には面倒を見てくれる優しい先生たちや、同じような境遇の子供達がいた。そこで普通に過ごした。楽しく、時に喧嘩して涙して、仲直りして。そんな当たり前の人間の毎日があった。街に出かければ、見知らぬ親子の姿を見て羨ましいと感じることはあるけれど、それで寂しいと思うことは特に無かった。自分に無いものを嘆いても仕方ないと、理解していたからかもしれない。

……別に私は、変に悟っているような、聡明な子では無かったけど、小さい頃……それも6歳前後からそういう風に思えていたのは、師匠に出会った事。そして師匠が魔法の使えない子供と侮るのではなく、魔法を使うことができない人間でも根気よく分かるまで教えてくれるような人だったから、そんな人が教えてくれた召喚術の教えだったから、そんな風に思えるようになっていたのかもしれない。


《然るべきものは然るべき場所に。

望まずとも得られる人間もあれば、望んでも得られぬ人間もある。

しからばそれは、偶然であり必然である。》


それが召喚術の大前提。簡単に言えば、出来る人もいれば出来ない人もいる。召喚術を使えるような人間でなくても、それは別に大したことじゃない。と、そう言っているのだ。まあそれは召喚術に限ったことではないだろう。例えば生まれた時に魔力を持ってるか、否かとか、親がいるかいないかとか、そういう生きている上での、いろんなことに言える考え方だった。

持ってたら幸運だった、くらいの事。

そして私は、幸運だった。だから、頑張って学ぶ事にした。いつかそれが自分を救ってくれるものになるかもしれないから。


召喚術を教わって、初めて召喚に成功した時の感動は忘れない。喚び出せたのは、小さな水鳥だった。まだ子供で、弱い。親鳥から離れすぎると死んでしまうから、すぐに還した。召喚の成功率は高くない。10回やって3回成功、ぐらいの割合。しかも弱いものしか召喚できず、焦った私は師匠に何で私は上手くできないのか、強い召喚術を使えないのか聞いた事があった。師匠は、強い召喚術を使える事が、必ずしも幸せの為になるとは限らないといった。私は、ちゃんと使えるようになりたかった。使える力を持っているなら、その力を使って、力を使えない人たちの役に立てるように。という強い使命感みたいなものが何故かあった。

そして師匠に詳しく習う事になった。

私が上手く使えていなかったのではなく、陣の問題だと師匠は言った。師匠は召喚術で無害な動物を喚び出し、触れ合う事で、人の感情を育む事を目的として召喚術を教えていたので、使う陣自体、強い魔物や精霊を喚び出すような陣では無かったのだ、と。

私は言った。教えてほしい、と。魔法が使えない、貴族でもない私には関係ないが、学校には召喚術という学問がある。召喚術を極めて、研究者になれれば、私は居場所を作れる。単にそう思ったのだ。

師匠はしばらく迷った後、本腰を入れて、私を弟子にして召喚術を教えてくれた。陣の基礎型というものまで。書にすら認めていないそれを、私に教えてくれた。私は嬉しくて、より勉強した。しかし、それは急に終わりを迎えた。

14歳を過ぎたある日のこと。師匠の部屋にあった基礎魔法の教科書を何気無しに眺めて、もしも使えたら、また違った、別の生き方をしていたのかなと思って、初歩の初歩と言われる魔法で、水を生み出す魔法の呪文を唱えた時だった。手の中に、冷たさが現れた。唖然としてみてみれば、本当に朝露の一雫のような、僅かなものだが、手の中には水があった。驚いた。でも嬉しくて、すぐに師匠に言った。もしかしたら、師匠に召喚術だけでなく、魔法も教えてもらえるかもしれないと思った。けれど、それから数日後、私の父親だという貴族が私を引き取りにやってきた。私は嫌だと言った。けれど、師匠は、もう教えることは何もない。親を大事にしなさいと、私はその貴族に引き取られた。


その貴族は、貴族の妻と娘がいるそうで、私の顔も知らない母親は、その貴族の屋敷で働いていたメイドだったと言った。私を身籠り、姿を消したらしい。

妻とは政略結婚で、それなりに仲良く過ごしていたが、生まれたのが娘、しかも魔力無しだった為に不仲になり、メイドだった母に手を出したそうだ。お気に入りだったので探し続けていたが見つからず、もしかしたらという気持ちで、自分の魔力と似た魔力を探させたところ、数年がかりで私に辿り着いたそうだ。

正直な話、嫌だなと思った。男にとっては、魔力のある子供が血縁にいる事はある種のステータスであろうが、連れてこられた私の事をその妻や娘は快く思わないだろう。そんな事は容易く考えついた。実際その通りだった。

不義の子と言われ、下民の子と言われ、食事の際に同じテーブルに着くことは許されず、父親がいる時は共に食事する事もあったが、マナーがなっていない。汚いと言われた。

家庭教師が来て教えてくれる事もあったが、基本的に義姉や義母に邪魔され、学ぶという状況を作り出すことすら困難だった。

そんな状態ですら、貴族は、私を娘だとして、夜会などにも積極的に連れて行った。義母達はその度に嫌そうにしていたが、私だって行きたいわけではなかった。

魔法や魔力という、当然にあるわけではないものを、自慢して競い合うような貴族の世界が嫌いだった。けれど、魔力がある事はこの国において大きな意味を持つ。それも分かっているから、義母や義姉も、私という存在を嫌悪しつつも、追い出そうとはしない。

なら、早く、何としてでもこの家から出なくてはならない。1番手っ取り早いのは他貴族との婚姻だが、そうなったところで、私はあの貴族からは逃げられないだろうと思った。そうなれば、この国の研究者になるしかない。研究者になれば、衣食住は保障され、あの貴族の家に帰る必要はなくなる。国のための研究者となれば、優先すべきは家より国のため、あの貴族達の好きにされる事はない。そう思ったのだ。

そんな矢先のあの夜会で、私は出会ってしまった。そして引き取られてから今まで使ってこなかった陣のおまじないを使って、救おうとして、シエルちゃんに出会った。無茶苦茶な子だと思った。この国には今、こんなにもとんでもない子供がいるのかと慄いた。こんな有望株がいて、自分のような魔力も上手く使えていない、召喚術も未熟な女が、この国の研究者になれるはずがないとすら思った。

けれど、私は今、そんな子の助手にしてもらえている。とんでもない事実を知って、師匠に平謝りされて、対処法を教えられて……。とにかく、目紛しい半日……いや、数時間だった。


単独での転移魔法による移動で師匠と再会、話をして、夕方になる前にシエルちゃんの研究室に帰ってきていた。……朝に行って、夕方帰るのはわかる。何でこんな短時間で、あれだけの重大な話をして帰ってくるなんてできるんだ。いやシエルちゃんの規格外魔力と才能がこの結果に繋がったんだけどね⁉︎それは分かってるけど!目の前で非常識が起きたらそりゃ誰だって混乱す


「大丈夫?スピカお姉さん」

「……はい。少し考え事をしていただけですから」


いやいやいやいや。無理無理無理無理。

大丈夫なわけ無いじゃん。あの時も基礎型言い当てたり召喚しまくったりで規格外とは思った!だからって魔力とか、使う魔法も規格外って……!しかも何で王子を使ってるの⁈普通に巻き込む⁉︎王子も慣れてる⁉︎


「お姉さん、お姉さん。落ち着いて。私の近くにいれば多分すぐ慣れるよ」

「慣れるというより、感覚麻痺ですにゃあ」


頑張れ小娘。と、シエルちゃんの召喚したケットシーくんが物凄く上から物言ってきた気がするけど、気のせいかな。


「これでお姉さん、学校と城の間にある研究所の寮の部屋もらえるから、家帰らなくても大丈夫だよ?」

「え?」

「貴族用の部屋貰えるから、もし連れて来たい使用人とかいるなら、呼べるよ」

「え、いや、そうじゃなくて」


敬語を本来使うべき相手なのだと思う。皇子を平気で動かす、齢11の少女。何を考えているのだろう。何を思って、何を目的に生きているんだろう。何故私みたいな人間に手を差し伸べたり、何でもないことのように私が欲しかったものを整えるのだろう。

師匠と話していた件で、私を彼女の後釜に据える為なのは理由の1つだろうけど、本当にそれだけなのか?そもそも、彼女は一体、


「シエルちゃんは一体、何者なの?」


素直に出てきた疑問だった。

シエルちゃんはケットシーくんと顔を見合わせた後、何でもないことのように応えた。


「……何者か?……私はまだ、それに対する答えを持ち合わせていないよ。何者であるかは、そのものが何を成し遂げ、何を思い、何を目指すかで決まる。だから私はまだ何者でもない」


目は仮面で隠れているのに、真っ直ぐに私を捉えていた。


「何で、私なんかに、……手を貸すの」

「私なんかって卑下するの、やめた方がいいよ?

私は意思のない人間に手を貸したりしない。お姉さんは、自分の意思でどこにいるか、どこを目指すか、何をするか決められる人でしょ?そういう強い女性は何人もいないよ」


誇っていい事だ。と、そう言う。

望むものを得られるだけの働きをして貰うのだから、与えられたものを当然だと思って受け取ればいいだけだ、と。


なんで、たった11歳の少女がそんな事を言うのだろうか。言えるのだろうか。


「それに、お姉さんはちょっと知り合いに似てるんだ」


知り合い、の部分だけ、物凄く優しい気がした。多分知り合い以上の間柄だと思うけど、そこまで踏みこめるほど、私は彼女に近しくない。今はただ飲み込んで、彼女の言葉を聞くだけだ。


もうじき夕食の時間になるくらいの時に、皇子は戻ってきて、かなり疲れた様子で許可が出た。と言った。シエルちゃんがかなり軽めに労ってる。いいのかそれで。相手皇子様だよ⁈

シエルちゃんは皇子の持っていた書簡を確認すると、真っ直ぐ私をみて、良かったねと口元に笑みを浮かべた。


「"スピカ・クレッシェを我が国の召喚術次期准教授と認め、研究所寮での生活を許可する。尚、准教授になる為にシエル准教授の助手として、よく学問に励む事。

何人たりともこれを邪魔する事は許されない。以上"。……うん、皇帝のサインもちゃんとある。よかったね、お姉さん」

「おめでとう。シエルの下は大変だろうが、頑張るのは程々でいい。シエルが色々根回ししたとはいえ、それは貴女が、シエルを動かすだけの存在であったからだと俺は思う。

だからもっと、堂々としてていいと思うぞ」


シエルちゃんの手から、私にその書簡が渡った。信じられないと思う気持ちと、驚きと、……安堵だろうか。いや、嬉しかったのだと思う。私は、憐れなんかじゃない。


「ありがとう、ございます……!」


嬉しくて、泣き崩れた私に、最初お二方は驚いていたけど、シエルちゃんが優しく頭を撫でてくれた。お姉さんなのに、恥ずかしいと思わないでもないけど、それ以上に安心した。


こうして、私は居場所を手に入れた。

読んでいただきありがとうございます。

近々第1部の大型加筆修正実行計画中です。

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