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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第3章 学生 シエル
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第6式


「……んぇ?」

「ですから、魔術科・召喚科の准教授として、陣と式の研究をする気はありませんかと聞いているのです!」


いや、そんな風に言ってなかった。急に入って来たと思ったら私の代わりに授業をしてくださいと叫んだのは知ってる。




クラウスと公開手合わせをしたその次の日の休み。どこから噂を聞きつけたのか、はたまたあの場で観ていたのか、ものすごい勢いでクロイツさんを引きずりながら、おじいちゃんの家にその人はやってきた。


応接室で若干うとうとしつつ、突然前触れもなく訪れたそのおじさんを見る。クロイツさん曰く、魔法学校の召喚科の専門の教授らしい。召喚と魔法は陣を使うところで共通しているため、それなりに研究を共有して居ることがあるらしい。

そして帝国の陣と式の研究はどうやら行き詰まり始めて居るそうなのだ。式はまだ魔法では必要なために研究者も多いし、熱もあるが、正直言って、使わなくても魔法には何ら問題ない陣は研究自体廃れてきていた。陣の研究を召喚側だけでやるのはかなり困難、よってより暗い未来しかない。負のスパイラル!

そこに私と言う色々規格外がやってきた!……ってことらしい。


「……なんでクロイツさんが引きずられてるの〜?」

「シエル様が来てからこの屋敷に新しく師が結界を張りまして。許可や事前の申請が無いと門前どころか近づけない状態なんですよ。許可を得ている者の同行者であれば問題ないので、私が通行証代わりに連れてこられました」

「いやあ、君がちょうど学校にいてくれてよかったよ!」

「……紹介します。こちら、ディクトン・フィリペ教授です。専門は召喚です」


見事に使われたのか、クロイツさん……。

召喚の専門の教授って確かかなり変人と噂だったような。おかげで受講者もほぼいなくて、召喚術の研究自体が縮小又は無くなるって噂だ。……また頭のネジが1、2本ぶっ飛んでそうなおじ様だなぁ、召喚士は変人の代名詞なんて言われる事もあるって書いてあったけど、パッと見で変人かもなんて思ったのは初めてだよ。


「……召喚士、なんですよね?」

「ああ!もちろんさ!!」


ボロボロの白衣に、瓶底眼鏡、爆発したかのような髪に、生えっぱなしのヒゲ。うん……。


「どう見ても爆発物取扱系薬草士じゃん!!」

「はっはっは!よく言われる!!」

「シエル様、落ち着いてください。この人の脳内は召喚のことしか無くて、簡単に言うと馬鹿なんです」

「いや馬鹿なのと爆発してるのになんの関係があるのさ」

「せっかく喚び出しても、見た目で舐められて大抵最後は攻撃を加えられてボロボロにされてるんですよ」

「うわ、物凄く納得」


見た目で大損系か。私やお兄様達は見た目で大得系だったけどね。


「君はその歳で随分召喚に慣れているようだった!何か秘訣があるのかね!?」

「陣さえちゃんと理解してれば、喚び出すだけなら誰でもできるよ」

「いやそうなんだがそうではなく!」

「喚び出された子たちは、召喚者を見てどう思うか。それをわかってるだけだよ」


私の友人たちは、きっと貴方と契約しようとは思わないだろう。ケットシーなんかは喚び出されて召喚者見て陣に帰るまで2秒もかからないだろう。


「私のどこに問題がっ!?」

「うん、全部」

「中々に辛辣ですね!そんな所も気に入りました!是非准教授に!!」

「せめて一回召喚・契約成功してから出直してほしい」

「それなら大丈夫!私も召喚士の端くれですから1度くらいは成功してます!」

「それっていつだよ!」

「大体5年前の、学生の頃です!」

「嘘だっ!!!」


……思わず叫んじゃったよ。だって、どう見ても30手前にみえないもん!50歳はとうにいってると思ったよ!!

クロイツさんを見ると、嘘じゃないです。とフォローが入った。そんなバカな。何故召喚・契約なんて出来たんだ。


「召喚された子が可哀想……」

「……言っておきますけど、学生の頃はもっとまともでしたよ、彼。家を出て研究所に居場所を移してからああなったようですが」

「……当時の面相は?」

「え?いえ、私は存じませんが、どうやらハディルディエ公爵子息と人気を二分していたそうですよ?」


……なんですと?

失礼だとかそういうのはどうでもいい。すぐにその教授の伸び過ぎた前髪を捲り上げた。…………うん。


「クロイツさん、今から1時間くらい出かけたいから同行して」

「それは…構いませんが、何をなさるつもりで?」

「……劇的ビフォーアフター?」

「はい?」

「着いてくれば分かるよ」


クロイツさんと教授の腕を掴んで転移魔法を使う。飛ぶ先はどこかって?そんなの決まってるでしょうが。


「ラトランスおねーさーん」

「あらシエルちゃん!いらっしゃーい!!デートコーディネートをお求めかしら?ロシュに相手が殺されないように気をつけなさいね?」

「まだまだ恋人要らないの〜。

今日はコレ、何とかして欲しくて」


これ。と私が示したのは勿論教授である。クロイツさんが人をこれ扱いしてはいけません。と言ったけど、心から出てしまったものは仕方ないと思うの。

はい。此処はターシュの街のラトランスさんの仕立屋……ではなく、帝都のとある専門店街にある仕立屋です。なんで私がラトランスさんに会うために飛んだのがターシュの街じゃないかと言えば、私たちが帝都についた3日後くらいに、ラトランスさんが帝都内のお店に暫くいるよというおじいちゃんからの情報があったからです。


「……客商売の私が言うのはどうかと思うんだけど、……何この小汚い浮浪者風のおじさんは!シエルちゃん達が連れてきたんじゃなければ追い出してるわよ!?」

「いやあ、それがさあ。この人、5年前までは学生で、なおかつレイヴィス・ハディルディエさんと同じくらい人気だった、ディクトン・フィリペっていう人らしいんだ」


その名前を聞いた瞬間、ラトランスさんが持っていた衣装箱を落とした。ドサッと結構な音を立てた。大切なはずの衣装箱を落とすなんて、よほどショックだったらしい。


「あんなに凛々しかったディクちゃんが……!?そんな……!そんな事って……!!

私が許さないわ!さあ来なさい!」


有無を言わさず教授は店に引きずられていった。私とクロイツさんも衣装箱を持って店の中へ……と思ったんだけど、


「何これ重っ!」「中身は衣装では無いようですね」「一体何入って…」「ええ何を入れて……」

(蓋がズレて中身が見える。鉄でできたそれは、持ち手になる棒の上 両端に鉄の球体がついている、ストレッチや筋力を鍛える為によく使われる、所謂……)


私とクロイツさんが黙り込んでいると、お店の奥からラトランスさんの声が飛んで来たので、慌てて蓋を閉じた。


「シエルちゃん達もはやくいらっしゃーい!お茶を準備させるから!」「!……はーい!」


……恐らく総重量100キロのダンベルは見なかったことにして、私たちは店の中にそれを運び込んで、素知らぬ顔で出されたお茶を飲み、待つ事となった。ああ、勿論運んだのはクロイツさんね。軽々持ち上げてた。彼も大概だと思う。


で、1時間後。


「おー……見事な大変身」

「……あのハディルディエ公爵子息と人気を二分してた理由に納得がいきました」


野暮ったくて実験失敗したような教授をラトランスさんに丸投げしたらあら不思議。

目まで隠れてしまうほど伸びっぱなしだった髪は短く整えられ切れ長の目がしっかりと見えている。萎びた白衣や汚れたスラックスは勿論、ワイシャツや瓶底眼鏡も総取っ替えされ、冷たい風貌の眼鏡騎士然とした姿に。ちょっとMなお姉さま達が喜びそうな感じの大変身である。


「いかがかなっ!?どういう意味で連れてこられたのかはわからないが!」

「喋ると残念さが滲み出るから口を閉じろ。なるべく話すな」


せっかくのイケメンが台無しになる。と、もう教授相手だとか歳上相手だとかそういう考え一切無しで淡々と言い放つ。ラトランスさんがいい仕事した、と満足気である。


「……ところで、教授の見た目を改めた理由は何ですか?」

「見るに堪えないから」

「まあ、それはそうですが……」

「あんな姿の奴に召喚されて、仕えたいと思う?友人になりたいと思う?主人と認める?」


答えはNO。中身が残念なら、せめて見た目は何とかしないと、契約なんて夢のまた夢である。


「陣が問題なんじゃない。問題なのは、大抵呼び出す人間の在り方なんだよ」

「……シエル様は相変わらず、10歳とは思えない事をいってみせますね」

「んふふ。実は10歳じゃないのかもよ?」

「……」

「冗談だよ……?」

「それは、はい。そうですよね。ですがそのことではなく……フィリペ氏の提案の事で少し考えていたんです」

「陣と式の研究について?」

「はい。私もシエル様が適任ではないかと思いまして」

「……普段ろくに使ってないけどね」


フィリペ教授がクロイツさんの言葉を聞いて、目を輝かせて口を開こうとしたのでもう一度喋るなと言っておく。え?辛辣じゃないかって?喋らせたら話が進まないから、黙らせておくのが一番だと思うの。


「それに、研究って具体的には?改良?それとも新しい陣を作れって?どちらにしろ、私じゃなくても出来ることだよ」


陣には明確な基礎が存在し、それをアレンジする事で威力を増大させたり、範囲を広げたりする事が出来る。その陣がどんなものか理解していればだが、自分の力量と合わずとも、陣自体が呼び出される魔法や召喚物と対等であるので、魔法も召喚も成功はする。その後の魔法の威力や召喚物との契約が叶うかは、本人の力量によるが。

ミティが喚び出したミノタウルスなんかがいい例である。

そして今回の陣と式の研究について。陣も式も基礎があり、皆それを自分なりに改良する事でより魔法を強化している。

だから、正直な話、わざわざ研究する程の事でもないと私は思うのだけれど。


「その基礎の研究はいかがでしょうか。

現状、基礎は1つと決まっているはずですが、手を加えた陣によっては、2種類の魔法を発揮するものもあります。

片方の魔法の陣を基礎として意図せずその陣が別の魔法の効果も持つ。しかし、その陣を幾ら調べても、基礎とした魔法の陣の特徴しか読み取れないという事が多々あります。その陣は2種類の魔法の基礎を含んでいるはずなのに、片方しか分からない。作った本人すら。

つまり、基礎の形が何か違う状態で存在するのではないかという結論に至りました。

シエル様はそれが何かをつきとめる研究をされてはどうでしょうか」

「……もしかして、入学テストの最終問題の私の作った陣で研究室氷漬けにした馬鹿って……?」

「……ええ、まあ。

その時から目はつけていたようですが、常に高位貴族の大物が近くにいたので、声はかけられなかったそうですよ。

ですが、この前の皇子との手合わせを見て我慢ができなくなったそうです。

話を戻しますが、膨大な基礎の陣を精査するところから始めなくてはならないので、時間はかなりかかると思いますが、シエル様にとって暇つぶしにはなるのでは無いかと私は思います」


陣の研究ねぇ……。いっそ高い金積んで王都から呼ぶっていう手もあるはずなのに、それを使わないのはなんでだろ。

そう思うと同時に、暇つぶし程度にはなるってところに思うとこがある。暇つぶし、ねぇ。


「……やるって言ったら、研究する場所くれる?」

「ええ。それはもちろん。学内の教授室の一室を渡します。過ごしやすいように変えていっても問題ありません」

「うん。ならやる〜」


いい休憩所が出来るならやろうじゃないか。私は誰が見てるか分からないサロンでそれなりにちゃんとお茶を飲むより、ひっそり誰も知らんところで寛ぎたい。ついでにその姿を見てレイヴィスさんが幻滅し、関わらなくなってくれたらより儲けものである。


「……言っておきますけど、研究の為の部屋ですからね?」

「分かってるよ〜」


ものすごく疑わしげな視線は無視。

ともあれこうして、私は帝国で陣と式の研究をすることになったのだった。

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