第4夜
泣き噦るガキと、怒るガキ、窘めるガキと突っ立ってるガキを目の前に、お姉さんはこう思います。
きみら、黙ってたら物凄くカッコいい子達だよね。と。まあ、今の私と並んでしまったら普通に見えるけどね。という補足は入ってしまうが。
なにせこのシェリティア、将来美女確定童女。大きな深い青色の瞳に、それを、縁取る長い睫毛は銀色の髪と同じく艶めいて、それになにより母親に似た美しい顔立ちに、色気のある泣き黒子。結果、めちゃくちゃ可愛いのよ。私も初めて鏡を見たときはびっくりしたよねー、何この美少女って。あの時のまわりの微笑ましい目が忘れられない。恥ずかしすぎて、それ以降鏡には必要最低限しか姿を映さないし、じっと見られるのが嫌で画家さんとかも避けまくった!
さて、収拾が付かなくなってしまう前に終わらせてお母様のところへ行かなくては。え?やりますよ。ちゃんとしますとも。肉体は子供でも精神は目の前の子供達より大人ですから。
「皆様」
ぴたり、と年長の2人がこちらに注意を向けて私の顔を見るや黙り込んだ。
「公爵子息ともあろうものが、女性にぶつかり怪我をさせたうえですることが、内輪揉めですか?情けない」
年長2人の幼稚さに呆れつつも、大丈夫なのでお気になさらず。そちらの泣いている方を責めないでください。と言うつもりだったが、どうやら私は自分の心に素直だったらしい。
「ぐうの音も出無いのかしら?負け犬の方がまだ口数が多いわよ」
何か言い返してきた気がしたが、正論と現実で1つ残らず文句を潰した。
あ。やば。思わず本音が出ちゃった。と思った時には、子供の自尊心やらをどうやらポッキリ叩き折っていたらしかった。大人気なかった。すまん、少年たち。
「「「……」」」
すっかり黙り込んで折れた自尊心に呆然と現実逃避をしているらしい3名は後回し。そろそろ痛いので、挫いた足と顔の頬の傷を治癒魔法で治して、未だ尻餅をついたまま泣いている彼の前にしゃがむ。
細くて小さくて、私よりも2つ上の筈の彼はどう見ても同い年に思えた。
「セドリックさま」
なるべく優しく名前を呼べば、優しい翠色の瞳が私を捉えた。お母様がよくやってくれるように手を伸ばす。すると、意図がわかったのか、私の手に自分の手を重ねたので、私が引き上げて、共に立つ。彼の頬に手を添えてしっかりと瞳を見つめれば、彼自身も訳がわからずと言った感じだが泣き止んだ。手を離すついでにまなじりの涙を払う。
「お怪我はありませんか?」
ない。という意味だろう。私と視線は外さないものの、首を軽く横に振った。
「それはよかった」
ついでに魔封石を出してもらうと、予想通りヒビが入っていたので、私の魔力を使って修復。おどろきつつもホッとしていたので、正解だろう。
さて、お次は年長組。人間嫌い(予定)とナルシスト(予定)である。
「お二方はここに居る中では年長者です。私にぶつかってから早5分。その間貴方がたはくだらぬ時間の無駄遣いをなさいました。
そもそも、ぶつかって怪我をさせておきながら謝罪の1つも述べられないなんて、人間としていかがなものかしら」
辛辣な自覚はある。だが結構痛かったんだぞ怪我。
「反論があるなら言ってくださって構いませんが、私はさらに上乗せして返す所存です」
その後、素直にすみませんでしたと述べた2人にお姉さんは満足した。高い鼻ポッキリと折ったのが良かったんだね。やっぱり。
「ではお母様たちの所へ私は急ぎますので失礼」
さてはて、道草だわ。お母様流石に怒るかしら?その後、ドレスが少し破れていた為にバレた。というか、使用人達がことのあらましを洗いざらい私がくる前に報告済みだった。そして怒られた。別な意味で。
曰く、ステラリュートの令嬢たるもの、その程度のハプニングを避けられなくてどうします。と。
報告を受け席を外していた婦人達が戻ってきた。挨拶程々に私は部屋に帰ることにした。だってママンに怒られた。くすん。
「…厄日だ」
「jy...?ねえ、君今なんて言ったの?」
テラスから逃げて外へ。と思ったら、部屋を出てから呟いた言葉をどうやら聞かれていたらしい。…日本語だから問題ないけどね!
そこにいたのは先程終始無言だった、(お母様から聞いた話ではセドリックの従兄にあたる)ロイだった。
「独り言ですので、お気になさらず。ところでロイ様、でよろしいですか?
貴方もお怪我ありません?」
「あ、ああ。君が庇ってくれたからな。済まない。いくら君が治癒魔法を使えるからといって、痛かっただろう」
「いいえ。お気になさらずと私は申しましたわ。あの場で気の済むだけの事はしたので、もうどうでもいいです」
ロイは驚いたようだった。私としては至極当然のことを言って、大人気なく子供を黙らせただけだし。一応謝罪も聞いたし。
「君は、その、随分……」
言い淀んでいる。おそらく言いたいことは分かるが、言葉を選んでくれようとしているのだろう。
「変わってますか?」
「う、うん……」
「出来れば、気ままか気分屋と言ってくださると嬉しいです」
「……それ、褒め言葉じゃないと思うんだ」
「使う人が褒め言葉として使えばそうですしそう思わずに使うならそうでしょうね」
視線を外さずに真っ直ぐ、けれど威圧的にならぬ様に微笑みを浮かべて返した言葉に、ロイは今までの困惑を流して、そっか。と笑ってくれた。
「では、気さくなシェリティア嬢。
一緒に来てくださいますか?」
ロイは綺麗に笑っていった。
ロイに連れられて裏庭に出ると、それぞれ母親に相当怒られたと見られる3人がいた。
「あ…」
魔力がそれなりにつよいセドリックが先に気づいて声をあげた。それに伴い、残り2人もこちらを見た。
なんか、気不味い。ロイは私がその場を離れたいと思ったのを感じ取ったかのように
「シェリティア嬢を連れてきたよ」
と私の腕を掴んで言った。やべえ。逃げられねぇ。
「…あの、ロイ様。手を離していただけますか?私、自分の部屋に戻って本の続きが読みた「ねえ」……なんでしょう」
意外にも声をかけてきたのはグレル(ナルシストになる予定の男)である。彼はバツがわるそうにしながら、ごめん。と呟いた。
………素直に言えない系って、可愛いよね。私結構好きだよ。そしてよくいうじゃない?
可愛いものほど、いじめたいって。
「…なんの謝罪かわかりませんし、謝るなら人の顔を見てきっちり謝ってください。それと、謝るくらいなら最初からしないという方法もありますよ?」
「っ…せっかくボクが謝ったのに!というか何で君の顔見て謝らないといけないの⁈そのくらい見逃してよ‼」
「その人の目を見ないと反省してるか分からないですから。それに、皆様方は私より年上、つまりマナーの見本となる側なのです。
それが正式な謝罪の仕方というなら従って私も同じ事をして回ろうと思います。ついでにグレル様に教えてもらったという言葉を添えて」
黙り込んでしまった。子供相手なので揶揄ったり虐めたりという要素は限りなくないと思うのだが。うーん。
「あ、あの、シェリティア、ちゃん」
「…なんでしょうセドリック様」
「ぼく、…まだ、魔力をうまく、使えなくて…魔法の石が、あるから、大丈夫って、おもってたの。でも、びっくりして、ぼく、おけがさせちゃって、ごめんね。
いしも、直してくれて、ありがとう」
「…はい。魔封石に関してだけは、私の魔力との反発のせいですから、大丈夫ですよ。
それにその石は借り物ですね?
出所を推測するに、壊れたままでは方々に迷惑がかかってしまいそうですから」
「あ、あと。それと、あのね、…グレルは、その…ねは、悪くないんだ。
だから、ゆるしてほしい、の」
「ああ、それはわかってますよ」
は?とグレルとロイが声をあげた。セドリックもポカン、としている。
「先程から顔すら合わせようとしてくれないのが気に入らなかっただけなので」
「はぁ⁉それだけでボクに対して反抗的な態度だったワケ⁈顔は可愛いのに性格悪っ‼」
「…性格が悪いは言い過ぎだろう。多少素直過ぎるだけで。なによりお前の好みぴったりの顔とアンナ様に聞いて喜んでいたのに」
「っ、ジークは黙って!単細胞‼」
「人間は単細胞ではなく多細胞生物だとお前は言ってたじゃないか」
「そういう意味じゃないっ!」
どうやら完全に拗ねてしまったらしいグレルにジークは首を傾げた。何故機嫌を損ねたのか分かっていないらしい。つまり、あれだ。
見た目で完全に騙された。この人脳筋だ。いずれ王子の護衛とかになるのにこのまま育ったら大変なことになるぞ、ジークフリート…!
「シェリティア嬢。先程はすまなかった。君から指摘されたことは尤もだ。今後は君が兄と誇れるよう、努力をしようと思う」
「はい。…ところで、兄って…?」
「母が言っていた。俺たちはいずれ国の中枢を担い、他の貴族を束ねる存在にならなくてはならない。その為には、俺たちの繋がりが安定していることが大事だと。
シェリティア嬢のステラリュート家は女傑の一族だが、風当たりも強い。だからいざとなったら頼って貰えるくらいの甲斐性のある男になれと」
「……甲斐性…。頼る…」
うーん。お姉さん、今んところ頼る予定ないしなぁ。
「あーもー!とにかく‼僕らは君にとって頼り甲斐のあるお兄さんにならないとって話!その為に勝手に頑張るから気にしないで流して‼」
「…はぁ。まあ、そういうことなら」
「そこは頑張ってとか言ってよ」
「え?言わないと頑張れないんですか?」
「っ…!別に!」
「…そうだと言ってくれたら、ちゃんと言ったのに」
「……!」
わかりやすくしょん、としたグレル。慌てて慰めようとするセドリック。
やはり状況を読めずに斜め上の発言をしているジークフリート。そしてグレルの地雷か琴線に触れてグレルが怒りセドリックが宥めとループする。
「……」
「賑やかですね。"殿下"の未来の御付きは」
穏やかに彼らを見つめているロイにそう声をかければ、分かりやすくおどろいていた。一体いつから、と口元が動いた気がしたので、いくつかの違和感を述べれば、私の頭を撫でて、口元に笑みを浮かべた。
「僕も、君に頼ってもらえるような紳士を目指すよ。シェリティア嬢」
だから今は、秘密だよ?と。




