第3夜
シェリティアは昼に告げられたお茶会について頭を悩ませていた。なぜかといえばこの令嬢、普通の4歳ではないからである。
傑物の家に産まれた、傑物の中の傑物。魔導師にもっとも相応しいもの。という意味ではない。
「既視感、半端ねぇ」
口から出た言葉は、この世界には存在しない言語。日本語なのである。
そう、彼女は実は転生者なのである。
日本という東の国の小大国に生まれ、育ち、二十代半ばにして死んだ。
全く、通り魔め。奴のせいで私はその日発売だったクレープを食い損ねたんだぞ⁉許すまじ。食べ物の恨み、末代まで呪う。
それにしても、まさか転生するとは。
しかも転生先がこんな美少女とは。
だが転生先がこの世界とは。
そう、まさかの乙女ゲーの世界である。
中世ヨーロッパ風の魔法と剣の国をモチーフにしたこの世界は、そのまま騎士の英雄譚であればよかったものを、制作側が何をトチ狂ったのか、学園ラブストーリーにしやがったのだ。(あの制作達で作っている以上、英雄譚だったとしても絶対ラブストーリーに流れるだろうけど)
暗殺・家乗っ取り・悪女なんでもござれ。な物語であり、そして何とも面倒な事に、この私、シェリティア・ステラリュートがライバルキャラとして主人公の前に立ちふさがる。ライバルキャラといっても、特に何もしないよ?実際彼女になった私としては、ただただ、被害者だよなーって。
シェリティアと主人公は15歳の学園への入学と主人公の編入編で、月と太陽として対比される。幼なじみたちは始めは主人公への反発があるのだが、段々と絆され、1人、また1人とシェリティアの前から居なくなっていく。そんなシェリティアはある出来事を主人公たちに突かれた事をきっかけに森を枯らしてしまい、その魔力の高さを恐れられ魔王とされて主人公率いる他公爵家の幼なじみ達に殺されてハッピーエンドなシェリティアにとってはバッドエンド(というか、デッドエンド……)なのである。
そもそも、このシェリティア、かなり不憫。主人公よりもシェリティアに感情移入する人が多数出て、第2章が近々出る予定だった。
(因みに話を知っているのは後輩がやってみてください。二次元でもいい、恋をしてみましょう先輩。と、私への布教活動をしたからである。その後輩も、どうやら私に勧めたかったのは二章の方で、話を知らなくてもプレイに支障はないが、知っていた方がより楽しめるという考えから、休日に私の家を訪れて、散々ゲームをしていったんだけど、最後まで私はやらなかった。絵は好みだから見るだけみてたけど、確かに私は主人公にも、それに惹かれていく幼馴染達にも魅力を感じなかった。ただ、ストーリーが1つ終わるごとに、幸せそうに笑う主人公を見て痛みを感じた。それぐらいだった)
……さて、そんな訳で感想。
いや、ふざけんな?
なんで私が何回も理不尽に殺されなきゃなんねーのよ。そもそも魔力高いから何?だからなにって話だよなぁ。それで国を転覆させた訳でもなく、被害をもたらしたわけでもない。むしろシェリティアは年々強くなる魔力を抑え込むために必死に魔封じの研究をしまくっていた。やつらがへたに叩いたりしなければ感情の暴走から強い魔力を発動することもなかった。
と、言うわけで。
不穏な芽は早く摘むに限る。サクッと奴らの首を絞めてしまおう。
……って言えたら良かったのに。なんとその不穏分子な彼らはお母様の友人の息子というじゃないか。なんてこったい。せっかく私に命をくれたママンの、その友人の子供を八つ裂き肉片にするのは流石に気が引けた。
欲望と気分の赴くまま破壊活動をするのは悪くないと思っていたのに。
証拠さえ残さなければ、何したって責められないものね。
まあ、それはそうとして。
シェリティアが殺される理由は明快。
私としては不快な限りだが、扱いきれない程の魔力である。物語のシェリティアは、魔力を抑え込むことで無害であろうとした。その為に人としての感情まで捨てたのだ。15の少女が。
そんなの理不尽だし、無駄なのだ。結局暴走させてしまっているのだから。
ではどうするか。私の行き着いた答えは、力を飼い慣らすという事だった。精神の未熟さが魔力を暴走させるきっかけとなったとするなら、いまの私は20うん年プラス4歳…つまり精神年齢なら母より高いのだから、未熟である筈がない。
後は魔力をコントロール、完全に支配下とすれば良い。使うのは私、持っているのも私。私の身体の中の魔力は、私の一部。私の力。私の道具。私の手足。ただそれだけ。そう割り切れれば簡単なのである。
制御より支配を。どうやら一度死んだことでだいぶ好戦的な性格になった気がするが、心地いいので良しとしよう。
まあそんなこんなで、結論は常に、魔力を自在に操る魔導師となって、適当な所で貴族やめてのらりくらり気ままに過ごそう。という事になる。
…あ、で、四公爵のお茶会の事について私が悩んでいたのは、当日茶会と言う名の子供の顔合わせにくるメンツが全員シェリティアの婚約者候補という事なのである。候補、というか婚約者だ。
主人公が選ぶルートにもよるが、主人公が選んだ相手がシェリティアの婚約者になる予定なのである。と言うわけで、誰が婚約者なのかは知らんが、学園に入学した後からの公爵子息たちは、人嫌いとナルシストと引きこもりである。そのくせ騎士、研究者、魔術師としての腕は将来有望。
だ れ が き て も さ い あ く だ !
まあそんな訳で、会いたくはなかったが、腹をくくるしかなかろう。…あれ、そういやもう一人、参加者がいた様な…?
まあいっか!と割り切ってしまったが、当日私はそれを後悔することになる。せめて、せめて心の準備は出来ただろうから。
「マリア様!」
「ようこそおいでくださいました。皆様方」
馬車から次々に降りてくるのは、貴婦人と子供の組み合わせである。リリアとその息子ジークフリートは七歳。アンナとその息子グレルは七歳。その中で宰相を務めているカトリーナの夫、デュランダル公爵家の馬車から出て来たのは3人。カトリーナ、その息子のセドリック(6歳)ともう一人。
「姉の子供で、…ロイと申しますわ。歳も近いですし、参加させても?」
「ええもちろん。さあどうぞ」
マリアは楽しそうに笑っている。
実は、顔合わせといっても、四公爵家のうちシェリティア以外の3人は、既に知り合いなのである。なので今回のお茶会はシェリティアのお披露目とも言える。
「楽しみにしておりましたのよ?
シェリティア様の姿絵は手に入らなかったものですから」
「まあ、やはりそうなのですね?私も気になっておりましたの。噂ではゴドリック様が孫の姿絵を出し惜しみしているとか!」
「あの最強の矛と名高かった方がと微笑ましく思いましたけれど」
真相はどうなの?とマリアは遠回しに聞かれているのを分かっているので、苦笑を返す。
「半分は本当ですが、もう半分は違いますのよ。娘が姿絵を嫌がりましたの」
「あら…どうして?」
「曰く、自分の知らない方に一方的に知られている状態ほど、不快なものは無いそうですわ」
「まあ…!中身もよくマリアさまに似たのでしょうね」
「在学中、マリア様は知らない方から来たお手紙を、「直接私に向かってくる勇気もない殿方などに返す手紙はありません」と破り捨ててらしたもの」
「そんなマリア様がまさかお父上に命じられたからとはいえあんな方と……いいえ、この話はやめましょう。何はともあれ、容姿も中身もマリア様似の可愛らしい女の子が生まれたと聞いた時は嬉しかったですわ。
ぜひ私たちの事も母と慕ってもらえればと思います」
「……世辞でも、そう言ってもらえる方に会えて私は幸せ者ですわね。
ところで、御子息たちは?」
お茶会のテラスに着いた時、子息たちはいつのまにか居なくなっていた。が、屋敷のあちこちで使用人の焦る声や、走り回る軽い足音が複数聴こえているので、退屈なので遊び始めたのだろうとあたりをつけて、婦人たちはテラスの席に着いた。
「シェリティア様はどちらに?」
「ふふ…焦らないでくださいな。
恐らくご子息達が見つけて連れてくると思いますから」
「あら。ちゃんとお迎えができれば良いのですけれど」
「子供達が揃うまで、お茶会を楽しみましょう?噂話や世間話をして」
そうですね、と笑う4貴婦人はそれぞれが美しくそれぞれが社交界の華であり、同時に女傑。
そうして世間話や噂話と言う名の情報交換は始まったのだった。
一方その頃、シェリティアは……。
「ぅう…ふっ…ぐすっ…!」
「セド!何で制御石を外したりしたんだ」
「ジーク!セドを叱るより今はこのお嬢さんの傷を何とかしないと僕まで叱られるじゃないか!」
「…………」
泣き噦るセドリック、それを責めるジークフリート、自己保身ばりばりのグレル、終始無言でただ呆然とシェリティアを眺めるロイを前に、座り込みつつ、挫いた足首をさすっていた。
ここまでの経緯を簡単に語ろう。
まず、私はお茶会当日、あ、そういや今日お茶会じゃん。忘れてたわー。と言いつついつも通り研究。じいやに言われて渋々着替え、お母様の所へ向かおうと自分の部屋から出た。
角を曲がろうとした瞬間、嫌な予感がしたので道を変えようとしたら案の定、廊下を走った四人の男児にぶつかられ、倒れ足をくじいた。熱を持って腫れ始めている足首が地味に痛い。
それだけならまだよかったのだが、私と衝突した瞬間に、現在泣きじゃくっている彼の魔封じの石が、私の魔力に負けてヒビが入り、ハプニングが重なった結果魔法を使ってしまい、私の頬を少し掠ってしまったのだ。お陰様で、頬から赤い血がてらりと……。ああ、想像しちゃった?ごめんね?
で、現在に至る。
どうやら魔封石はかなりの強力なものだったらしく、まさか女児の魔力に負けるはずがないと思っているらしいジークフリートは、セドリックが魔封石を外したと思ったらしい。
グレルも同感なのか、セドリックをどうにかするより、女児の方をなんとかして無かったことにするのが良いだろうとジークフリートへ提案している。ろくな大人にならないわけだ。
そしてもう一人、お母様の話にはなかった人相の子供は、3人には目もくれずに呆然としてシェリティアを見ていた。
…さて、この状況どうしたものか。
お姉さん、困っちゃうんだけどなぁ。




