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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第2章 旅人 シエル
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第23陣


「……実演?」


本日数回目の休憩中。ミラさんが随分畏まった様子で、メアリーを伴い私に頼みこんできたのが水魔法を使った応用魔法だった。


「ミラさん水魔法苦手なの?」

「えっと、苦手では無いんですが……」

「……ああ、成る程。愈術特化だから氷魔法にならないんだ?いいよ」


はい、解説入りまーす。前に私が、魔力は人によって違うって言ったの覚えてるかね?それは典型的に2種類あって(というか、魔力自体普通は見えないから、大雑把に2種類に分ける時に使う言葉なんだけど)、愈術特化っていうのは、そのまま回復魔法とか修復とかに向いてる魔力特性を持ってる人のこと。攻撃特化はその逆。回復魔法とかはイマイチだけど攻撃魔法はガンガン使える上に強かったりする人のこと。

氷魔法は水魔法の応用、しかも水を攻撃特化させる使い方なのでミラさんは苦手以前にあまりパフォーマンスに使うのに向かないのだろう。多分攻撃特化のクロイツさんは得意だろうな。じゃあクロイツさんに頼もうって言っても、言いにくいだろ。然程面倒でも無いので上に向けた右手の手の平に意識を向ける。


「……教科書通りにやった方がいいの?我が願いのなんちゃらってやつ」

「シエルちゃんがやりやすいようにしてください。詠唱短縮ならともかく無詠唱なんて芸当普通は見られないので」


無詠唱って意外と簡単なんだけどね。余計な事教えてパワーアップされても困るから言わないし教えないけど。

魔力が集まるとその部分が何となく暖かくなる。そして明確に、水を思い浮かべる。すると魔力と空気が混じり合って、イメージ通りの水の球体が手の平の数センチ上に出来上がる。

ここまではメアリーも先程、水滴程度だが成功している。ここからが応用実演だ。今度は球体内の魔力に硬化せよという命令式を与える。すると一瞬で氷の球体に早変わり。メアリーがわあっ、と歓声をあげるがこれは下準備だ。更に変化を与えると、氷の球体にヒビが入り、砕ける。弾けた破片の中から現れるのは、氷で出来たドラゴン。イメージはクリスタルドラゴンです。今度はミラさんも驚いた。まだまだ終わらない。ドラゴンには立派な羽があるのです。ということで、動作を与える。すると氷で出来たドラゴンは飛翔する。その羽を優雅に動かして。まるで生きているかのように。首とか口とか胸の動きも尻尾の動きも完璧。実際のドラゴンを生で見た事がまだ無いため、動きとかの参考は飛竜である。……ああ、私が首落とした飛竜だよ?パチモンじゃなくて本物のドラゴン見たい。もっとリアリティーを出したい。


「し、シエルちゃん!凄いです!これなんですかっ?」

「氷魔法」

「そうではなくっ!」


ドラゴンを作る際に出た破片だけを水に戻して、ドラゴンの周りに漂わせ、天女の羽衣風にドラゴンに纏わせる。うん。まあこんなもんかな。


「2種類の物質の同時操作ですね。

水に硬化、変化、動作の命令式を与えることでドラゴンを。氷に液化と……流動、の式を与えて反物のように纏わせる。

まさに応用ですね」

「こ、これ、メアリーちゃんに出来ますかね……?」


当のメアリーはドラゴンに夢中で話が聞こえていない。ふよふよと私の手を離れて飛んでいるドラゴンを追って視線が行ったり来たりしている。わー、おもしろい。メアリーが出来るかどうかかぁ。……無理じゃないかな。だって姿くらましを素でやってたくらいだから、目立つのは苦手で引っ込み思案。そんな人間が派手に魔法を使う?それにヒロインの私討伐の主な役割は治癒、回復魔法とサポート。どう考えても…。


「メアリーの魔力は多分愈術特化だよ」

「えっ…じ、じゃあ」

「氷魔法にならなかったから、応用見せてくれってミラさんは言ったんだと思うけど、かなり練習しなきゃ、形にすらならないよ」

「それを先に言ってください!なら光魔法の回復術から試したのにっ!」

「そこは貴女の見定めでしょう、ミラ。メアリーの教官は貴女であってシエル様ではありませんから」

「すみません…」

「ともあれ、メアリーが習得しやすい魔法は分かりましたし、いいでしょう。愈術特化型なら確かに貴女が教官にむいていますし。グラーティアス卿が推薦した理由に納得がいきました」

「えっと、でもせっかく水魔法やってみたので、出来る事ならそちらで何かやってみてから回復魔法にいきたいなぁ、なんて…」

「水魔法に命令式を与えればいいんでしょ?流動か造形のどっちかにすれば?」

「!どっちかだけなら私もできます!」

「じゃあ頑張ってー」

「はいっ!」


どっちが生徒かわかりません……と頭を抱え気味のクロイツさんを横目に、私は氷のミニチュアドラゴンを水に戻して、霧散させた。

メアリーがちょっと寂しそうだけど、いつか自分で作れるようになってくれ。欠伸をして再び木の根に腰掛ける。


「…眠いのか?少しくらいなら休んでいいぞ。いつ魔物が来るかは分からないが、この辺りに出る魔物なら俺とクロイツで対処できる」

「へーき。というか、魔物なら来ないよ」

「は?」

「私が居るからねぇ。襲って来る奴は多分居ない。そもそも襲えない」

「……何で?」

「結界張ってるから。アウストさんとメアリー母が薬草の捜索範囲を広げ続ける限り広げ続けてるよ」

「お前はもうほんとに何なんだ……!シエルといるとどの魔法がどんなに大変なのかとか、そういった観念がめちゃくちゃになるんだが!?」

「常識観念なんて壁にしかならんから早めに忘れることを勧めておくね」

「……例え俺が非常識であったとしても、魔法に関してお前の力がかなり異常であることはわかるぞ?」

「失礼な!常識の範疇内の魔法しか使ってないよ!」


死者蘇らせるとか天地をひっくり返すとかそんな異常事態引き起こした覚えはない!


「異常なのはその魔力量とコントロールだ。魔法の効果自体じゃない」


……それはしかたないんじゃないかなぁ。だって私傑物の一族の一員ですし。


まあ、ふざけあうのはさておいて……。常識は必要だけど、魔法は常識の範疇を超えるからこそ魔法なのだ。現実に常識を持って生きるのはいい。だが魔法に常識を当てはめようとするのは、愚行でしか無いだろう。


「まあ、皇子は常識があった方がいいね。立場的にもそうだし、私とおじいちゃんが意気投合してとんでもないもの作ろうとした時に、ストッパーになり得る皇子が非常識だったら、止められるものも止められないもんね」

「俺がストッパーじゃ足りないだろ……。クロイツやミラを足してやっと釣り合いがとれる……」

「……私そんなにぶっ飛んでないやい」

「是非とも自分の行動を省みて欲しい」


切実だったわ。あの目。超真面目だった。解せない。

その後すぐメアリー母達が戻ってきたので、休憩は終わり。先程までの配置に戻り、クロイツさんとアウストさんが交代して馬車をまた走らせる。

メアリーが先程までの事をメアリー母に興奮気味で話しているのをミラさんやアウストさん、クロイツさんは微笑ましそうに聞いていた。私と皇子には理解できない微笑ましい光景らしい。

……どちらかと言えば、理解したくないのかもしれないなと思う。自分が得られないものを羨むのは、疲れるだけだから。皇子は子供のくせに諦める事を知っている。私はそれを追えば、いくら精神年齢がそろそろ四十路といえど感情が揺れて、規格外の魔力ゆえに、いつか殺されると知っている。

それでもその微笑ましいものにたいする憧憬や嫉妬は、間違いなく心の内に巣食っている。

だからせめて、直接みなくて済むように、後方の見張りをすることで眩しい景色に背を向けて、心に渦巻くなにかを見せないように仮面に隠す。証拠隠滅みたいだけど、いまこの場において1番最適だろう。

誰の不興も買わない穏便で大人らしい流し方で、その後次の街に着くまで、私は馬車の通ってきた道を、見つめ続けた。


街に着いたのは太陽も落ちかけた頃だ。事前に連絡を飛ばしていることもあって、宿はちゃんととってあった。…あったのだが、どうやら非常に混み合っているせいで、4部屋抑えていたのだが2部屋になってしまった。


「なんでこんなに混んでるのか、聞いてみたんだけどさぁ」


普段は活気もさほどない街で、冒険者など多くても10名いるかいないか位なのだが、ここ最近はその三倍くらいの冒険者が在中しているらしい。

曰く、次の街から1番近い白銀の迷宮で何かあったそうなのだ。どうやら帝都から急ぎ兵が送られて、厳戒態勢で防御にまわっているが、いつ破られるかも分からない状況との事だ。


「クロイツ、何か連絡は?」

「先程定時連絡を受けましたが、どうやら…魔物が溢れ出しているとの事です。帝都から送られているのは第2騎士団だそうで、今のところは出入り口を抑えて保っているようです。

原因は今特定中との事ですが、恐らく…」

「……所持者が、殺されたか」


帝国組が暗い顔になった。私としては何のそのだけどね。というか、攻略者が殺されるって……。


「そんなに弱かったの?その攻略者」

「いや、攻略者自体は弱くはなかった。

……そもそも、所有権を持っているのは、攻略者じゃないんだ」

「どゆこと?」

「白銀の迷宮はだな……」


およそ100年前に攻略された当時は30階程の迷宮で、その攻略者は後にその功績から皇帝より爵位を賜り、この辺りの領地を任された。今はその血を引く貴族の三代目に当たる当主が迷宮の所有権を持っている。いや、持っていた。


「……問題大有りなのかな?」

「…ああ。度々問題視されてきたが、迷宮の所有権を行使して、その迷宮の危険度を最大化していた。

……危険度を最大にしておくと、攻略されたことにより階層を増やす事を辞めたはずの迷宮は、再び指揮権を所有者に握られながら、所有者の望むがままに階層を増やせてしまう。

つまり、だ」

「……白銀の迷宮は、30階どころか下手をすれば40から50、最悪それ以上の危険な迷宮になった状態で、魔物の流れ出しが始まった。ってことかな?」

「ああ。最悪の状況だ……。当主以外の者は既に捕らえてあるが、その者たちをどうにかするより前に、先ず…迷宮を、攻略する必要がある」


その事実がどれだけ大変なのかは分からないけど。そんなに暗い顔をするなら、多分それなりに大変なのだろう。……そんなに大変な迷宮なら、……私が多少遊んでも壊れないよね?


「そっかぁー、最悪の迷宮、ねぇ?」

「……おい、シエル?なに考えてる?」

「えー?やだなぁ。なぁーんにも考えてないよぉ〜?」

「グラーティアスと同じような口調になっている時点で信用出来ないんだが?!」

「おやひどい。おじいちゃんが信用出来ないだなんて。まあ兎にも角にも、変な事はしないと約束するよ。

それよりこの街、早朝に出て次の街に行こう。出来ることなら昼までに着いて、そのまま次の街に。

荒くれ者が多い所には騒ぎも多いから」

「……いや、だが……迷宮の方をそのままにしておくというのは…」


パン、と手を打ってはい、就寝。と言ってミラさんを引きずって隣の部屋に戻る。メアリーたちは既に寝る準備を整えていた。

明日も早朝に出る事を伝えてベッドに入る。2時間もすれば皆んなが眠ったことがわかった。それを魔力で感知してからこっそりベッドを出る。着替えて窓を開ける。さあ、行こうか。

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