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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第2章 旅人 シエル
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第21陣


「未知の魔法より、薬草だなんて……」

「未知の魔法は生活に直結しないけど、薬草は命のやり取りの世界においては生死を分けるものだよ?」


認識阻害魔法のどこが重要なのか。と冷静に答えた私に、この魔法は同じくらい重要だと思う。と、皇子に言われてしまった。魔法嫌いだと聞いていたのに、意外。


「……まあ、身分関係なしにどこへ行っても注目される人間であれば、その魔法がどれだけ便利に思えるかは分かるけど」

「へえ。そんな目立つ仮面を付けているのに、我々の苦労がわかるのか」

「あはは。やだなぁ…。付けているからこそ、好奇の視線がどんなものかわかるんじゃない」


好意でも嫌悪でも視線は視線。あとはそれを気にするか気にしないかの違いに過ぎない。


「それが敵意なら敵意で返せばいいと、最初から腹を括ってるだけだよ」

「……お前子供なのに随分殺伐としてないか?」

「さて、どうだろう。どうやら私の感覚は人とズレてるらしいから」


薬草を仕入れて上機嫌。勿論お代はクロイツさんもち。いやー、いいお財布借りちゃった!ありがと!おじいちゃん!と、冗談交じりに言っていると、帝国の魔法学校にくるならお財布続けますよ?と空かさず言ってくるクロイツさん。もう、気をぬくとすぐこれなんだから!


「…私専属の魔術師になれば、私が財布か。…まあそれでも別に構わないですけど」

「皇子を財布にするとか私は何様だ」

「普通は喜ぶと思う」

「王侯貴族の収入源は結局国民の血税でしょう。例え正当な労働の対価だとしても、私は自身で稼いだお金からしか貰いたくないね。

クロイツさん、おじいちゃんに言われてるでしょ。私に使うお金の出所を探られても痛くないところにしろって」

「ええ。とりあえず使う予定のなかった迷宮での収入のものを当ててますね」

「おじいちゃんさっすがー。そうすれば、あくまで本当に個人的な駒だと言い張れるもん」

「「……」」

「どこで誰がどんな風に聞いてて、どう使うか分からないものだらけだよ、世界はね。

だから常に疑うの。私は私を害するものを、絶対に許せないから」

「許さない、ではなく、許せない、ですか」


そうだよ。それは私の自由意思でどうにかなるものではない。不可抗力だ。私の、転生する前の私の、根源だから。私達という私の、行動の始まりだから。


「私を放し飼いにしても必ず私が戻ってくると堂々と言える自信のあるいい上司だと示せれば、私の過去も未来もぶっ壊した相手でも、それが許されるんだよー」

「貴女自身に許される訳ではなさそうですけど」

「そりゃ自分のものぶち壊されたら誰だって怒るでしょうよ」

「お前、国の中枢にいたら傲慢だと叩かれてるぞ……」

「中枢にいないから関係ないね!」


旅人でよかったー!と心から述べてやると呆れたように、……けれど、心底面白そうに彼らは笑っていた。


「さて、これから宿に戻る訳ですが、明日の予定を確認したいので、部屋の中にちゃんといてくださいね、シエル様。

ミラとアウストを連れて行きますから。クラウス様は先にシエル様の部屋に。粗相をなさいませんよう」

「俺は同意なしに手は出さないぞ」

「(同意があれば手を出すのか……)」


呉々もお気をつけて。と念押しをされて、私は割り当てられた部屋に入った。

中にはベッドが二つ。ミラさんもこっちに泊まるのかな。


「シエルはなんで一人旅なんてしているんだ?」


特に話すこともないから、単に疑問を投げかけたのだろう。まあ、それくらいのことなら答えてもいいか。


「外に出てみたかったから」


沈黙。え?それだけなんだけど。いやそりゃあさぁ、命狙われたのが好機だと捉えて貴族である事を隠して旅人になりすまして、世界中を回って好きな事学んだり戦ったりしているけど、端的に簡潔にいえば、外に出てみたかったになるよね?


「親が居ないと聞いたが、生活費を稼ぐため冒険者になろうとは思わなかったのか?

それだけ強ければ、名を馳せ栄誉あるS級冒険者になることもできるだろう?」

「そんな物に何の意味が?……あ、失礼。お金を稼ぎたいときに迷宮に入って稼ごうとは思ったけど、栄誉も名声も要らないんだ。

そんなものが欲しければ、私は多分随分前に冒険者になってるもの」

「じゃあ、何を望んで旅人を続けるんだ?」

「別に旅人にこだわってるわけじゃないんだけど?」

「は?」

「?単にやる事もやりたい事も無く、だからといって一箇所に留まるだけの理由も無く、とりあえず色んなところに行った方が楽しいから旅人をしてるだけ。

帝国着いて、図書館に入れるなら本腰入れて学べそうだし本が読めるから、暫く滞在するつもりではあるけど、それが終わって興味が失せたら。

……まあ、元どおりかな?」

「その元どおりは、旅人に戻るって事で合ってるか?」

「そうなんだろうね?」


元に戻るの意味が、シエルなら。

旅人のシエルに戻るだけだ。

私は今、旅人のシエルだから、探られたところで痛くもかゆくもない。もし皇子がシエルじゃない私を探るなら、私はシエルじゃない私として突き放すつもりだったから、その後あっさり聞くのをやめた皇子にちょっと拍子抜けした。


「聞きたくないことを無理に聞き出すなんて悪趣味は持ち合わせてない」

「……わあ。ちょっと見直したよ」


女狂いとまでは言わないが、殆ど常に香水の匂いを纏ってるような女好きの優男だけど、クズじゃない。友達にいても許せる部類のやつだ。あれだよね、恋人には要らないけどいい友人枠ならいてもいいひと。


「見直されるほど評価は低かったのか……」

「うん!」

「しかも即答……。俺の事を皇族と思ってないだろ……」

「うーん。私の知ってる王子はもっとこう……したたか?だったから。

そこを考えると第三皇子殿下は気安いというか、分かりやすいというか、……そもそも第一印象その他諸々が悪いからなぁ」


思い当たる事はあるだろう。迷宮に入って魔物たちに敗れて救出され、治療され、なのに初対面のあの挨拶。目を逸らしたのが良い証拠!あっはっは!


「それは……その、悪かったと思ってる。

私に対しては今の接し方で構わないし、私もそうしてもらった方が心地よく思う。

だが、……他の、特に兄上なんかに今の態度で会ったら即刻打ち首にされるぞ……」

「私のと違って気の短いお兄さんなんだねぇ」

「他人事か」

「だって会う予定ないもん」

「(俺を帝都まで送るという事は、必然的に皇城まで行かなくてはならないんだけどな)

……というか、お前兄がいるのか」

「そうだよー。私のお兄さんはとってもいい人たちなんだよー。……本当に、申し訳ないくらいに」


……しまった口が滑った。どうやって誤魔化すかなぁ。と考えを巡らせようとしたけど、その前に皇子の方が退いてくれた。


「?何でお前が申し訳なく……いや、聞くのはやめておこう。そういう主義だからな」

「あはは。そうだねー。もし聞きたければ同じだけの個人情報の提出を求めるよー!」

「お前……皇族の個人情報もとめるとか……」

「いや、王族の個人情報ほど安いもんなく無い?だって調べれば大抵のこと分かっちゃうよね?」

「……嫌な話だがそれが基本的な事であれば、まあ、そうか」


王族って守りが固いように見えて情報は筒抜けだもんねぇー、大変ー。おっとそんな事をしてる間にクロイツさんたちが来たようだ。


「シエル様、皇子に変なことされてませんか?」

「入ってきて早々従者がその言葉はどうなんだ……」

「前科がおありですから」


にこり、といい笑顔のクロイツさん。ああ、こっそり部屋に内緒で人を入れたことでもあるんだろうなぁ。

ミラさんとアウストさんも続いて入ってきた。因みに皇子は部屋の端の方の椅子に座って、私はベッドに座ってたの。椅子にも限りがございますので。とりあえず、椅子を魔法で増やして人数分用意する。……部屋の8割を占めているベッドが邪魔。避けよう。ほい、どーぞ。と、ベッドを浮遊魔法で浮かせて、同じ要領で椅子を円形に並べて準備を整える。満足。背にしていた4人の方に座らないのー?と振り返るが、其々に私の作り出した状況をみていた。


「無詠唱……複製魔法……浮遊魔法……」

「シエル嬢、そんなに簡単に魔法を使うのは魔力の無駄なのでは……」

「シエル様、散々魔法を使っているのですから、使わなくて済むところでは使わず回復に努めるべきですよ?」

「ベッド2つも浮かせたままでいるとかお前の魔力は底なしか?」


ミラさんは驚きでブツブツ言いつつ固まってるし、アウストさんは呆れている。クロイツさんは私を諌めるし、皇子は呆れてる。いい加減慣れてくれればいいのに。


「底なしの割には、やっぱりシエル様からあまり魔力を感じないのが気になるんですが」

「抑えてるから当然だろうね」

「……そのふざけた仮面はもしや」

「うん。仮面を付けることで、本来の魔力を抑え込んでわからなくしてあるの。もちろん顔を隠すのにも一役買ってるけど」

「何で隠す必要がある?大きい魔力なら感知された方が下手に喧嘩を売る輩も出ないだろう?」

「隠してた方が本質が見えるんだよ。

その人間の本質は、初対面で自分よりも弱い者だと分かっている相手への接し方で測れる。

私は子供だから、頼る相手を間違えない為の防御策なんだよ。……それより、早く明日の話を進めよう。


私の依頼されたリットンデールまでの護衛は終わったわけだけど、どさくさに紛れて押し付けられた強制送還の手伝いが残ってるから皇子達に同行はする」


私が真面目な声で話し始めると大人達は席に座った。クロイツさんは地図を取り出して、ミラさんが手伝い広げていく。


「はい。師からの護衛依頼はここで終わりです。……しかし、彼女達を皇都へ連れて行くにも準備が必要な為、ここからターシュの街までの追加の護衛依頼を私から出したいと思います。

その街にて、あの親子とミラ、アウストは置いていきます」

「……ミラさんをメアリーちゃんの指南役において行くってことかな?」

「ええ。師の推薦もあるので問題無いでしょう。我々も少しの間ですが街に留まり、休暇明けに合わせて帝都に戻ります」


あー、そういや、皇子は学生だし、クロイツさんは教授なんだっけ。休暇明けに合わせて戻るのは多分溜まってる仕事とかにプラスされたく無いんだろうなぁ。


「ターシュの街までの道は、安全を考え白銀の迷宮の近くを通ろうと思います。少し遠回りですが」

「森を突っ切れば2日程度だが……」

「我々だけならまだしも、あの親子を連れて行くとなれば出来る限りの安全を確保すべきでしょう。白銀の迷宮は攻略されているとはいえ、冒険者達がそこら中にいますから」

「……そうだな」


白銀の迷宮かー。どんなんだろ。

経路確認、地図から読み取る限り、最低でも3つの街を経由するから、1つの街につき一晩宿泊なら4日はかかりそうだ。

私の転移魔法なら一瞬なんだけどね。……まあ、しかたない。これも旅の醍醐味さ!


「ミラ、アウスト。何か意見は?」

「異論はありません。ですが質問が」

「何ですか?」

「ターシュの街に滞在ということですが、そこに定住する訳ではないんですよね。メアリーと母親はその期間どこに?」

「グラーティアス卿の別邸を借りますよ。許可はもう得ていますので、使用人も送られているはずです」


「滞在期間はー?」

「大体1週間を予定していますが、何か不都合がありますか?」

「……その間私もいないとダメなんだっけ?」


確か任務は護衛だけど、ターシュの街に入ったらそれは達成。街を出るまでの1週間ずっと皇子の護衛はしたくない。やだ。というかそろそろ気ままな一人旅がしたい。1人の寂しさが恋しい…。…なんか私おかしくなってきてるような?


「皇子の監視…いえ、皇子を財布に買い物などいかがです?帝都に行く前にドレスや宝石を揃えるのにいい職人がいますから」

「いらないー」


何で旅人にドレスだ。私は帝都に入った瞬間に依頼達成を告げて転移でぴょいする予定なんだけど?


「……グラーティアス卿のターシュの街の別邸には皇立図書館に負けず劣らずの専門書の山がありますよ」

「私も1週間お世話になりまーす」


秘技、掌返し。え?誰が1人になりたいっていった?私知らないなー。

ふっ……未知の前には人は無力。私は本が大好きです。


「…お前らじゃなかったら、不敬罪にしてるからな……!」

「逆に私たちも第三皇子殿下が相手じゃなかったらこんな会話してないよ?」

「……」


皇子、ごめん。そこまで落ち込むとは思わなかったよ。今度から気をつけるね、皇子と話すときだけ敬語にするよ。え?それはそれで自分だけ疎外感があって嫌?注文が多くて困るなぁ。


「まあ、皇子の抑止力という所です。さすがに未成年のシエル様に情けない姿は見せないでしょうし」

「……それ、私がいない所ではどうしようもないよね?」

「……信じてますよ、皇子」

「俺はそんなに信用がないか……」


いじけた皇子は放置して、私たちは予定を詰めて行くのだった。

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