第13陣
図書館に入りたいが為だけに次の目的地が決定。ある程度居場所が特定される冒険者として登録したく無いから、残る手段はただ一つ。ステータス表を作ってもらう事である。ただし、このステータス表、教会が発行しているため、そこへ行かないといけない。
「ここから1番近いのは、隣町の西外れの所です」
「………孤児院と併設されてる?」
「はい。どうしてご存知なので?」
「地図に載ってた」
露店に売ってる地図は買わなくても見ただけで細部まで覚える事が出来るのはシェリティアの元々のスペックのおかげだ。
さてさて、皆さん。この敬語キャラ誰か分かるかなー?
…うんうん、はい、正解はクロイツさん…ではないです。残念でした。でもまあ仕方ないよね、皇子の侍従引っぺがすわけにはいかんし。
そして今私たちは街の砦を出て、南の隣町へと向かっています。先程からケットシーが番犬ならぬ番猫のように私と彼の間に入って終始威嚇してます。なんでそうなったって?いや、私が知りたいわ。
昨日の昼の図書館の話で、私が身分証を作ることにした件で、行くなら誰か1人連れて行けと言われたのだ。
迷宮攻略の支配権の話があるから、らしいんだけど。
「何で人限定?」
「支配する種族が変わると、使われる言語や状況も変わってしまうのさぁ。
例えば、シエル嬢が人以外で支配権を譲る相手がそこの猫くんだとしたら、迷宮内の言語は猫語になって、ついでに迷宮も猫にとって価値ある素材が出てくるようになるだろうねぇ」
…猫に価値あるってことは、まあ今までのような素材は期待できないだろう。…そっかー、支配する種で変わるのかー。…まあそんな訳で、1番連れ出しても問題なさそうなギルデロイさんを指名した。選ばれた本人物凄く驚いてたけどね!
「…何故、グラーティアス卿や…アウストを指名しなかったのだ」
「アウストさんは多分迷宮のコントロールが出来ない。魔力の質的にはミラさんが良かったけど、…迷宮攻略者はそれだけで狙われる対象にもなるから却下。
その点万一にわたしからギルデロイさんに支配権が移って結果死んだとしても私を嫌ってる人が死ぬなら私の心はこれっぽっちも痛くない!」
「…私に対して失礼と思わないんですか」
「全然」
即答したら睨まれた。でも実害ないのは本当だもんね。謝らないよ。だって私の良心がちっとも痛まないからね!
「私の死を望むやつなんて幾らでもいる。"この世界"自体がそうかもね。
…そんな風に思ってる人間が、私に悪感情のある人間の死を悼むと思う方が間違ってるよ。
貴族だから、力があるから?だから何。
敬われる立場にあるのと、敬われる人間であるかは別物だ」
この世界が、私を殺そうとしている世界であることを、私は忘れていない。
ステラリュートであるだけでその地位を羨む他貴族に命を狙われ、
魔力が高く、暴走しただけで、悪者にされて殺される。
世界の平和と一部の幸せの為に、私は切り捨てられる。
最小の犠牲で最大の幸福を。その言葉通りに私という生贄で世界が幸せになる。
そんなこと、私は許さない。死にたく無い。もう二度と、死んでやるものか。
まあ、そんな事は私以外の知るところでは無いので、もちろん睨まれましたとも。目が偉そうに。と語っている。
「……孤児の旅人に何がわかる」
「さあねぇ?でも、貴方みたいに貴族以上としか対等にあろうとしない人間に心の底から尽くそうと思う人間が居ないことくらいはわかるよ」
ここまで来たら売りことばに買いことば。私は反省なんてしない。私を害するものを許さない。
「子供は子供らしくしていればいいものを」
「あははー。忌々しいって顔に書いてあるよー?まあとりあえず私がおじいちゃんのお気に入りな内は仲良くしようよ。あんまり表立って邪険にするとおじいちゃんも庇ってくれないよ?」
「……それ脅しと言うんですよ」
自分の評価が下がるよと言おうとして、オブラートに包んで変えてあげたのに。
「あはは!子供の親切な戯言だよ~。
知っておいた方がいい。
子供は大人が思っているよりよっぽど、物事の本質を見てるんだから」
「ただの子供は、そんな事言いませんよ」
「そうなの?少なくとも私は生まれてからずっとこうだよ」
「よくもまあご家族に敬遠されませんでしたね。可愛げないのに」
「うわっ、失礼。それは流石に失礼!普通の子供だったら泣いてるよ⁈」
「私も言っていい事と悪い事の判別くらいはつきますよ。貴女は明らかに普通の子供では無い」
「産まれた家では普通だったよ」
「その家自体が普通じゃなかった可能性が高そうですね」
…うん。まあそうね。傑物の一族って言われてたくらいだからね。とは言えないけど、黙るのも癪だったのでちょっとハイスペックだっただけですぅー!と言っておいた。
隣町までは歩いて3時間くらいだった。途中休憩ほとんど入れなかったけど、涼しい顔して付いて来たのは流石である。
北方向から町北側の門を抜けて、視界に捉えた町の中は、先ほどまでいた町ほどでは無いがちゃんと栄えているようで、道はレンガで舗装されて、家々が建ち並んでいる。冒険者ギルドもあるようで、彼方此方に宿屋に飲食店、武器屋などもあるようだ。ケットシーの耳が拾った情報によれば、迷宮に行く前にここで武器の整備や食料の調達をする方が初期費用が安く済むから、結構人の出入りは多いらしい。まあ、そうね。迷宮のある街って言うのは、どこかの夢の国と同じでね、武器も宿も何でもちょーっとお高めなのよ。払うのわかってるから。だからせめて安いところで準備を整えるっていうのは常識だ。
「…以前よりも栄えているようです」
「前にも来たのー?」
「…ええ。数ヶ月前に領主の移動があって、それより前の話ですから、中々に優秀な領主なのでしょう」
「……へぇ?」
優秀な領主、ね。私はもう一度街の様子を良く確認する。彼方此方にいる人はお店の人間以外全て冒険者。ああ、商人もいるか。活気付いた客寄せの声や、値切り交渉。情報交換をし合う声やその他諸々。ある一点の違和感すらなければ、私も優秀な領主と褒めてやってもよかったかもしれないのに。
ステラリュート領や迷宮都市と徹底的に比較しながら、おじいちゃんに言われた通り、嫌々ながらも私を案内する背中に続いて街の西側に向かって歩く。教会は確か西の外れだった筈だから矛盾しない。
矛盾はしないが、腕を引いて引き止めて、正反対方向の東側に向かって歩き出す。町の東側には商人たちが多いのは検索魔法で把握済みである。
「…そちらは東側ですよ」
「そうだね。商人さん達に用事があるから当然だよね」
周りにも自然に聞こえるくらいの声で、そう言いつつも、念話を使って、入った時から監視されてる。と告げると顔色は変えずに周りを観察し始めた。何か言いたそうに見てくるけど、どうやら彼自身は念話が使えないようだ。でもとりあえず文句も言わずに付いてくるから、今の所は問題ない。
「貿易港から来た人たちが、まだここにいるといいけど」
「異国に興味が?」
「子供が好きなお菓子とか扱ってるかなーって思って。孤児院併設なら全員分あるならあげられるでしょ」
「…賄賂」
「言い方に注意。どこで誰が聞いてるか分からないんだから」
手土産って言おうよ。とあくまでも気楽な雰囲気を装って先を急ぐ。手頃で怪しくなくて真っ当そうな商人はいるかな?と荷馬車を町の一角に止めているそこへ足を踏み入れる。
何人かすれ違い、素通りし、目的に合いそうな商人を探すが、なかなか見つからない。そんな中。
ケットシーの耳がピクリと動いた。ついで
「あの!そ、そこの!銀髪の方っ‼」
聞き覚えのある声に振り返る。少し気弱そうに見える、茶髪の商人。私が以前、助けた…。そう確か、名前は…。
「……クラルフートさん?」
「そうです!覚えていて頂けて感激です!」
「ご主人がボロクズ扱「ケットシー」すみにゃせん…」
先ほどまで緊張の面持ちだったのに、私が覚えていたのがそんなに嬉しかったのかパッと表情が明るくなった。
…犬みたい。
「また会えるとは思っていませんでした。まさか迷宮の無いこの街にいらしていたとは」
「ステータス表を作りたくて。北側の町に居たんだけど、あそこには教会が無かったから」
「そうでしたか、北側の。
あちらは元々は迷宮だけが存在していた場所で、危険性から、教会は作られなかったんですよ。
えっと、そちらの方は?」
「主人の命令で無理強いされて私と教会に向かわせられた生贄」
「ギルデロイです。この少女の知り合いですか?この子の教育は一体どうなっているのか是非とも親の顔が見てみたいものです」
私の紹介が気に入らなかったらしく間髪入れずに自己紹介をし直していた。事実なのになぁ。だって嫌がってたじゃんと言ってみるけどガン無視。かなしー。
「そうですか、ギルデロイさんですね。申し遅れました。私はクラルフートと申します。
商品と依頼があれば何処へでもかけつける商人です。残念ながら、彼女に会ったのは数日前、危ないところを助けてもらったからでして。親の顔どころか仮面の下も知らないんですよ」
「…あれ?そうだよね、何でここに?急ぎの貴重な品運んでたんじゃ…?」
「送り届けていただいた町に取引先が来てくれたので、急いで引き返して来たんです。
私の兄に、貴女を探してもらおうと」
「?」
「恩返し、まだしていなかったので」
あー。確か貸しにしたんだっけ?正直、あの時私の不都合にならないようにしてくれただけで感謝ものなんだけど。
「商人は一度受けた恩は忘れません。…そうですね。動物的だとは思いますが、私がいただいたのは、恩だけではありませんから」
いや、命すくっただけだよね?たったそれだけのことだよね?
多少混乱気味の私にクラルフートさんは苦笑しつつ、知らなくて大丈夫です。と言っていた。
「もしよろしければお二方、教会まで馬車に乗せて送りますよ。私も兄に会うために今から行く所でしたし、その方が安全ですから」
安全、と言ったクラルフートさんがその言葉の直前にチラッと私たちの背後に視線を飛ばしたので、私の読みは当たったと思われる。
隣で疑問符を浮かべている気配がするので後で教えてやらないと。
この街は今、子供にとっては危なすぎると。