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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第2章 旅人 シエル
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第8陣

それでは早速迷宮へ、ということで、私とアウストさんが街の中並んで歩いているのだけれど、注目度が凄い。

アウストさんは無言でただ進んで行く。まあ仕方ないよね、美形だし、頭一つ抜けた高身長だし。任務とはいえ休暇扱いなのにその隣を歩いてるのがちんちくりんの変な仮面つけた子供だもんね?

アウストさんが無言で私に対して警戒が解けていない理由も大体想像がつく。得体が知れないって点は変わらないもんね。そちらの理由は、先ほどの試験で測ることは出来ないから、しょうが無いのだけれど。


「アウスト殿!お勤めご苦労様です!本日は迷宮に……えっと…?」

「…グラーティアス卿の贔屓にしている商人の娘に案内を頼まれた。手続きを」

「あのグラーティアス卿の⁈畏まりました‼」


物凄く急いで通行証を発行してくれた。おじいちゃん、やっぱりあなたは権力者なんだね…。

お気をつけて!と名も知らぬ見張りの門番さんに見送られて迷宮へと入る。


「…で、アウストさん。スカイシャークって普通はどこにいるものなんですか?」

「レア過ぎて中々お目にはかからない。いるとしても中層以下…危機的状況らしいから下層だな」

「下層って何階?」

「郊外の小さな迷宮なら中層が5までと言われているから、6から…だろうな」

「中層までの転移陣ある?」

「ああ、それならこちらだ」


基本的に迷宮の上層は魔物が多くは出ない。いざという時に助けられるよう、兵士たちも徘徊している、初心者向けといってもいい。救助があるのが分かっているから、成り立て冒険者が慣れるためにあるようなものなのだ。……だが中層からは兵士の巡回もなく、素材を狩りにいくような場所だ。更に下層。そこに関しては迷宮攻略する場合にしか近寄らないのが一般的だ。

ちなみに攻略すべき迷宮とすべきでない迷宮があり、その判断は帝国に一任されている。というのも、こういった街に出来る10階以下の迷宮は、大きな迷宮から枝別れした魔力の渦が災い転じてできるもの。簡単に言えば逸れ雨雲なので、ある程度狩れば魔物は出てこなくなるし、攻略しようと思えば、Aランクの冒険者パーティーが複数いれば攻略できる。だが裏を返せば、Aランクの冒険者が複数名は必要、らしい。

そんな場所に、なぜ入ったのだろう。話を聞いた限りでは3人だと思うし…。


アウストさんは流石護衛なだけあってある程度の場所まではトラップなども把握してるらしい。まあ普通転移魔法陣なんてあるはずないので、巡回兵士用に展開してあるものだろう。依頼とはいえ使えるなんてラッキーだよね。


「…ところでさぁ、アウストさん。さっきおじいちゃんが言ってた…結界魔法って、一晩維持するのは大変なの?」

「大変、というか、結界魔法に限らず、魔法というのは普通は術者が眠った状態で展開などできない。意識がないからだ。それに維持という事は、常に魔力を消費し続けるという事。

結界が大きく、長時間になればなるほど負担が大きいらしい」

「……へえ、そうなんだ」

「君の結界はかなり強固だが、その分魔力の消費も激しいだろう?」

「どうだろう。そんなに意識したこと無いからわからないなぁ」


でも、そっか。それが"普通"なんだね。

私は、"普通"にはなれなさそうだ。でもそんなの今更かな。


「アウストさんは、転移後手を出さないで。というか、私の前に出ないでね」

「は…?」

「今のを聞いてちょっと不安になった。

魔力の枯渇は命に関わる。おじいちゃんが焦るほど時間がないってことは、今頃かなり消耗してるだろうし……私の進路を邪魔するものに関しては消し炭にする」


下手に前に出たら流れ弾で多分殺しちゃう。とちゃんと宣言してから私は転移魔法陣を踏んだ。一本道のダンジョンには、中階層でもお目にかかれないようなビートルベアやスモッグビーなどが目白押しだ。凶暴な魔物…もとい貴重な素材を消し去ってしまうなんて、私としては悔しくて仕方ないよ!けどね!素材はいつでもとれても!命は失ったら終わり‼背に腹はかえられぬ‼


「…(光魔法と水魔法、闇魔法と風魔法)」

「……(無意識だろうが、何の不自由もなく詠唱破棄を行っている。しかも4属性を同時発動など、帝国の魔術師でも見た事がない…)」

「またね貴重な素材たち……」


何も考えずにただ目の前の魔物を時に魔法で吹っ飛ばし、時に風刃で切り捨てて進む。

たまにアウストさんが私の攻撃範囲内に入ってきてしまうものだから、邪魔とかもっと下がれとか、引っ込めとか…もっとヤバい事口走ったかもしれんが、まあ、私に殺されなかっただけマシだと思ってほしい。

視界が塞がれると、アウストさんが近づいてきた時にうっかりサクッと殺しちゃいそうなので、顔だけは避けつつも、私の真っ青なローブは真っ赤な服になってしまった。

血生臭い…。

もはや何も言わず、ただ数メートル後方から私を眺めているアウストさんを無視して、私は中階層を制圧した。


下層にいそうな魔物が中階層にいたから一応のために探索魔法を使ってみたけど、それらしい影はなかったから、やっぱり下層か。

さっさと見つかって私の後ろにいてくれないかね?自動で結界発動するから多分安全だし。はあ…せっかく下層に入ったのに、レア素材を集める余裕が無い。人助けはついでの筈なのに……。ほんとなんで入っちゃったんだよ。若気の至りか?人生って死んだら終わりだぞ?命大事にしろよ。テメエの命粗末にする奴は命に泣くんだよドチクショウ。…おっといけない、最近心の乱れが口調の乱れになってる気がする。私の本職は公爵令嬢。その方が都合がいいとしても、それなりの品を保つ為にも口調には気をつけないと!口うるさく叱るばあやは居なくても、私の口が悪くなる事で膝から崩れ落ち三日間再起不能になるリヒトはいたからね!…今は居ないけれども。


とか心の中で思ってる間も私は魔物を斬り捨て斬り捨て斬り捨てていたのです。つまり何を言いたいのかというと、服が血を吸ってめっちゃ重い。防水加工にすればよかった。血の汚れっておちにくいよね。…あ、こういう時こそ水で丸洗いすべきか。

という事で、水魔法を使って、私の真上に雨雲を作り出して、豪雨レベルの雨を降らせる。みるみる落ちる落ちる。まあ染み付いた分はこれだけで落ちないから、後で洗う事になるけど、今はこれで十分。消臭魔法で獣臭さも血生臭さもクリア。だってほら、初対面って大切だもの。

何故急に気にしたのかといえば、この階の奥の方に人の反応があったからだ。数は3で、軟弱な結界を張るのがせいぜいなくらいには弱ってるらしい。

彼らのうちの誰かが張った結界の内側に結界を張る。外側に張ると今から放つ魔法に影響されて、誰かの張ってる結界ごと斬り裂いちゃいそうだから。間に他人の魔力という緩衝材があれば、私の攻撃魔法に影響される前に相手の結界が割れる。その一瞬があれば敵を駆逐してしまえる。

……アウストさんに結界張らせりゃいいじゃんと思ったひと、いるでしょ?うん、それは張ってから思ったよね。簡単に言えば、この階にはいってから、存在を忘れてた。反省はしてる。

闇魔法と光魔法の合わせ技で攻撃範囲以内の魔物を塵も残さず消し去り、元々張ってあった結界が一瞬強まったがひび割れたのを感じて、攻撃魔法を解除した。私の張った結界は無事。中の人達もちゃんと生きてる。死んではいない。…限りなく死にそうではあるけど。

結界を解除して手当しようと思ったのだけれど


「く、来るなぁ!」


若いお姉さんが、震えながらも倒れている魔術師と剣士を庇うように私に杖を向けて居る。はて?私は助けたつもりだったのだけれど。


「自分たちが手も足も出なかった魔物を一瞬で消し飛ばした人物が無言で近付いてきたら誰だって怖がる」

「アウスト!救助が遅いわよ!それに、その子一体何なのよ!」

「申し訳ない、シエル殿。どうやら彼女は気が動転して、最低限の礼儀すら忘れているらしい」


遮るように私にそういうアウストさんはどこか怒っている。その怒りは散々私が置いてけぼりとかしたからかな?そうじゃないと信じたい。そしてお姉さんはお姉さんで、まさか自分が無視されるとは思ってなかったのか、呆然とアウストさんを見ている。


「重ねて申し訳無いが、手当を頼んでもいいだろうか」

「!手当は私が「これには私から説明をするから頼む」」


納得行かなさそうな彼女をさらに無視。アウストさん、仲悪いの?とりあえず手当が先。との事なので、倒れている魔術師と剣士を見る。2人とも気を失っているようだ。

極度の疲労と毒状態。怪我をしているのでそこから毒が入ったんだろうなぁ。可哀想に。生きてはいるけど相当痛いし、死にかけてる。回復ポーションを飲ませて、治癒魔法で怪我を治す。あとは毒の分解。解毒ポーションはあいにくと無いからね。それに毒で思い出すのは、お祖父様だ。下手に解毒をすれば、意識不明になりかねない。魔物の毒のためそんなにひねったものではないと思いたいが、万が一もある。申し訳ないと思いつつ、魔術師の額に手を当てて、昨晩までの記憶を読み取った。プライバシーの侵害なので、良い子は真似しないでください。


「…コカトリス、メディシャーク、ヴィアウルフ…。スカイシャーク?」


交戦した中で、毒持ちはこれだけだったらしい。というかスカイシャークにはつい先程まで襲われていただと⁈じゃあ私は超貴重素材様を灰燼にしたのか…ああ…泣きたい。…八つ当たりはあとでおじいちゃんにしよう。とりあえず、全て毒は遅効性のじわじわ命を蝕むタイプで解毒魔法で消し去っても問題はないものだが、確実性を高めようと思う。

闇属性の亜空間魔法と探索魔法の応用を2人に施す。解毒ではなく、身体の中から異物質を取り出す魔法をかけた。身体に良くないものという括りで私がかけているので、毒だけが抜けて行く。そして回復魔法によって自然治癒力も上がり、結果治る。

この魔法をねー、もっと早く思いついてたらよかったよねー。お祖父様何年も寝てなくて済んだよねー。

怪我もなく血色も良くなってきたので、そろそろ大丈夫だろうと魔法をかけるのをやめて、アウストさんを見れば、仁王立ちに無表情で苛立つアウストさんと、その前で顔色悪く涙目になりつつ正座するお姉さんがいた。

何をしたんだろうね。



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