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グレイド、エスコートする

天井画が描かれ、クリスタルのシャンデリアが輝く。

装飾をほどこされた飾り窓。

絵画が並ぶ壁面に彫刻がそえられている。

床は色違いの大理石で飾り模様が造形されている。

王宮で一番豪華で広い部屋、それが大広間である。


今年のデビュタントの日がやってきた。

大広間では準備が整い、来客達が入場を始めている。

最後は王と王妃、来賓であるエメレン国王と王妃が入場し席に着く。

毎年なら、ここに王太子グレイドもいるが、今年はデビュタントのエスコートということで控えにいる。


控えの間ではデビュタントの令嬢とエスコートの紳士達が揃っていたが、ざわめきが消えなかった。

「あそこにいらっしゃるのは王太子様よね。

今年は王太子様とのダンスがないって本当なの?」

「すごく綺麗なご令嬢がいるが、初めてみる顔だ。茶会でもお会いした事ないぞ。」

「王宮の噂でサンレオ公爵令嬢が現れたと聞いたわ。」

「王太子殿下は女性にあんなに密着する人じゃなかったはず。」

グレイドとフランチェスカは、最後尾に陣してソファーに肩寄せ合って座り、(ささや)き合っている。

周りは二人が何を話しているか聞きとろうと必死である。


「すごく綺麗だ、フラン。」

「素敵なドレスをありがとう。

それにこのティアラにネックレス、イヤリング、ブレスレット。グレイドの色だわ、嬉しい。」

母の宝飾の中から、グレイドの瞳の色であるサファイアを選んだのだ。

公爵邸に迎えに行って、フランチェスカの姿を見たグレイドの喜びは生涯忘れないだろうと思う程のものだった。

自分の色を着ける愛しく美しい恋人。

「グレイドが格好よくて、胸のドキドキが止まらないの。」

胸に手をあてるフランチェスカの腕にはサファイアのブレスレットが青く輝く。

グレイドのカフスはフランチェスカの瞳の色のエメラルド。

ああ、キスをしたい。今日のフランチェスカの口紅はバラ色のローズピンク。

人目がなかったら、きっと色が落ちるまでキスをしただろう、グレイドは自分にストッパーをかける。


名を呼ばれ、次々と大広間に入って行く。

全員が呼ばれ揃ったら、ファーストダンスが始まる。

最後にフランチェスカが呼ばれた。

「サンレオ公爵令嬢フランチェスカ嬢。」

人々がどよめきと共に入口を見た。

王太子に手を取られて入場する白いドレスのフランチェスカは美しい、その言葉しかなかった

ボールガウンのドレス、長めのトレーンには白い小花が散らしていある。

背中に大きなリボン、胸元と肩を飾る極上のレース。

人目につく大きなサファイアとダイヤで飾られたティアラとネックレス。

ティアラの後ろ髪はカールをいかしたシニョンにまとめられ、白い小花とサファイアの小さなピンで飾られている。

その美貌はまだ若く清楚さを兼ね備え、見る人を引き付ける。

グレイドもフランチェスカも美しい王族である。

グレイドのエスコートで歩むフランチェスカに溜息とも歓声とも思える声があがる。

可哀そうだが、フランチェスカがいると周りの令嬢がかすんで見える。


王の前でロイヤルカーテシーをするフランチェスカは人前に出た事がないとは思えない程堂々としている。

グレイドも目を見張り、誇らしい気持ちになってきた。

さすが私のフランチェスカだ。

クチュール達に無理をさせたが、フランチェスカが着るからこその美しさだ。


デビュタント全員が揃いファーストダンスが始まった。

最初はワルツ。

場の中心は、グレイドとフランチェスカである、どうしても周りが大きく開いてしまう。

近くで踊るには(はばか)られると思うのだろう。

体力がないことを除けば、フランチェスカの教育は完璧である。


ファーストダンスが終わり全員が下がるはずだが、グレイドとフランチェスカはその場に留まっている。

やはり王太子が令嬢を順番に回るセカンドダンスはないのだ、と知らしめる。

不満を顔に出す令嬢もいたが、立ちうちできるはずもない。

音楽が流れ始めたが、他には誰もダンスをしようとしなかった。

グレイドとフランチェスカの独壇場となる。

お互いの色の宝石がシャンデリアの光に輝き、白いドレスはトレーンとレースを(ひるがえ)して舞う。

グレイドもフランチェスカもお互いを見つめたまま、なめらかなリードで優雅に踊っている。

周りからは溜息がもれるほどである。

曲が終わると大きな拍手が起こった。

一番大きく拍手しているのは、エメレン国王であろう。


グレイドはフランチェスカに膝をつくと手を取った。

「私、グレイド・ダルメニアは愛するフランチェスカ以外と今後ダンスをしないと誓おう。」

完全にグレイドの暴走であるが、周りの女性から、キャーという悲嘆の声があがる。

そう言われて嬉しいのが女性である、フランチェスカもそうだ。

「私、フランチェスカ・サンレオもグレイド以外と踊らない事を誓います。」

フランチェスカの言葉に、愛するが入ってなかった事が引っかかるが、言質を取ったグレイドである。

あまりにもフランチェスカが美しいので、心配になったグレイドは、周りの牽制にでたのだ。

周りの男達にフランチェスカと踊るチャンスを与えたくないグレイドだった。

湧き起こる歓声の中、グレイドが手を挙げると3曲目が始まった。

グレイドは心配していたが、フランチェスカは踊りきった、さすがに息があがっていたが。


二人で見つめ合い、微笑んでカウチのあるベランダに移動した。

フランチェスカを座らすとグレイドも横に座る。

「ジュースは侍従が用意しているので直ぐに来るだろう。」

うん、とフランチェスカが首を縦にふる。

こういう場で安易に口に入れる事ができないのは解っている。


だが、二人がいい雰囲気でいるのに突入してくるバカはいるのだ。

王には愛人がたくさんいることで、息子の王太子もそうであると思う令嬢達がいる。

護衛に(はば)まれたが、後でグレイドからの制裁を受けることになるだろう。




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