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U.N.オーエンの正体は彼女なのか  作者: 貞晴
【第三章】 正義の失墜
21/21

作戦、失敗

 第三章スタートです。この物語にはオリキャラが多数登場します。むしろオリキャラメインかもしれません。一応、魔理沙や射命丸辺りをメインに据えてるつもりですが、あいつらちょっと目を離したすきに影が薄くなっちゃうからやんなっちゃう。





   【1】




 (りつ)は掛け布団を脇に退け、暑さに輾転反側している。早く寝てしまえ、そうすれば気温なんて関係なくなると言い聞かせて、もう一時間が経とうとしていた。しかし一向に眠れる気がしない。身体は疲れているのに、この我慢ならない寝苦しさは、律が浅く眠るたびに彼女を熱帯夜に引き戻すという意地悪を繰り返した。


「……無理」


 とてもじゃないが眠れそうにない。


 律は観念して布団から這い出、台所に出向いた。冷水を口にしながら小窓を開く。風はなかったが、室内に充満していた熱を幾らか追い出せた。律は寝室に戻ろうとして、コップを持ったまま立ち止まる。


 物音を聞いた気がした。カタやコトといった硬性のものではなくて、それは風の便りというか、気配みたいなもの。音源は律の家とかなり離れていたように思う。そんな気がするだけで、窓に映る景色は闇一色なのだけれど。


 気のせいかと思って、律は今度こそ布団に戻ろうとした。そのとき、山の警報器がけたたましい音を上げた。律は驚きのあまりコップを取り落としそうになった。


 山の変事を知らせるそれはベルのように鳴り続けている。律は大急ぎで玄関に向かうと、寝間着に上着を引っ掛け、取るものも取り敢えず外に飛び出した。


 律の自宅もまた、多分に漏れず背高な樹の上に建っている。枝に足をかけ、そこで律は山を見上げて息を呑んだ。頂上付近は赤く煌々と輝き、夜空に煙柱が何本も立ち昇っている。まるで火災のようだが、あれは信号弾の明かりだろう。警報器が作動したのはあれのせいに違いないと思った。


 地上には山の妖怪達が集合していた。全員、一様に不安そうな面持ちで明かりを眺め、何事かを言い争っている。律がそこに降り立つと、近くにいた鳥の妖怪が安堵したような顔をした。


「ああ、律さん。あの、俺らは、どうしたら」


 警報の音で声が掻き消される。妖怪はムキになったように大声を上げた。


「どうしたらいんでしょう。指示を下さい」


 山における天狗の地位は高い。他の妖怪が律に指示を仰ぐのは当然の流れだった。


 妖怪が明かりの方を指し示す。


「あれって、白狼天狗の信号ですよね。俺らも、向かった方が良いんですか」


 律は「いや」と強く切り捨てた。


「私が向かうから、警報が解除されるまで、ここに待機してて。こうゆう非常事態、なにが怖いって、パニックになるのが一番怖いんだから。いい? 後から来たひとにも、そう伝えるのよ。ここを動くなって」

「わ、わかった」


 妖怪は頷いて、律の指示通り、辺りの連中にこの場を離れないよう言って回った。


 律は山頂を目指して飛び上がった。立ち木を避けながら一気に加速する。闇夜をこれだけの速さで飛行できるのは、猫のように夜目が利く目と翼をもつ天狗だけの特権である。律はその特権を最大限活用し、最速スピードで山を飛び続けた。


 飛んでいるあいだ、律は正体不明の不安に急かされていた。それは予感めいており、山頂の騒ぎが自分に関係しているものだと思えて病まない。騒動の舞台には律も何らかの部品として組み込まれている。だから、律が到着しないことには騒動は治まりがつかないし、進展も望めないのだというふうに思えた。


 嫌な予感は大体当たる。この騒ぎも決して律と無関係ではない。それを確信しながらも、律は予感が外れることを願わずにはいられなかった。縋るような心地で、憑物を落とすつもりで加速する。


 前方を注視し、同族の後姿が複数あるのを認めた。きっと目的は同じはずだ。律は更に速度を上げて天狗の群れに追いついた。男が三人に女が一人。うち一人の男を見て、律は軽く驚いた。男は、律と同じ部署に所属する鴉天狗、唐尊(とうそん)だった。


「どうも。夜風が気持ち良いですね」


 律がわざと冗談めかせて言うのに、唐尊は微苦笑した。


「そうだな。暑さで火照った身体に快いよ。――聞こえてるかい」


 警報音を気にして声を張り上げる。律もそれに大声で返答した。


「はい、聞こえてます」

「一人かな」

「はい。宮按(みあん)の家なら知ってますけど、呼んできましょうか。この近辺なんです」

「いや必要ない」


 唐尊は両脇の鴉天狗を見渡す。


「この数でも、いないよりかはマシだろう。至急、白狼天狗の援護に向かおう」

「同行します」


 内心、律は不安を募らせた。きっと、唐尊と出逢ったのも偶然ではなく、必然なのだと思う。そう思えてならない。つまり、騒ぎには律のみならず唐尊も関与しているということで。――確信はいよいよ確固たるものになってきた。気のせいであって欲しい予感が、現実化して欲しくない現実味を帯び始めている。


 唐尊と合流を果たし、しばらく飛行してから、律は男衆の怒鳴り声を聞いた。もうすぐで山の頂という急勾配の中程でのことだ。声は、律の進行方向から徐々に大きさを増してきている。撃て、回りこめ、という掛け声と共に、信号弾を打ち上げる音、弾が空で炸裂する音が次第に明瞭になってきた。


「迎撃部隊の声だ」


 唐尊が呟いた。


「誰かを追って、こっちにくる」

「挟み撃ちにしようか」


 男の鴉天狗が言った。唐尊は頷き、全員にその場で停止するよう促す。


「一時待機だ。ここで待ち構える。女は下がって、男が前に出よう」


 言って、唐尊は二人の鴉天狗と肩を並べて陣取った。律は女の鴉天狗と共にその後ろに控えつつも、いつでも加勢できるよう心の準備を固めていた。


 前方に白狼天狗の群れが現れた。一人の男を猛追していた。白狼天狗は時折、妖力を込めた妖気の弾丸を男目掛けて撃っている。全弾外しているのは、それが威嚇射撃だからなのか。男は必死の形相で羽ばたいている。律は、男の羽が黒色であるのを認めて驚愕した。


(……あのひと、鴉天狗だ)


 白狼天狗から逃げている鴉天狗。位の上下が完全に逆転している。いや、これはもはや逆転とも呼べないのかもしれない。


 山は絶対的な縦社会を形成しており、山に住む妖怪はその社会の形式、仕来りに順応するを絶対の義務として課せられている。上位の妖怪が桜の花を見てこれは梅の花だと断ずれば、それはもう梅の花となり、下位は発言権を剥奪されるわけだ。上司、先輩、年上、親が言うことに、部下、後輩、年下、子供は逆らえないし、逆らってはならない。それが決まりであり、守るべき掟である。この掟の拘束力があるからこそ、様々な種の妖怪が同じ山中に住まおうと、争いが生まれることはないし、他勢力がつけこむ隙もない磐石な国家であり続けられるのだ。


 しかしどうしたことだろう。律の眼前で展開されている逃走劇は、その絶対的な掟、慣例から著しく逸脱している。あってはならないことが進行している。山のルールを脅かす、掟からの逸脱。白狼天狗による鴉天狗への攻撃が繰り広げられている。


 律の周りも動揺していた。


「来た。どうする」


 震える声で鴉天狗が問うと、唐尊は少し考え込むように間を空け、それから決然たる語調で行くと呟いた。


「行って、取り押さえる」

「いいんだな。あいつ、鴉天狗だぞ」

「構うもんか」


 三人は一斉に飛び立ち、逃げる男を白狼天狗と挟撃した。男は追っ手を躱そうと左右へ航路を変えたが、無駄な足掻きに終わった。唐尊に腕を掴まれ、体幹が斜めにがくりと傾く。そこに抱きついた白狼天狗達の体重でゆっくりと下降していき、男は山道に落下した。地に伏したまま、それでも男は手足を投げ打って抵抗したが、終いには白狼天狗ら約十人に組み敷かれ、果たして完全に身動きがとれなくなった。


「往生際が悪いぞ。諦めろってんだ」

「やめろ。離してくれ。話を聞いてくれ。俺は」


 怒鳴り声と警鐘が、悲痛な男の叫びを掻き消した。だが律は確かに聞いたのだ。男が一瞬、憎き九劉の名を口にし、そして切実に何事か訴えかけようとしていたのを。




 警報は未だに鳴り続けている。宮按は人集りの隙間から様子を窺い、危うく声を上げそうになった。物見高な連中が作った輪の中心には、幾つかの篝火に、懐中電灯で辺りを照らしつける白狼天狗が数人と、憤懣とした上司の九劉、そして――ぐったりと頭を垂れ、縛られ転がされた射命丸がいた。


 信号弾の明かりは風に流れ、山は再び深夜の闇を取り戻した。やがて警報も鳴り止み、時を同じくして迎撃部隊員が輪の中心に駆けつける。


「報告。逃走中の、男の身柄を確保しました」


 やおら射命丸が顔を上げ、悲しそうに眉根を寄せると、また顔を伏せた。


「それから、男の身元も割れました。名は玄奘。麟丸(りんまる)が監督を務める支部の役員だそうです」

「はあん」


 九劉は薄ら笑い、衰弱した射命丸を見下げるような目で見る。


「あの監督者にして、この部下ありということね。で、その男は」

「すでに、送検済みです」

「そう。――誰か、そこに寝てるやつを立たせな」


 は、と敬礼して、迎撃部隊長の敏馬(みぬめ)が射命丸に一歩近づいた。


「立てるか」


 射命丸は微かに身動ぎし、身体を起こそうとして横に転倒した。両腕を背中側で縛られているのだ。自力で立ち上がるのは困難だろう。


「無様だねえ」


 敏馬と隊員に両脇を抱えられ、やっと立ち上がれた射命丸を見て九劉が言った。


「満足に立つこともできないなんて、まるで老妖の介護だよ」


 こっちに来い、と敏馬を手招きする。射命丸を自分の目の前に立たせ、鼻先が当たりそうなほど顔を近づけた。


「一族の面汚しめが……」


 言って、九劉は射命丸を睨みつける。


「俺に恥をかかせた罪は重いぞ」


 射命丸は無言だった。無言で九劉を睨んでいた。顔には暴行を受けた跡がある。訳も分からぬまま、宮按は両目を覆った。現状は飲み込めないが、射命丸が酷いことをされたと思うと直視できなかった。


「強気だな」


 九劉は悪意を滲ませて笑った。


「君は、拷問を受けた経験がおありかい? ――ないよな。あまりに残虐な手段ということで、天魔様が山の親になられてから廃止になったんだから」


 だけどね、と続ける。


「山は死角が多い。やるなと言われようが、やろうと思えば何だって出来るんだよ。それこそ、君が泣こうが叫ぼうが永遠に終わらない、いっそ殺してくれと懇願したくなるような拷問にかけることだって朝飯前なわけさ」

「………」


 九劉は射命丸を脅したつもりだったが、射命丸の表情に変化はない。代わりに、隣の敏馬が剣呑な目つきになる。敏馬は九劉でも射命丸の味方でもない。掟を破る者は誰であろうと敵である。


 敏馬の目線に気付き、九劉は面白くない心地で連れて行けと命令した。両脇の二人に引き摺られて射命丸は足を踏み出す。彼女は、腕ごと羽を縛られているせいで飛ぶことが出来ない。留置所へは徒歩で向かうことになる。


 射命丸が進むと、妖怪達は道を譲って退いた。退きながら、なかには忙しく首を傾げる者もいた。射命丸の拘束される理由が分からないのだ。妖怪の腹や、背中でもみくたにされる宮按もそれは同じだった。射命丸が悪事を働くわけがないとさえ思える。しかし実際に、大量の信号弾が打ち上がり、大音量の警報が鳴らされたのだから、射命丸が何かをしでかし九劉の怒りを買ったのだろうということだけは理解できた。


 上辺だけ見れば射命丸は掟破りだが、宮按にはそれが何かの間違いである気がしてならない。あるいはもしかすると、それが何かの間違いであって欲しいと望んでいるのかもしれないが。宮按は、射命丸が連れて行かれそうになるのを見ていられず、止めるべきか刹那に迷った。決意したときには、その小さな手で前の妖怪の背中を押しのけようとしていた。


 突如、両肩にずしんとした重みを感じる。宮按の動きが止まった。驚いて振り返る。そして宮按はもう一度驚いた。


「なんだい、お嬢ちゃん。俺の顔に、なんかついてるかい」


 曼成店主、牛郷(ぎゅうごう)が笑いながら言って、腰を屈めて宮按の耳元に口を運んだ。


「やめときな。あんたじゃ相手にされないよ」 

「で、でも……」


 宮按はしどろに囁き返す。


「このままじゃ、射命丸さんが捕まっちゃう。捕まるなんて、変ですよ。なにか、きっと行き違いがあって、こんなことに。だから、止めなくちゃ」


 牛郷は頷いた。


「ああ、変だな。十中八九、濡れ衣だ。あの、鼻持ちならねえ野郎に嵌められたんだ」


 九劉は周りの白狼天狗に当たり散らしている。そうかもしれない、と宮按は思った。あのひとならやりかねない。九劉は平気で他人を蹴落とすんだ。


「あいつ、名前はなんてェんだい」


 九劉、と宮按は教えた。


「はあん。で、あっちは。昨日、うちの店に来た顔だな」


 牛郷が問う。射命丸を知らないことに宮按は驚いた。その名を宮按が口にしても、牛郷は髭を撫でながらそうかと呟くきりで、九劉の名を知ったときと反応に差はない。


 射命丸達は妖怪の囲みを抜け、山道を下り始めている。宮按が慌てて後を追おうとするのを、牛郷が再び止めた。


「だから、あんたじゃ話しになんねえって」

「でも……」

「下手すりゃ、お嬢ちゃんまで共謀者に仕立て上げられちまうぜ。ここは、おじさんに任せておきな」

「任せるって?」

「それとなく、射命丸ちゃんに何があったかを聞き出してみる」

「そんなの、どうやって」


 宮按が不安がるのに、牛郷は大丈夫だというふうに破顔した。


「曲がりなりにも、俺は鬼だ。まあ、ここで見ときな」


 まだ何か言いたげな宮按を残して、牛郷は射命丸に追いついた。敏馬が振り向きざまに剣呑な目を向けてくる。


「どうかしましたか」


 相手が鬼だと分かっても、敏馬に恐縮したような様子はない。一方、射命丸の右脇を固める白狼天狗は、牛郷を見るなり相当驚いたのを表情に出していた。


「別にどうもしねえよ。ただ、警護をしてやろうと思ってね」

「警護、ですか」


 敏馬は眉を顰めた。射命丸はずっと項垂れたままでいる。


「そんな恐れ多いこと、お願いできません」

「良いんだって。山とはいえ、夜道に危険はつきものだろう」

「ご心配には及びません。天狗は夜でも見通しが利くんです。我々にとって、暗闇は真昼に同じ、なんの危害にもなりえません」

「こいつの仲間が襲って来るかも分からんぜ」

「でしたら、警護の数は迎撃部隊員で補充します。私としても、部下を近くに置いといた方が、何かと不慮の事態に対処できますので」


 牛郷は唸った。


「固い。固すぎるよ、あんた」

「失礼します」


 敏馬は部下に行くぞと命令し、射命丸共々踵を返した。


「だから、待てっての」


 草叢の石を拾い上げ、牛郷は敏馬の前に回り込んだ。腕を伸ばし、握り拳を小刻みに震わせる。石を粉砕する音がして、指の隙間から砂粒がこぼれ落ちた。


「俺ァ、強いぜ」


 手中に残った砂を払い捨て、牛郷は不敵に笑った。敏馬の表情が微かに変化する。


「それによ、俺は、鬼だぜ。鬼の一族だ。鬼ィ相手にして、あんまし、あーだこーだとぶうたれるんじゃねえぞ、――天狗の分際で」


 敏馬は露骨に顔を顰めた。そこに九劉が、白狼天狗を何人か引き連れてやってくる。


「なにを揉めている」

「ああ、丁度良かった。なあ、九劉さん。搬送の警護、どうか俺に手伝わせてはもらえませんかね」


 九劉は瞬いた。


「ど、どうしたんですか、突然」

「いやね、夜道は物騒だから、護衛が必要かなと思って。これでもね、俺は結構な力持ちなんだ。護衛にはうってつけだよ」

「はあ。そりゃあ……心強いですな」


 九劉は敏馬より融通が利き、また打算的だった。九劉は一族の幹部であり、多くの天狗を手玉にとることも可能ではあるが、鬼を相手取るともなれば守備に回らざるを得なくなる。天狗の先祖は、かつて鬼に使えていた。その風俗から脱しきれていないのである。牛郷の高圧的な物言いに、九劉が反論できるはずもなかった。


 いつのまにか、物見高な妖怪が再び射命丸達を囲もうとしている。宮按の姿もそこにあった。宮按にだけ見えるよう、牛郷は親指を立ててみせる。もうひと押しだ、と牛郷は確信していた。


 しかし、と敏馬が意義を呈す。


「これは一族の内輪揉めです。鬼一族の力を拝借するというのは、筋違いではありませんか」


 九劉がきっと睨みを利かせた。


「なんだね、君は。牛郷さんの御厚意を無駄にするのかね」

「そんなつもりでは」

「だったら、つべこべ言うんじゃないよ」


 九劉は、へつらうような調子で牛郷を見た。


「では、お願い致します」

「悪いね。無理を通して貰っちゃって」

「いいえ、いいえ。ときに、人数は足りてますかな。護衛は、三人だけで?」

「ああ、むしろ多いくらいなんだがな。両脇の二人を外して、俺だけにしてもらっても事足りるぜ」

「え、ええっ」


 九劉は目に見えて狼狽する。


「さ、さすがに、おひとりというのは」


 そのとき、射命丸は何かを察したような風情で牛郷を見つめた。


「莫迦な」


 そこに敏馬が割り込む。


「ひとりだと? 貴様、さっきから何をいっている。目的はなんだ」

「目的もなにも、言葉の通りなんだけどな」


 敏馬が一歩、牛郷の方へ進み出た。危険を察知し、周りを囲む妖怪達が、てんでにその場を離れようとする。喧嘩だ、と誰かが叫んだ。


「おいおい、俺ァ、喧嘩をする気はないんだぜ」


 牛郷はそう言いながらも、両腕を振り上げ、敏馬の攻撃に備えている。


「引け、敏馬」


 九劉が怒鳴った。


「思い出せ。山における非公式の戦闘は、掟に反するぞ」


 敏馬がぴたりと停止する。目だけは牛郷に鋭い視線を送っていた。九劉が連続して言う。


「牛郷さんを疑ってるわけじゃありませんが、ひとりってのはいけません。もしものときに対応できない」


 九劉なりに言葉は選んでいるつもりだった。牛郷は渋々といったふうに頷く。


「それもそうだな。じゃあ、もうひとり、誰かつけてくれ」


 九劉は敏馬を一瞥し、軽くかぶりを振ってから、射命丸と立ち並ぶ白狼天狗を指で示した。


「敏馬を外させます。彼をお供につけてやってください」

「はいよ」


 腑に落ちない顔をする敏馬と位置を変わり、牛郷が射命丸の隣に寄り添った。牛郷は歌うように大声を上げながら、妖怪の囲みを切り崩していった。










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