はにかんだその顔で
「お待たせー、待った?」
「全然」
「よかった。それで、いいカフェってのはどこにあるの?」
「そう焦らない。ここから少し歩いたとこにあるから」
「また歩くの〜?今回は遠くない?」
この前のこともあり疑いの目で見ると「そんなことないよ」と信用できない返事が返ってきた。
「ふふっ、怪しいな〜」
「そんなことないよ、、行こうか」
歩きながらチラリと彼を顔を見た。
なんだか浮かない顔をしている。空が曇り始めて少し気温が下がったからか、寒いのかもしれない。ただそれを聞く気にはならない。単なる気のせいだった場合気まずくなるから。精一杯遠回しに捻り出す。
「な、なんか曇って来たね〜、寒い気もするな〜」
「?、、寒いの?」
「あっ、いや、まだ寒くないけど」
馬鹿。私が心配されてどうする。
「まぁ、もうすぐ着くよ。」
「、、うん」
「ここだよ」
そう言われて私は目の前の喫茶店を見る。路地裏でかなり年季の入っている喫茶店だ。壁には蔦が垂れていて秘密基地ようなこの喫茶店に私はワクワクしながら足を踏み入れた。
内装は思ったより広い。レトロな雰囲気でレコードプレイヤーまで置いてあり聞いたことないジャズミュージックが流れている。適当に窓際の席に二人で向かい合うように座った。私たちはお互いカフェラテを注文する。
「すごいねここ。こんなオシャレなとこどこで知ったの?」
「例のロック好きな友人。」
全然その友人像が掴めない。ロック好きとカフェ好きは共通するのだろうか。
「それでさ、ちょっと大事な話があってさ、言わんくてもいいと思ってたんだけど、ちょっと言わなくちゃいけなくなっちゃって。」
なんだろう、今日の浮かない顔の原因だろうか。
「、、、僕、心臓に腫瘍があって、そのせいで作曲活動に支障をきたしそうで、、、」
そう言いながら彼は下を向いた。まずい状況が掴めない。
「ちょっと待って、何、、?心臓に腫瘍?」
「そう。腫瘍があって、 僕はあと一年くらいしか生きられない。」
まずい頭が回らない。クラクラしてきた。あと1年しか生きられない?
「え、、でも治療法とかは」
「ない。僕の命はあと一年で終わる。」
「なんでそんなに、、、なんでそんなに落ち着いていられるの?」
「わかってたことだからね。生まれつきなんだコレ。」
そう言って彼は心臓のあたりを触る。
「なんで今になって言ったの?わかってたことなんでしょ?」
「元々言わないはずだったんだ。そんなこと忘れて、君と喋りながら作曲するのが楽しかったから。でも、最近病状が悪化して入院しないといけなくなって、隠し通せなくなったから言ったんだ。」
「そう、、」
何も言えない。何も喋れない。これ以上聞くともっと怖いことを知ってしまう。
「ここからが本題なんだけどさ、入院しても作曲活動続けたいんだ。もうすぐ死ぬ人間に協力するのは馬鹿らしいと思うかもしれないけど。もう少しだけ、曲が完成するまで協力してくれないかな?」
「当たり前じゃん。馬鹿らしいなんて思わない。最後まで、、私は君の作曲活動に付き合うよ。」
「、、、ありがとう」
彼は寂しい笑顔でそう言った。私は「全然いいよ」と言おうとするも喉が熱い。熱くて痛い。目頭も熱い。私はいつの間にか机の上に置かれているカフェラテを一気に飲み干した。喉を冷やせるならなんでもよかった。
「ゲホッゲホッ」
一気に飲み干したせいで気管に入ったのか、咽せた。
「ゲホッ、、全然大丈夫だよ。なんたって私は、君のファンだからね」
自分でも笑ってしまうくらい意味がわからない言葉を言ってしまった。彼も笑っている。
「ハハッハハハッハハ、、ありがとう、。」
泣きながら笑う彼を見て私も泣き出してしまった。
お互い泣き止んで落ち着いたあと、私は病院の場所を教えてもらってこの日は解散することになった。
いつもは別れるとき「バイバイ」というのにこの日は「またね」にした。さよならはなんだか怖いから。
「うん、またね」
泣き腫らしたその寂しい顔で精一杯作った笑顔でそう言ってくれた。曇り空さえも吹き飛ばしてくれるような明るい笑顔。
この日から彼の前では泣かないと私は固く誓った。




