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フォロワー100万人の裏側、全部晒します。~炎上コンサルタント・佐藤任三郎の処刑ログ~  作者: U3
第2章:正義を騙る暴露系YouTuberの闇

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第20話 アジト急襲

 午後9時35分。

 港区白金台。高級マンション『メゾン・ド・プラチナ』の地下駐車場。

 無機質なコンクリートの空間に、一台の漆黒のセダンが鎮座していた。グレタ・ヴァイスの愛車、BMW M5 CSだ。

 エンジンは切られているが、車内には張り詰めた緊張感が充満している。


 後部座席では、佐藤任三郎がタブレット端末を見つめていた。

 画面には、YouTubeのライブ配信が映し出されている。

 松本愛永とジャッジマン・タナカの舌戦は、佳境を迎えていた。愛永の巧みな挑発により、タナカは顔を真っ赤にして反論を喚き散らしている。


『俺にはバックがいるんだよ! 警察だって動かせねぇ力がな!』


 タナカの決定的な失言が、スピーカーから漏れ聞こえた。

 佐藤は口元をわずかに緩めた。


「……釣れましたね。愛永さんの完勝です」

「性格悪い女同士の戦いって怖いわー」


 隣でノートPCを開いていた田中襟華が、身震いする。


「でも、おかげでタナカは画面に釘付けだ。今なら背後でドラムを叩いても気づかないだろう」


 運転席のグレタが革手袋を締め直す。

 助手席の小林弥生は、ガスマスクのフィルターをチェックしながらクスクスと笑った。


「じゃあ、そろそろ行きますか? 悪い子にお仕置きの時間ですよ」


 佐藤は頷き、ドアを開けた。


「作戦開始。……目標は最上階ペントハウス。迅速かつ静粛に制圧します」


 時計の針を、少しだけ戻そう。

 決戦当日の午後3時。

 佐藤のオフィスは、エキゾチックなスパイスの香りに包まれていた。

 クミン、コリアンダー、オレガノ、そして炭火で脂が焦げる匂い。


 キッチンの特設グリル台の前で、佐藤は串を回していた。

 彼が作っているのは、トルコ料理の王様『シシ・ケバブ』だ。

 屋台のドネルケバブではない。最高級のラム肉を使った、本格的な宮廷料理としてのケバブだ。


 肉は、ニュージーランド産の骨付きラムラックを使用。骨を外し、余分な筋と脂を外科医のような手つきで取り除き、一口大の角切りにする。

 それを、特製のマリネ液に一晩漬け込み、肉の繊維を解きほぐしつつ風味を凝縮させてある。


 金串に打った肉を、備長炭の直火で炙る。

 ジュゥゥゥ……ッ。

 脂が炭に落ち、煙となって肉を燻す。

 この燻煙こそが、ケバブの魂だ。

 佐藤は団扇で火力を調整し、表面をカリッと焼き固めながら、中心はロゼ色に仕上げる絶妙な火入れを行う。


「……焼き上がり」


 佐藤は串から肉を外し、温めておいた皿に盛り付けた。

 付け合わせは、薄焼きパンのラヴァシュ、赤玉ねぎとスマックのサラダ、そして焼き青唐辛子。

 皿の横には、よく冷えた白ワインのボトルが置かれている。

 トルコ産の土着品種『ナリンジェ』を使った、柑橘系の香りとしっかりとしたミネラル感を持つ辛口ワインだ。


「どうぞ。……熱いうちに」


 テーブルで待っていた佐々木紘子が、フォークを伸ばした。

 今日の彼女は、鮮やかなターコイズブルーのドレスを纏い、いつものようにミステリアスな雰囲気を漂わせている。

 彼女はラム肉を口に運び、ゆっくりと咀嚼した。


「……んんッ」


 恍惚のため息が漏れる。


「柔らかい……。羊特有のクセが、スパイスと炭の香りで上品な色気に変わってるわ」


 彼女は白ワインをグラスに注ぎ、流し込んだ。

 スパイシーな肉の脂を、キリッとした酸味が洗い流し、口の中に爽やかな風が吹く。


「最高ね。イスタンブールの夕暮れが見えるようだわ」


 紘子は満足げにグラスを置き、足元のアタッシュケースをテーブルに乗せた。

 カチャリ。

 中には、武骨な黒いデバイスと、数本のケーブルが入っていた。


「約束の品よ。『アイゼン・シリーズ』専用のメンテナンス・オーバーライド・ツール。……これがあれば、あのマンションの旧式セキュリティなんて、紙切れ同然よ」


「感謝します」


 佐藤はケースを受け取った。


「代金は?」

「このケバブとワインで十分よ。……と言いたいところだけど」


 紘子の表情が引き締まった。

 ガラス玉のような瞳が、佐藤を射抜く。


「一つだけ忠告させて」

「……何でしょう?」


「今回の敵……権藤のことよ」


 彼女は声を潜めた。


「私が以前、あの贋作の壺を売った時……彼は言っていたわ。『これは我々の”理想郷”に飾るのに相応しい』って」

「理想郷?」

「ええ。彼らは本気で信じているのよ。自分たちがネットの力で大衆を扇動し、既存の権威をぶち壊して、新しい秩序を作ることを。……ただの金儲けじゃない。カルト宗教に近い狂信を感じたわ」


 狂信者は、損得勘定では動かない。

 追い詰められた時、自爆をも厭わない予測不能な行動に出る可能性がある。


「……肝に銘じておきます」


 佐藤は静かに頷いた。


「彼らの理想郷とやらが、他者の尊厳を踏みにじった上に成り立つ砂上の楼閣である以上、崩さなければなりません」


 紘子は佐藤の決意に満ちた横顔を見つめ、そして嬉しそうに微笑んだ。


「そう来なくちゃ。……だから私は、あなたに惹かれるのよ」


 彼女は残りのワインを飲み干した。


「必ず生きて戻ってらっしゃい。……次の料理がまだ決まってないんだから」


 スパイシーな羊肉と、冷たい白ワイン。

 その余韻を力に変え、佐藤は戦場へと向かう準備を整えたのだった。


 現在に戻る。

 地下駐車場のエレベーターホール前。

 立ちはだかるのは、強固なセキュリティゲートだ。

 強化ガラスの扉は閉ざされ、壁にはICカードリーダーと静脈認証パネルが埋め込まれている。


「さて、魔法の時間だよ」


 襟華が前に出た。

 彼女の手には、昼間に紘子から受け取った、武骨な黒いデバイスが握られている。

 ゲートの制御盤のカバーを外し、内部のポートにコネクタを差し込む。


「……アイゼン・シリーズの弱点、メンテナンスポートへの強制介入。紘子さんの言った通りだね」


 襟華がタブレットを操作する。

 画面上で、複雑なコードが滝のように流れていく。


「電圧パターン注入……3、2、1……」


 カシャッ。

 重厚な音が響き、強化ガラスの扉が左右にスライドした。

 認証パネルのランプが、赤から緑へと変わる。


「開いた! ツール最強!」


 襟華がガッツポーズをする。


「急ぎましょう。強制解除のアラートが警備室に行く前に、制御を乗っ取ります」


 佐藤が指示を出す。


 4人はゲートを抜け、エレベーターホールへと侵入した。

 エレベーターは2基。

 佐藤は呼び出しボタンを押す。

 すぐに1基が降りてきた。

 扉が開く。中は無人だ。

 だが、天井の隅には広角レンズの監視カメラが設置されており、赤色灯が点滅している。


「ここからは私の仕事です」


 佐藤はエレベーターに乗り込むと、操作盤の下にあるメンテナンスハッチを開けた。

 自身のノートPCを接続する。


「警備室のモニターには、今この瞬間から『無人のエレベーター内部』の映像がループ再生されます」


 彼の指がキーボードを叩く。

 カメラの映像信号に割り込み、事前に用意しておいたダミー映像を流し込む。

 0.5秒のラグ。

 カメラのランプが一瞬だけ不規則に点滅し、また元のリズムに戻った。


「……完了。これで我々は透明人間です」


 全員が乗り込み、扉が閉まる。

 佐藤は最上階『PHペントハウス』のボタンを押した。

 箱が上昇を始める。

 重力が足にかかる。


「いよいよですね」


 弥生が呟く。


「タナカ、どんな顔するかな」

「泣いて謝っても許さん」


 グレタが特殊警棒を手のひらで叩く。


「私の休日を潰した罪は重い」


 佐藤はスマホで愛永の配信状況を確認した。

 タナカはまだ、顔を真っ赤にして何かを叫んでいる。


『だから! 俺のバックには……!』


 完全に我を忘れている。足元のエレベーターが上昇してきていることに気づく様子はない。


 だが、佐藤の脳裏には、紘子の忠告がこびりついていた。


 『カルト宗教に近い狂信』。


 タナカはともかく、その裏にいる権藤や技術者が、ただの金目当ての輩ではないとしたら。

 この要塞のようなマンションに、まだ見ぬトラップが仕掛けられていない保証はない。


 30階。35階。40階。

 数字が上がり、頂上へと近づいていく。


「全員、警戒を」


 佐藤が短く告げる。


「扉が開いた瞬間が、勝負です」


 チン。

 到着のベルが鳴った。

 扉がゆっくりと左右に開く。

 その先には、虚構の王が住む城が待っていた。

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