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フォロワー100万人の裏側、全部晒します。~炎上コンサルタント・佐藤任三郎の処刑ログ~  作者: U3
第1章 偽りの女神と加工された嘘

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第14話 処刑執行:Phase 2

 MIIKAの絶叫が、暴動の合図だった。


「全員ボコボコにして黙らせなさいよ!!」


 その言葉に応えるように、舞台袖の暗がりから、屈強な男たちが客席へと雪崩れ込んだ。

 黒いスーツを着た、明らかに堅気ではない男たち。手には伸縮式の特殊警棒が握られている。

 彼らはMIIKAを批判した最前列の客――その中には「騙された!」と叫んだ渡辺千尋もいる――に向かって、躊躇なく暴力を振るおうとしていた。


 客席から悲鳴が上がる。

 アイドルのライブ会場が一転、暴力の支配する無法地帯へと変わる。

 MIIKAはステージの上で、引きつった笑みを浮かべていた。

 そうだ。力でねじ伏せればいい。私は特別なんだから、何をしても許される。逆らう奴らが悪いんだ。

 恐怖で思考が麻痺し、彼女は破滅的な選択をしたことに気づいていない。


 一人の男が、千尋の胸ぐらを掴もうと手を伸ばした。


「オラァ! テメェか、扇動したのは!」


 千尋は逃げなかった。

 彼女は優雅にワイングラスを置き、男の目を真っ直ぐに見据えて、艶然と微笑んだ。


「……私のボディーガードは、高いわよ?」


 その瞬間。

 ドォン!!

 重い衝撃音が響き、男の体が真横に吹き飛んだ。

 客席の通路を疾走してきた影が、飛び蹴りを叩き込んだのだ。


 着地と同時に、影が立ち上がる。

 プラチナブロンドのショートボブ。黒い機能的な服に身を包んだ長身の美女。

 グレタ・ヴァイスだ。


「……遅い」


 グレタは倒れた男を一瞥もしない。


「千尋、私の出番まで3秒待たせた。チップを減額するぞ」

「あらごめん。演技に熱が入っちゃって」


 他の男たちが色めき立つ。


「なんだこの女! やっちまえ!」


 三人の男が同時にグレタに襲いかかる。警棒が振り下ろされる。

 だが、グレタの世界では、彼らの動きはスローモーションに等しい。

 彼女は最小限の動きで警棒を躱し、一人の手首を極めて武器を奪うと、その勢いのまま隣の男の顎を警棒のグリップで打ち抜いた。

 ガッ。

 鈍い音と共に男が崩れ落ちる。

 残る一人に対しては、鳩尾への強烈な前蹴り。

 数秒。

 たった数秒で、プロの半グレたちが制圧された。


「ひっ……!」


 ステージ上のMIIKAが息を呑む。

 さらに、反対側の通路でも異変が起きていた。

 男たちが次々と、糸が切れた人形のように倒れていくのだ。

 その中心にいるのは、白衣を着た小柄な女性――小林弥生。

 彼女は手にしたスプレー缶を、ダンスを踊るように噴射していた。


「はい、おやすみなさーい。……深呼吸してねー」


 プシュッ。プシュッ。

 無色無臭のガス。弥生特製の即効性鎮静ガス『スリーピング・ビューティー Ver.3.0』だ。

 吸い込んだ男たちは、瞬時に意識を断ち切られ、昏倒する。


「あーあ、暴力反対。……注射針のほうが痛くないのにね」


 弥生は倒れた男たちを跨ぎ、ペロリと舌を出した。


 圧倒的な武力と、科学力。

 MIIKAの雇った「暴力装置」は、Octogramの執行者たちの前では無力だった。


★★★★★★★★★★★


「な……なんなのよ、こいつら……!」


 MIIKAは後ずさりした。

 護衛が全滅した。客席はパニックどころか、グレタたちの圧倒的な強さに呆気に取られている。

 逃げなきゃ。

 本能が警鐘を鳴らす。

 MIIKAはマイクを投げ捨て、舞台袖へと走った。

 裏口から駐車場へ行けば、まだ逃げられるはずだ。パパに貰ったポルシェがある。高飛びのチケットも……。


 彼女は非常口のドアに体当たりした。

 ガチャン!

 ……開かない。


「え? なんで?」


 彼女はドアノブをガチャガチャと回す。鍵がかかっているはずがない。避難経路だぞ。

 だが、ドアは溶接されたかのようにびくともしなかった。


『無駄だよ、MIIKAちゃん』


 頭上から、若い女の声が降ってきた。

 MIIKAが弾かれたように振り返ると、ステージ上の巨大スクリーンに、見知らぬ少女のアイコンが表示されていた。

 田中襟華の声だ。


『その会場のセキュリティシステム、全部こっちで掌握済み。以前、アンタの控え室に仕掛けたバックドア経由でね。……すべてのドアは電子ロックで封鎖した。アンタはもう、袋の鼠ってやつ』


「ふざけんな! 開けろ! ここから出せぇ!!」


 MIIKAはドアを蹴り、爪を立てた。

 しかし、ドアは冷たく沈黙を守るだけだ。


 その時。

 会場の照明が全て落ちた。

 完全な闇。

 観客のざわめきが止む。

 静寂の中、スクリーンだけが青白く発光し、一人の男のシルエットを映し出した。


『……残念ですが』


 加工された、しかし冷徹な響きを持つ低い声。

 佐藤任三郎の声だ。


『あなたのショーはこれにて終了です。……カーテンコールはありません』


 MIIKAはその場にへたり込んだ。

 スポットライトが、無慈悲に彼女だけを照らし出す。


「だ、誰よあんた……! 私に何の恨みがあるの!」

『恨み? いいえ。これは単なる』


 画面に文字が浮かぶ。


 【損切り】


『リスク管理です。あなたは社会という市場にとって、有害な不良債権になりました』


 画面が切り替わる。

 そこに映し出されたのは、無機質な数字とグラフの羅列だった。

 だが、MIIKAにはそれが何を意味するか、痛いほど理解できた。


 『サプリメント成分分析表』。


 赤字で強調された『シブトラミン』『フェノールフタレイン』『エフェドリン誘導体』の文字。

 そして、『製造元:ラオス第3工場』の文字。


『これが、あなたが「完全天然由来」と謳って販売していた毒物の正体です』


 佐藤の声が淡々と事実を告げる。


『覚醒剤原料と、劇薬指定の下剤。……これを未成年のファンに売りつけていた罪は、詐欺では済みません。傷害、および麻薬取締法違反です』


 客席から悲鳴に近い声が上がる。


「麻薬……?」

「私たち、そんなもの飲まされてたの?」


 さらに画面が変わる。

 今度は、銀行の取引明細書だ。

 MIIKAの個人口座から、海外のペーパーカンパニーを経由して、反社会的勢力の口座へと送金された記録。

 日付、金額、すべてが明白に記されている。


『そして、これがあなたの「売上」の行き先です。ファンの小遣いは、巡り巡ってテロ組織や犯罪組織の資金源になっていた。……あなたはただの広告塔ではない。犯罪の共犯者だ』


 トドメだった。

 言い逃れようのない、科学的かつ物理的な証拠。

 MIIKAは首を振った。


「ち、違う……私は知らなかったの! 事務所に言われた通りにやっただけで……!」

『知らなかった? ……本当に?』


 最後の映像が流れる。

 以前、襟華が仕掛けたバックドアから吸い出した、MIIKAのLINEの履歴だ。


 『今回のサプリ、ちょっと混ぜ物多いけどバレないよね?w』

 『馬鹿なガキどもが依存してくれれば、もっと儲かるし~』


 MIIKA本人のIDからの発言。


 会場中から、殺意に近い視線がMIIKAに突き刺さる。

 もう、誰も彼女を「被害者」とは思っていない。

 彼女は、アイドルという皮を被った怪物だったのだ。


「あ……あぁ……」


 MIIKAは崩れ落ちた。

 ドレスは汚れ、メイクは涙と脂汗でドロドロに溶けている。

 その姿は、スクリーンに映し出された「無加工の彼女」よりも、遥かに醜悪だった。


 遠くから、サイレンの音が聞こえてくる。

 今度こそ、本物の警察だ。

 吉田彩が、タイミングを見計らって通報したのだろう。

 脱税、麻薬、傷害。

 彼女を待っているのは、煌びやかな芸能界ではなく、冷たい鉄格子の独房だ。


『さようなら、MIIKA』


 佐藤の声が、別れを告げる。


『あなたの人生は、ここで上場廃止です』


 プツン。

 スクリーンが消えた。

 会場の照明が戻り、現実が押し寄せる。

 MIIKAは床に突っ伏し、獣のように泣き叫んでいた。

 だが、その声に耳を傾ける者は、もう誰もいなかった。


★★★★★★★★★★★


 騒乱が収束し、パトカーの列がMIIKAを乗せて去った後のこと。

 会場周辺の野次馬も散り、夜の静寂が戻ってきた西麻布。

 佐藤任三郎は、路地裏にひっそりと佇む会員制のワインバーにいた。


 看板はなく、重厚な扉を開けると、そこは外界とは隔絶された大人の隠れ家だった。

 カウンターの隅で、渡辺千尋が待っていた。

 彼女はすでに、ライブ会場での派手なドレスから、シックな黒のワンピースに着替えている。

 手元には、赤ワインの入ったグラス。


「……お疲れ様、指揮官殿」


 千尋がグラスを僅かに持ち上げて見せる。


「完璧な仕事だったわね。あそこまで見事に転落する様は、芸術的ですらあったわ」

「あなたのアジテーションのおかげです」


 佐藤は隣のスツールに腰掛け、バーテンダーにミネラルウォーターを頼んだ。


「客席であれほど自然に空気を支配するとは。……やはり、あなたの心理掌握術は恐ろしい」


「あら、褒めても何も出ないわよ?」


 千尋は悪戯っぽく微笑み、ワインを口に含んだ。

 ブルゴーニュの古酒。複雑で、妖艶な香り。


「でも、正直スッとしたわ。私の役目は『騙された被害者』を演じることだったけど……半分は本気だったもの」


 彼女の目が、ふと真剣な色を帯びる。


「純粋な憧れや好意を、金儲けの道具にする。……そういう手合いが一番嫌いなのよ。人の心をもてあそぶ詐欺師は、私一人で十分だわ」


 自嘲気味な言葉。

 元公安の協力者として、数多の人間を欺き、利用してきた彼女だからこその重みがある。

 佐藤は水を一口飲み、彼女の横顔を見つめた。

 魔性の女、女狐。そう呼ばれる彼女だが、その根底にあるのは、歪んだ世界に対する彼女なりの矜持だ。


「……同感です」


 佐藤は静かに言った。


「だからこそ、我々は手を組んでいる。……毒をもって毒を制すために」

「そうね。私たちは共犯者。……地獄行きのバスに乗り合わせた道連れよ」


 千尋はグラスを置き、身体を佐藤の方へ向けた。

 甘い香水の香りが漂う。

 彼女の手が伸び、佐藤の頬に触れた。冷たい指先。


「ねえ、任三郎」


 囁くような声。


「今日は祝杯をあげる気分じゃないの。……少しだけ、静かな時間が欲しいわ」

「……」


 佐藤は身じろぎもせず、彼女の瞳を見つめ返した。

 そこには、戦いを終えた戦士の疲労と、ほんの少しの弱さが見え隠れしていた。


「あなたの完璧主義には時々うんざりするけど……こういう時は、その冷たさが心地いいのよ」


 千尋は指を滑らせ、佐藤のネクタイを整えた。


「付き合ってくれる? ……朝までとは言わないけれど」


 それは、誘惑であり、懇願でもあった。

 佐藤は小さくため息をつき、しかし、その手を払いのけることはしなかった。


「……明日の朝は、とびきりの鴨を焼く予定なのですが」

「あら、朝食付き? それは魅力的ね」


 千尋がクスクスと笑う。


 佐藤はバーテンダーに目配せをし、チェックを頼んだ。


「行きましょうか。……ここも少し、空気が澱んできました」

「ふふっ。エスコート、期待してるわよ」


 二人は店を出て、夜の街へと消えていく。

 戦いの後の、束の間の安息。

 互いの傷を舐め合うわけではない。ただ、同じ闇を見つめる者同士、沈黙を共有するだけの夜。

 それが、彼らにとっての「デート」だった。


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