悪タイプには無効
「フッ!」
というわけで言われた通りにグラスに溜まっているであろうガスを吹き飛ばし。
今度こそ飲むぞ。
「……おー?」
今度はちゃんと気を失わずに飲めたよ。
それはそれとして、この春の息吹ってワイン……。
バラの味がする……。
いや、俺自身もバラの味に関しては詳しくは無いんだけれども。
あれだ、バラ園とかに売ってある、バラ味のソフトクリームに非常によく似た味がする。
「なんで桜色でバラの味がするのかは気になる所ではあるけれども」
あと、当たり前にワインなのにバラの味がするところね。
バラの香りじゃないからね? バラの味だからね。
「お気にめちまちたでちょうか?」
「美味しいです」
俺がさっきぶっ倒れたからなのか、店員さんが申し訳なさそうに聞いてくる。
まぁ、うん。
事前説明が無かったとはいえ、倒れたのは俺の責任――なわけねぇだろうが。
飲み方の指南くらい最初にしとけ! まぁ、大事には至ってないみたいだから許すけど。
「ドライフルーツも美味しいですね」
しれっと食べたけど、このドライフルーツ美味い。
食べたのはオレンジっぽい見た目のやつだったけど、まぁ、見た目通りの味。
ただ、何というか、ドライフルーツ特有の固さが無い。
芋けんぴとかみたく、固くて噛んだら尖った部分が出来て歯茎に刺さる、とかが起こりえるドライフルーツも存在する中で、このドライフルーツは水分が抜けつつもしっかり柔らかさがあるというか……。
一瞬グミと勘違いしそうな食感になるんだよな、このドライフルーツ。
味も甘酸っぱさが濃縮された感じで、皮の部分のほろ苦さが全体をしっかりまとめてるね。
そこにバラソフトワインを……。
「……いい」
オレンジの酸味と甘さが、バラの香りと味に深みを与えてくれる。
華やかな、鼻から抜ける風味も際立つね。
ドライフルーツと合うわ。
「お代わりも有りまちゅよ?」
「じゃあ、少しだけ」
ポテチとかの感覚でドライフルーツ食べてたら、お代わり貰っちゃった。
だって美味しいんだもんよ。
「このドライフルーツって自家製なんですか?」
リンゴのドライフルーツを食べながら質問。
リンゴはなんというか、外は酸味が強くて内側の部分は蜜が溜まってるのかすっごく甘い。
その酸味と甘みのコントラストが癖になるんじゃー。
「でちゅ。この森の中で一番高い木の枝に差して乾燥させるんでちゅ」
……百舌鳥の早贄。
いや、なんか口に出したら駄目な気がするからやめておこう。
「てことは、量はそんなに作れない感じですか?」
「頑張ってるから量は確保出来ているでちゅ」
「ほへー」
ドライブルーベリーも美味いな。
ギュッと濃縮された甘味が噛んだ瞬間にはじけるわ。
ラズベリーは酸味が強いけど酸っぱすぎるって程じゃないし。
「どちらかと言うと、ワイン作りの方が大変でちゅ」
「まぁ、ワインはね……」
簡単じゃないだろうねぇ。
俺はワイン作りには詳しくないけど。
「とと、ワインのお代わりはいりまちゅか?」
「んー……いや、大丈夫かな。結構ここまで飲んだし」
「かちこまりまちた」
……ん?
何で注がれたの?
俺、今要らないって……。
「あれ?」
「? ……あっ! もちかちて必要ないって意味での大丈夫、でちたか!?」
「あー……」
なるほどね。
大丈夫、を肯定の方として捉えたのか。
まぁ、じゃあしょうがないか。
日本語難しいもんね、仕方ないね。
「紛らわしい言い方しちゃった俺が悪いし、美味しく頂くよ」
「ちゅみまちぇん……」
そんなしょんぼりしなさんな。
俺が飲めばいいだけだからよ。
「……ん、そうだこの春の息吹ってハーフサイズあります?」
「ございまちゅよ」
「それを一本ください」
「はい! かちこまりまちた!」
折角のワイン試飲ツアーだし、何か買わないとなって思いもあって、春の息吹を購入。
ただ、そこまでワインを飲む方じゃないってのと、値段が怖いのでハーフサイズで。
まぁ、本当の目的は飲み方を知らないと酸欠で気を失う事を利用した両親へのいたずら心なんだけれども。
ふっふっふ。
たまにはこうしてイタズラさせて貰うぜ。
*
ふぅ、飲んだし食べた。
時間は夕方。
試飲ツアーを終え、現在はボートで川を下って船に戻っている最中。
酔い覚ましの飴やマタタビの実の効果もあってか、酒酔いではなく船酔いにもならないらしい。
便利だね。もっと欲しかったわ。
「意外に安かったし、日本に帰ったら母親に送ろう」
ちなみに購入したハーフボトルの春の息吹の値段は、日本円で二千五百円くらい。
まぁ、いいワインくらいの値段って感じかな。
イタズラ料と思えば安いもんよ。
「皆さんお疲れ様でした。本ツアーはお楽しみいただけたでしょうか?」
と、船に到着してツアーガイドさんがツアー参加者に呼び掛けてるけど……。
半分くらい酔って寝てるんだよな。
かく言う俺も結構眠い。
船に戻ったらとりあえずベッドインだな。
「では、足元に注意して順番に乗船ください。本日はご利用ありがとうございました」
深々と頭を下げるガイドさんをよそに、ふらつく足で船に戻るツアー参加者や、同行者を半ば引っ張る様に船へ乗せる人。
足取りがおぼつかず、あわや海に落ちそうになる人まで。
……まぁ、最後のは俺なんですけどね。
――落ちなくて良かった。




