また事案?
「いふぁいれふ」
「むー……」
工房見学から帰って来てそうそう、ガーディアンさん本体に何故か頬を引っ張られてるんですけど。
俺が何をしたって言うんだ。
「分体を甘やかさないで欲しい」
「甘やかすって……」
やっと解放された、と思ったら、出てきたのはそんな言葉。
甘やかしたと言っても、ゴーレムの刺繍入りハンカチを買ってあげただけですぞ?
それくらいの出費なら全然可愛いもんだけれど。
「……いい。とりあえず、そのハンカチは没収」
「貰ったのは我。取り上げるのは横暴。パワハラとして認定する」
「分かれているだけで元は一緒。よってパワハラではなく筋トレと同じ。自分の身体を虐めているだけ」
虐めてる言うてますやんか。
「分体と本体とでは権力が違う。権力の乱用に――」
「うるさい。私がルール。認められないなら分体から外す」
「……ミクリヤー」
なんか言い合ってたガーディアンさんの分体と本体が、揃って俺の方にやってきたんだけど。
とりあえず面倒なことになりそうだし避けるか。
ヒョイッと。
「……避けられた」
「大人しくハンカチを渡す。仲間はいない」
……あの、泣きそうな顔でこっち見るの止めてもろて。
罪悪感凄いから。
「ミクリヤからのプレゼントが……没収される……」
「私が貰えば分体全員に行き渡るの。それを分体の一個体が独占していいはずがない」
「……やだ! 私だけの物なの!!」
独占欲……なのかなぁ。
まぁ、だいぶ面倒くさくなってきたし、ちょっとだけ口出しするか。
「独り占めは良くないね、うん」
「ミクリヤ!?」
「よく分かってる」
と言う事でハンカチを分体さんから回収し、本体さんへ。
そして、
「我慢出来て偉い」
と、分体さんの頭をなでなで。
まぁ、この辺で妥協してくれない?
「むふーっ!」
「っ!! ミクリヤ! 私の頭も撫でる!!」
「はいはい」
よく見えなかったけど、分体さんが勝ち誇ったような顔したんだろうな。
本体さんがムキになって俺の手を取り、頭に乗せてきたし。
はいはい、撫でますよ。
「~♪」
機嫌は直りましたか?
いつまで撫でりゃいいんですかね……。
「……幼女二人を両手でそれぞれ撫でながら、懐柔している様子を周りに見せつける人間男性っと……」
「誤解しか生まないような記事の書き出しやめて貰えます?」
そんな様子をグリムダさんに見られていたようです。
お帰りなさい。
そちらもツアーが終わった感じですかね?
――となると、宝石酒の製造工場の見学だっけ?
あれにツアー客のほとんどが流れていたはずで、それらが今から帰ってくるとなると……。
この状況を見られるとまずいな。
俺の世間体と言うか、社会性が。
よし、
「部屋に移動しようか?」
「連れ込み?」
「お持ち帰り?」
「大胆にも自分の客室へと連れ帰る人間男性っと」
こいつら……。
「ガーディアンさん、あの物書きドワーフの筆を止められたらなでなで時間十倍にします」
「お安い御用」
瞬間。
「へっ?」
パサリ、と言う音と、カラン……と言う音が響き。
何が起きたかと思ったら、グリムダさんの両腕が消え失せてた。
――やり過ぎでは?
「別次元に両腕を押し付けた。一時間で元に戻る」
「それまでは?」
「両腕欠損。さ、部屋に行こ」
慌てふためくグリムダさんをよそに、ガーディアンさんの本体と分体に引っ張られて客室へ。
――後で驚かせたと迷惑料として何か奢るか。
……トラウマになって無きゃいいけど。
*
なでなで。
「……」
ぐりぐり。
「……」
かいぐりかいぐり、とっとのめ。
「確かな満足」
「もういいですか?」
えーっと、ガーディアンさんの客室に向かいまして、ソファに腰かけ、ガーディアンさんの頭を撫でることニ十分。
ちなみに片手で撫でながら、もう片手で分体さんの頭も撫でる。
分体さんは一分で交代して別の分体さんへ。
と言うか、部屋に入りきれない位の分体さんが列を成してるんだけど……。
「もう少し」
「はいはい」
まぁ、その……なんだ?
お金かからないし、頭撫でるだけで機嫌良くなるならいいよ。
時間はかかるけど。
「ちなみに晩御飯は?」
「食べますけど……」
時刻は夕暮れ。
もう少しで晩御飯のお時間。
なお、車窓からの景色は相変わらず土の中なもよう。
「晩御飯は、米酒、ウイスキー、宝石酒、それぞれに合うコース料理」
「先にお酒を選んで、メニューが決まる感じです?」
「そう。おススメは宝石酒」
「う~ん……」
何かなぁ、今のコンディション的に、宝石酒って気分じゃないんだよな。
どちらかと言うと日本酒な気分。
となると米酒か。
「米酒にしようかな」
「おススメ無視!?」
ガビーン! みたいな効果音が付く表情するじゃん。
いや、なんだっけ、宝石酒のハイボールを乗車前のラウンジで飲んだけどさ。
割と重いんだよな。
アルコールが、とかじゃなく、味わいが。
ハイボールにしたから飲めたけど、ロックやストレートでって考えると、一杯が限界な気がする。
で、その量でコース料理を楽しめるかって言ったら、多分ノーじゃない?
それに、日本人として、食事は楽しんでなんぼだと思うのよ。
というわけで米酒のコースに決定。
「まぁ、俺の希望なので」
「むぅ……まぁいい、許す」
さて、と。
晩御飯の時間までには頭撫でるの満足してくれよ……。




