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異世界トラベルツアー  作者: 瀧音静


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予想以上

「メインはステーキになります」

「ほぅ」


 なんと言うか、至って普通のメイン料理だな。

 ――そう思っていた時期が、僕にもありました。

 お出しされたのはお皿に盛られ、周囲にはソースやマスタード、すり下ろしたホースラディッシュなどが添えられた……生肉。

 しかも見た目的に絶対に魚じゃない。

 普通に肉の見た目。

 ステーキとは?


「……あ、これから焼くんですね」


 なるほどな?

 この肉の塊を焼きますよ、と今持って来てもらっただけで、これから俺の目の前で焼いてくれる、と。

 それはちょっとワクワクするかもしれない。

 いわゆる鉄板焼きみたいなもんでしょ?

 楽しみ。


「いえ、既に調理は完了しておりますが?」


 俺のワクワクを返せ。

 いや、店からしたら、勝手に俺がワクワクしてたってだけなんだろうけれども。

 え? 食べるの? この生肉を?

 流石に生のままは抵抗が……。


「こちら、元々はもっと大きなクラウチングホエールのブロック肉でございます」

「……なんて?」


 色々と聞きたい事があるけどまずは魔物の名前。

 クラウチングホエール?

 クラウチングって姿勢を低くする的な意味合いだよね?

 クジラが? 姿勢を? しないだろ。低くなんて。

 で、次にもっとデカいブロック肉だった? どういうこと?


「クラウチングホエールの尾の肉、つまり最高級の部位をブロック状に切り出し、加熱。周囲が焼けたら火から降ろし、余熱によって中までじっくりと火を通していきます」

「ふむふむ」

「そうして時間をかけて火を通した肉の中央部分のみを贅沢に取り出したのが、こちらのステーキになります」

「なるほど」


 ……率直な感想言うね?

 無駄な手間じゃね? いやまぁ、そりゃあ手の込んだステーキだとは思うよ?

 でも、いうて時間かけてゆっくり焼いただけのクジラ肉でしょ。

 というわけで、いただきます。


「やっわらか……」


 えーっと……ナイフ当てただけでスッと切れたんですけど。

 既にこの時点でゆっくり焼いただけのクジラ肉ではないな。

 本当に意味でギコギコはしません。ナイフを入れたらスーッって感じ。


「肉汁すご……」


 で、切れた断面から何もしてないのに肉汁が溢れる。

 えーっと、まずはシンプルに塩で……。

 いただきます。


「~~~!!」


 感謝ッ!! 圧倒的感謝ッ!!

 美味過ぎる……犯罪的だ……。 まずそもそも、これがクジラ肉?

 クジラ特有の匂いや、生臭さが一切ない。

 本当に、上質で柔らかい肉質。

 尾の肉だっけ? 普通動く部位ってのは肉が締まるってイメージなんだけど、この、歯に当たっただけで繊維がほぐれる様な柔らかさは何だ?

 あと、噛むと噛むほどに肉汁が溢れる。

 マジで、ジュワッ! って感じ。

 ウノレトラマンもびっくりレベルで肉汁出る。

 ほぼスープ。

 で、その肉汁がまた美味い。

 脂っこく無くて、本当にうま味だけを感じる。

 うめぇ……。


「ワインとも抜群」


 ワインのスパイス感と、タンニンが肉の旨味と相性◎。

 これヤバいわ。


「じゃあ次はソースを……」


 ナイフでソースを掬い、切った肉に塗って、口へ。

 むほほほほ。

 デミグラスっぽいソースだけど、あそこまで重たくは無いな。

 もう少し軽めの、肉の味を引き立てるソースですわね。

 これも相性えぐいな。

 ずっと口の中で噛んでたいもん。

 この味のガムが欲しい。


「肉汁が残ってる口に放り込むパンがうめぇ……」


 しっかりした固めのバゲットチックなパンが、ステーキとの相性抜群。

 ……さっきから相性抜群としか言ってないな。

 だって美味しいんだもん。しょうがないよ。


「ホースラディッシュのツンと来る刺激もたまらんし、マジで肉が美味くて何でもいいなこれ」


 結論。素材の美味しさは全てを解決する。

 なんと言うか、ステーキの焼き加減でレアを至高とする人たちがいるじゃん?

 その心理がちょっと分かった気がする。

 言ってしまえばこのクラウチングホエールのステーキって、究極のレアみたいなもんでしょ?

 こんだけ美味しかったら、そりゃあ信仰もしちゃうよなって。


「……まずい、もう半分しかない」


 魚料理のパイ包み焼きが、勿体なくて少しずつしか食べたくないほど美味しいのならば、このステーキは、気が付いたら無くなってるレベルで美味い。

 いやはや、パイ包み焼きを越えてくるとは。

 このリハクの目を持ってしても……。


「この後はデザートになりますが、もし希望されるのでしたら提供した料理のお代わりなども承ります」

「マジすか?」


 じゃあメインを――、


「ただ、メイン料理の方は他のお客様にもご提供する量が決まっておりますので……」


 ダメか。

 それじゃあパイ包み焼きかな。


「一人二皿までとさせていただいております」

「メイン料理お代わりで」


 出来るんかい。

 あと、確かに目を見張るくらいに美味しいけど、二皿以上は胸焼けしそうで俺は食べられ無さそう。

 それはそれとして、もう一回食べられる。

 これを幸せと言わずして、何を幸せというのでしょう?


「口直しのシャーベットでございます」

「ありがとうございます」


 で、メインとメインの間に口直しのシャーベットが挟まると。

 メインのお代わりが来るまで、シャーベットで誤魔化しましょ。

 ん~、スッキリ塩味。

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