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異世界トラベルツアー  作者: 瀧音静


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115/145

まぁ、「珍」味だし

 本日ディナーをいただくお店は『アビス・ダイニング』。

 アビスって名前を聞くと産まれた意味を知りたくなっちゃう。 

 何の事か分からない人はそのままでいいよ。 特に深い意味は無いから。


「当店のご利用は初めてですか?」

「初めてです」


 席に案内してもらい、スタッフさんから説明を受ける。

 ちなみに、窓側の席……ではありませんでした、ちくせう。


「まず、前菜が運ばれます。その後のお料理はお客様が好きなようにカスタマイズ可能です」

「ほう」

「メニューの中から、これとこれとこれ、のように選んでいただければ、その通りにお持ち致します」

「なるほど」


 一見良さそうに思えるこのシステム。

 実は大きな落とし穴が待ち構えていたりする。

 しかもそれは、異世界限定などというものではなかったり。

 現代でも陥りやすいトラップで、俺は一度ハマった事がある。

 そのトラップ、落とし穴とは……。


「この料理ってどんな料理です?」


 メニューに書いてある料理名だけでは、どんな料理なのか理解が困難だという事。

 ちなみにそういう時は、恥ずかしがらずにスタッフさんに聞くと良いよ。

 ……聞いた事のないソースを使って味付けした、なんかフランスっぽい調理法で焼いた魚料理、とか答えてくれるから。

 ほぼほぼ情報増えないんよ。

 聞いたところで。


「魚卵のソースで作ったカルパッチョになります」


 ……ほう?

 適当に聞いてみたけど、思いのほか美味しそうな料理に当たったな。

 さて、と。


「じゃあ、それを含めてバランスよく5品程度でコース料理に沿っておまかせとかって出来ます?」

「可能です」

「じゃあそれで」

「かしこまりました」


 ちなみにおまかせが出来るならおまかせがいいよ。

 出来るかどうかはお店によるけど。


「お飲み物はどうしましょう?」

「赤と白のハーフボトルを料理に合うやつで」

「かしこまりました」

「あと、最初にコーラが欲しい」

「お持ち致します」


 よし、これで後は出てきた料理を食べるだけ。

 あと、ワインとコーラを飲むだけっと。

 

「前菜のキャビアでございます」


 ……ん?

 今キャビアって言った?

 ははは、ナイスジョーク。

 ――マジ?

 そうして俺の目の前に置かれたお皿の中央には、確かに見たことあるような黒い小さな粒粒が。

 その周囲には、キャビアと一緒に食べるであろう食材たちが並べられてて。

 野菜のチップ、ライ麦パン、ホタテの貝柱の薄切り? あとなんかクリームが巻かれたクレープみたいなものも。

 とりあえずキャビアだけで食べてみよ。


「……?」


 スプーンで掬い、直接舌へ。

 ちなみにスプーンは貝殻で作られてるんだってさ。

 で、キャビアの感想なんだけど……魚卵だなぁって。

 プチプチした歯ごたえと、魚卵特有の塩味は感じられるけど、もろ手を挙げて美味い!! って言うほどではないかな。

 野菜のチップと一緒に食べると野菜の甘さがアクセントになるし、ホタテの薄切りと食べると、甘みと旨味が引き立つ。

 ライ麦パンは……何だろ、コクと麦の香りがキャビアの魚卵っぽい匂いを消してくれてるかな。

 まぁ、前菜はこんなもんよ。

 そもそも前菜だけで満足してたら、コース料理とは? ってなっちゃうしね。


「一角鯛のカルパッチョになります」


 で、さっき俺が頼んだカルパッチョが登場。

 使った魚は聞きなれなさ過ぎて耳には入って来たのに脳内で変換されないな。

 まぁ、問題は美味しいかどうかよ、うん。


「ワインは白を用意しました」

「ありがとうございます」

「『クジラの髭』という銘柄で、スッキリとしながらもピンと中心に筋の通った味わいが特徴です」


 ほう。

 ネーミングについてはまぁ、無視するとして、魚介系に合いそうな味の紹介ですわね。

 早速ワインからいただきましょう。

 色は……ほんのり黄色寄りのオレンジ。

 香りは……紫色の花を連想させる香りだな。

 スミレっぽい感じがする。

 それではお味の方は……。


「――ワイン?」

「はい」

「日本酒ではなく?」

「ワインでございます」


 あの、口当たりとか味わいとか、かなり日本酒に近いんですけれど。

 甘さ控えめでスッキリしつつ、確かにピンと筋の立った味わいはある。

 けれどもそれは日本酒としての味わいで、ワインとしての味わいではないんよ。

 いやまぁ、日本酒の味わいなら魚介類とも合うだろうけどさぁ。


「お気に召しませんか?」

「いや、大丈夫です。美味しいんで」


 ちなみに美味しいかどうかで言えば間違いなく美味しいよ。

 日本酒だけど。


「いただきます」


 で、ワイン? も味わったのでいよいよカルパッチョへ。

 そのお味は……。


「美味い」


 当然だよね。

 もっちりとした白身魚と、魚卵の混ざったカルパッチョソース。

 酸味と塩味の程よいバランスのソースが、魚の身の甘さを引き立てますわね。

 あと、魚卵が入った事でソースにも旨味が追加されてる。

 白身魚の繊細な旨味を引き立てつつ、自分の旨味も主張する、そんな相乗効果を生むソースですわね。


「……うま」


 で、日本酒――じゃなかった、ワインとの相性もいい。

 魚卵特有の生臭さをスッキリ断ち切ってくれる。

 生臭さは断つのに、旨味や甘みはそのまま……どころか、むしろより引き立てる感じさえする。

 日本酒よりも軽く、ワインよりも魚介に合う。

 何だかんだ、しっかり料理に合う一本でしたわね。

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