第44話〜再び大都へ〜
セレンは、自分の部屋に入ると、ベッドに腰を掛けた。
そして、ポケットから先程折り畳んだ書類を取り出した。
「・・・ニグレドお兄ちゃんが書いた書類かぁ〜・・・」
試しに、一枚目を黙読してみる。
字は読めたが、専門でないクロム学の事が細かく書かれており、内容はさっぱり分からなかった。
「はぁ〜・・・やっぱこういうのはシェリナーさんじゃないと駄目だって」
ニグレドの言った事が、セレンは今だに納得出来ていなかった。
仲間であるシェリナーやナイトには、見せてはいけないこの書類。
しかし、敵であるクラス達には見せてもいいと言われた。
「どうして・・・ニグレドお兄ちゃん?」
返ってくるはずのない問いかけを、何となく口に出した。
すると、不意に仮面を外したニグレドの顔が頭の中に浮かぶ。
まだ少し幼さが残ってはいるが、大人の様な落ち着きと、優しさに溢れた目をしていた。
何を話しかけても、興味がなさそうな返事しか返して来なかった、いつもの彼とは、明らかに違っていた。
別人と言ってもいいくらいだ。
「・・・本当、ニグレドお兄ちゃんって分かんない人だな・・・ん?」
書類をパラパラめくっていると、最後の書類は他の書類と感じが違うことに気付いた。
数値や理論、図形などは全く書かれておらず、手紙と何らかわりない構成だった。
「これ・・・手紙?」
セレンは、手紙の部分に目を通す。
そこに書かれていたのは・・・
「・・・嘘っ、これが本当の話なら、私達のしている事って・・・」
「はあぁぁっ!」
フォルカは、自分の素器を握る手に力を込める。
すると素器は応えるかの様に輝きだした。
その光を保ったまま、フォルカは目の前にいる狼型の魔物に斬り掛かる。
敵も狼型というだけあって、動きが素早く、なかなか一撃が入らない。
「ユニィ〜・・・ファイアーッ!!」
ユニィが炎素術を発動させる。
火は、まるで生きているかの様に魔物を囲み、対象の体を包み込んだ。
「ありがとう、ユニィ」
「どういたしまして〜っ!!」
そう答えると、ユニィは再度、素術の詠唱に入った。
「クラス、行くよっ!」
「はい、エリアル」
エリアルの掛け声と共に、クラスが魔物の方へと走りだす。
それと同時に、クラスの右手に炎が纏う。
「『炎打』!!」
技の名前通り、炎を纏った拳が、魔物の腹部に直撃する。
すると、何も纏っていない左手で、魔物を上空に打ち上げる。
「エリアルッ!」
「任せてっ!!」
エリアルは自分の素器に、赤い素石を装着し、持ち手に付いているスイッチを押して振りかぶった。
すると、素器の一部が離れ、まるでブーメランの様に魔物へと飛んでいく。
魔物に当たるというすれすれで、ブーメラン状の刃に炎が纏われる。
そうして、ブーメランが通過した。
魔物の体には、切り傷とその切り傷が焼けた後ができ、その場に倒れた。
その後、刃はエリアルの方へ弧線を描き、手元のストッパーで受け止めた。
「お見事です、エリアル」
「ありがとうクラス、もっと上手く扱えるように私・・・頑張るっ!」
クラスの言葉に、エリアルはヤル気のこもった声で、返事した。
「行くぜ、ドール嬢ちゃんっ!!」
「ああっ!」
六人中、最後に魔物へと向かったのは、ドールとウェルトの二人だった。
すると、魔物が急に本物の狼の如く、遠吠えをした。
すると、魔物の背後の草むらから、三体の同系統の魔物が現れた。
「・・・増援を呼んだか」
「別にいいじゃねぇか、丁度一匹じゃ物足りねぇって思ってたところだっ!」
「・・・同感だ」
薄い笑みを浮かべ、二人は構える。
「水素スティア、収束・・・」
ドールの両手に、青色の光が集まる。
その青色の光を、彼女はまるで絵の具で点を描いているかの様に、自分の前方に青く大きな円を点で描いた。
その光が、みるみる形を変え、点の一つ一つが水で出来た槍のような形になった。
「くらえっ、『水槍』!」
ドールの掛け声で、水の槍は、魔物の方へ勢いよく飛んでいった。
槍は、ぐんぐん距離を詰め、避けようとする魔物にも、ドールの細かい制御によって、追尾する。
槍は魔物の体に突き刺さった後、水となり魔物の体を包み込む。
「『凍結』っ!!」
彼女が合図すると、一斉に水は凍り付いた。
それを合図の様に、今度はウェルトが敵の方へ接近する。
「おらぁっ!!」
彼がそう言った瞬間、一体の凍り付けの魔物が砕け散った。
ウェルトは、普通の人では捕らえられないくらい高速で、魔物を次々と殴り、破壊していく。
その姿は、まるで全てを吹き飛ばす暴風の様であった。
そういう間に、魔物は残り一体になっていた。
「ドール嬢ちゃんっ!」
「ああっ!」
ウェルトの声で、ドールも魔物に接近する。
足元に氷を張り、高速で滑って近づく、彼女の移動手段の一つである。
「合わせろっ、ドール嬢ちゃん!」
「言われなくとも、そのつもりだっ!」
ドールが魔物の背後に回り込み、それと同時に左足に青い光を収束させた。
ウェルトは正面から、白い光を右手に収束させた。
「「ハアァッ!!」」
二人は同時に、魔物に一撃を加えた。
魔物は、二つの攻撃により、粉々に砕けた。
「・・・今ので、最後の様だな」
ドールが辺りを確認すると同時に、残りのメンバーが二人に駆け寄ってきた。
「ドールッ、ウェルトさんっ!」
「おっ、そっちも片付いたかボウズ」
「当ったり前でしょ?何せ、『ちーときゃら』ことユニィちゃんがフォルカお兄ちゃんと一緒にいたんだからっ!!」
ユニィが、誇らしげにウェルトに自慢する。
その姿を見て、皆が笑いだす。
しかし、すぐにフォルカが口を開き、ドールに尋ねた。
「ドール、大都まで後どれくらいかかるの?」
「ここからなら、もう三十分程で着くだろう」
「それなら、今日はここで休まない?もう暗いしさ・・・」
エリアルが、少し考えたのち、提案してきた。
「私もエリアルの意見に賛成です。敵の本拠地に乗り込むなら、体力は回復させた方が良いかと・・・」
クラスも彼女の提案に、賛同した。
「・・・しかし、侵入するなら暗がりの方が向いているのだが・・・」
「そんなら、日が昇る前に行けばいいだろ。足が遅ぇ奴は早いヤツと移動、ドール嬢ちゃんがクラス嬢ちゃんを連れて来たときみたいによ」
ウェルトが、エリアルの提案に、更に細かい計画を提案してきた。
「・・・それなら十分程で大都につくな。よし、それでいくとしよう」
ドールの納得を得た所で、各自は休息の準備を開始した。
準備が出来た所で、クラスが用意した食事を、皆でとった。
たわいもない話をしながらも、皆迅速に食事を済ませる。
そして、各々仮眠をとるため、簡易に寝床の支度をする。
準備が出来た所で、エリアルとユニィは直ぐに眠りに落ちた。
しかし、フォルカは寝床に就いても、何故か眠気が襲って来なかった。
むしろ、どんどん目が冴えて来ていた。
「・・・・・・」
考えたのち、体を少し動かそうと思い、フォルカは寝床から出る。
「・・・おっ、寝ねぇのかボウズ?」
寝床から出たフォルカに気付いたウェルトが、話しかけて来た。
「はい、少し体を動かして来ます」
「あんま遠くに行くなよ」
「分かってますよ」
そういうと、フォルカはウェルトに背を向けて歩きだした。
その姿を、ウェルトは静かに見つめていた。
「・・・フォルカの事、心配ですか?」
「クラス嬢ちゃんも起きてたのか、まだ見張りの交代時間じゃねぇぞ?」
後ろから聞こえたクラスの声に、ウェルトは優しい声色で答えた。
「クロムは眠らなくても平気ですので、ご心配なく。・・・私は貴方の問いかけに答えました、次は私の問いに答えてください」
「・・・まぁ、心配だな。ボウズは・・・フォルカはエリアル嬢ちゃんとユニィ嬢ちゃんと一緒で、まだ成長段階だかんな、そんな奴らがクロムの研究施設本拠地に乗り込むんだ」
「無事な保証は、無いからな」
「あっ、ドール」
会話にドールが、割って入ってきた。
彼女の言う通り、ケガ一つないなんて、絶対に約束出来ない。
クラス達が脱出するのも、大変だった様な場所に乗り込み、フィニカを救出するのだ。
恐らく、フィニカもニグレドとして、こちらに戦闘を仕掛けてくるだろう。
「・・・でも、やらなくては駄目なんですよね」
「少なくとも、私は行かねばならない。これ以上、アイツらの元にフィニカ様を置いておくわけにはいかない」
「俺も行くぜ、ディシアとシェリナーがいるんだ。ケリをつけねぇとな」
そういった後、ウェルトはクラスの方をじっと見つめた。
「クラス嬢ちゃんも、敵側に狙われてんだ。捕まんじゃねぇぞ」
「お前が捕まれば、フォルカとエリアルが取り乱し、冷静な判断が出来なくなってしまうからな」
「・・・分かってます」
クラスがそういったら、暫くの間、沈黙が続いた。
「・・・あれ、クラスとドールも眠れないの?」
沈黙を破ったのは、フォルカだった。
そこそこ体を動かしたのだろう、前髪が汗で引っ付いていた。
「ボウズ・・・どうだ、少しは眠くなったか?」
「多分・・・今は眠気よりスッキリした感じが強いです」
フォルカがそう答えると、ウェルトは立ち上がった。
「ドール嬢ちゃん、交代時間だ。頼んだぞ」
「・・・分かった」
そういうとウェルトは、フォルカを連れて寝床へ向かった。
「クラス、お前も休んでおけ。横になるだけでも違うぞ」
「・・・そうですか、ならお言葉に甘えますね」
そういって、クラスも二人の後を追うように寝床に向かった。
ドールは交代時間まで、ただ静かに辺りを警戒していた。




