第43話〜四素騎士〜
ここは、大都にあるクロム研究施設の、クロム整備室である。
不具合が生じたり、さらなる強化を施したりする時などに使用される。
そんな場所に、四素騎士の一人、シェリナーはいた。
「修復状態は・・・問題なし、新規に組み込んだパーツも・・・拒絶反応は無いわね」
“・・・まだなのかい、シェリナー?”
シェリナーが操作しているパネルの側にあるカプセル、その中にはこちらも四素騎士であるクロム、ナイトがいた。
「もうすぐ終わるわ、後は少し時間を置いてパーツを馴染ませるわ」
“そうかい・・・”
そういうとナイトは、瞼を閉じた。
シェリナーは手際よくパネルに何か入力し、その場から離れる。
「これでナイトの点検と強化は終わり・・・次は私の作り上げたあの子」
クロム整備室の出入口に、彼女の作り上げた存在、ディシアが立っていた。
「・・・あいつの強化は、終わりましたか?」
「ええ、次は貴方の調整よディシア」
そういうとシェリナーは、ディシアの胸元に顔を当てた。
突然の行動に、ディシアは少し驚きもしたが、すぐに平常心を取り戻した。
「私の作り上げた子供達が、この世界で最も強いって事を・・・施設長に見せつけてやりましょ」
「・・・はい」
短く返事をして、ディシアはシェリナーから離れた。
シェリナーの顔からは、笑みは消えておらず、笑いながら整備室を去り始める。
(・・・ウェルティオ、お前はきっと、全てを終わらせる為、ここにやって来るだろう)
ディシアの脳内に、弟の姿が浮かぶ。
自分よりも、自由を奪われている大切な家族。
そんな彼も、今や自分をしのぐ成長を遂げていた。
(恐らく、シェリナーが狙っているのは・・・再認識だろうな)
再認識。
ウェルティオは『強さ』を追い求め、その強さを得るために記憶、性格等をリセットさせる。
そうシェリナーが設定したのだ。
自分に施されるであろう強化も、恐らく再認識の為。
(今のアイツは・・・幸せそうだった。アイツが仮に再認識を行ってしまったら・・・)
「ディシア、何をしているの?早く来なさい」
シェリナーの一言に、考えを中断させ、彼女の元へ歩き出した。
「シェリナーさんに素石も届けたし、任務完了だねニグレド兄ちゃんっ!」
「ああ・・・」
アルフィの村から帰って来た二人は、廊下を話しながら歩いていた。
どちらかと言うと、セレンが一方的に話しているのだが。
「本当ニグレド兄ちゃんはすごいねっ!次々とシェリナーさんの依頼をこなしちゃってるし!」
「・・・・・・っ!?」
興味が無さそうにしていたニグレドが、急にその場に膝をついた。
「ニグレド兄ちゃんっ!?どうしたのっ!?」
「くっ・・・人気の、無いところに」
苦しそうな声を出すニグレドを初めて見たセレンは、焦りながらも彼の言った通り人気の無い所に彼を運んだ。
「ここなら、滅多に人は来ないよ」
「すまない・・・」
セレンがニグレドを運んだ場所は、最近使用されていない、空き部屋だった。
「なんと言うか、空き部屋だって聞いたけど・・・家具とかちゃんと揃ってるんだねこの部屋」
日が経っているからか埃はかぶっているが、本棚、机、ベッドの配置は美しく、まるでつい最近まで人が暮らしていたかの様だった。
「ここは・・・不幸中の幸いか」
辺りを見回し、ニグレドはセレンの方を向きこういった。
「机の端に、分からない様な収納場所が・・・あるはずだ。それを、取って来てくれないか?」
「うんっ、まかせてニグレド兄ちゃんっ!」
言われた通り、セレンは机に手を這わせ、収納場所を探し始める。
そして数分後、開ける場所を見つけた。
そこを開けると、数枚の書類があった。
「これかな、ニグレド兄ちゃん?」
「ああ・・・こっちに持ってきてくれ」
セレンは言われた通りに、彼の元にその書類を持っていった。
すると、ニグレドは仮面に手をかけ、ゆっくりと外した。
仮面の下からは、少しきつめではあるが、優しさを感じる瞳が出てきた。
「セレン、今からお前に伝えたい事がある。少し混乱するかも知れないが・・・いいか?」
「うん、大丈夫だよ・・・多分」
曖昧ではあるが、セレンは彼の話を聞く事にした。
するとニグレドは、一瞬柔らかな微笑みを浮かべ、話し始めた。
「まず・・・その書類、それを書いたのは俺だ。そこには大切な事が書いてある、後でセレンだけで読むんだ」
「私だけで・・・ナイト君やシェリナーさんと一緒じゃだめ?」
「ああ、一人で読むかクラス達と一緒に読むんだ」
「どうして?シェリナーさん達は仲間なのに、見ちゃダメなの?」
セレンの質問は、当然だった。
クラス達は敵であり、そんな彼女らに、ニグレドがシェリナー達を欺いてまで隠していた物を見せるのだ。
「・・・わかったよ、後で一人で読むね」
「すまないセレン・・・あともう一つ、俺は・・・」
「ニグレド兄ちゃんは・・・?」
ニグレドが口を動かそうとした瞬間、扉が開いた。
入って来たのは、シェリナーとディシアだった。
「セレン、どうしてこんな所にいるの?ここは空き部屋のはずだけど」
「・・・ニグレド兄ちゃんが調子悪いって言ったから、一番近くにあったこの部屋で休ましてたの」
空き部屋だったから、とセレンはシェリナーに説明した。
書類は瞬時に折りたたみ、静かにスカートのポケットへ入れた。
「ニグレドが・・・っ、仮面を外したのセレンッ!?」
「ニグレド兄ちゃんが・・・自分で取ったんだよ」
「・・・まだ自我が残っていたというの?」
シェリナーがボソッと何かを言ったが、セレンは聞き取る事が出来なかった。
「・・・セレン、ニグレドの様子は私が見るから、貴方は自分の部屋で休みなさい」
「うんっ、じゃあねシェリナーさん、ニグレド兄ちゃん」
そういって、セレンは早足で部屋を離れた。
「・・・さあニグレド、いえ・・・今はフィニカの方かしら?」
「・・・・・・」
彼は返事をしなかった。
「安心しなさい、すぐニグレドに戻してあげるからね・・・その前に」
シェリナーが合図すると、ディシアはニグレド、フィニカの体を固定した。
「答えなさい、貴方は私達の機密を記した書類をつくっているはず・・・どこに隠した?」
「・・・・・・」
フィニカは口を開かない。
そればかりか、口には微かに笑みを浮かべていた。
「・・・絶対見つけられない、安全な所だよ」
そうとだけ言って、フィニカは口を閉じた。
「・・・まあいいわ、仮に誰の所にあろうと、私の作り上げた子供達が必ず取り返してくれるわ」
少し怒りの混じった声でシェリナーは言うと、ディシアに再び合図を送った。
「そいつを、整備室に運んでちょうだい」
ディシアは無言で頷き、フィニカを運び始めた。
(頼んだぞ・・・セレン)
そう思ったのち、彼の意識は途絶えた。




